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第二回公演
15、不夜城!不夜城じゃないか!あと限定日本上陸品じゃないか!
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その後、詩帆はどうやって劇場を出たのかわからないまま夜の町にいた。
財布も携帯電話も家の鍵も何も落とさず、気がつけば買ったばかりの自転車を押して駅前にいた。
「痛い…。なんで?」
アルコールが抜けてきた頃にはなぜか膝と肩がジンジンと痛んだ。
なんだか縁起でもない嘘もついた気がするが思い出せない。
誰かのアドバイス通り水を飲みつつ、泊まる場所を探してさまよい歩くと、こんな時間でもまだやっている激安ディスカウントショップを見つけた。
場違いな不夜城のような店内へ吸い込まれるように入り、とりあえずコスメ売り場にでも行ってみる。
ビーニーキャップを取り、トランスシャツも多目的トイレで脱いですでに半分ほど変装は解いていたが、男の子に見られた時のために姉におつかいを頼まれた弟という設定で売り場をうろつく。
そこで本来お目にかかれないものを見つけた。
「うわ」
輸入物のBBクリームが売られていた。
海外製ゆえネット通販も出来ず、まだ都内でしか売られていないものだった。
なぜこんなところに、さては偽物かと試しにテスター用のものを手の甲にワンプッシュ出してみる。
だがすぐに後悔する。
手の甲に出したのはワンプッシュで顔全体をカヴァー出来る量のクリームだ。
「なにか拭くもの…」
しかし近くにはウェットティッシュも何もない。
ポケットティッシュか何かを持っていなかったかと考え、思い出す。
カーゴパンツのおしぼりだ。
最初こそ断り、いらないものとしてポケットに突っ込んだおしぼり。
「……役にたったし」
目も眩むような明るいコスメ売り場で、詩帆はクリームを拭き取りながら、喉の奥で乾いた笑い声をあげた。
結局、詩帆は寂れた駅前のベンチで一晩を過ごした。
酒も入り、季節からすれば凍死してもおかしくない。財布をスられてもおかしくない。
しかし男の子のような格好だからか、お持ち帰りされたり攫われることはなかった。
どうにか一命を取り留めた詩帆は、よろつく自転車で意味もなく明け方の海を見に行き、始発で帰ってきた。
そして家に帰るなり自室のベッドにダイブする。
「つきあって3日でヤラせる女ってどんな女だ!うわっ」
しばらく泥のように眠った後。
自分の怒声混じりの寝言で目を覚まし、そのまま二日酔いの頭と身体で遥心宅にやってきた。
「よし」
部屋の主がいないのを確認して、玄関のドアノブにお土産の品を掛ける。
ドアに絆創膏で貼った手紙でも残しておこうかと思ったが、あいにく女子力が低くそんなもの持ち合わせていない。
目的も果たし、長居は無用とばかりに去ろうとするとその背中に向かって、
「しぃ?」
まさに今コンビニから帰ってきたばかりの遥心に声を掛けられ、詩帆がびくうっと飛び跳ねる。そして跳ねた勢いのまま、脱兎の如くその場から逃げ出した。
声を掛けてきた遥心とは反対方向へ。エレベーターではなく、階段の方へと走る。
途中、つんのめるようにして詩帆が廊下に手をついたが、すぐに起き上がって階段を駆け降りる。
「ちょっ、しぃほっ!ねえっ!」
遥心が背中に向かって叫んでも詩帆は振り向かない。二段飛ばしで階段を降りていった。
ロクにコミュニケーションをとることも出来ない。
膝か手のひらを擦りむいてないか心配だった。
怪我をしてないかとメールをしても返ってくるかわからない。
無茶苦茶なルール設定に溜息を付いた遥心は、ドアノブに小さなビニール袋が掛けられているのを見つけた。
その中身を見て眉を顰める。
「なんだこれ。…酒盗?」
詩帆は遥心の自宅ドアの前にいた。ということはこれを掛けたのは詩帆だろう。
「これまた渋い差し入れだなあ」
ビニール袋には商店の名前が印刷されていた。
そこらのスーパーではなく、どこかでわざわざ買ってきたような、どこかに行ってお土産として買ってきたような代物だ。
妙に引っかかる感じがして、部屋に入るなり遥心はパソコンの電源を入れる。
「何か手がかり的なものは…。メッセージ的な」
パソコンが起動するまで何かヒントはないかと酒盗が入った小瓶を眺める。
そういえばこの前もお土産だと言って素っ気ない態度と共に大学で羊羹を貰った。
特に遥心自身は和菓子好きというわけではないのだが。
「どこ置いたっけ。あ、これか」
一風変わった非常食として、あるいは訓練が終った後に二人で食べようととっておいたそれも持ってくる。
甘いお土産としょっぱいお土産を手に、どこで売っているものかをネットで検索してみると、羊羹は隣の県で買ったもののようだ。
詩帆はなぜこんなところへ行ったのか。
訓練中ということで出不精の遥心とは行かないようなところへ一人旅と称して行っているのか。
酒盗は羊羹とは真逆の反対側の隣の県の商店で買ったらしい。
かなり田舎の方の、寂れた町。これといって特に何もない町だ。
「なんだ…。なんで…」
なぜ詩帆はこんな町に行ったのか。手がかりを元に遥心は考える。
ネットで周辺地図を見てみると、商店のすぐ近くに劇場があった。
「イエロー、ドンキーズ?」
なんだか見覚えのある名前の劇場だった。試しにアイコンをクリックしてみる。
「ストリップ劇場…。あっ!」
羊羹を買った店の周辺地図も見てみると、そのすぐ近くにもヌードシアター 小波というストリップ劇場があった。
「あいつ…」
恋人がしている危険な遊びに遥心は額を抑え、そういえばと地元にある劇場は行き尽くしたのでもっと遠くの劇場へ行ってみようと誘われたのを思い出す。
「何やってんだよ、もー。危ないよぉ」
田舎の方のストリップ劇場は、タッチショーや天板ショーなど昔ながらの手法の劇場が多く、女一人で行くのはなかなか危なっかしい。
どうやら詩帆は自分と行ったことのない劇場、県外の劇場まで足を伸ばしているらしい。
そう推理した遥心は、
「となると」
パソコンで県外にあるストリップ劇場を検索してみる。
「ここからそこそこ近くてあと行ってない劇場は…」
該当しそうな劇場は1つだけあった。
詩帆がそこへ行くかわからない。だがおそらく行くだろう。
ペースから考えれば来週中には。
天井を仰ぎ、遥心が溜息をつく。
「飽きてくれればいいけど」
弾丸観劇ツアーに。そしてこの大いなる遊びに。
財布も携帯電話も家の鍵も何も落とさず、気がつけば買ったばかりの自転車を押して駅前にいた。
「痛い…。なんで?」
アルコールが抜けてきた頃にはなぜか膝と肩がジンジンと痛んだ。
なんだか縁起でもない嘘もついた気がするが思い出せない。
誰かのアドバイス通り水を飲みつつ、泊まる場所を探してさまよい歩くと、こんな時間でもまだやっている激安ディスカウントショップを見つけた。
場違いな不夜城のような店内へ吸い込まれるように入り、とりあえずコスメ売り場にでも行ってみる。
ビーニーキャップを取り、トランスシャツも多目的トイレで脱いですでに半分ほど変装は解いていたが、男の子に見られた時のために姉におつかいを頼まれた弟という設定で売り場をうろつく。
そこで本来お目にかかれないものを見つけた。
「うわ」
輸入物のBBクリームが売られていた。
海外製ゆえネット通販も出来ず、まだ都内でしか売られていないものだった。
なぜこんなところに、さては偽物かと試しにテスター用のものを手の甲にワンプッシュ出してみる。
だがすぐに後悔する。
手の甲に出したのはワンプッシュで顔全体をカヴァー出来る量のクリームだ。
「なにか拭くもの…」
しかし近くにはウェットティッシュも何もない。
ポケットティッシュか何かを持っていなかったかと考え、思い出す。
カーゴパンツのおしぼりだ。
最初こそ断り、いらないものとしてポケットに突っ込んだおしぼり。
「……役にたったし」
目も眩むような明るいコスメ売り場で、詩帆はクリームを拭き取りながら、喉の奥で乾いた笑い声をあげた。
結局、詩帆は寂れた駅前のベンチで一晩を過ごした。
酒も入り、季節からすれば凍死してもおかしくない。財布をスられてもおかしくない。
しかし男の子のような格好だからか、お持ち帰りされたり攫われることはなかった。
どうにか一命を取り留めた詩帆は、よろつく自転車で意味もなく明け方の海を見に行き、始発で帰ってきた。
そして家に帰るなり自室のベッドにダイブする。
「つきあって3日でヤラせる女ってどんな女だ!うわっ」
しばらく泥のように眠った後。
自分の怒声混じりの寝言で目を覚まし、そのまま二日酔いの頭と身体で遥心宅にやってきた。
「よし」
部屋の主がいないのを確認して、玄関のドアノブにお土産の品を掛ける。
ドアに絆創膏で貼った手紙でも残しておこうかと思ったが、あいにく女子力が低くそんなもの持ち合わせていない。
目的も果たし、長居は無用とばかりに去ろうとするとその背中に向かって、
「しぃ?」
まさに今コンビニから帰ってきたばかりの遥心に声を掛けられ、詩帆がびくうっと飛び跳ねる。そして跳ねた勢いのまま、脱兎の如くその場から逃げ出した。
声を掛けてきた遥心とは反対方向へ。エレベーターではなく、階段の方へと走る。
途中、つんのめるようにして詩帆が廊下に手をついたが、すぐに起き上がって階段を駆け降りる。
「ちょっ、しぃほっ!ねえっ!」
遥心が背中に向かって叫んでも詩帆は振り向かない。二段飛ばしで階段を降りていった。
ロクにコミュニケーションをとることも出来ない。
膝か手のひらを擦りむいてないか心配だった。
怪我をしてないかとメールをしても返ってくるかわからない。
無茶苦茶なルール設定に溜息を付いた遥心は、ドアノブに小さなビニール袋が掛けられているのを見つけた。
その中身を見て眉を顰める。
「なんだこれ。…酒盗?」
詩帆は遥心の自宅ドアの前にいた。ということはこれを掛けたのは詩帆だろう。
「これまた渋い差し入れだなあ」
ビニール袋には商店の名前が印刷されていた。
そこらのスーパーではなく、どこかでわざわざ買ってきたような、どこかに行ってお土産として買ってきたような代物だ。
妙に引っかかる感じがして、部屋に入るなり遥心はパソコンの電源を入れる。
「何か手がかり的なものは…。メッセージ的な」
パソコンが起動するまで何かヒントはないかと酒盗が入った小瓶を眺める。
そういえばこの前もお土産だと言って素っ気ない態度と共に大学で羊羹を貰った。
特に遥心自身は和菓子好きというわけではないのだが。
「どこ置いたっけ。あ、これか」
一風変わった非常食として、あるいは訓練が終った後に二人で食べようととっておいたそれも持ってくる。
甘いお土産としょっぱいお土産を手に、どこで売っているものかをネットで検索してみると、羊羹は隣の県で買ったもののようだ。
詩帆はなぜこんなところへ行ったのか。
訓練中ということで出不精の遥心とは行かないようなところへ一人旅と称して行っているのか。
酒盗は羊羹とは真逆の反対側の隣の県の商店で買ったらしい。
かなり田舎の方の、寂れた町。これといって特に何もない町だ。
「なんだ…。なんで…」
なぜ詩帆はこんな町に行ったのか。手がかりを元に遥心は考える。
ネットで周辺地図を見てみると、商店のすぐ近くに劇場があった。
「イエロー、ドンキーズ?」
なんだか見覚えのある名前の劇場だった。試しにアイコンをクリックしてみる。
「ストリップ劇場…。あっ!」
羊羹を買った店の周辺地図も見てみると、そのすぐ近くにもヌードシアター 小波というストリップ劇場があった。
「あいつ…」
恋人がしている危険な遊びに遥心は額を抑え、そういえばと地元にある劇場は行き尽くしたのでもっと遠くの劇場へ行ってみようと誘われたのを思い出す。
「何やってんだよ、もー。危ないよぉ」
田舎の方のストリップ劇場は、タッチショーや天板ショーなど昔ながらの手法の劇場が多く、女一人で行くのはなかなか危なっかしい。
どうやら詩帆は自分と行ったことのない劇場、県外の劇場まで足を伸ばしているらしい。
そう推理した遥心は、
「となると」
パソコンで県外にあるストリップ劇場を検索してみる。
「ここからそこそこ近くてあと行ってない劇場は…」
該当しそうな劇場は1つだけあった。
詩帆がそこへ行くかわからない。だがおそらく行くだろう。
ペースから考えれば来週中には。
天井を仰ぎ、遥心が溜息をつく。
「飽きてくれればいいけど」
弾丸観劇ツアーに。そしてこの大いなる遊びに。
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