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9、次の要塞を攻める
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初ストリップ観劇から一週間後。まだ身体が完全に覚醒しきっていない午前中。遥心はまた電車に揺られていた。いつもは乗らない路線の下り電車に。
目的地はネットで調べて見つけたストリップ劇場 ニュー倖邑(ゆきむら)だ。
本当は翌日にも行きたかったが、友人の嵐士から意外と早く例のブツの受け渡しの件で呼び出しがかかったり、台風が来たり、詩帆に例のブツが早々にバレて外出禁止を命じられたり、台風が来たりで、来るのは一週間後になった。
その間に遥心はストリップについて少しだけ勉強してみた。
ダンスショーの後の、衣装を脱ぎ始めるステージは《ベッドショー》と呼ばれ、ベッドショーでは踊り子さんが様々なアクロバティックなポーズを決めるらしい。
どうやらそれが最近の主流のようで、生殖器を使った吹き矢などの芸は、21世紀の今においては田舎の奥地にでも行かない限りあまり見られないらしい。
ポーズが決まれば観客は拍手を送り、それがマナーであり、作法のようだ。
《オープンショー》は生殖器を全ての客に向かってド派手にオープンさせる、フィナーレやカーテンコールのようなもので、ショーの中ではある種一番の盛り上がりを見せる。
《撮影ショー》は劇場側の売上げ向上として比較的近年出来たものらしい。踊り子さんとのコミュニケーションの場として、現役AV女優さんとお話出来る機会でもあるので重宝されていた。希望すれば撮った写真にサインなどもしてもらえるらしい。
踊り子さんが舞台で見せる演目は《出し物》と呼ばれ、一日の公演でいくつもの出し物を出す踊り子さんもいれば、全て同じ出し物しかやらない踊り子さんもいる。
今なら踊り子さんが発信するSNSや劇場のブログ等を通じて今回はどんな出し物なのか、あるいは新作出し物を用意してくるか等の情報は得られるが、様々な理由で急遽用意した出し物が差し替えられることもある。その辺りはやはり舞台であり、舞台は生き物だと言えた。
タンバリンは客が盛り上げ用の小道具として自主的に使われ、ほとんどが容認されてはいるが劇場によっては他の客の迷惑と禁止されているところもあるらしい。
ストリップでは毎月、公演を月の上旬、中旬、下旬で区切り、十日間ごとに踊り子さんが入れ替わる。そして踊り子さんは衣装や小道具を入れたスーツケースを転がし別の劇場、はたまた地方の劇場へと巡業に行く。
まさに現代の旅芸人といえた。
だが最近はストリップという文化が廃れているのもあって劇場が次々と閉鎖し、巡業に行く場も限られているらしいが。
なんのことはない、ネットで拾った程度の知識だが、作法や単語を予習しておけば見る上でより深くステージを楽しめる。そしてもう一方の面にも。
忘れ去られる昭和の性風俗について、遥心は周りの大人にそれとなく聞いてみるも「ストリップ?行った事ねえなあ」「温泉街とかにあるやつじゃないの?」という人がほとんどだった。
「今のおじさんは興味なさそうだし、少子化とかで若い人も減ってるし。死に逝く文化だなあ」
朝食代わりのゼリー飲料を飲みながら遥心が呟く。そんな死に逝く文化に遥心は触れていた。まるで誰にも知られず息絶える老獣を看取っている気分だ。
ふと車窓に目を向けると、先程までは見えていた背の高い建物がほとんどない。車内は乗っている人も、降りる人も乗り込む人も少ない。遥心がドアの上部に掲げられた路線図を見上げると、どの駅名を見ても聞いたことの無い、馴染みの無い名前ばかりだった。
これから行く町も、おそらくこんな目的がなければ行かなかった町だろう。
「変なの。まあいいか、夏だし」
笑いながら遥心は胸元を掴み、着ていたセンスの悪いアロハシャツに空気を入れる。
量り売りの古着屋で、重さ調整のために思わず手に取り買ってしまったアロハだった。育ちが悪そうに見えて、こんな時ぐらいしか着る機会がない。
窓に映る顔は、相変わらず女の子らしい甘さのない一重瞼。恋人は涼やかですねぃ~、なんて言ってくれるが。
だが、ここ数日炭水化物を抜いたおかげで、頬もスッとしている。
これならきちんと男の子に見られるだろうと遥心は安堵した。
駅に降り立つと、商店街はやはりこの前と同じく寂れた匂いがした。
「ええと、駅前から出てロータリーを」
遥心が例によってプリントアウトした地図を見ながら進む。しかし、
「……どこだ」
またしてもすぐに辿り着けない。徒歩5分の場所がわからない。
駅前を右往左往しながら、ロータリーで地元のタクシー運転手に道を聞き、ガハハ兄ちゃん、ストリップかい?とからかわれてようやく辿り着き、
「わかりづらいんだよ」
ようやく見つけ出したニュー倖邑を前に、遥心がぼやく。
お上の目から逃れるためか、看板らしいものも出さず、午前中の飲み屋街にひっそりとその劇場はあった。
狭いロビーには早々にタバコを吹かしたり、スポーツ新聞を読んでいる客がいた。
それを横目に見ながら遥心が窓口へ向かう。女性割引がない劇場だったので、今回はよくわからない笑いをしなくていい。代わりに早朝割引がギリギリで効いたが、
「3500円ね」
ユニセックスな財布を開いた遥心の手がぴたと止まる。以前行った劇場より千円高い。千円も、高い。
これは自然と以前行った劇場よりも、以前見たステージよりも期待せざるを得ないが、
「あとこちらポイントカードです」
お釣りと一緒にポイントカードを渡された。早速スタンプが一つ捺されていたが、おそらくこのカードに新しくスタンプが捺されることは無いだろうと思いつつ、遥心は大切に財布にしまった。
料金表を見ると学割もあるらしい。学生割引 3500円也。要、学生証提示。
早朝割引に間に合う様、わざわざ早起きをしたというのに。いやいや、惰眠を貪り風俗店で身分証を晒してまで得る学生割引と、真夏に多少の早起きをしてでも得る割引なら早朝割引を取るべきだ。
自分の行動の正しさに頷きながら遥心は軽いドアを開け、場内へと入った。
目的地はネットで調べて見つけたストリップ劇場 ニュー倖邑(ゆきむら)だ。
本当は翌日にも行きたかったが、友人の嵐士から意外と早く例のブツの受け渡しの件で呼び出しがかかったり、台風が来たり、詩帆に例のブツが早々にバレて外出禁止を命じられたり、台風が来たりで、来るのは一週間後になった。
その間に遥心はストリップについて少しだけ勉強してみた。
ダンスショーの後の、衣装を脱ぎ始めるステージは《ベッドショー》と呼ばれ、ベッドショーでは踊り子さんが様々なアクロバティックなポーズを決めるらしい。
どうやらそれが最近の主流のようで、生殖器を使った吹き矢などの芸は、21世紀の今においては田舎の奥地にでも行かない限りあまり見られないらしい。
ポーズが決まれば観客は拍手を送り、それがマナーであり、作法のようだ。
《オープンショー》は生殖器を全ての客に向かってド派手にオープンさせる、フィナーレやカーテンコールのようなもので、ショーの中ではある種一番の盛り上がりを見せる。
《撮影ショー》は劇場側の売上げ向上として比較的近年出来たものらしい。踊り子さんとのコミュニケーションの場として、現役AV女優さんとお話出来る機会でもあるので重宝されていた。希望すれば撮った写真にサインなどもしてもらえるらしい。
踊り子さんが舞台で見せる演目は《出し物》と呼ばれ、一日の公演でいくつもの出し物を出す踊り子さんもいれば、全て同じ出し物しかやらない踊り子さんもいる。
今なら踊り子さんが発信するSNSや劇場のブログ等を通じて今回はどんな出し物なのか、あるいは新作出し物を用意してくるか等の情報は得られるが、様々な理由で急遽用意した出し物が差し替えられることもある。その辺りはやはり舞台であり、舞台は生き物だと言えた。
タンバリンは客が盛り上げ用の小道具として自主的に使われ、ほとんどが容認されてはいるが劇場によっては他の客の迷惑と禁止されているところもあるらしい。
ストリップでは毎月、公演を月の上旬、中旬、下旬で区切り、十日間ごとに踊り子さんが入れ替わる。そして踊り子さんは衣装や小道具を入れたスーツケースを転がし別の劇場、はたまた地方の劇場へと巡業に行く。
まさに現代の旅芸人といえた。
だが最近はストリップという文化が廃れているのもあって劇場が次々と閉鎖し、巡業に行く場も限られているらしいが。
なんのことはない、ネットで拾った程度の知識だが、作法や単語を予習しておけば見る上でより深くステージを楽しめる。そしてもう一方の面にも。
忘れ去られる昭和の性風俗について、遥心は周りの大人にそれとなく聞いてみるも「ストリップ?行った事ねえなあ」「温泉街とかにあるやつじゃないの?」という人がほとんどだった。
「今のおじさんは興味なさそうだし、少子化とかで若い人も減ってるし。死に逝く文化だなあ」
朝食代わりのゼリー飲料を飲みながら遥心が呟く。そんな死に逝く文化に遥心は触れていた。まるで誰にも知られず息絶える老獣を看取っている気分だ。
ふと車窓に目を向けると、先程までは見えていた背の高い建物がほとんどない。車内は乗っている人も、降りる人も乗り込む人も少ない。遥心がドアの上部に掲げられた路線図を見上げると、どの駅名を見ても聞いたことの無い、馴染みの無い名前ばかりだった。
これから行く町も、おそらくこんな目的がなければ行かなかった町だろう。
「変なの。まあいいか、夏だし」
笑いながら遥心は胸元を掴み、着ていたセンスの悪いアロハシャツに空気を入れる。
量り売りの古着屋で、重さ調整のために思わず手に取り買ってしまったアロハだった。育ちが悪そうに見えて、こんな時ぐらいしか着る機会がない。
窓に映る顔は、相変わらず女の子らしい甘さのない一重瞼。恋人は涼やかですねぃ~、なんて言ってくれるが。
だが、ここ数日炭水化物を抜いたおかげで、頬もスッとしている。
これならきちんと男の子に見られるだろうと遥心は安堵した。
駅に降り立つと、商店街はやはりこの前と同じく寂れた匂いがした。
「ええと、駅前から出てロータリーを」
遥心が例によってプリントアウトした地図を見ながら進む。しかし、
「……どこだ」
またしてもすぐに辿り着けない。徒歩5分の場所がわからない。
駅前を右往左往しながら、ロータリーで地元のタクシー運転手に道を聞き、ガハハ兄ちゃん、ストリップかい?とからかわれてようやく辿り着き、
「わかりづらいんだよ」
ようやく見つけ出したニュー倖邑を前に、遥心がぼやく。
お上の目から逃れるためか、看板らしいものも出さず、午前中の飲み屋街にひっそりとその劇場はあった。
狭いロビーには早々にタバコを吹かしたり、スポーツ新聞を読んでいる客がいた。
それを横目に見ながら遥心が窓口へ向かう。女性割引がない劇場だったので、今回はよくわからない笑いをしなくていい。代わりに早朝割引がギリギリで効いたが、
「3500円ね」
ユニセックスな財布を開いた遥心の手がぴたと止まる。以前行った劇場より千円高い。千円も、高い。
これは自然と以前行った劇場よりも、以前見たステージよりも期待せざるを得ないが、
「あとこちらポイントカードです」
お釣りと一緒にポイントカードを渡された。早速スタンプが一つ捺されていたが、おそらくこのカードに新しくスタンプが捺されることは無いだろうと思いつつ、遥心は大切に財布にしまった。
料金表を見ると学割もあるらしい。学生割引 3500円也。要、学生証提示。
早朝割引に間に合う様、わざわざ早起きをしたというのに。いやいや、惰眠を貪り風俗店で身分証を晒してまで得る学生割引と、真夏に多少の早起きをしてでも得る割引なら早朝割引を取るべきだ。
自分の行動の正しさに頷きながら遥心は軽いドアを開け、場内へと入った。
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