彼女の中指が勃たない。

坪庭 芝特訓

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『携帯ゲーム機型腱鞘炎』 6塗り目

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「こんなもんかな」

 パン、と手を叩いて汐音が恋人の部屋を見回す。
 とりあえずだが片付いた。部屋の片隅にある紙袋や雑誌の束は一旦見ないことにする。
 そして、じゃあ、とばかりベッドに腰掛けていた紗月の両肩を掴む。

「いきなり?」
「ダメなの?」

 紗月を押し倒しながら、我慢できないよとばかりに汐音が言う。
 ずっとおあずけを食らってきたのだ。一週間前から、よくよく考えればその前からずっと。

「でもほら、手洗ったりとか」

 確かにゲームソフトや古雑誌など埃っぽいものを触った。
 このまま指を相手の内部に侵入させるのは汐音としても気が引けた。

「わかった」

 言うなり汐音は洗面所を借りて手を洗う。ハンドソープで手と指を念入りに洗い、お湯で洗い流す。
 手に石鹸が残っていると粘膜に滲みる恐れがあるからだ。

「よし」

 仕上げにタオルで手を拭き、抑えきれぬ想いを抱いて紗月が待つ部屋へと向かう。

「洗ってきたっ」

 息を弾ませそう言ったが、対する紗月の顔は真っ青だった。

「どうしたの?」

 ただならぬ様子に汐音が駆け寄る。

「……薬、塗っちゃった」

 紗月が真っ青な顔で右手を見せる。

「つい、癖で」

 塗ったのは、渓太くんママから貰ったというよく効く薬。
 紗月は気付いた時にはその薬を手に塗るようにしていた。それがさっきだったらしい。
 治ったのに、ついいつもの癖で。ここ最近の習慣で。

「石鹸で洗えば」

 汐音が提案するが、

「前洗ったけど、なんか真っ赤になった。成分的にダメみたい」

 よく効くだけあって強力な薬らしい。汐音は一週間前に腱鞘炎だからと断られた時の事を思い出す。粘膜に滲みるかもしれないからダメだと。
 そして今塗った薬は強力だという。
 そんな薬を塗った指を入れる勇気は、さすがにない。さっきの、洗い流してない石鹸どころではない。
 ほんとうに、どれだけ馬鹿なのか。それともわざとなのか。脱力しきったように汐音が床に溜息を吐く。

「ごめん」

 紗月が震える声で謝る。その目が、黒目が同じように震えていた。
 紗月だってわかっていた。汐音がどれだけしたいか。待ち望んでいたか。それは一週間前からだ。
 自分の失態に紗月が申し訳なさそうに、ベッドの上で膝を抱えて全身を縮こませる。
 だがその姿すら今の汐音には情欲をかき立てられた。

「もういい」

 うつむく紗月に汐音が抱きつき、ごろんと押し倒すと、

「もう紗月は今日何もしなくていい」
「えっ?」
「あたしが全部、勝手にやる」

 首筋を吸い、鎖骨にキスを落とした。抱えた膝を下に押して足を伸ばさせる。
 左手はしっかり指を絡ませ握りしめる。薬が塗られた右手には、触れてあげない。
 頭は熱で渦巻いているのに、手先は冷静に、片手だけで器用に制服のシャツを脱がしていく。
 でも全部は脱がさない。あまり凹凸のない、本人も汐音も特に気にしていない可愛らしい身体も、今日は晒さない。前をはだけさせ、ブラをずらしただけ。
 同じように右手だけで紗月が下から制服を脱がそうとしてくるが、汐音が肘でそれを阻止する。

「なん、で」

 寂しそうに言う紗月に、汐音が覆いかぶさる。身体を重ねても汐音が着ている一枚の布が二人の体温を通さない。これは、罰だった。紗月への。だが罰を与えてる汐音の方が辛い。
 直に触れ合いたい、肌を重ねたい。柔らかな胸で、鼓動で鼓動を感じたい。
 抗えない物足りなさを感じながら、汐音は紗月のスカートの中へ、更にその奥へ手を入れる。
 そこはもう濡れていた。準備は出来ていた。汐音はそれ以上に。

「今日は触んないし、挿れないよ」

 そう宣言して汐音が下着を脱がす。自分も脱ぎ、紗月の足を大きく開かせ、お互いの、汐音の方が圧倒的に濡れている部分を合わせた。

「う、あ」

 濡れて吸い付くような、それでいて鋭角な快感に紗月が声をあげる。
 足を開いたまま、腕立て伏せの状態で汐音が器用に腰を動かす。
 それは誰に教えられた訳でもない、本能的な動きだった。
 女子高生の潜在化にある、男性的な動き。小さな剣先同士がぶつかり、擦れ、捲れ、時に相手の鞘に収まろうとする。お互いの湖で泳ごうとする。
 目のくらむような快感。意識が飛ばされないよう、声を上げないよう汐音が歯を食いしばる。
 声を出せば自分の濡れた声が鼓膜へと返り、より濡れてしまうからだ。
 ぎっぎっ、と男女がやる時のような音でベッドが軋む。
 興奮、快感、背徳感。汐音が大好きなこれを、紗月はあまりやりたがらない。
 自分が上になるとひどく疲れてしまうからだ。
 逆に体力と欲望が有り余る汐音が上になるといつまでも終わらない。終わらせてくれない。

「ああっ、ああ」

 汐音が果てる寸前の嬌声を上げながら、紗月に抱きつく。そのまま更に部活で鍛えた腰を動かす。のし掛かるような体勢を申し訳ないと、汐音は思っていた。
 自分が上になると体格差でどうしても押し潰してしまう形になるからだ。紗月はそんなことはないと言うけれど。
 現に抱きついてきた汐音の身体を、紗月は受け止めている。
 左手を背中に回し、右手を、こちらは少し浮かすようにして背中に回す。
 その気遣いを感じながら、汐音が目の前にある真っ赤に染まった耳たぶにかじりつく。
 ピアスなんて無粋なものをしていない耳はどこまでも柔らかで、熱を持ち、不思議な食感だった。
 その器官を汐音は好き勝手にねぶり、歯を立てる。

「あ、あ」

 獰猛な欲求に堪えるように紗月は汐音の背中を遠慮がちにかり、と引っ掻いた。
 相手を思い、綺麗に切りそろえた爪は背中に傷をつけることなど無い。
 それでもその小さな痛みは汐音の脊髄を、脳髄を、子宮を確実に爪弾いた。

「んんんっ」

 身体を振るわせ、汐音は果てた。
 なるべく体重をかけないように愛する人の身体に覆い被さりながら、射精するように腰が震える。
 精を受け止めるはずの内部が収縮し、外側の一点が快感に膨らむ。
 股間を押し付け、揺すり、快感の余波を楽しむ。外側での快感だから、内側でのそれに比べて余波は少なかった。
 使いようで男女どちらの性感も楽しめる。
 女の身体はよく出来ているなと、妙にすっきりとした頭で汐音は思った。
 呼吸を落ち着けようとするその背を、紗月が左手で撫でてくれていた。
 紗月の手はいつもと変わらず優しい。
 優しい手つきに、汐音の身体がまた欲望に支配されていく。
 首元に埋めていた顔をあげて紗月を見下ろす。
 顔は上気しているが、紗月の目はまだ潤んでいない。
 見えない涙の跡を拭うように親指で頬をそっと撫でると、一度口づけ、そのまま緩やかに腰を動かし始めた。またすぐに次の波が来そうだ。その前に紗月の波が訪れた。

「いきそう?」

 紗月の反応を見て、汐音がすぐに動きを止める。

「ああっ、なんで」

 もう少しのところで止めてしまった汐音に、紗月が泣きそうな声で言う。
 汐音だって辛かった。内に燻る熱を早く放出させたい。
 それを紗月の上半身や顔に口付けることで、無理やり押さえ込む。
 しばらくして、また汐音が動き始めると、紗月が子供みたいな泣き顔を快感に歪ませる。
 まるでいけないことをしているような気になり、汐音の気持ちが急速に高ぶる。

「あっ、いく」

 小さくそう言って果てたのは汐音だった。紗月が上り詰める前にまた果てた。
 この体勢を紗月が嫌がる理由の一つはこれだった。イニシアチブをとられるのが嫌なのだ。
 勝手に動き、勝手に果てる。体力のある汐音がそれを何度も繰り返す。
 紗月はそれが嫌で、けれど嫌じゃなかった。
 自己トレーニングの賜物か、紗月の巧みな指以上に汐音は果てるのが早い。
 だから同時にすると汐音の方が早く果ててしまい、紗月は今日のようにお預けを、置いてきぼりをくらいやすい。それがいつもの自分に対する可愛い仕返しのようで、紗月はたまらなく愛おしかった。
 いつも簡単に撃墜されてしまう汐音の、子供じみた妖艶な仕返し。
 それがたまらなく気持ちよかった。

「し、おん」

 紗月の声に汐音が動きを止める。
 滞った快感に、腰を中心にぞわぞわと見えない鳥肌が立つ。だが果てるまでにはいかない。
 対する紗月はまたあと一歩のところで止められてしまった。反応を見て、相手の動きを読んで動く。まるでゲームだ。終わりのない、二人だけの。
 結局のところ、やり方はいくらでもある。自分達で攻略法を見つけ、好きなようにすればいいのだ。


 お預けが何度も続き、何回果てたのかわからないまま久しぶりの行為は終わった。
 汐音はいつものように大の字に横たわり、紗月は身体を丸めて横たわる。
 その背が怒っているのか、いつもと変わらない姿勢なのか汐音にはわからない。
 ただ、その姿はハリネズミが自分の身を守っているように汐音には見えた。

「紗月」

 丸めた背に汐音が声をかけるが反応がない。
 ぺたりと汗で濡れた背に触れると、そこに汐音がいたことに初めて気付いたように紗月がこちらを向き、

「汐音、もういいの?」

 もう充分か、と問うてきた。

「えっ?…うん。もう、いいかな」

 まだしたいと言えばしていいのかと思ったが、さすがに紗月の体力を考えれば言い出せない。
 顔を向けてくれた恋人の前髪を梳き、もうお腹がいっぱいだと汐音が答える。
 さっきまで響いていたベッドの軋みと鳴き声とは打って変わって、午睡後のような微睡んだ空気が二人の間に流れる。
 そんな空気の中で、紗月が復活したにも関わらず、今日は使われなかった右手の感触を確かめる。
 そしてしばらく右手を見つめていたが、

「ねえ」
「ん?」
「左手でさ、やってみてもいい?」
「えっ!?」

 突然の提案に汐音が驚く。

「今後のこと考えたら両利きの方がいいかなって」

 まだ、しかも紗月からやってくれるなら汐音にすれば嬉しい限りだが。

「ダメ?」
「いいよっ、いいっ」

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