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第二回公演
12、おさけください。700ミリぽっちでいいんです。
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アルコールを補給した詩麻呂は、また劇場へ戻ってきた。
ご帰還した少年が違う銘柄のチューハイを手にしているのを、窓口にいた従業員がめざとく見つける。
「暴れたり大声出したら追い出すぞ」
「うん」
「おもらしするなよ」
「あい」
幼い弟にされるような注意を受け、詩麻呂が場内へ進む。
舞台には誰もいなかった。客もまばらだ。
どろりとした視線で場内を見回し、ようやく理解する。
どうやら天板ショーの手前のようだ。
そこへ、BGMとしてアニメ 黒幕は別にいる エンディング曲 『ねがいごとください』が流れてきた。
しんみりしたメロディと、少女性を残した硬質な多重録音の歌声が心に染み入ってくる。
アニソンならではの多幸感に包まれながら耳を傾けていると、「お客様一名、ステージにおあがりください」というアナウンスが聞こえてきた。
一人の男性客が立ち上がるが、よく見ればそれは先程ステージに上がった男性だった。
反射的にアルコールでだるくなった腕をあげると、志願したのは自分だけだと思っていた男性客が若き対戦者に鼻息荒く勝負を挑む。
「じゃんっ、けんっ、ぽいっ」
だが気合の入り過ぎたじゃんけんにタイミングが合わず、ぼんやりした手つきで詩麻呂がグーを出し、後出しの形になった男性はチョキを出した。
歯噛みしながら男性は席に戻る。
勝ったことすら理解していない詩麻呂はその場で立ち尽くしていたが、どうぞステージへというアナウンスと、早く行けよという客席からの声に思い出したように本舞台に上がった。
靴を脱ぐ時にスケーターソックスを穿いた足がずいぶん小さいことを不審がられないかと自分の中の詩帆が言ったが、詩麻呂はノロノロとあぐらをかいてしまいこんだ。
そのまましばらく待っていると、舞台袖からウェットティッシュを手籠に入れた踊り子さんが登場した。
向かい合わせに踊り子さんが座り、取られた手を拭かれるのをぼんやりと見つめる。
ここから先はどうするのか考え、そうかキスかと顔を寄せるが、キスはダメよとやんわり押し返された。
拒否された詩麻呂の脳がズキリと痛む。キスもしないでこんなことをするなんて信じられなかった。
そして気付いた。
これは性風俗だと。しかも自分はそれを見知らぬ客に見せている。
男の振りをして、母親のような年齢の女性との行為を。
好きなアニソンをBGMにして。
それを理解した瞬間、詩帆は不意に涙が零れそうになった。自分は何をしているのかと。
なぜステージに上がったのかわからない。
じゃんけんに負けた男性客が客席で腕を組み、憮然とした表情で自分を見ているのがわかった。
今からでも譲ろうかとそちらを向くと、おい、童貞が板乗ってんぞ、と下世話な声が聞こえてきた。ロビーにいた客達だ。
面白そうな事態にどやどやと舞台周りに集まってきた。
「がんばれよっ」
「泣きそうじゃねえか」
客席から野次を飛ばされ、いじめられた小学生のように詩帆が情けない顔で踊り子さんに向き直る。
「気にしなくていいから、続けて。それともやめる?」
舞台に寝た状態から上半身を起こして踊り子さんが言う。
舞台を降りるか、続けるか。
負けを認めてすごすごと客席に戻るか。
触れたいとも思わない女性との性行為を他人に見せつけるか。
はあはあと詩帆の呼吸が浅く、早くなる。ライトが熱い。息が苦しい。視界がぐにゃりと歪む。
酸素が足らなくなった詩帆の頭に一瞬、遥心の顔がちらつき、
「…やるよ」
なぜかそれがスイッチになった。情けない童貞が、全てを悟った女神の顔になった。
踊り子さんだけがその変化に気付いていたが、少年は不意に脇腹を触れてきて、背中に手を回し、抱き締めてきた。
更に頬をすり寄せ唇を寄せる。
「ダメだって」
「あ、ごめんなさい」
謝りながらも今度は首筋にキスし、鎖骨にも口付けると、
「キスNGです」
場内アナウンスから直々に注意が入った。客ががっつくなよと笑う。
厳しいルールに詩麻呂はむうっとしながら離れ、ならばと踊り子さんの頬に優しく触れた。
耳たぶに触れ、首筋に触れる。
女性という存在そのものの輪郭を確かめるような優しい手に、踊り子さんが戸惑う。
「そんなとこじゃなくてお乳とか触りなさいよ」
言いながら少年の左手をとって自ら自分の胸に押し付けるが、詩麻呂は形を変えない程度に力を込め、表面をなぞるように手を滑せるだけだった。
無粋な男のように好きに捏ねたり、揉みしだいたりはしない。
かといって童貞少年が初めての体験にどうしていいのかわからないという訳でもない。
幼子が母親の乳房の感触を確かめるようでいて、それも違う。
気遣うように、優しさに満ち溢れた触り方だった。
女同士の行為は、男女のそれとは違う。
何よりも密着度が要になる。
だが今の詩麻呂には肌を重ねることも、名前を呼んであげることも愛を囁くことも出来ない。
自分が気持ちいいと伝えることも出来ない。
いつでも全身、全力で気持よくさせてあげたいという気持ちで挑むから適当な度合いがわからない。
ご帰還した少年が違う銘柄のチューハイを手にしているのを、窓口にいた従業員がめざとく見つける。
「暴れたり大声出したら追い出すぞ」
「うん」
「おもらしするなよ」
「あい」
幼い弟にされるような注意を受け、詩麻呂が場内へ進む。
舞台には誰もいなかった。客もまばらだ。
どろりとした視線で場内を見回し、ようやく理解する。
どうやら天板ショーの手前のようだ。
そこへ、BGMとしてアニメ 黒幕は別にいる エンディング曲 『ねがいごとください』が流れてきた。
しんみりしたメロディと、少女性を残した硬質な多重録音の歌声が心に染み入ってくる。
アニソンならではの多幸感に包まれながら耳を傾けていると、「お客様一名、ステージにおあがりください」というアナウンスが聞こえてきた。
一人の男性客が立ち上がるが、よく見ればそれは先程ステージに上がった男性だった。
反射的にアルコールでだるくなった腕をあげると、志願したのは自分だけだと思っていた男性客が若き対戦者に鼻息荒く勝負を挑む。
「じゃんっ、けんっ、ぽいっ」
だが気合の入り過ぎたじゃんけんにタイミングが合わず、ぼんやりした手つきで詩麻呂がグーを出し、後出しの形になった男性はチョキを出した。
歯噛みしながら男性は席に戻る。
勝ったことすら理解していない詩麻呂はその場で立ち尽くしていたが、どうぞステージへというアナウンスと、早く行けよという客席からの声に思い出したように本舞台に上がった。
靴を脱ぐ時にスケーターソックスを穿いた足がずいぶん小さいことを不審がられないかと自分の中の詩帆が言ったが、詩麻呂はノロノロとあぐらをかいてしまいこんだ。
そのまましばらく待っていると、舞台袖からウェットティッシュを手籠に入れた踊り子さんが登場した。
向かい合わせに踊り子さんが座り、取られた手を拭かれるのをぼんやりと見つめる。
ここから先はどうするのか考え、そうかキスかと顔を寄せるが、キスはダメよとやんわり押し返された。
拒否された詩麻呂の脳がズキリと痛む。キスもしないでこんなことをするなんて信じられなかった。
そして気付いた。
これは性風俗だと。しかも自分はそれを見知らぬ客に見せている。
男の振りをして、母親のような年齢の女性との行為を。
好きなアニソンをBGMにして。
それを理解した瞬間、詩帆は不意に涙が零れそうになった。自分は何をしているのかと。
なぜステージに上がったのかわからない。
じゃんけんに負けた男性客が客席で腕を組み、憮然とした表情で自分を見ているのがわかった。
今からでも譲ろうかとそちらを向くと、おい、童貞が板乗ってんぞ、と下世話な声が聞こえてきた。ロビーにいた客達だ。
面白そうな事態にどやどやと舞台周りに集まってきた。
「がんばれよっ」
「泣きそうじゃねえか」
客席から野次を飛ばされ、いじめられた小学生のように詩帆が情けない顔で踊り子さんに向き直る。
「気にしなくていいから、続けて。それともやめる?」
舞台に寝た状態から上半身を起こして踊り子さんが言う。
舞台を降りるか、続けるか。
負けを認めてすごすごと客席に戻るか。
触れたいとも思わない女性との性行為を他人に見せつけるか。
はあはあと詩帆の呼吸が浅く、早くなる。ライトが熱い。息が苦しい。視界がぐにゃりと歪む。
酸素が足らなくなった詩帆の頭に一瞬、遥心の顔がちらつき、
「…やるよ」
なぜかそれがスイッチになった。情けない童貞が、全てを悟った女神の顔になった。
踊り子さんだけがその変化に気付いていたが、少年は不意に脇腹を触れてきて、背中に手を回し、抱き締めてきた。
更に頬をすり寄せ唇を寄せる。
「ダメだって」
「あ、ごめんなさい」
謝りながらも今度は首筋にキスし、鎖骨にも口付けると、
「キスNGです」
場内アナウンスから直々に注意が入った。客ががっつくなよと笑う。
厳しいルールに詩麻呂はむうっとしながら離れ、ならばと踊り子さんの頬に優しく触れた。
耳たぶに触れ、首筋に触れる。
女性という存在そのものの輪郭を確かめるような優しい手に、踊り子さんが戸惑う。
「そんなとこじゃなくてお乳とか触りなさいよ」
言いながら少年の左手をとって自ら自分の胸に押し付けるが、詩麻呂は形を変えない程度に力を込め、表面をなぞるように手を滑せるだけだった。
無粋な男のように好きに捏ねたり、揉みしだいたりはしない。
かといって童貞少年が初めての体験にどうしていいのかわからないという訳でもない。
幼子が母親の乳房の感触を確かめるようでいて、それも違う。
気遣うように、優しさに満ち溢れた触り方だった。
女同士の行為は、男女のそれとは違う。
何よりも密着度が要になる。
だが今の詩麻呂には肌を重ねることも、名前を呼んであげることも愛を囁くことも出来ない。
自分が気持ちいいと伝えることも出来ない。
いつでも全身、全力で気持よくさせてあげたいという気持ちで挑むから適当な度合いがわからない。
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