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第三回公演
2、ぼくのなまえは嵐士ちゃん
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「よし。よっし、チャラい」
叔父さんのお見舞い当日。
自宅の洗面所の鏡に映る自分を、蘭ちゃんこと嵐士がびしっと両手で指さす。
鏡に映る嵐士はいつもと違い、金色が強い茶髪のやや長めのショートカットだ。
元は品の良すぎる女性用ウィッグ。それを自分でカットし、日々の使用感、大量に吸った整髪料、定期的なトリートメントによって今は自然な風合いに仕上がっている。
今日はヘアスプレーとワックスで流すように、けれど要所はカチッとチャラくセットしていた。
唇は血色が良すぎるのでコンシーラーで色を薄くしている。
同色の眉は濃い目に下側に、目との距離が短くなるように描き、睨み付けるようにぎゅっと目を細めるとトンガったチャラ男が出来る。
耳の縁には威嚇の四連ピアス。
身体全体の線は細いが、それなりにボリュームのある胸を潰したせいで胸板は厚く、細マッチョに見えなくもない。
普段の嵐士、蘭はあっけらかんとした性格をそのまま表したようにおでこ全開で、それとは対照的に半月型の目は妙な妖艶さを出していた。
それらが今はウィッグとM字バングで隠されている。
あるいは男になっても尚ギリギリまで消した艶が目元から滲み出ているが、根拠の無い自信とふてぶてしさも一緒に出ている。
それでも愛嬌のある顔に見えるのは、生まれつきのゆるい猫口が相殺してくれているからだ。
「18歳以上に、見えるかな?」
男装をすると実年齢より下に見られるため、顔を様々な角度から見てみる。
「まあいっか」
身分証があるのでとりあえず年齢は問題ない。
元の性別から見た目がかなり離れているが、それも特に問題ない。
ヘアセット用具一式をしまい、そろそろ行くかと洗面所を出ると、
「蘭、あんたその格好で行くの?」
「うん。なんで?ダメ?」
「ダメじゃないけど…、おじさんびっくりするわよ」
「そうかなぁ」
たまにしか会わない分、まあ今時の子だからと流してしまうのではと嵐士は考えていたのだが。
「でももう時間ないし…。あーっ!そうだ!食事代と電車賃っ!あとなんか叔父さんに頼まれたら買うかもしれないからっ!」
「はいはい」
思い出したとばかりにそう言い、母親からたんまり金をせしめて嵐士は家を出た。
「なるほど。これで全部?」
電車を乗り継ぎ、叔父の入院している病院にやってきた嵐士は、いるものと持ってきてほしいものリストを手に叔父に訊く。
「一応それだけかな」
一見すると元気そうな、つるりとした顔をなでながら叔父は答えた。一晩以上かけてリストアップしたので漏れはないはずだと。
「家行ってみた後でも電話してくれたら対応出来るけど。お菓子とか食べて平気なの?」
大部屋病室にいる叔父は昔に比べ、歳は取っているもののすこぶる元気そうだったが、リストの中にある買ってきてほしいものを見て嵐士が訊く。
「うん。特に問題ないって」
「へえ…」
やはり金を搾り取るための軟禁じゃないのかと思ったが言わないでおいた。
「じゃあ、とりあえず行ってくるかな」
そして時間を確認しながら立ち上がる。話したりは用事が済んでからでいい。
ひとまず病室を出ようとすると、
「あら、ご親戚の方?」
検温の時間だとやってきた看護師が嵐士を見る。
「姪っ子です」
「ああ、姪っ子さん。…え?」
が、叔父の言葉に、え?姪っ子?と二度見する。
見るからにチャラい男の子だが。
「夜からパーティーあるんで、それでちょっと」
姪っ子の言葉に、よくわからないがああそうなんだと看護師が納得し、
「じゃあ、叔父さん行ってくるね」
明るい場所だと同性にはバレちゃうのかなと肝に命じ、嵐士は今度こそ病室を出た。
叔父さんのお見舞い当日。
自宅の洗面所の鏡に映る自分を、蘭ちゃんこと嵐士がびしっと両手で指さす。
鏡に映る嵐士はいつもと違い、金色が強い茶髪のやや長めのショートカットだ。
元は品の良すぎる女性用ウィッグ。それを自分でカットし、日々の使用感、大量に吸った整髪料、定期的なトリートメントによって今は自然な風合いに仕上がっている。
今日はヘアスプレーとワックスで流すように、けれど要所はカチッとチャラくセットしていた。
唇は血色が良すぎるのでコンシーラーで色を薄くしている。
同色の眉は濃い目に下側に、目との距離が短くなるように描き、睨み付けるようにぎゅっと目を細めるとトンガったチャラ男が出来る。
耳の縁には威嚇の四連ピアス。
身体全体の線は細いが、それなりにボリュームのある胸を潰したせいで胸板は厚く、細マッチョに見えなくもない。
普段の嵐士、蘭はあっけらかんとした性格をそのまま表したようにおでこ全開で、それとは対照的に半月型の目は妙な妖艶さを出していた。
それらが今はウィッグとM字バングで隠されている。
あるいは男になっても尚ギリギリまで消した艶が目元から滲み出ているが、根拠の無い自信とふてぶてしさも一緒に出ている。
それでも愛嬌のある顔に見えるのは、生まれつきのゆるい猫口が相殺してくれているからだ。
「18歳以上に、見えるかな?」
男装をすると実年齢より下に見られるため、顔を様々な角度から見てみる。
「まあいっか」
身分証があるのでとりあえず年齢は問題ない。
元の性別から見た目がかなり離れているが、それも特に問題ない。
ヘアセット用具一式をしまい、そろそろ行くかと洗面所を出ると、
「蘭、あんたその格好で行くの?」
「うん。なんで?ダメ?」
「ダメじゃないけど…、おじさんびっくりするわよ」
「そうかなぁ」
たまにしか会わない分、まあ今時の子だからと流してしまうのではと嵐士は考えていたのだが。
「でももう時間ないし…。あーっ!そうだ!食事代と電車賃っ!あとなんか叔父さんに頼まれたら買うかもしれないからっ!」
「はいはい」
思い出したとばかりにそう言い、母親からたんまり金をせしめて嵐士は家を出た。
「なるほど。これで全部?」
電車を乗り継ぎ、叔父の入院している病院にやってきた嵐士は、いるものと持ってきてほしいものリストを手に叔父に訊く。
「一応それだけかな」
一見すると元気そうな、つるりとした顔をなでながら叔父は答えた。一晩以上かけてリストアップしたので漏れはないはずだと。
「家行ってみた後でも電話してくれたら対応出来るけど。お菓子とか食べて平気なの?」
大部屋病室にいる叔父は昔に比べ、歳は取っているもののすこぶる元気そうだったが、リストの中にある買ってきてほしいものを見て嵐士が訊く。
「うん。特に問題ないって」
「へえ…」
やはり金を搾り取るための軟禁じゃないのかと思ったが言わないでおいた。
「じゃあ、とりあえず行ってくるかな」
そして時間を確認しながら立ち上がる。話したりは用事が済んでからでいい。
ひとまず病室を出ようとすると、
「あら、ご親戚の方?」
検温の時間だとやってきた看護師が嵐士を見る。
「姪っ子です」
「ああ、姪っ子さん。…え?」
が、叔父の言葉に、え?姪っ子?と二度見する。
見るからにチャラい男の子だが。
「夜からパーティーあるんで、それでちょっと」
姪っ子の言葉に、よくわからないがああそうなんだと看護師が納得し、
「じゃあ、叔父さん行ってくるね」
明るい場所だと同性にはバレちゃうのかなと肝に命じ、嵐士は今度こそ病室を出た。
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