昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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37、貴女は僕達の業界にはいらなかったんだ

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場内が明るくなり、撮影ショーが始まる。普段は見向きもしない撮影希望者の列を遥心がじっと見ていると、

「撮りたいんじゃないの?」

 詩帆の言葉にぎくりとする。

「写真、撮りたいんでしょ?」

 少し呆れたように詩帆が言う。呆れと、ほんの少しの苛立ちが見えた。

「ああ、うん…」

 しかし遥心は悩んでいた。決心がつかない。そんな遥心を横目に詩帆がため息をつきながら、

「今日で最後ね」

 それはストリップ観劇は今日で終わりであり、風俗につぎ込むとかあり得ない、というきちんとした女性の意見だった。それは遥心も同意見だった。
 ということは、今日が最後ということは記念に一枚ぐらい撮ってもいいのではないか。だが遥心にはもう一押し決心が付かない。
 そんな遥心に詩帆が最後の一押しをする。

「早くしないと衣装終わっちゃうよ」

 全裸になる前、衣装姿での撮影ならいいという詩帆なりのお許しだろう。そしてそれは遥心の背中を押してくれる言葉だった。

「行ってくるっ」
「うーい」

 バタバタと列に参加する遥心に、詩帆がだらりとした返事をする。
 列に並ぶ恋人を見て、プロポーズされた直後に嫁の浮気目の前で許すとかどんな旦那だよ、と詩帆が心の中で呟いた。


 撮影者の列に並んですぐに、差し入れを持ってくればよかった、と遥心は後悔する。
 だが今日はブロック栄養バランス食も持っていない。
 それでもカバンの中に何かなかったかと考えているうちに、すぐに撮影の順番が来た。おはようございます、と朝顔の浴衣を羽織った逢瀬さくらが小さな頭を下げる。
 間近で見る逢瀬さくらは小さく、慎ましやかで本当に桜の花のようだった。そんな桜の花が遥心の目を見つめたまま、

「清簾、いらっしゃってましたよね」

と、言った。
 遥心は一瞬何のことだかわからなかった。そして思い出す。
 清簾とは、清簾劇場は遥心が初めて行ったストリップ劇場だった。

「えっ!?でもあの時は」

 今とあの時では遥心の雰囲気はだいぶ違う。性別すら違って見られていた。
 おまけに座っていたのは後ろの席で、写真も撮っていない。

「初めてのお客さんはわかるんですよ。心許ないというか。あとステージの時、ずっと一緒に歌ってくださってましたよね」
「あっ…、はい」
「さっきも」

 詩帆が歌っているのはわかっていたが、どうやら自分もだったらしい。

「……すいません」
「いえ、嬉しいです」

 遥心が顔を赤くし、それを見て逢瀬さくらがコロコロと笑う。
 逢瀬さくらはたおやかに、柔らかく話した。
 瞬きの速度がゆっくりで、夢見がちな遊女のようだった。

「ポーズどうします?」
「えっと、じゃあ」

 逢瀬さくらが衣装のまま小首を傾げたポーズを取り、遥心がカメラに収める。
 おそらく遥心にとって、それは最初で最後となる写真撮影だった。

「サインは、どうします?入れます?」
「あっ、く、ください。入れてください」

 初めてのことなので遥心があわあわしながらお願いすると、慌てぶりに逢瀬さくらがクスリと笑う。

「じゃあ、あとで受付の方で受け取ってください」
「は、はい」

 ゆっくりと瞬きしながら話す踊り子さんに、遥心が頷く。
 今日が最後と決めたのに、なんだか好きになってしまいそうだった。



 しばらくのち、遥心が受付窓口で貰った逢瀬さくらの写真には日付とサイン、そして、

《応援ありがとうございます。気温の変わりやすい季節ですのでどうぞご自愛ください》

という綺麗な文字でさらさらと書いた、定型通りの挨拶と季節のコメントと、

《PS 三田 しずくって知ってる?》

という謎の暗号が書かれていた。


「どしたー?」

 神妙な顔で写真を見つめる遥心に、ロビーでテレビを見ていた詩帆が訊いてくる。

「いや、これ」

 遥心が暗号を見せると、

「んー?」

 詩帆が探偵の顔つきになる。
 三田しずく、みたしずく、ミタシズク?と写真に書かれた名前を何度か口の中で反芻し、

「あーっ、なんだぁ。道理で」

 納得がいった、合点がいったという声を上げる。

「知ってるの?」
「知ってるのかと思った」
「はあ?」

 遥心には探偵の言っていることがわからない。

「いやあ、かんたんなことだよ。遥心ちゃん」

 まったくわかってない可愛い恋人を見て、名探偵詩帆は楽しそうに微笑んだ。
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