昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第四回公演

17、事情を知る者との接触に成功

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「アニメパロディのストリップティーズは、インターネットで知りました」

 そう、異国の女の子 シャオちゃん(仮名)は話してくれた。
 思った通り、彼女も紅たんぽぽのショーを見に来たのだ。

「以前ハルくんさんと会ったのは、家族とニッポンに観光で来ていた時です。その後、帰ったあと気になって、オドリコさん達のSNSを調べていたら、タンポポさんを見つけました。さっきのショーみたいな、アニメパロディのストリップティーズの、相手役専門っていうカタガキで」

 なんともあっさり見つけたものだ。
 それとも導かれたのか。
 あるいは、それだけ遥心達が本気で見つけようとしなかっただけかもしれないが。

「でも、アレ?って思って。モシカシテ?と思って」

 遥心がかつてのロビーでの二人のやりとりを思い出す。
 日本の女子向けロボットアニメの話であんなに意気投合していた二人だ。
 なにか予感めいたものは合ったのだろう。

「個人的に、メッセージ送ってみたんです。ワタシしか知り得ないようなことも交えて。そうしたら、…そうですよって」

 シャオちゃんが嬉しそうに話す。宝物みたいに。
 それは、人気の踊り子と顔見知りだったという嬉しさゆえか、あるいは顔見知りが何か凄く面白いことをしている嬉しさゆえか。

「それで、見に来てねって言われて」

 そしてキッチリ営業をかけられた。

「だから、見に行かなきゃって思って」

 見に来てねと言われて。
 それだけで、情熱だけではるばる海を越えてやってきたらしい。
 純粋に見てみたいという思いもあっただろう。
 でもオタクは自分も周りも、驚くほどの行動力を持ち合わせているのだ。
 しかし、

「…ネットはスゴイです」

 シャオちゃんが目の前のテーブルを見つめたままぽつりと言う。

「違う国にいても、ニッポンのアイドル、アニメ、全部見れる」

 それは違法視聴じゃなくてなのかしらと思ったが詩帆は言わないでおく。

「でも、ストリップティーズ、見れない」

 テーブルから目を上げると、シャオちゃんが二人の目を見つめて言う。
 それだけは見たくても映像化もされない。配信もされない。
 劇場や踊り子さんによっては宣伝動画は見れたりもする。こんな感じですよと。
 卑猥なだけではなく、芸術性、エンターテイメント性もあるのですよという触りの部分は。
 だが肝心な部分は。
 いや、モザイクが掛けられるような部分のことではない。
 どんな曲が、アニソンが使われているかだ。
 すべてがあの小さな劇場のステージの上で行われ、霧散していくのだ。
 日本の、至る所の片隅で。そっと人知れず。

「だから見に行って、それでっ、かかっ、」

 それまで流暢に話していたシャオちゃんが急にどもりだした。
 どしたどしたと遥心達が慌てる。日本語で言い表せない言葉なのかと思っていると、

「か、感動してっ」

 そんなことを言い出した。

「すごく、面白くて、でも、エロティックで、解釈がすごくて、何より、愛に溢れてて、それでっ、デモ、ナノニッ!おキャクさんっ、少なくてっ!」

 シャオちゃんの肩が強張る。それは悔しさか、怒りにか。

「多い方だと思うけど」

 それを沈めるように詩帆が言う。
 遥心も客の数を思い出す。
 普通はもっと少ない。
 シャオちゃんも頷く。その目には涙を浮かべていた。

「でもっ、もっと、色んなヒトに見てもらいたいっ!」

 好きなものはネットを介して触れる彼女にとって、自分が生で見たものはとてつもなく面白いものだったのだ。
 そして、いくら多いと言っても客数のトータルはネット動画の再生回数には到底及ばない。

「あんなに面白いのに、ミンナ見に来ない!ニホンジンオカシイ!日本のオタクオカシイ!モッタイナイ!」

 発音が母国語のそれに戻りつつ、シャオちゃんが悔しそうにだんっ!とテーブルを叩く。
 異国の自分がわざわざ海を超えて見に来てるのに、日本のオタクはのほほんとそれを知らない。
 シャオちゃんはそれが悔しいのだ。

「オ姐サンたち言ってた!見に来ないと終わっちゃうって!このゲキジョウ、ギョーカイ終わるっテ!日本のゲキジョウ、どんどん潰れテル!すごいお姐さんも、いつ辞めちゃうかわかんないっテ!この演目、ダシモノ次いつやるかわかんないって!見れるうちに見に来てっテ!うかうかしてられナイ!」

 異国の女の子の熱弁に、二人が圧倒される。
 お、おうとコクコク頷くしか出来ない。

「好きなアニメのドウジンシ、出たらすぐ買うっ!次もうナイっ!再販ナイっ!在庫ナイっ!アタリマエっ!ハヤリスタリアルカラ作家サン新シイノ描かナイ!次の新しいのアニメに行っちゃウ!ソレトオナジっ!」

 エキサイトしてきてか、発音が母国のそれにより近くなっていく。
 が、言ってることは伝わる。うんうんと二人が力強く頷く。
 アニメパロディのストリップショーは二次創作に近い。
 同人誌は中古を探せば手に入らなくもない。
 しかしストリップの出し物は、板の上でのみ消化され形に残らないのだ。
 踊り子さんがやってくれなくては。
 しかもそれは、やってるくれるとしても自分が行けない劇場で、自分が行けない日程で再演されるかもしれないのだ。

「オ、姐さん、たち」

 言葉に詰まりながらシャオちゃんが一生懸命喋る。

「見に来てくれて、アリガトウッテ」

 どうやら感謝の言葉を貰ったらしい。
 一見さん観光客ではなく、明確な意思を持って見に来た異国の女の子。
 しかも好きなアニメが一緒で、それのパロディをわかってくれる、楽しんでくれる。
 国すら超えた同志と言えた。

「……タンポポさんはすごいです」

 落ち着いてきたのか、カップの縁を指で撫でながらシャオちゃんは言った。
 そう言う口の端は少し笑っていた。うっとりするように。

「オトコ役、オンナ役、コドモ、ドーブツ、なんでも出来る。相手役さんがやりたいヤツ、なんでも対応出来る」

 二人が総合窓口に書かれていた一文を思い出す。
 書かれていた通り、可能な限りなんでも対応していたらしい。

「ストリップティーズのお姐さんたち、いつも一生懸命。お写真撮ってもらうのに必死。エギ…、エギョウに、必死」
「営業?」

 詩帆の言葉にシャオちゃんがこくんと頷く。

「でも、タンポポさんはそれをやらない。相方のお姐さんにいつも任せっきり。全然エーギョーしない。全然ダメ。でも、」

 一気に言うと、シャオちゃんがすうっと息を吸い込み、吐き出す。

「それでも、みんな、写真撮りたいっ」

 遥心の喉が、ぐっ、と詰まる。
 やはり、それが許されているのだ。
 つれない態度でも写真を欲しがる客はいる。
 君は営業スマイルなんてしなくていいよと。
 それが逆に写真の売上を上げているのかもしれない。
 紅たんぽぽはチームショー専用踊り子を売りにしているらしい。
 つまりはいつも相方がいる。
 ならば隣で世話を焼き、面倒を見るというのもチームを組む踊り子さんの株を上げているのではと遥心は思ったが、

「おまたの写真も、撮らせないのに」
「え?あ…」

 シャオちゃんに言われ、そうだと遥心が思い出す。
 今のストリップはそういったサービスも有る。
 写真ならむしろそちらがメインだろうに、なぜか失念していた。
 考えないようにしていたのかもしれない。
 友人がそんなことをしていてほしくないと。
 だが、そういった写真は撮らせていなかったらしい。
 遥心がホッとしていると、

「でも撮りたい。みんな、お写真。そんなの無くていいから、お衣装とか、一緒に撮りたい。ゲキジョーに、貢献してあげたい。もっと、次も、呼んでもらえるように」

 ただ撮りたい。あるいは貢献したい。それでみんな写真を撮るのだ。
 すると突然、

「そうだ、コレ見てください」

 言ってシャオちゃんがケータイ画面を見せる。

「コレ、私の好きなお姐さん。踊り子さん」

 どうやら踊り子のSNSらしい。
 見るとアカウント名は『昴留@限定解除復帰』
 コメントを見ると紅たんぽぽとのチームショー予約が取れ、喜んでいた。
 10日間のうち、前半5日は別の踊り子とのチームショーらしいが、週の後半から入れ替わるとあったが、

「…あ」

 遥心が気付く。
 詩帆はもっと早く気づいていたが。
 昴留だった。
 知っている。ショーも見たことがある。
 観劇後にファミレスで絡まれたこともある。
 刺身定食でワシワシご飯を食べていたあの娘だ。
 だがあの頃に比べると痩せていた。
 服は着ているが、もっとクリーミーで乳脂肪分が多い踊り子さんだったはずだ。

「知っていマスカ?」

 食い入るように見ていた遥心にシャオちゃんが訊く。

「え?あ、うん。一回だけだけど、ショー見たことあると思う」
「ホント!?ワタシダイスキ!トテモ素晴らしいショーするお姐さんデス!」

 嬉しそうに話すシャオちゃんに、遥心が、うん、そうだねと頷く。
 時間が経ち、内容はあまり細かく覚えていないが、確かに惹きつけられるものがあった。

「飛田に居たけど、戻ってきたみたいデス」
「トビタ?」

 遥心と詩帆が揃ってナニソレという声を出す。
 どうも日本の風俗街らしいのだが、なぜか異国の子の方が詳しい。
 ともかく遥心達が知らない間に少し休んでいて、また復帰したらしいのだが、

「タノシミ」

 ケータイを抱きしめ、嬉しそうに、楽しそうにシャオちゃんが言った。
 この二人のショーが見れるなんてと。一体どんな素敵なショーをと。
 そんな姿を見て、遥心の心に罪悪感が生まれる。
 それは当然、自分達がここに来た目的のせいだ。
 どう言おうか、言わない方がいいかと思っていると、

「シャオちゃん、あのね」

 詩帆が話し出した。
 おそらく、遥心からだと言いづらいだろうと。
 紅たんぽぽの友人である自分達は、突然居なくなった彼女を探し出していて、踊り子になっていた彼女をようやく見つけた。
 そして、出来れば連れ戻したいと。
 それを告げると、

「そんな、」

 シャオちゃんがショックを受けた顔をする。

「ナンデ」
「なんで、って…」

 真っ直ぐな瞳と共に訊かれ、詩帆が目を伏せる。
 なんだかわからなくなってきた。
 紅たんぽぽは、蘭はこちらの世界でよろしくやっている。
 客を魅了させ、恐らく新たな客層と呼ばれる人達を開拓し、必要とされている。
 ならば、足を洗わせる必要なんてないのではと。
 しかしこれは性風俗だ。
 でもそれにも蘭はきちんと堤防を築いている。
 これ以上はNOという決まりを設け、それを受け入れてもらえている。
 ならば大丈夫か。いやそれだっていつまで安全かわからない。
 押し切られ、肌や大事な部分を晒してしまうかもしれない。
 それも大事なお仕事だ。
 しかし、友人にそんなことしてほしくないッ。
 二人がそんな思いに駆られていると、

「やばっ。時間っ」

 時計を見て遥心が慌てる。
 たんぽぽ達のショーが始まってしまう。随分長い間話し込んでしまった。

「次のショー出し物変えて来るって言ってたね」
「なんだろ」

 そんなことを言いながら、二人が荷物をまとめ、立ち上がると、

「ラクゴヤシャ、だよ」

と、まだ座ったままのシャオちゃんがポツリと言った。すでに見たことがあるらしい。
 二人も知ってるアニメだったが、

「どんなの?」

 内容について遥心が訊いてみると、スゴイヤツ、と、シャオちゃんが言った。
 少しニヤニヤしながら。
 ソレハミテノオタノシミ、と目が言っていた。

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