引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由

ジャンマル

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ブラック企業編

疑い

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 僕たちが会社につくと、そこに社長の姿はなく、伊東の姿もなかった。
社長の悲鳴が聞こえる方へ急ぐ僕たちだが、脳内には、すでに最悪の展開が再生されていた。声が聞こえるのは食堂。急ぎ足ではなく、走りで向かう。急げ。急げ。急げ。急げ。足を速め、食堂へ向かう。
「伊勢谷さん、まずいですよ!」
「……?」
 なんだ……? 何があったのか。それだけが心配。
「社長さんから返事がきません!」
「え……?」
 なぜだ? 何故なんだ?
そう言っている間にも、食堂についた。だが、そこにあったのは想定外の出来事だった。目の前に広がる安心感、それと同時に襲ってくる絶望。これは、絶望か。それとも安心か。
「社長……?」
「来てくれたか……」
「これは……一体……?」
 まさか、やはりこの任務の黒幕は社長なのか? そちらの説も浮上してきたが、無いだろう。という自己判断を優先させた。いや、本当に関係ないはずだ。
「逃がしてしまったよ」
「え?」
 逃がしてしまった? 逃がしたの間違いじゃないのか? 今、自己判断でやってしまった。が、それは本当なのだろうか? その自己判断、間違っているのでは?
「伊東君……彼女のしたことはこの目でしっかりと見させてもらったよ」
 社長の目の前で犯行に及ぶ? 馬鹿げている。そもそも、見え見ぬふりをしたのでは? 社長への信頼は、一気に失せていった。
「頼む。一刻も早く、彼女のやっていることを止めてくれ」
「任せてください。その為に来たんですから!」
「伊勢谷さん! 私は彼女を追跡します!」
「頼むよ! 晴ちゃん!」
 彼女に追跡を任せれば、恐らく大丈夫だろう。当てはない。
 さて、一刻も早くこの任務を終わらせたいのだが……どうにも、伊東の足は速いらしく、見つけても逃してしまうだろう。しかし、ここまで逃げ足が速いのは、一般の人間ではありえないだろう。やはり、社長が絡んでいるのか?
「……なんて都合の悪いときに都合のいいように不利な任務が……」
 メタい話は控えよう。そうしよう。どうしようにも、追跡がすべてだ。彼女に、すべてをかけよう。僕は、その裏で、この件の真実を暴く。この手で。(あれ? うちって探偵だっけ?)
「社長。今回の被害者は……」
「ああ……彼だ」
 彼。そう社長の紹介で紹介されたのは、見るも無残な家畜のような奴だった。
「彼が、今回の被害者。橋本博之君だ」
「……金……金をくれよ……なあ、社長さんよぉ!! 金だ! 金をよこせ!!」
 うっ……これは……見てて吐きそうだ。金の亡者……まさにその言葉がふさわしいほどに。
「見ての通り、すっかり金の猛者になってしまった……」
「彼女の犯行……絶対に止めます」
「ああ……頼むよ」
 すっかり時間が過ぎた。かれこれ4時間。彼女に関しての情報は、一切ない。
すっかり諦めていた。晴ちゃんからの連絡もない。まさか、晴ちゃんも――それはないか。何しろ、美雨さんの妹だしね。
「……一か八か……」
 電話を掛ける。相手は――
『あ、もしもし? 伊勢谷さんですか?』
「う、うん……そうなんだけど……」
 電話の相手は、美雨さんだ。もちろん、彼女に応援を頼むためだ。彼女は休みなのだが――今回ばっかりはどうしようもないからな。
『? どうしたんです?』
「今から……任務に参加できるかい?」
『今、ちょうどそっちに向かってます』
 今から? なんで、今の任務について知っているんだ? いろいろ疑問はあるが、それは後で聞けばいい話。僕は、彼女いに現在地、目標到達地点を伝え、任務に戻る―――


~さらに2時間後~

 今はもう夕方だ。
 今日も成果なしか……そう思っていた。その時だった。
 ポケットで鳴り響く携帯電話のバイブレーション。電話してきたのはおそらく――
『あ、伊勢谷さんですか? やりましたよ! ビッグニュースです!』
「ビッグニュース?」
『はい! 彼女の家を特定しました!』
 この子、さりげなくとんでもないことを言っているのである。
この子怖い。そう確信した。やっぱり、この子の腕は本物だ。信頼に値する。ふふ、このまま、俺の右腕として自由を生かせぬまま死んでゆけっ!
「で、彼女の家は……」
『あ、今お姉ちゃんに向かってもらってます!』
 仕 事 が 早 い 
 全く。ここまで来たら、尊敬するレベルである。というか、連携がすごいぞ、この姉妹。もしかして、数時間前の電話で知っていたのも彼女が伝えたものなのか……?
「む? まさか、何か進展が?」
 そう投げかけたのは社長さんだ。もちろん、進展はあった。だが、今彼を信用すると、すべての歯車が止まりそうな気がした。
「はい! 今、彼女の家に仲間が向かってます」
「そ、そうか……」
 ? 反応がおかしい? これが、事件が解決するかもしれないという会社の社長の反応か? そう、疑問が浮かんだのはしばらくたった後だ。やはり関係はあるのだろうか? それとも、何かを隠しているのだろうか?

――――

「ここが彼女の家です?」
『そうだよ!』
「……よし! 飛び込みましょう!」
『ええ!?』
「冗談ですよ」
 彼女たちは、家についたようだ。
家についたところで、彼女を捕まえることは出来るのか?
彼女を捕まえたところで何が出来るのか?
 僕には到底できないようなことを彼女たちは平然とやってのける。
僕に、彼女たちと共に戦う資格はあるのか……?
 今はとりあえず、任務に努めよう……
「伊勢谷さんはまだ社長のところです?」
『みたい』
「そうですか……」
『あ、お姉ちゃん。そろそろ帰ってくるみたい』
 妹はそう言うと、姉は真っ先に服の袖をたくしあげ、拳を構えている。
「帰ってきたところを顔面グーパンで一発KOです!」
『治療代がかかるのはやめて!』
「ごめんなさい……」
 いよいよだ。彼女たちに任せていれば安心だろう。
 だが、その僕の油断が失態につながる。
「……そこでSTOPです」
「あなたは……?」
「YIkの物です」
「YIK……ちっ、勇者とか名乗る変人集団か……」
 YMK、普通に勇者育成協会の略だろうが、もっと他のはなかったのだろうか。か問えば、英語でブレイブなんちゃらとか。あっ、いえ。ナンデモナイデス。
「今、馬鹿にしました?」
「何をですか?」
 会話の中で火花が散る。ように見えた。そんな中、僕と言ったら――
「伊勢谷君、そっちに運んでくれ」
「は、はい!」
 出来ることしかできない……だから、今は社長の仕事を手伝うくらいだ。
「すまないね……何しろ、社員がここ数日で一気に減ったものでね……」
「いえ。手伝えるだけでも光栄に思います」
「そうか……」
 ECO社。ここ数年、一気に頂点に上り詰めたといってもいい会社だ。
だが、その実態は、裏で社員が家畜のような労働をしたうえでの栄光だった。
そんな栄光はいらない。僕にすらわかる。そんな栄光より、正々堂々前に出て、実力で勝負するべきだ。ブラック企業も悪い。だが、今回の一件は、社長が買収をしてることにも問題点を置くべきだ。
「早く……つかまるといいのだが……」
「彼女たちを信じましょう」
 僕は、自分が勇者として半人前の事を後悔した。
彼女たちの仕事量に比べ、僕にできることと言えば……
 勇者。そうな名乗るのには死んでも早い気がした。
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