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32、しじみ目の言うとおり
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二人が行くストリップ劇場のある駅は、とてつもなく広く、大きく、ホームから地上に出るまで15分はかかった。
「あわわわ」
「こっちだぜ」
ホームに着くなり、乗り降りする人の多さに尻込してしまう遥心の手を詩帆が引く。
そのまま連絡通路を通り、駅ナカを冷やかし、ペットボトルのミネラルウォーターを買って、エレベーターを下へ、エスカレーターを昇り、ずんずん進む。
お出かけとあってばっちり美人メイクで武装してるのもあり、いつも以上に頼もしい。
「あっちだぜ」
「なんでわかるの!?」
「なんでわかんないの?」
いつ来ても自動形成ダンジョンのようなこの駅を、遥心は迷わず通れない。だからいつもこの駅を利用する時は、詩帆にこうして誘導してもらっていた。
詩帆は詩帆で頼られるのが嬉しいのと、あわあわしている遥心が可愛いので進んで誘導役を買って出る。
だがそれは遥心には言わない。言ってやらない。
ようやく地上に出ると、押し寄せるアンケートやキャッチを早足でかわし、するりと劇場に着いた。ストリップ劇場 耀貴妃館だ。
「女二人」
詩帆が窓口でそう告げる。通常料金は4000円だが、女性割引が効いて3000円だった。
そのまま慣れた手つきでロビーにプリントアウトされて置いてある香盤表を取り、場内へ向かう。扉は相変わらず軽かった。
二人が場内に入ると、ちょうどショーの真っ最中だった。
光り輝く舞台とは反対に場内の足元は暗く、所々に付けられた非常灯を頼りに二人は後方の空きスペースへと進む。
舞台では大きなピンクのシースルーリボンを身体に巻き付け、結び付けている踊り子さんがいた。一瞬にしてわかる、私がプレゼントよ、という演出。
「おおダセエな。バレンタインにやれよ」
鼻で笑いながら詩帆が言う。
ライトの明るさとありきたりな演出に目を細めながら、遥心は踊り子さんの顔を見る。
その顔には見覚えがあった。以前見た、初めてストリップを見に行った時に他の踊り子さんのステージを見てお勉強していた踊り子さんだった。
真剣に、熱心に見ていたはすだ。それなのに。
ステップは重く、衣装は貧乏くさい。選曲は何のカラーもポリシーもない。
何も学んでいない。そもそもステージに対する情熱のようなものが感じられなかった。季節感も関係ない。
見ている客の目は死に、あくびを噛み殺している。
客にも踊り子にも惰性が見えた。
「なんか、つまんないね」
詩帆の声に、遥心が振り向く。
「季節感もないし。やめちゃえばいいのに」
早足で乾いた喉をミネラルウォーターで潤しながら、ぞっとする声で詩帆が言う。その瞳は少女の残酷さを秘め、低い声はもう夢など見ていられないという大人の女の声だった。
だが、こちらは金を払ってるのだからつまらんもんを見せるなという真っ当な意見でもあった。
遥心は舞台に視線を戻しながら、今後この踊り子さんはどうなるのだろう、と考えてみる。歳は、30を少し過ぎたぐらいか。
辞めたとしてその先は、就職、結婚、裏方。
踊り子などそう長く続けられるものではない。
ぼんやりと、遥心はタッチショーの時のババアを思い出していた。ああいう生き方もある。けれど-、
遥心は頭の中の人生設計を、赤の他人の人生設計を消し去るように目を瞑る。
他人の人生だ、自分がどうこう考えたところでどうしようもない。
おそるおそる目を開けると、舞台はすでにベッドショーに移り、踊り子さんがポーズを決め始めていた。披露するのはヨガのハッピーベイビーポーズ。
客は拍手のしどころがわからないようだった。
撮影ショーはそうかからなそうだったが、詩帆がトイレに行きたいと言うので二人は再びロビーに出た。
「先に済ませときなよ」
「だって中さっむいんだもん」
遥心が言うと、詩帆がノースリーブを着た腕をさする。
来るのが遅かったため、またしても後方しか場内は空いたスペースはなかった。
そしてこの劇場も、秋などという季節は感じさせないぐらいに冷房は強めだ。
「はい、じゃあいつ頃なら」
トイレを済ませると、従業員がメモを取りながら電話で何やらやり取りをしていた。
「編集して繋げた音源のようなものを。はい、CDかMDなどで。そうですね、20分程度で。衣装とかはもう用意されてますか?でしたらキャリーバッグなどで、」
内容から察するに、
「面接の予約?」
「そうみたい」
詩帆が小声で訊き、遥心が肯定する。
ストリップ劇場のホームページには踊り子募集の文字をよく見かける。
《アイドルストリッパー募集》《ダンス経験が無くとも劇場が完全プロデュースします》《楽しく稼げます》
という言葉が安っぽいフォント文字で踊っていた。
AVからのデビューなら本人同士、事務所と劇場同士の大人が顔を合わせて交渉するだろう。まったくの素人か。
先のない業界だが、電話の先にいる女性はそれでも飛び込もうとしている。それだけ就職難が影響しているのだろうか。
たまたまストリップを見にきて感動してしまった類か。はたまた舞台に立ちたいが立てる舞台がなく、ここならばと野心に満ちたパフォーマーか。
従業員の言葉から遥心は色々と想像してみるが、
「MDっつってたよ」
会話の中から、詩帆が気になるワードを拾う。
「MDってまだ売ってんの?」
「たぶん、百均とかで」
遥心が確か、と思い出しながら言う。
「何でも百均だなあ」
「いまどき百均でMDまとめ買いしてる綺麗なお姉さんがいたら、踊り子さんかもね」
ハハハ、そいつぁ愉快だと詩帆が笑った。
「あわわわ」
「こっちだぜ」
ホームに着くなり、乗り降りする人の多さに尻込してしまう遥心の手を詩帆が引く。
そのまま連絡通路を通り、駅ナカを冷やかし、ペットボトルのミネラルウォーターを買って、エレベーターを下へ、エスカレーターを昇り、ずんずん進む。
お出かけとあってばっちり美人メイクで武装してるのもあり、いつも以上に頼もしい。
「あっちだぜ」
「なんでわかるの!?」
「なんでわかんないの?」
いつ来ても自動形成ダンジョンのようなこの駅を、遥心は迷わず通れない。だからいつもこの駅を利用する時は、詩帆にこうして誘導してもらっていた。
詩帆は詩帆で頼られるのが嬉しいのと、あわあわしている遥心が可愛いので進んで誘導役を買って出る。
だがそれは遥心には言わない。言ってやらない。
ようやく地上に出ると、押し寄せるアンケートやキャッチを早足でかわし、するりと劇場に着いた。ストリップ劇場 耀貴妃館だ。
「女二人」
詩帆が窓口でそう告げる。通常料金は4000円だが、女性割引が効いて3000円だった。
そのまま慣れた手つきでロビーにプリントアウトされて置いてある香盤表を取り、場内へ向かう。扉は相変わらず軽かった。
二人が場内に入ると、ちょうどショーの真っ最中だった。
光り輝く舞台とは反対に場内の足元は暗く、所々に付けられた非常灯を頼りに二人は後方の空きスペースへと進む。
舞台では大きなピンクのシースルーリボンを身体に巻き付け、結び付けている踊り子さんがいた。一瞬にしてわかる、私がプレゼントよ、という演出。
「おおダセエな。バレンタインにやれよ」
鼻で笑いながら詩帆が言う。
ライトの明るさとありきたりな演出に目を細めながら、遥心は踊り子さんの顔を見る。
その顔には見覚えがあった。以前見た、初めてストリップを見に行った時に他の踊り子さんのステージを見てお勉強していた踊り子さんだった。
真剣に、熱心に見ていたはすだ。それなのに。
ステップは重く、衣装は貧乏くさい。選曲は何のカラーもポリシーもない。
何も学んでいない。そもそもステージに対する情熱のようなものが感じられなかった。季節感も関係ない。
見ている客の目は死に、あくびを噛み殺している。
客にも踊り子にも惰性が見えた。
「なんか、つまんないね」
詩帆の声に、遥心が振り向く。
「季節感もないし。やめちゃえばいいのに」
早足で乾いた喉をミネラルウォーターで潤しながら、ぞっとする声で詩帆が言う。その瞳は少女の残酷さを秘め、低い声はもう夢など見ていられないという大人の女の声だった。
だが、こちらは金を払ってるのだからつまらんもんを見せるなという真っ当な意見でもあった。
遥心は舞台に視線を戻しながら、今後この踊り子さんはどうなるのだろう、と考えてみる。歳は、30を少し過ぎたぐらいか。
辞めたとしてその先は、就職、結婚、裏方。
踊り子などそう長く続けられるものではない。
ぼんやりと、遥心はタッチショーの時のババアを思い出していた。ああいう生き方もある。けれど-、
遥心は頭の中の人生設計を、赤の他人の人生設計を消し去るように目を瞑る。
他人の人生だ、自分がどうこう考えたところでどうしようもない。
おそるおそる目を開けると、舞台はすでにベッドショーに移り、踊り子さんがポーズを決め始めていた。披露するのはヨガのハッピーベイビーポーズ。
客は拍手のしどころがわからないようだった。
撮影ショーはそうかからなそうだったが、詩帆がトイレに行きたいと言うので二人は再びロビーに出た。
「先に済ませときなよ」
「だって中さっむいんだもん」
遥心が言うと、詩帆がノースリーブを着た腕をさする。
来るのが遅かったため、またしても後方しか場内は空いたスペースはなかった。
そしてこの劇場も、秋などという季節は感じさせないぐらいに冷房は強めだ。
「はい、じゃあいつ頃なら」
トイレを済ませると、従業員がメモを取りながら電話で何やらやり取りをしていた。
「編集して繋げた音源のようなものを。はい、CDかMDなどで。そうですね、20分程度で。衣装とかはもう用意されてますか?でしたらキャリーバッグなどで、」
内容から察するに、
「面接の予約?」
「そうみたい」
詩帆が小声で訊き、遥心が肯定する。
ストリップ劇場のホームページには踊り子募集の文字をよく見かける。
《アイドルストリッパー募集》《ダンス経験が無くとも劇場が完全プロデュースします》《楽しく稼げます》
という言葉が安っぽいフォント文字で踊っていた。
AVからのデビューなら本人同士、事務所と劇場同士の大人が顔を合わせて交渉するだろう。まったくの素人か。
先のない業界だが、電話の先にいる女性はそれでも飛び込もうとしている。それだけ就職難が影響しているのだろうか。
たまたまストリップを見にきて感動してしまった類か。はたまた舞台に立ちたいが立てる舞台がなく、ここならばと野心に満ちたパフォーマーか。
従業員の言葉から遥心は色々と想像してみるが、
「MDっつってたよ」
会話の中から、詩帆が気になるワードを拾う。
「MDってまだ売ってんの?」
「たぶん、百均とかで」
遥心が確か、と思い出しながら言う。
「何でも百均だなあ」
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ハハハ、そいつぁ愉快だと詩帆が笑った。
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