ファンタジア！！

第4章「乙四の開幕と奏也の危機。」

「奏也の危機は突然に...。」

  翔真さんとの楽しい鬼ごっこから、暫く経ったある日...

 俺は、目の前にいる自分の両親に対して驚きのあまり目を見開いていた。

 だって...父さんも母さんもいつも家に居ないし、俺に関心がないくせに、なんでサークルの練習部屋に訪ねて来たのかが謎だったから。

 俺は、目の前にいる両親をじっと見つめると固唾を一回飲み込み、恐る恐る口を開いた。

「...なんで大学にまで来てるの？？」

「簡単なことだ。明日から、お前には海外のオペラの学校に編入してもらう。...こんな、チンケな大学でお前の才能を無駄にしたくない。奏也...お前もそう思っているだろうし、分かるだろう？？？」

 俺の言葉に父親は、至って普通の顔をして大学のことを馬鹿にした。

 俺は、父親の勝手さに怒りがこみあげてきて、気がつけば大声をあげていた。

「何勝手な事っているんだ！！！散々仕事しまくって、俺の事ほったらかしにしていたくせに、何今更父親づらしてるんだよ！！！...母さんも突っ立ってないで、何か言ったらどうなんだよ！！」

 俺がこういうと、母親は小さくため息をついた後、俺に冷たい視線を向けてこう言ってきた。

「...はぁ。...奏也？？あなたは少し、この部屋から席を外してもらえないかしら？？...この方達とお話をしたいから。」

 こう言った母の目線は、俺から月並みのみんなへと移っていた。

 俺は、一瞬この部屋から出ることをためらったが、父親がわざとらしく咳払いをしたことにより、俺は渋々部屋を出ることにした。

 俺が、部屋を出てから約15分経った時、部屋のドアが開き、中から来たときと変わらない冷静な表情を浮かべた両親が出てきた。

 俺が、声を掛けようと両親に向かって口を開いたが、父親が俺の方を振り返り、一言こう言って立ち去ってしまったため、それは制させたのだった。

「...荷物をまとめておけ。明日の夕方に迎えに行く。」

 俺が、両親に質問をすることは一切許されず、ただじっと二人の姿が見えなくなるまで、後ろ姿を見つめることしか出来なかった。

 だが、二人の姿がなくなった後、すぐに俺がいなくなった部屋の中で一体何の話が行われていたのか、仲間に問いただしたい衝動が強くなり、俺は練習部屋へと駆け込んだ。

 部屋の中に入ると、俺が思っていた雰囲気とは違い、いつも通りのメンバーの顔があった。

 俺は、動揺が隠しきれなかったが、そんなこと今はどうでもいいくらい、両親としていた会話の内容が気になってしまった。

 だから、彼らが出していたすぐ目に見えるサインにも気付くことが出来ず、俺はみんなに話しかけてしまったのだ。

「ねぇ、俺が部屋から出て行った後に、俺の両親と何を話していたの？？？」

 俺の問いかけに皆は、特に動揺した様子もなく、俺に小さくこう言った。

「...奏也？？...急で悪いんだけど、今日の練習これで終わりにしてもいいかな？？...みんな疲れたんだ。」

 虎雅さんの言葉の意味が上手く理解できず、俺は続けてこう言っていた。

「...まだ練習も、俺の話も終わってないんですけど...。俺の質問に答えてもらえませんか？？？俺の両親と、一体何を話していたんですか？？？」

「...奏也。お前は、空気を読むことが出来ないのか？？？俺たちは、疲れているといったんだ。奏也...疲れているって言うのは、今日はもう解散しようって意味なんだ。...ここまで言っても、まだ分からないか？？？」

 俺が、しつこく聞こうとしたためか、いつも温厚で優しい虎雅さんが、俺の方を鋭い目つきで睨みつけながら、声色も明らかに不機嫌さをはらんでいた。

 俺は虎雅さんの様子に、これ以上何も聞くことはせず、自分の荷物を手に取ると虎雅さんの視線から逃げるように、足早に練習部屋を出たのだった。

 俺は、この時知らなかったんだ。

 俺が帰った後、皆が密かに話し合いをしていたなんてこと...。

 いいや、正確には仲間から拒絶されたという酷い被害妄想により俺は、見ればすぐに分かる仲間からのサインを...周りをみる余裕を完全に失っていたのだ。