昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第四回公演

5、劇場で昔の劇場を見るの巻

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 聞いたこともない路線の電車に揺られ、結局二人はシアター両國にやってきた。

「学割二枚」

 学割が効くので揃って受付で学生証を出すが、

「はい。え?」

 対応したツンツン金髪の従業員が、驚いたように薄い色のガラス窓がはめられた受付から二人の顔を見る。

「学生、さん?」
「はい…」

 そうとは見えないのか。しかし学生証は本物だ。二人が戸惑っていると、

「えーと、あれ?えーと」

 従業員が受付の上や引き出し等を、ガサガサ何かを探すように引っ掻き回す。
 だが、らちがあかないといった感じで受付から出てきた。
 なんだなんだと遥心達が思っていると、

「あの、れん…」

 彼が何か言いかけるが、

「タカダくーん。どう?それっぽい子来た?」

 それを遮るようにロビーにやってきた男性が、従業員に向かって声をかけてきた。

「ああ、あの、こちらさんが」
「えっ」

 こちらと手で示され、男性も詩帆達を見る。
 やや彫りの深い顔に丸縁眼鏡。きちんとサイズの合ったボタンシャツに細身のパンツというこざっぱりした格好の男性だった。
 仕事帰りとも違う、ビジネスにカジュアル要素を入れるとおしゃれに見えますぞを実行したような。
 こんな場所で見るにしては珍しいくらいきちんとした小洒落た男性だったが、

「……えっ!?ぴゅるぴぷー!?」

 二人を見てあのハンドルネームを呼ぶ。もしかしてと。

「勇者さん!?」
「ゆうしゃ?」
「あ…、いえ」

 それに詩帆が、勝手に呼んでいた名前で呼ぶ。

「まとい爺さんのセッティングを」
「あっ、そうそうっ。あれボクだったんだけど、あー、えっ?女の、子?えっ、二人?」

 ネタばらしにも近い状況に勇者が戸惑う。

「は、はい」

 すいませんと二人が揃って頭を下げる。なんとなくだが騙した形になってしまった。

「…練乳ちゃんと、ぴゅるぴぷーちゃん?」
「いえ、そういうのではなくて」

 詩帆と遥心をそれぞれ手で示し、連名ハンドルネームなのかと問う勇者に、遥心がパタパタと手を振って否定する。
 あんなネーミングセンスが自分にあってたまるかと。




「じゃあ結局聞きたいような話は」
「はい…」

 その後詩帆と遥心はロビーでまとい爺さんのことを勇者さんに話した。
 勇者さんは名前を教えてくれたが、勇者という呼び名が大層気に入ったのかそれを採用した。

「ごめんね。なんかあまり役に立てなかったようで」
「いえ、貴重なお話も聞けましたし」

 申し訳なさそうに言う勇者様に、遥心がフォローする。貴重なお話のほとんどが使えないが。すると、

「あの後色々当たったんだけど、映像関係の仕事してた人がさ、昔ストリップの映画撮るのに資料用で当時のステージ撮った映像があるらしいんだけど。それ君達に見せられないかなあって」
「えっ!?」

 詩帆達が色めき立つ。
 なんとも貴重な資料映像だ。来たかいがあった。

「でもその映像持ってるおじさんのオキニの子が今出てるから、それ終わったら」
「ああ、はい」

 勇者様の言葉に詩帆達が頷く。だったら邪魔してはならないと。


 しばらくするとザワザワという雨音のような拍手の音と場内アナウンスが聞こえてきた。映像関係おじさんのオキニさんのステージが終わったようだ。

「ちょっと待ってて」

 そう言い残し、勇者様が場内へと消えると、

「おおー。あら、女の子?」
 
 すぐに白髪交じりの、おじいさんとおじさんのちょうど真ん中くらいの男性を連れて戻ってきた。
 笑いジワと眼鏡の奥の目がぱっちりしてかわいいおいちゃんだ。
 勇者が事情を説明すると、

「おお、そっかそっか。亀寿じゃあないんだけどさ、なんか役に立つかなと。タカちゃん、ここのテレビ使っていいかい?」
「いっすよ」

 従業員さんの確認を取ると、おいちゃんがロビーにあった客の暇つぶし用テレビに何やら機械を繋ぐ。

「えー?なんだよおい」
「いいからいいから。おもしれえもんみせてやっからよ」

 ニュース番組を見ていた他の客が文句を言うが、こんなもんよりいいもの見せてやるとおいちゃんはノリノリで作業する。

「へえ。古いなあ~」

 その間、記録媒体が入っていたケースを勇者様が楽しそうに見る。
 詩帆達も覗きこむと、劇場の名前と撮影した日付、踊り子らしき名が小さな几帳面な字で綴られていた。
 撮影したのはざっと二十年ほど前だった。劇場名を見ると、コバルト座とあった。

「わ」

 詩帆が嬉しそうな声を上げる。
 かなり遠くて取材を諦めていた劇場なので儲けもんだ。

「オレも見よーっと」

 なにやら面白そうなことが始まりそうだと、ツンツン金髪従業員のタカダくんも持ち場を離れてテレビ前にやってきた。

「…なんか、変な感じですね」
「まあね」

 遥心の言葉に勇者様が確かに、と苦笑しながら頷く。
 ストリップ劇場に居て今まさにショーをやっているのに、それを見ずにかつてあったストリップ劇場で撮影したショーを見ようというのだ。
 ちょっとわけのわからない状況だった。

「よしっ、これでいいか」

 おいちゃんがそう言うと、最新型の大型テレビに今はなきストリップ小屋の映像が映し出された。
 その場にいる皆がおお、と声を上げる。
 固定カメラでステージ全体を収めるように撮影されていたそれは、画質、音質ともに悪く、アナウンスも何を言ってるかわからない。
 踊り子の紹介もよく聞こえない。古臭さが貴重な資料足らしめたが、

「うーん…」

 詩帆と遥心が二人揃って唸る。これはどうよと。
 流れてきたのは当時流行ってた女性ポップスソング。
 昭和、平成、2000年代で区切ってヒット曲映像を垂れ流すような音楽番組でなら聴いたことがある。
 加えてダンス、衣装もおざなりだ。
 当然髪型も古臭い。体型も背が低く、足の短い日本人体型。
 エロインフラも整わず、裸体が見れるのが貴重な時代ではこんなでもありがたかったのかもしれないが、目が肥えた世代には物足りない。
 くるくる回るミラーボールや、劇場の狭さ、キツキツに設置された客席とそのステージの近さなど、貴重な資料ではあるのだが、今の劇場もその延長線上にあるので全体的に物足りない。
 こんな短期間で日本人女性の平均身長や体型は変わったのかという点では貴重な資料だが。

「これ、季節は」
「夏だったかな」

 詩帆の言葉においちゃんが答えてくれる。
 確かにダンスショーは夏っぽい曲や衣装が多い。
 ベッドショーは安っぽい既成品のベビードールで、なんというか工夫が足らない。
 画質もあってか、極秘潜入に成功で性交!裏ストリップ劇場!みたいなタイトルが付きそうな安いAVみたいだった。
 が、ぼんやり見ていると急に客席がどやどやと埋まりだし、白いワンピースを着た踊り子さんが出てきた。
 一曲目からやけに客のノリがよく、リズミカルに拍手を送る。
 被った真っ白なつば広帽子を抑え、踊り子さんが笑顔でサイドステップを踏む。
 あまりダンスが上手いわけでも、身体付きや顔が魅力的とも思えないが。
 更に二曲目三曲目とも反応がいい。拍手が多くウェルカムモードだ。
 それが曲構成によるものと気づき、そうか、と詩帆が呟く。

「なに?」

 何か気づいたのかと遥心が訊くと、

「全部、朝ドラの曲。たぶん」

 小声で教えてくれる。
 すべての曲に聞き覚えがあった。
 それを脳内で紡ぎ合わせると一つのタイアップに繋がった。
 客層と視聴者層がかぶっているからウケがいいのだ。
 おそらく踊り子さんも客層に寄せてきたのではないか。

「へえー」

 詩帆の推理に遥心が関心するが、朝ドラを見たことがない上、当然古い作品を中心に使われているのでわからなかった。
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