昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

6、365日の喜ばれる差し入れ辞典ください

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「差し入れって何が喜ばれますかね」
「え、あ、なに?なにかあげたいの?」
 
 今度はきちんとそちらを向いて問うと、おじさんはあごで踊り子さんを指し示しながら訊く。
 喋ると見た目同様、ころころしたかわいらしい声のおじさんだった。

「いえ、あの人ではなくて」
「オキニの踊り子がいるの?」
「おきに?」
「お気に入りのことだよ。応援してる、贔屓にしてる踊り子さん」

 そうおじさんが説明してくれるが、それを聞きながら嵐士は自分が何がしたいかわかった。
 単純に、せっかくだからなにか差し入れというものがしてみたいだけなのだと。
 踊り子さんに本当に喜ばれそうなものを。
 写真もどうでもいい。
 どうでもいいと思うと同時に遥心の言葉を思い出す。
 撮影ショーは衣装写真はともかく開脚写真は危険だと。
 ガサ入れなるイベントがあり、しょっぴかれる材料として全裸写真が鍵となる場合があると。
 踏み込まれたら当然現行犯だ。
 あるいは私服警官が場内にいる可能性もあると。
 だが、それはそれで面白そうなイベントだった。敢えて危険な橋を渡るような。

「ん?なに、知り合いでもいた?」

 遥心の言葉を思い出しながら客席を舐め回すように見ていると、小太りおじさんが訊いてくる。

「いや、ええと差し入れを」
「ああ、うん」
「……今日一番良かった踊り子さんにあげたいなあって」

 おじさんにではなく、自分に言い聞かせるように嵐士が言うと、そうだ、それがいい、そうしよう、せっかくだから、と自分の中の蘭が賛同する。

「へえーっ。いいねえ。いいと思う。お兄さん、もしかして今日初めて見に来た?」
「はい」

 おじさんに言われて、なにか礼儀に欠くようなことがあったかと思うが、

「やっぱり!いいねえ、なんか」

 何がいいのかわからない。初々しさか。だがそれは実感出来た。
 自分でも初めてを満喫していた。この時間も会話も。

「たぶん、そういう感じでオキニの子とか出来てくると思うよ?ああ、この子良かったなあ、この子が出る時にまた来ようってなったり」

 おじさんが嬉しそうに言う。
 どうやら何が何でもオキニというものを作って欲しいらしいが、

「そういうもんですか」
「うんっ。だからじっくり見ないとね」
「はい…。ああ、だから差し入れ」
「あっ、そうかっ。喜ばれる差し入れかぁ。なんだろう…。これから買いにいくんだよね?」

 言われて同じくああそうかと嵐士が心の中で言う。
 ここから抜け出しステージの合間に差し入れを買ってくるのだ。
 そうなると買う店は限られる。予算もだが。

「飲食物は、迷惑ですよね」

 少し考え、嵐士が差し入れの基本を言ってみる。アイドルでもなまものは大体NGだ。

「うん。 だけどまあ、真夏じゃないしなあ。でもベタだけど栄養ドリンクとかわりと喜ばれるらしいよ」
「でも重くないですか?栄養ドリンクって。持って帰るのとか」

 アイドルの握手会でもエナジードリンク類は敬遠される。単純に重たいからだ。

「でも劇場に寝泊まりしたりするからね、踊り子さんって。他の踊り子さんと」
「そうなんですか?」
「劇場に置いとけば誰か飲むかもしれないし」
「へえーっ」

 なるほどそういうのもアリかと嵐士が頷く。
 多めに差し入れを渡し、良かったら他の方にもと渡せば、その踊り子さんの楽屋や劇場での評価があがるかもしれない。
 あのこは気遣いの出来るいいファンがいるねと。
 そうかぁとあごに手をやり、納得する。
 栄養ドリンク。とりあえずそれを第一候補にしてみる。
 そんな嵐士を見て、

「じゃあ、ちゃんと見ないとね」

 再度おじさんがそう言うと、

「はぁーい!あと撮影の方いらっしゃいませんかー!いませんねー!」
「撮影ショーでした。ありがとうございました。続いてオープンショーです」

 それが合図だったように撮影ショーが終わった。
 場内アナウンスを挟み、オープンショーとなる。
 一度貰った差し入れやカメラを手に、大急ぎで舞台袖に引っ込んだ踊り子さんが、少し前に巷でよくかかっていた洋楽とともに再登場する。
 仮面舞踏会のような趣味の悪いマスクに、全裸に長めの赤いマフラーという姿で。
 おお、と嵐士がほんのり面食らう。
 M字開脚で中央舞台に座ると、踊り子さんが舞台周りに座った客に自分の性器を見せる。
 人差し指と中指で開き、中までよく見せるようにして。
 が、そういうことをすると事前に聞いていたので、嵐士はあまり驚かない。
 あまり情報を仕入れ過ぎると新鮮味がないなと思いつつ、どギツい発色のマスクに目を奪われる。

 更に踊り子さんは立ち上がり、I字バランスで少し遠くのお客様にも性器を見せる。
 衣装に目を奪われているチャラい男の子にも。
 だが嵐士はせっかくの性器も興味なくちらと見ただけ。
 それが気にくわなかったのかどうかは知らないが、

「ぐぬわあああああっ!!」
「えええっ!!?」

 突然唸り声のようなものをあげながら、踊り子さんが舞台から客席に乗り込んできた。
 客の間をのしのし全裸で進み、一目散に嵐士の目の前にやってくると、首にマフラーを巻き付けてくる。
 そして巻き付けた端をぐいぐい引っ張る。

「う、わあ」

 巻き付けられた方は間抜けな声をあげるが、巻き付けられたそれはゆるめで、引っ張る力も極限まで弱めてくれていた。
 いわゆるバラエティ首締めだ。
 突然のことにビックリしたり、パフォーマーの優しさに気付いたりで目を丸くしていると、踊り子さんはマスクの奥の目でにやりと笑う。
 そしてマフラーを解くと客席をのしのし移動し、別の客の首を絞め始めた。
 選ばれ、絞められた客は嬉しそうな顔でそれを享受し、マフラーを解くとまた踊り子さんは違う客を求める。
 そんなことを三人ほど繰り返すと、曲の終わりに合わせて舞台に戻り、お辞儀をしてオープンショーを締めた。

「お、おおお」

 突発的な出来事に驚きつつも、嵐士が状況を楽しんでいると、

「良かったね」

 おじさんが可愛らしく片目をつぶりながら、肘でつついてくる。

「ええ、ああ、ええ?はい…」

 良かったかわからないが一応嵐士はそう言っておく。
 が、ふと視線を感じ、そちらを見ると賑やかなオープンショーを笑顔で終えた客席の向こうに、むすっとしたガタイのいい男がいた。
 次の踊り子を紹介するいい声のアナウンスとともに、場内が暗くなる。
 視線はあの男から向けられていた気がするが、暗くなった場内ではもうわからなかった。

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