昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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21、重ねて言うがそもそも性風俗であった

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  その日の気温が高いのもあって、場内は相変わらず冷房が効きすぎて寒いくらいだった。
 ちょうど舞台に立っていたのは、オープンバストのボンテージ衣装にガーターベルトという踊り子さんだった。いきなりの高カロリーなエロスに遥心は面食らう。
 クールなプラチナブロンドに濃い目のメイク。劇場前に貼られたポスターには、金髪の踊り子さんはいなかった。最近染めたのか、あるいはウィッグだろうか。
 ゆっくりと回転する中央舞台の上で、強めのライトを浴びながら片足を上げたブリッジをし、生殖器を惜しげもなく公開していた。
 場内が拍手に包まれる。

 目の前の光景を消化しながら、遥心が場内に流れていた曲を耳で捉える。
 流れていたのは、アニメ ハイ・スカイ・ハイ エンディング曲 『フンイキイイネ』だった。
 安っぽさすら漂うベタベタなアイドルサウンドに、甘ったるいアニメ声のボーカルと要所に入る♪motto という、拗ねたおねだりボイスが下世話なストリップに不思議とマッチしていた。
 だがアレンジャー様の仕事のおかげか、そうだと知らなければ一貫して適度な浮遊感もあってなかなか良質なクラブミュージックにも聴ける。
 見た目や年齢からして、アニメのタイアップソングと知らずに、純粋に曲調だけで選んだのかもしれないと遥心は予想するが、

「おおー」

 ドア一枚隔てて繰り広げられていたオトナな世界と、いきなりのアゲアゲナンバーの洗礼に詩帆のテンションが上がる。♪ピューイ、と踊り子さんに向かって指笛を吹く。
 入口付近にいたタンバリンマンが、そうやって楽しむんじゃないんだよ、無粋な奴らめと詩帆を睨むが、若い女の子二人に踊り子さんが気付き、にこりと微笑む。

「こっち」

 リズミカルに手拍子している詩帆を、遥心が入り口から後ろの空いている席へと誘導する。
 淡いピンクライトの中、踊り子さんが後背位スタイルで腰を大きくグラインドさせる。
 目と鼻の先、まさに至近距離に男性客が中央舞台を取り囲むように、群がるように座っていた。
 視線は生殖器に集中している。
 そこに流れるのは、マニアックなアニメソング。
 独特な熱気とやや場違いな、けれども合っている選曲。
 遥心がちらりと隣にいる詩帆を見る。初めて触れる、ストリップというものへの反応を確認するために。見たがっていたものを実際目の当たりにしてどう思っているのか。

「踊り子さん、美人だね」

 詩帆が舞台の方に視線を向けたまま言う。

「えっ!?ああ、そうだね」
「ちょっとタイプ」
「……へえ」

 一際大きい拍手と共にステージが終わり、ほどなくして撮影ショーが始まった。
 衣装撮影者はおらず、すぐに全裸撮影に移行する。
 その中の、2ショット撮影をお願いする客を見て、

「あれなに?」

 初心者の詩帆に少しだけ先輩な遥心が撮影ショーの趣旨を説明するが、

「あたしもほしい」
「は?」
「あたしもほしいよ、写真」
「ああ、うん。行ってくれば?」

 我が恋人の好奇心の強さに遥心は毎度驚かされる。わかってはいたが、この子は物怖じせずガンガン、グイグイ行く。

「ついてきてよ」
「えーっ?」

 そして、つい先日したばかりの嫌そうな顔をする。
 撮影が嫌なのではない。シャッターを押すのが嫌なのだ。知らない人の、他人のカメラを扱う苦手なのだ。
 詩帆が自分で撮るなら良いが、2ショットとなるとこちらがカメラマンをやらなくてはいけないかもしれない。
 かといって全裸美人の局部を撮影する恋人もあまり見たくない。
 遥心が渋るのを見て、

「おーねーがーいー」
「うーん…」
「じゃあワンペナ帳消ししてあげるから」
「……わかった」
「わーい」

 パチパチパチパチと二人で手を叩き、

「やったね☆」

 二人揃って目元でピースする。詩帆は笑顔で、遥心はうんざり顔で。


 撮影希望者の列に並ぶと、踊り子さんの局部を撮影する客が間近で見れた。
 L、M、Vなどの指示に沿って踊り子さんがポーズを決め、にこやかな笑顔とともにシャッターを切られる。
 間近で展開する下世話なイベントに、どんな反応を見せるかと遥心が見守っていると、詩帆は、おお…、と低い声で言うだけだった。
 それより気になることがあったようで、詩帆は遥心に小声で、なんかあげてる!と言ってきた。差し入れのことだろう。

「なんかあげたほうがいいの!?」
「何も無いよ」
「なんでなにもないの!」
「別に撮影ショー参加する予定なかったし」
「なんかあげたい!」
「なんかって…。なんも無いよぉー、もおー」

 遥心が場所取り用のミネラルウォーターだけを残して持ってきたバッグをがさごそと漁る。一応ガラの悪い場所なので、貴重品は極力肌身から放さない。
 だが探したところでバッグの中には花束も、日持ちする高級スイーツもない。

「こんな物しか」

 あったのは日本が誇る、黄色い箱型パッケージに入ったブロックタイプの栄養バランス食品。しかも一番人気の低いフルーツ味だ。そのチョイスに詩帆が難色を示す。

「なんでフルーツ味…」
「好きだから」
「普通チョコじゃん!」
「普通はチーズだよっ!あと年齢的にどっちも甘すぎるんだよ!」
「ババアじゃん!」

 そんなやりとりをしているうちに順番になり、

「おはようございまーす。おー、女の子ー」

 若い女の子客二人に、踊り子さんがテンション高く迎える。
 先程視線を交わした子達が来てくれたことへの嬉しさもあったのかもしれない。

「すいません。差し入れこんな物しかなくて」

 詩帆が恋人からせしめたこんな物を、お納めくださいとばかりに踊り子さんに差し出す。

「フルーツ味なんで。苦手だったら他の踊り子さんにあげちゃっていいです」

 フルーツ味は人を選ぶ味だ。

「ううん。ありがとう。じゃあなびき姐さんにあげよかな。飲んべえだから甘いのよりこっちのが好きそう」

 後ろで常連客が、あっはっは、とうるさいくらいに笑う。わかりやすい、アピール笑いだ。

「2ショット?ポーズどうする?」
「じゃあうさちゃんピースで」
「おお、いいねえ」
 
 初心者っぽい女の子が局部撮影はしないだろうという踊り子さんの誘導で、詩帆は自然と踊り子さんとの2ショット撮影になった。
 当然カメラマンは付添人だ。

「と、撮りまーす。……シャッターこれですよね」
「そーだよー」

 全裸美人と恋人のうさちゃんピース姿を、遥心はカメラに収めた。
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