ファンタジア!!

日向 ずい

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第1章 「俺たちの出会い。」

スカウティング。

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 虎雅は、目を見開いてただバックヤードから流れる世界で最も取り扱いの困難な曲として有名な「Dangerous substance」またの名を、「危険物」に身動きひとつ取れず、じっと聴き入っていた。

 俺は、身動きを取らない虎雅に対して、さらに質問を続けた。

「そんな凄い曲を弾いているのだとしたら、有名になっててもおかしくないのに...。虎雅は、優さんのこと...どこかで見たことある??」

「...いや、ないからこそ、冷や汗が止まらないんだ...。こんなに才能があるにも関わらず、どうして名が売れていないのかが、全くわからないから、俺達は身動きを取ることが出来ないのだろう...??」

 虎雅の言葉に、それ以上聞いてもいい答えは貰えないと感じとった俺は、他のメンバーと同じように、曲が終わるまでじっと「危険物」に聴き入っていた。

 暫くして演奏が終わり、バックヤードからさっきの気さくなおじさんの笑い声と、拍手の音が聞こえてきた。

「いや~、やっぱり紫翠(しすい)くんの演奏は凄いねぇ~!おじさん、紫翠くんの演奏を聴くと、100歳まで生きられる気がするよ!!」

 おじさんに褒められながらバックヤードから出てきたのは、さっき...優と呼ばれた男の人と、その弟の焚ちゃんだった。

 優は、そのまま店主のおじさんに頭を下げると一言...「また、来ます。」と言って、お店を出ようと焚の腕を引き、お店の出口へと歩みを進めた。

 そんな二人に咄嗟に声をかけたのは...紛れもなく、俺らのリーダーである虎雅だった。

「...優さん...でしたよね??...その...さっきの演奏は素晴らしかったです。...失礼ですが、何をされているのかお聞きしても宜しいですか??」

 虎雅の震える声に、訝しげな顔をした優は、虎雅をじっと見つめると、淡々と答えた。

「...ありがとうございます。...えっと、それは...大学生ですが...。」

「...大学生ですか!??...大学生であの曲を弾かれるとは...驚きが隠せません。いえ、すみません...えっと、でも...どうして、そんなにすごい技術を持っておられるのに...。」

 虎雅は、途中まで言って自身の発言は失言であったと考え、慌てて口を噤んだ。

 そんな虎雅に空気を読むことなく、話を続けたのは...小分けにしてあるチョコレートを食べている奏也だった。

「リーダー、最後まで言わないと相手に伝わらないよ??...ねぇ、優さん。どうして優の名前は、世間に出てないの???」

 奏也の発言により、周りにいたメンバーは、顔から一気に血の気がひいていった。

 そんな事には、全く気づかない奏也に対して、目の前の優は、顔色をほとんど変えずにこう言った。

「なんでって...それは、世間が俺を望んでいないからって以外に理由なんてないのではないですかね...??...まぁ、俺も趣味の範囲なので、ちょうどいいんですけどね。あっ、焚がそろそろ帰りたそうにしているので、すみませんが、この辺りで...失礼します。」

 優は、俺たちに軽く頭を下げると、隣で退屈そうにしていた焚に小さくごめんね。と囁き、焚の手を引いて店を出ていった。

 優が店を出ていった瞬間、虎雅は、眉間に皺を寄せ、奏也を思い切り怒鳴りつけた。

「おい、奏也!!!(怒)お前は、なんて失礼な質問をするんだ!!!」

 虎雅の怒鳴り声に、耳を塞いだ奏也は、目の前で自分に怒鳴りつけている虎雅に、嫌そうな顔を向けた。

「リーダー...うるさい。...だって、聞きたいことは、遠慮せずに聞け!って言うのは、リーダーじゃんか!!...だから、俺はリーダーが言ったように、聞きたいって思ったから、聞いたんだよ??」

 奏也の、俺...なにか悪いことをしましたか??と言わんばかりの表情に呆れた顔をした虎雅は、奏也の頭を思い切り叩くと、店の外に奏也を引っ張っていった。

 そんな二人を見送った俺と七緒は、さっきの優さんの事について話をしていた。

「...ねぇ、七緒??...さっき、優さんの弾いていた曲についてもっと詳しく教えてくれないかな??」

 俺がこう聞くと、七緒は、コクっと頷いて話しを始めてくれた。

「はい、分かりました。...さっき、優さんが弾いていた曲なんだけど...あれは、『Dangerous substance』といって、またの名を『危険物』という異名がついているんです。この名前は、世界で最も取り扱いの難しい曲ということから、危険物という言葉に発展したと言われています。この曲を演奏する人のことを、『乙4奏者』と呼び......つまり、あの優さんは、乙4奏者ってことになります。」

 俺は、ツッコミどころもある名前に、普段ならツッコんでいたんだろうが、さっきの優さんの様子からも、ツッコむよりも、ただただ凄いと言うことしか考えられなかった。

 そんな俺たちに店主のおじさんが、にこやかに話しかけてきた。

「...紫翠くんが、名前を売らないのには、深い...彼なりの事情があるんだ。......だから、あんまり深くまでは、聞かないであげて欲しい。」

「...あっ、はい。分かりました。」

 俺は、店主のおじさんがあまりにも切なそうな顔をしていたため、それ以上何も言えず、ただおじさんの意見に肯定することしか出来なかった。
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