彼女の中指が勃たない。

坪庭 芝特訓

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『携帯ゲーム機型腱鞘炎』 4塗り目

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 紗月をその場に残して教室へと戻ると、汐音は一目散に帰宅した。
 家に着くなり汐音は自室のベッドにうつ伏せにダイブする。身を包むのは、罪悪感。
 学校帰りの疲労感はいつも通り少しだけあったが、怒りや悲しみはとうに消えかかっていた。
 自分の手のひらを、いつもなら恋人を愛してあげることだけに使う右手を汐音がじっと見る。
 叩いたあと、紗月がどんな顔をしていたか思い出せない。
 しかし嘘をつき、約束を破った紗月の狡猾さは許せない。
 あいつは子供なんだ、と汐音は怒りを肺から吐き出すために仰向けになる。
 ゲームに夢中で、小学生と遊ぶ。おまけに馬鹿正直で、それなのに嘘をつく。
 同年代の男の子の子供っぽいところが嫌で女の子に、紗月に惹かれたのに。
 気づけば汐音は子供っぽい女の子を好きになっていた。
 渓太くんは汐音も見たことがある。髪がさらさらで、利発そうな小学生だった。
 紗月はゲーム好きだが特別上手いという訳ではない。
 クラスの男子と一緒にやってるのもそのせいだ。
 下手な部分を周りに引っ張りあげてもらっている。
 渓太くんともきっと一緒になってプレイして、紗月の方が下手だから紗月お姉ちゃんダメだなあなんて言われて。
 ヘタな紗月は童顔を慌てさせたり、年下の男の子に馬鹿にされて頬を膨らませたり。

「可愛いんだよ、クソッ!」

 その姿を想像した汐音は枕を抱きしめ、またうつ伏せになると足をバタバタさせる。 
 可愛くて可愛くて仕方ない。紗月が可愛くてしょうがない。
 自分の彼女がどうしようもなく好きなんだと気付かされる。
 好きすぎて、許してしまいそうになる。しかし、

「ダメだっ」

 そう自分に言い聞かせるように、汐音がシーツから顔をあげる。
 感情に流されてはダメだと。
 汐音がケータイの画像フォルダを開く。そこには様々な紗月が収められていた。
 ゲームをしている時の紗月の横顔。
 デート中に寄った電機店で、ゲームキャラの等身大ポップの前でポーズをとる紗月。
 自分のベッドで丸っこい肩を覗かせて眠る紗月の寝顔。
 ちょうど自分が今いる場所で向かい合わせになる形で寝ていた。
 不意に胸が切なくなる。もっと下の、身体の奥の方も。
 紗月にしか触らせたことがない、紗月にしか触れてほしくない、紗月の指しか侵入を許したくない場所が。
 膝をすり合わせ、ダメだと思いつつ汐音は下着に指を這わせる。
 まだ制服のままなのに、明日もこれを着て学校に行くのにと。
 紗月には明日、いや今日の夜にでも冷却期間を叩きつけるつもりだった。
 そうなると当然身体を重ねることは出来ない。辛い、嫌だ、早くしたい。
 昨日したのに、したばかりなのに。触れてほしい。自分の指ではなく紗月の指で。
 汐音の中でぐるぐると想いが巡る。
 コントローラーを握る時は素早く細かく動くのに、自分の中では知らないダンジョンに挑む時のようにゆっくり、慎重に、なのに巧みに動く指で。

「さ、つき」

 可愛くて仕方ない恋人の名を呼びながら汐音は果てた。なぜ怒っていたのかわからなくなるほど頭が真っ白になる。


 日付が変わる頃。汐音のケータイに紗月から一言ごめんと書かれたメールが来た。
 夕方の手遊びのおかげでいくらか冷静になった頭で汐音が返信する。

『手によくないからメールしなくていいよ』

 それに対し、紗月は左手で打ってると返してきた。
 汐音としては遠回しに嫌みと牽制を突き付けたのだが。

『そういうことじゃなくて。いいから早く寝て』

 そう汐音が送り返すと、少し時間を置いてから、

『ごめん。あと大好き』

 と、メールが返って来た。結局、汐音はその日二回した。



 翌朝。汐音が学校に着くと、ちょうど登校してきた紗月と目があった。
 向こうはいつものように声をかけて来ず、会釈だけしてきた。
 汐音は怯えた表情をする紗月を見て早速抱きしめたい衝動に駆られるが、ギラギラとした目を怒りととったのか、沙月はすぐに教室へ向かった。
 それから三日間、紗月と汐音は口をきかなかった。
 口はきかなくとも、汐音は可愛くて仕方ない恋人の姿を常に目で追っていた。
 鎮痛剤を塗る姿も、左手で生活する姿も常に目で捉えていた。
 いつしか鎮痛剤はスティックタイプのものではない、見たことがない薬になっていた。
 それは徐々にではあるが、塗る回数が、頻度が少なくなってきた。
 そしてジリジリと我慢が利かなくなってきた頃。汐音のケータイにメールが届いた。件名を見て汐音が驚く。

『けいたです』

 渓太くんからだった。なぜかほとんど面識のない小学生男児からメールが届いた。
 続く本文には、

『紗月ちゃんからアドレス聞いてメールしてます』

とあった。
 勝手にアドレスを教えたことに下唇を噛むが、

『紗月ちゃん、腱鞘炎だそうですが、お母さんに言ったら薬をくれました。紗月ちゃんはそれを使ってるようです』

 アドレスのみならず腱鞘炎のことまで知られていた。
 汐音は小学生にも、そのお母様にも自分達の性生活が筒抜けなのではと焦る。
 とはいえどうやら紗月の手は順調に回復へと向かっているらしい。
 そろそろいいか、と汐音は思った。そろそろ、こちらも限界だった。


『少し話あるから教室残ってて』

 渓太くんからメールを受け取った日の翌日。その放課後。
 汐音は四日ぶりに紗月へメールを送った。
 受け取ったメール通り、紗月は自分の席でおとなしく待っていた。
 普段は猫背気味なのに、今日はやけに姿勢が綺麗な小さい背中。
 その背は遠くから見ても緊張で張り詰めているのがわかる。
 愛おしくて汐音は抱きつきたくなる。が、ぐっと我慢する。

「紗月」

 空白の四日間など感じさせず、汐音がフランクに話しかける。
 少しだけ気持ちが高ぶっていたかもしれないが、声には出なかった。

「し、おん」

 対して紗月はどぎまぎしながら答える。四日前の汐音にまだ怯えているのか。
 それともたった四日で二人は、紗月は他人行儀な位置に戻ってしまったのか。
 汐音は恋人の頭を撫で、自分がずっと変わらない距離にいることを教えたかった。
 本当は朝にでも話しかけたかった汐音だが、それをどうにか放課後まで引き延ばした。
 まだ怒っているとアピールするためだ。しかしついにそれも我慢できなくなってしまった。
 近くの席に座りながら汐音が訊く。

「どう、手は」
「う、ん。だいぶ、いいよ」

 喋り方はまだぎこちないが、紗月が右手を開いたり閉じたりしてみせ、

「ふうん」

 汐音がその手を取る。

「あっ」
「痛い?」

 紗月の反応に、汐音が取った手を慌てて放そうとするが、

「ううん、気持ちいい」
「えっ?」
「手、冷たくて気持ちいい」
「ああ、そう…」

 言われて汐音がもう一度手を取る。腱鞘炎は炎症だけあって冷やすのがいいらしい。
 少しだけだが汐音も勉強した。そしていつもは嫌だった自分の冷たい手が役に立った。
 紗月がやっていたように、見よう見まねで手をマッサージする。腱に沿って、骨に沿って。

「これぐらい?もう少し弱め?」

 汐音はやや強めにマッサージしていた。指先でぐっ、と。
 爪は、女子高生にしては珍しくきちんと切っているので食い込むことはない。
 その短さは相手を思いやってのことだ。

「それぐらいでいい」

 強めに揉みほぐされる手を見ながら紗月が言う。
 マッサージをしながら、汐音はまるで行為の最中の会話みたいだと思っていた。
 相手を気遣いながら指の強さを決めていく。
 気持ちいいか、痛くないか、ちょうどいいかを訊きながら。
 探るように、慎重に。決して広くはない、狭いフィールドを探索していく。
 汐音の呼吸が浅くなる。紗月を、大好きな女の子を気持ちよくさせている。その事が汐音をひどく興奮させていた。
 ベッドの上の行為ではいつも紗月の方が上手だった。
 電子のゲームとは違う。生身の相手の反応を見て、コツさえ掴めば高みに持っていくのは容易い。
 それでいて新たなポイントや裏技を攻略本さえ見ずに自分なりに開拓していく。
 そこに紗月の繊細な性格が加わる。
 結果汐音は翻弄され、あっという間に撃墜されてしまう。
 童顔で、子供っぽくて、ゲーマーで、なのにエッチは上手い。
 ずるい。なんだかずるいと汐音は思っていた。
 そんなこともあってか、マッサージとはいえ紗月を気持ちよくさせているのが汐音は嬉しかった。

「紗月」
「ああ、もういいよ。ありがとう。ごめんね」

 長いことマッサージさせて悪かったと思ったのだろう、紗月が手を引っこめる。

「そうじゃなくて」
「なに?」

 右手を閉じたり開いたりして感触を確かめながら、紗月がまた無垢な顔で汐音を見る。
 汐音の気も、欲望も知らないで。
 若い自分にはどうしようもない炎をたぎらせながら、今は使われていない左手を掴んで汐音が紗月の身体を引き寄せた。

「わっ」

 離れて座っていた紗月がバランスを崩し、

「危ないっ。なにっ?」

 怒ったように言うとその口に汐音が自分の唇を重ねた。
 お互い、不安定な状態で。

「汐音っ」

 突然始めようとする恋人から、紗月が逃れようとする。
 だがそれを、熱い息を吐きながら汐音が恋人の唇を追いかけ、逃げようとすれば汐音は肩を上から押さえつけた。

「ここ、教室」
「いいからっ」
「ダメだよ」
「お願いっ」

 短く、けれど強く汐音が言った。紗月の目に、熱の篭った汐音の瞳が映る。が、その目が教室のドアに向いた。

「ドア開いてる」
「いいからっ」

 でも、とまだ何か言おうとする紗月の顔を両手で挟み、汐音が深く口付ける。
 うなじを撫で、耳を指でなぞると紗月の鼻にかかった声が二人しかいない教室に小さく響いた。
 自分しか聞けないその声に、汐音の熱が身体の内部を焦がす。
 誰か来ればいい、誰かに見られればいい。
 紗月が自分達のことを話すのはあれだけ嫌なのに、汐音は今の自分達を見せつけたい気分でいっぱいだった。
 口付けたまま汐音が紗月の太ももに手を這わす。その手はすぐにスカートの中へ。
 紗月がその手を掴む。だがそれは左手だった。
 弱々しい左手などお構いなしに、汐音が自分の膝で無理やり紗月の膝をこじ開けた。

「ダメだって」

 熱い唇から逃れながら紗月が言う。

「大丈夫っ」
「ほんとに」
「すぐ済むからっ」

 その一言に、紗月の抵抗が止まった。そして全身に冷ややかな空気を纏い始める。
 男の言うすぐ済むは、すぐイクからやらせてだ。
 しかしこの状況のそれは、すぐイカせてあげるからだ。
 汐音にそれが出来るのか。汐音ごときに?自分はまだ湿り始めた程度なのに?
 汐音が言った一言は、紗月の右手に冷ややかな炎を灯らせた。

「紗月、あっ」

 まだ本調子ではない紗月の右手が汐音の太ももの内側を撫で上げる。
 それだけで、待ち望んでいたラスボスの登場に汐音の膝が震えた。

「うわ」

 紗月の手が、閉じようともしない太ももの付け根にたどり着くと、そこはもう。

「…大丈夫?」

 恋人に心配されるほど、尋常ではないほどに濡れていた。
 濡れた部分の中からすぐに見つけ出した一点を、下着の上から中指で撫でられる。
 他の指は全体を優しく包み込み、柔らかく揉みほぐしてくれていたが、中指だけはゆっくりと動き出す。
 液晶画面についた埃を指で拭う程度の強さで。ゲーム機のコントローラーのLRボタンを押すよりかは弱く。繊細に、これぐらいでちょうどいいという強さで。
 下着から染み出た、自ら精製した潤滑油が汐音の一点に塗りつけられる。優しいのに、確実に狙ってくる。
 嫌だ。もっと焦らして欲しい。そんなにすぐに終わらせないで欲しい。嫌だ。
 だがそんな願いとは裏腹に、四日も我慢した汐音の身体はすぐに高みへと登り詰める。
 一人では毎日していたにも関わらず、恋人に触ってもらえるとなると自ら濡らし、自ら高みへと導かれていく。
 元運動部の汐音が、小柄な元帰宅部ゲーマーの紗月にしがみつく。
 声が出ないように相手の制服の肩口に口を押し付けながら。
 スポーティーな汐音の背筋が軋み、目からは知らず涙を流していた。

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