ターコイズブルー

ジャンマル

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空の色よ

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 高校2年の冬だった。かわいそうな女の子が居ただけという認識だった当時の俺はその女の子を庇った。庇ったのはいじめっ子達のいたずらだったりからだ。そしてその日以降その子がいじめられることは無くなり、かわりに俺がいじめられることになった。今思えば何も考えずにあの時行動してしまったなと思う。
 だけど今はスッキリしてる。あの時もし無視していたら多分俺は俺じゃなくなってたと思う。周りの空気に合わせて、 その空気を壊さないようにするだけの傍観者。誰でもない、ロボットのような存在だ。ゲームで言うNPCって奴だ。

 いじめを庇ったのは過激になり始めてきた時だ。高校生のいじめなんて大したことは無いと正直思ってた。だけど全然そんなことは無い。あいつらはやれることはなんでもやる。気に入らないやつは徹底的に潰すんだ。たとえそれが一時の気の迷いだとしても。たとえそれが仲の良かった友人だとしても。自分のためだけに生きているアイツらにとって邪魔になったと言うだけで人生を踏みにじることすら簡単にやってのける。

 最初は小さないたずらだった。机にちょっとした落書きを書いてそれを見た本人の反応を楽しむ程度。だけどその反応が薄くなってきたらあいつらは次のステップと言わんばかりにやり方を変えてきた。次は上履きを隠した。本人は当然困るし色んな人のところにどこにあるのかを聞き回った。そしてその反応を見て楽しんだ。楽しみ終わったら上履きを投げつけてごめんーと軽い謝罪で終わりだ。当然周りの奴らは気にもとめないから本人は苦しむしいじめてた奴らは楽しいだけでおわる。きっと娯楽のようなものだったのだろう。刺激が欲しかっただけなのだろう。
 次第にそんな軽いいたずら、と呼べないところまで来ていた。掃除は1人に押し付けるし、お弁当を食べようとすればお弁当をわざと机にぶつかって床に散らす。当然周りの空気感もそれまでのものとは変わっていたし日に日に教室の空気も悪くなって行ったのも覚えてる。だけどもいじめは止まない。本人が何も言わないという理由だけであいつらは「嫌がってない。むしろ構ってくれて喜んでいる」とありもしない理由を押し付けてさらに過激になって行く。正直見てられなかった。最初は空気に流されて見て見ぬふりの傍観者で居たのは確かだ。だけどもあいつらが彼女に向かって刃物を向けた時、一線を越えようとした時、俺は身体が勝手にそれを止めに入っていた。
 彼女が好きだったとか恩人だったとかそういうのじゃない。ただ単に自分の快楽に他人を巻き込んで不幸にさせるあいつらが許せなかった。道を踏み間違えた人間は決して元の道に戻れるってことは簡単ではない。だけどそれを止めたかった訳でもない。
 結局は正義の味方を気取りたかった自分のわがままだ。わがままを貫き通した結果今度は自分がいじめられるようになった。それだけだ。

「敦くん、また傷増えてる」
「気にすんなって。どうせまた増える傷だぜ?一つや二つもうどうでもいい」
「どうでも良くないよ。痛いもん」

 彼女とはいじめを庇ったあの時から仲が良くなった。教室の隅で常に他人の顔色を伺って怯えてるような彼女しか見てこなかったし仲良くするのも他人からの評価が怖くて仲良くならないようにしてきた。だけどそんなものがどうでも良くなって結果彼女と仲良くなった。ただそれだけだ。
 あいつらはわがままで好き勝手やる子供だが自分は自分の信念を貫ける大人だと、そういう風に虚勢を貼りたかっただけなのかもしれない。

「私と仲良くしてるからそうなっちゃうんだよね、ごめんね......」
「は? 謝んなよ。俺が誰と仲良くしようがあいつらには関係ないだろ?」
「でもそのせいで苦しんでるんだったら......」
「そうやって他人の顔色伺うのももうやめろ。だからいじめられるんだよ」

 強い言葉をついつい言ってしまう。だけどそれは彼女が嫌いだからとかそういう理由ではない。彼女が自分と似ている気がした、彼女がちょっと前までの自分と似てる気がしていたからつい強い言葉を言ってしまう。傍観者でいる間に知ってしまった。他人が傷ついた分、それを見て見ぬふりをした分だけその傷は自分のものにいつかなる。その傷はきっと1人でいる限りずっと残り続けるし、癒えることは無い。だからこそ人間はみんな傷つかないような立ち回りを覚えるし、傷ついても癒してもらえる人と一緒に居る。それは賢い生き方をしてるとは言えないのかもしれないけど、少なくとも傷つく人間を減らす、という面では賢いんだと思う。

「宮村さんは悔しいんだろ?」
「悔しいよ。そりゃ悔しいよ」
「でもやり返したらあいつらと同じだ」
「でもやり返さなかったら弱虫みたいじゃん」
「弱虫でいることといじめっ子でいること。お前はどっちが苦しいんだ?」

 それは自分にまるで言い聞かせてたんだと思う。見て見ぬふりしか出来ないいじめっ子の肩を持つ自分。そして彼女の苦しみを知っていながら逃げていた自分に対して。
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