昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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10、そもそも性風俗である

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ロビーに比べ、中は意外と広かった。と思ったがどうやら客が少ないだけらしい。

「平日だしなあ」

 以前行った劇場と同じ、本舞台と花道と中央舞台から成る作り。前方、舞台周りの席が空いていたが、まだ完全には場の空気に馴染めないでいる遥心は前回と同じく場内後方の席に陣取った。
 椅子とは名ばかりの、明らかに粗大ゴミのソファセット辺りから調達してきたオットマンに腰掛ける。ありがたいことに冷房はさほど強くない。やはり客が少ないからだろうか。
 そして場内に流れていたのは古臭い邦楽。
 自分の両親が若い頃に、自分と同じぐらいの歳に聴いていたであろう曲だった。
 ショーはすでに始まっていて、舞台で踊っているのはおばさん、熟女、いやババアだった。絵にかいたようなザ・ババアが踊っていた。
 曲は古臭い、出てきたのはババアという組み合わせで遥心のテンションは一気に下がる。当然衣装は安っぽく、踊りもただ適当にステップを踏むだけのものだ。

「なに、これ」

 ストリップという概念が、実は結構面白いんじゃないだろうかという方向に覆されていた遥心は、「サラリーマンが温泉街で」の概念まで引き戻された。
 テンションが一向に上がらないまま踊りと曲が終わると、場内アナウンスが流れる。

「どなたか一名、ステージの方へどうぞ」

 またしてもショーの流れがわからず、遥心が視線を動かす。すると「私だって若いコの歌知ってるのよ」とスナックのママさんがカラオケで歌い出したら「ママ、それ十年前の若い子の歌だよ。ガッハッハ!」と客にツっこまれるような女性歌手のポップスが流れてきた。
 中央舞台に中年の男性客がよじ登り、胡坐をかく。
 何が始まるのかと遥心が見ていると、一度舞台袖へと戻ったババアが手籠を持って舞台袖から再度現れた。籠から出したウェットティッシュで男性客の手を拭き、ババアが衣装の胸元を開くと、男性が抱きつき、胸を揉みしだき始めた。
 同時に中央舞台の回転盆が回り出す。

「ふへぇっ!?」

 突然の客参加型ショー、大人のメリーゴーラウンドに遥心は驚きを隠せない。
 だがそれよりも、なぜこんな人目のある場所で性行為に及ぶのかが遥心はわからなかった。いくら少ないといえども自分以外にも何人かの客はいる。
 もう少しお金を出せば個室で、もっと若くて可愛い子と触る以上のことが出来るのに。
 メイド喫茶でおしゃべりするだけでOK、とも違う。ファストフード的な、ライトで軽い性行為を求めてるのだろうか。
 それとも他人に見せ付けること自体がプレイなのだろうか。
 ババアでも、他人に見られてもいいからとにかく安く済ませたいのか。
 遥心が性風俗について考えを巡らせていると、中年男性は手をババアの股間内部に挿入し、激しく動かし始める。
 それは愛撫とはかけ離れた、ただ手を突っ込んでがむしゃらに動かしているだけの手遊びだった。思わず感覚を想像して遥心の股間が痛くなる。

「なんだ兄ちゃん、勃っちまったか」
「ぅ、ええっ?」

 隣にいたほろ酔いじいさんの声に、遥心は痛みに歪めた顔を向け、

「あれ、なんすか」

 左手で股間を押さえたまま、右手で舞台を指差す。

「天板だよ。客を舞台に乗せて見せるショーさ。昔は本板っつって本番も出来たんだがな」
「本、番」
「わかるだろ?」

 じいさんがニヤニヤと笑う。

「違法じゃないんですか?」

 遥心自身、性風俗に詳しいわけではないが本番禁止という言葉自体はよく聞く。

「だから昔さ。今はあれが精一杯だな」

 言いながらじいさんはあれ、とステージ上の行為を顎で示す。

「あれだって違法じゃ」
「それ言ったらストリップ自体違法さ。ワイセツ物陳列罪ってやつでな」
「ええっ?」

 もう訳がわからない。遥心はついでにもっとお金を出せばもっといい風俗にいける件についても聞きたかったが、やめた。
 じいさんの前歯が抜けたままで、飲んでいるのが安い発泡酒だったからだ。
 ステージではいまだ男性客が指を動かしている。するとババアが突然、ああっ、と叫びながら身体を震わせ始めた。更にびくびくと大きく震わせると、下半身を自ら痙攣させて舞台につっぷした。男性客はそれを満足そうに見ていた。

「うわぁ…」

 AVのサンプル動画巡りをする際、熟女レズものだけは避けて通る遥心には目を覆いたくなる光景だった。遥心にとって地獄でしかない時間が終わると、中年男性がまたウェットティッシュで手を拭かれ、天井からのライトに照らされながら舞台を悠々と降りる。
 そこにはどこか誇らしげな雰囲気さえ見れた。
 すぐにまた、ただノリがいいだけの邦楽が流れ出し、袖に引っ込んだババアが三度現れた。
 そしてそのまま舞台周りに座る客と向かい合わせになるようにしゃがみ、手を拭かせると胸を揉ませ始めた。胸を揉ませた後は指を生殖器に出し入れさせている。

「あれ、は?」
「ありゃあタッチショーだ。踊り子さんがああやって客に大事なとこを触らしてくれるのさ」

 ほろ酔い爺さんから新たな単語を教わり、何ともいえぬ表情で遥心がそれを見ていると、

「兄ちゃんも行ってきたらどうだ」 

と、爺さんが言ってきた。

「ええっ!?いいよ!!」

 突然の提案で思わず人生の先輩に対してタメ口になるが、

「なんだ、童貞か」
「……違いますけど」

 度重なる誤解に遥心は複雑な思いを抱く。

「無理すんな。本番はやれねえけど、チチとアソコは触らせてもらえっぞ」

 いや昨日散々恋人のを触りましたし触られましたけど、という言葉を飲み込んで遥心がババアの方を向く。視線を感じたのかババアがこちらを向き、

―手招きをした。

 冷房以外の寒気が遥心の背中を舐める。

「人生何事も経験だって。ほれっ」

 人生の先輩に背中をバンと叩かれ、不安定な椅子に座った身体が前につんのめる。
 行くしかないのか。行くしか、ないようだ。
 おずおずと舞台の近くへ行くと、ババアが腕を開いて待ち構えていた。視線を泳がせながら遥心は手を差し出す。そして、

「すいません。女なんですけど」

と、ババアにギリギリ聞こえる声量で伝えた。
 ババアは、あら、と遥心の顔とセンスの悪いアロハを見て、自分が掴んだ男にしては小さい遥心の手を見る。
 間近で見るババアは、胸は垂れ、肌に張りが無く、口紅は今時そんな色塗らないよというぐらい赤く、眉は今時そんな太く描かないよというぐらい太く描かれていた。徐々に滲んでくる涙で遥心は前が、未来が見えない。
 許してもらえるのだろうかと思っていると、

「何事も経験経験」

 両手を掴まれ、胸を揉まされ、指を挿入させられた。


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