昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第二回公演

13、嬢と女優

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 普段の行為とのあまりの違いに詩麻呂が戸惑っていると、曲が変わった。
 流れてきた曲にぐらりと目眩がする。
 狂だか能だか歌舞伎だか。
 しかし日本人なら本能的に心を揺さぶられるイントロ。
 流れてきたのは アニメ 序破宮 エンディング曲 『TRUE LOVE SONG』だった。
 無駄な言葉を限界まで削ぎ落とされた歌詞と、和楽器と情念だけで歌い上げるまさに和のラブソング。

 なのに詩麻呂はその歌声を包み込む和楽器のようなたおやかさで触れてくる。
 自分の気持ちがざわつくのをごまかすように、下も触っていいのよ、と舞台に寝そべりながら踊り子さんが小さな声で促す。
 唾を飲み込み、詩麻呂が下に、太ももに触れる。
 たっぷりと肉のついた表面、内側、裏側を手のひらや手の甲で触れる。特別な意志のない、手遊びのような手つきで。
 下がそこではないということは当然知っていた。
 じらしているのとも違う、怖気づいているのとも違う。
 立てた太ももの内側に頬を寄せ、柔らかを確かめる。

 その頬の瑞々しさに踊り子さんは泣きそうになった。
 なぜかはわからない。
 今の自分にはすでにない、とうにどこかに置いてきてしまったものだと本能でわかったからか。
 その変化には気づかず、詩麻呂はすぐ近くにある知らない花園に目をくれる。
 花園とは程遠い、匂い立つグロテスクな洞窟に。
 そこへの探検をどうにかしてスルー出来ないかと考えていた。
 触れずにすまないかと。かといって口でするなんて到底出来ない。
 太ももや腹部に触れることで時間を稼いでいると、はやく挿れろよ、と客席からヤジが飛んだ。

「びびってんじゃねえか。グロくて」
「昨日風呂ん中で見た母ちゃんのと変わんねえよ」

 客のヤジに失礼しちゃうわねと踊り子さんがあしらう。
 ギャハハという客の笑い声を耳に、詩麻呂は触らなくてはとジリジリ焦りだす。
 もうすることがない。
 キスをしてはいけない。胸もそんなに触りたくない。
 服を脱いでいないから肌を合わせて感触を楽しむことも出来ない。
 こちらから攻めるだけ。
 髪は崩れるから触れない。
 いずれは下を触らなくてはいけない。

 縛りのルールがあまりにもキツ過ぎる。
 客とはいえ、舞台に乗った以上は演者だ。一連の流れは演出であり、客もそれに合わせなくてはならない。
 舞台は客とパフォーマーとで作るものだ。
 その程度のことは今までに見てきた声優ライブやアニメ系ミュージカルで学んできたはずだった。
 意を決して詩麻呂は揃えた指で踊り子さんの洞窟の表面を優しく撫でた。
 予想していた挿入感ではなく、面で捉える刺激に踊り子さんが驚く。

「挿れていいのよ?」
「えっ?」

 踊り子さんの声に、詩麻呂はわかっていない素振りをする。
 挿れなくてはならないその瞬間まで、限界まで時間を稼ぎたかった。
 場内に流れる曲を聴きながら時間を読む。
 人差し指と小指で洞窟を割り開くと、自動的に入り口の手前にある膨らみを中指と薬指が捉え、そっと挟み込む。
 本当はそれに触れることすら嫌だった。ここにいない誰かへの裏切りとさえ思った。
 どこまでも優しい触り方に、踊り子さんが声を漏らし、

「痛い、ですか?」

 心配を滲ませながら、詩麻呂が問う。気持ちいいかではなく痛くないかと。
 そこには女性は優しくデリケートに扱わなくてはならないという絶対的な不文律が見えた。
 こんな職業に就いている者にとっては今更な気遣いだったが。

「大丈夫。気持ちいいわ」

 踊り子さんのリップサービスに少年は悲しくなる。
 こんな息子のような歳の客にも気を遣ってくれている。
 詩麻呂は不意にその身を抱き締めたくなった。
 だがそれ以上にライトが暑かった。
 場内を包み込む、よくわからない熱気のようなものもあった。
 自分の身体から気化したアルコールも纏わりついていた。

「上、脱ぎます」

 踊り子さんから一旦離れ、ジャージを脱ぐ。
 暑いのもあったが、同時にそれは時間稼ぎでもあった。
 いつしかBGMが変わり、アニメ 魔鳳少女狩り(仮) 主題歌 『シェルターガール』になっていた。
 若さの中に飢餓感を感じる歌声と、ある種深夜アニメらしい気だるいサウンドが絡まり合う。
 偶然とはいえ詩麻呂は選曲に感謝した。
 大人な名曲アニソン達に浸ることで子供な自分を誤魔化すことが出来た。
 トランスシャツのおかげで胸は真っ平らだ。Tシャツ姿になると、脱いだジャージを舞台に放る。
 そこからはかすかに女の匂いがしたが、香水とアルコールでわかりはしない。

 少年の勇ましい姿に客席から歓声があがる。
 身を起こして踊り子さんもその姿を見るが、勇ましさとは打って変わって詩麻呂は更に薄くなった身体で優しく抱き締めてきた。
 踊り子さんも少年の背中に手を回す。
 絡み合う様は傍から見れば再会した母親と息子のようだったが、詩麻呂の上半身はカッチリとはしてはいるものの年頃の男の硬さがなく、代わりに子供か女の子のような柔らかさがあった。

 最近の子の華奢ぶりに踊り子さんが驚く。
 逆に詩麻呂はだらしなさすら伴う柔らかさに涙が出そうになる。
 バレないか、バレないだろう、この日のために身体を作りこんできたのだ、元々それほど無い胸を減量で削り、トランスシャツで更に潰している、バレはしない、胸が無いことが役に立ったな。
 内から聴こえる様々な声を遮り、あたしろりもえだからちっちゃくてもすきだけど、という愛する人の声が聞こえた。
 零れ落ちそうになった涙を詩帆が瞬きをして瞼の裏に閉じ込める。
 そしてようやく覚悟を決め、詩麻呂は身体を密着させたまま女性器に右手中指を挿入した。
 だがこれでは客にパフォーマンスが見えない。

 踊り子さんが体勢を変え、抽出部分を客席に見せるが、詩麻呂は激しく出し入れすることなく、最小限の動きで刺激を与えていた。
 いつものように声を出そうとして踊り子さんが躊躇する。喘ぐにはあまりにも攻め方が大人しいからだ。
 そこには気持ちよくさせてやろうなどという気負いはない。どこまでも慈しむような攻め方だった。 
 啜り泣くような声を上げればいいが、それでは観客に聞こえない。
 場内に流れる唸るようなボーカルがそれを許さない。

 踊り子さんに覆いかぶさるように舞台に伏した詩麻呂は、足と肘だけで身体を支え、揃えた指の背で不器用に、そっと長い年月とともに乾いた頬を撫で上げてくる。
 見下ろす視線はここではない遠くを見つめ、全てを見透しているようだった。
 少年の触り方に踊り子さんの肌がざわつく。
 食い違う歯車のような違和感と、快感にも似たむず痒さ。
 もしその踊り子さんに子供でもいれば、娘がいれば違和感の正体を見破れたかもしれない。
 けれど正体が掴めぬまま、先にショーが終わりに差し掛かっていることに気付いた。
 流れとしてはこの後四つん這いにならなくてはならない。
 正常位から後背位、パターンで客にお楽しみいただく流れだ。
 退きなさい坊やとばかりに少年の肩を柔らかく押しやりながら踊り子さんが起き上がり、自分の仕事を全うしようとするが、

「キャッ」

 少年は不意にその身体を抱きすくめそのまま後ろに倒れた。
 踊り子さんが驚き、少女のような可愛らしい声を上げる。
 詩麻呂が下になり、踊り子さんが上からのしかかる体勢だ。
 ベテランなはずの自分が素人の坊やに流れを変えられる。
 そのことに戸惑いながらも華奢な身を案じて体重をかけないようにすると、

「全部、乗ってください」

 声変わり中のような掠れた声で言われ、踊り子さんがその身を預ける。

「足も伸ばして」
 
 少年の指示に、熟年踊り子は言われるままにする。
 そして再び差し入れられた。
 まず中指を、そして他人よりやや長い薬指を。浅く手前に。
 感覚だけで詩麻呂が洞窟内を探索する。 
 この体勢でも3本入れればいっぱいな遥心とは違い、だいぶ余裕がある。
 もっと増やしたほうがいいのかと考え、けれどこれ以上指を穢したくないとも思った。 
 指達のささやかな侵攻に、んっ、と踊り子さんが声を漏らし、弱々しく目の前のTシャツを掴む。
 うまいなあ、と感心しながら詩麻呂がライトに照らされた背に手を回す。
 子供を寝かしつけるように脂の乗った背中をとんとんと叩き、下からは二本の指で内部を刺激する。

 もう二度とその身に受けることはない母のような慈愛さと、荒々しさの一切ない攻め方に踊り子さんが声をあげた。
 それを演技だと誰もが思っていた。
 曲の展開に、ショーがもう本当に終盤なことに気づき、踊り子さんが芝居がかったわざとらしい嬌声を出し始める。
 出される声に惑わされず、詩麻呂が刺激を続ける。
 ラストスパートだからといって刺激を強めず、淡々と、同じ場所を。
 演技とそれ以外の声が混じり、頃合いを見て踊り子さんが高い叫び声とともに下半身を震わせた。
 嘘にまみれた荒い息をつくその背を詩麻呂が撫でる。
 そこには一仕事終えた女の汗が滲んでいた。
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