昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

3、はじめてでも手際の良いおつかい

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 タクシーで叔父の実家に向かうと、リストを手に嵐士は髭剃りやタオルなど必要なものを揃え、更にひとっ走りしてコンビニで買い物をしてきた。

「よしよし、順調順調」

 手にしたリストとテーブルに置いた物達と時間を確認する。
 予定より早い。いい流れだと叔父に電話をかける。

「叔父さん?もうこっち揃ったから出るけど」
『えっ!?早いね』
「うん」

 さすがにこの後繁華街に繰り出してストリップを見るからとは言えなかった。

「もしもう他にいるもの無かったら」
『ああ、そうだっ!忘れてたっ』
「なに?」

 叔父の言葉にまだいるものがあるのかと、嵐士がテーブルの上から素早くペンを取る。

『あの、冷蔵庫のものをさ、処分しといてほしいんだけど』
「冷蔵庫…、ああ、そっか」

 しばらく家をあけるのだから中身が腐ってしまう。

『大したものは入ってないと思うんだけど。牛乳とか』

 電話を繋いだまま、嵐士が冷蔵庫の扉を開け、

「牛乳と卵が6個と、食パンと、納豆」

 中身を伝えながら同時に叔父の食生活もチェックする。それなりに自炊はしてるらしい。

「あ、鮭ある。うまそー」

 ビニール袋に入った鮭の切り身があり、食欲をそそった。

『それはー…、うーん、どうするかな。とりあえず牛乳とかは捨てて』
「えー!?もったいないっ!」
『そう?じゃあ、飲んじゃっていいけど』
「うん。野菜室は…、あれ?」

 冷蔵棚に反して野菜室はがらがらだった。

『野菜はちょうど買ってこようとしてたから』

 少し言い訳がましく聞こえるが、きちんと自炊している雰囲気が伺えるのでそうなのだろうと嵐士は思った。

「そうなんだ。じゃあ一旦病院寄って帰りにまたこっち来て、残り物適当に食べちゃうね。冷凍しちゃえそうなのは冷凍庫入れとくから」
『ありがとう』

 ということは観劇後だから深夜か、何を作ろうと考え、

「じゃあこれからまたそっち行くから」
 
 まあ、おいおい考えるかと嵐士は電話を切った。





「これ頼まれたやつ。で、これがおつかいのやつ。おやつも」
「ありがとう。助かるよ」
「食事の時間とかっていつなの?」
「早いよ。六時とかで」

 頼まれたものを渡すと、嵐士は見舞客用の椅子に適当に腰掛け、叔父と話をした。これも目的の一つだった。

「大学はどう?」
「別に普通。楽しいよ」
「彼氏とかいるの?」
「いやあ、今はー」

 そんな当たり障りのない世間話で繋ぐ。予定が思った以上に巻けたので、時間を気にすることなく話せたが、

「明日の検査のことなんですが」
「ああ、はい」

 再び看護師が現れ、話が遮られる。
 そして看護師との話が終わった後。

「蘭、パーティーがあるんじゃ」
「ああー…、うん」

 叔父は嵐士が適当についた嘘を覚えていた。だが他にこんな格好をしてる説明がつかない。

「悪かったね。来てもらっちゃって」
「ううん。らんが一番暇だし。また来るから」
「ああ、ちょっと待って」

 そう呼び止めた叔父が財布を取り出す。それを、嵐士が口を開けたまま見る。

「来てくれてありがとう」

 そう言って叔父さんが一万円を差し出す。

「うん…」

 それに対し、嵐士はそんな、とかこんなの受け取れないよとは言わない。
 ありがとうと言って素直に受けとるだけだ。
 わりと奔走し、時間を使った。
 おつかい代もこちらが出したのだ。親からもらった金だが。

「今度、いつ来ればいい?」
「来週くらいかな」

 となるとちょうど7日後、一週間後だ。その時にまた駄賃が貰えるらしい。

「じゃあ、それくらいに」
「うん」
「何かあったらメールして。じゃあねっ」

 約束を取り付け、いい姪っ子を演じきると、嵐士が仕切りカーテンを閉めて病室を出る。
 予定ではこの後パーティに向かうのだ。
 そのまま廊下を歩くと、ふうと長く息を吐いた。
 思ったより緊張していたのか。
 だがやはり駄賃は嬉しい。
 ニヤニヤを押し殺したまま廊下を歩く。
 そして時間を確認し、本日のメインイベントに向かおうとするが、

「あ、しまった」

 すっかり忘れていた。割引券のことを。

「あっちゃあー。えー?」

 頭を抱えながらケータイで昨日寝る前まで見ていたサイトを見る。
 嵐士が行こうとしているストリップ劇場は、遥心が言っていた女性割引や早朝割引がない代わりに、サイトにある割引券をプリントアウトして窓口で出すと通常料金から割引いてくれるとあった。
 大概こういったものは今なら窓口で割引券の画面をケータイで提示すれば割引いてくれるものだが、そういう記述がないので明日の朝に印刷しようと思っていたのだ。
 なのにすっかり忘れていた。

「どうしよう……」

 画面提示はダメかもしれない。電話して劇場で聞いてみようか。
 しかしそんなことで電話するのもと考えていると、

「…そうだ」

 ケータイを見ていた談話室からナースステーションの方を見る。
 あそこならパソコンもプリンターもあるのではと。

「すいません。ちょっといいですか」
「はい、なんでしょう」

 一見するとチャラいが、低姿勢で申し訳なさそうに話しかけてくる男の子に看護師が対応する。

「あの、プリンターを貸してもらえませんか」
「プリンター…、ですか?」
「これから行くお店のサイトにある割引券をプリントアウトしたいんですけど」
「ああ、えーと」

 それを聴いて看護師が一度室内を振り替える。自分の判断ではどうしたらいいかわからないらしい。

「お見舞いの方ですか?」
「はい、そうです。ここに入院してる、」

 またこちらを向き直って訊いてくる看護師に叔父の名を告げ、

「ああ、はい。確かにこちらに入院されていますね」
「その姪です」
「…え?」

 告げられた続柄に、看護師がまじまじと見る。
 一見するとチャラいが、やや甘さの残る顔や、若さゆえと思われる頬の柔らかさは女の子と言われればそう見えるが。

「ちょっと、夜からコスプレパーティーみたいのあるんで」
「はあ…」

 嵐士の説明に看護師が納得する。そして、彼、ではなく、彼女の用件を思いだし、

「えーと、何のお店でしょうか」
「ストリップ劇場です」
「え、エッ?」
「ストリップ劇場です」

 重ねて嵐士が言う。真剣な顔で。

「え、あ、え」

 おフザケで言ってるのではない目の前の真剣な顔と室内とを、看護師が交互に見る。

「あの、べつに無理でしたら」

 どうやら戸惑ってるようだ。嵐士がそう申し出ると、

「どうしたの?」

 対応してる看護師より少しベテランそうな看護師が気付き、訊いてきた。

「あの、こちらの方が」
「ちょっと寄りたい店があって、サイトにある割引券を印刷して持って行けば安く入れるんですけど、身内が急にこちらに入院になって、バタバタしてたんで印刷してくるの忘れちゃって」

 そうベテラン看護師に嵐士が一気に説明する
 身内が急に、と急いで駆けつけたことをアピールしつつそう言うと、

「はあ…。まあそれでしたら」

 少し面倒だが危険はないだろうと判断したのか許可が出た。

「それで、お店の名前は」
「ライドオンタイムっていう、ストリップ劇場です」
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