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第2章 国立キャルメット学院の悲劇
魔法と知識は関係があるらしい
しおりを挟む翌日。コータは昨日と同じ席に着いていた。
元いた世界とは違い、決まった席はないらしくどこに座ってもいいらしい。
しかし、バニラやリゼッタも昨日と同じ席に腰を下ろしている。
「そんなもんだよな」
自分の縄張り、といった意識があるのだろうか。クラスメイトは大半が昨日と同じ場所に座っている。
「おはよー」
何の躊躇いもなくコータの隣に座るマレア。
「あ、あぁ」
昨日とは違い、コータの感情に怒りというものは存在していない。その代わり、昨日のいきりっぷりが脳裏から離れず、恥ずかしいという感情は持ち合わせている。
「どうかした?」
「い、いや?」
マレアは何ともない口調で訊く。コータは数回連続で瞬きをしてから、上ずった声で返す。
「うそー。何か昨日と雰囲気違うよ?」
マレアはコータの中身の変化に気づき、的確に指摘する。
「そ、そうか」
マレアは渇いた笑みで答えるコータを不審に思ったのか、小首をかしげ詰め寄ろうとした。その時だ。
「はーい、皆さん! ちゅーもくしてくださいねー」
あちらこちらで飛び交う会話の中でも、一際甘ったるい声が教室内に響いた。
声の主は、一見して教鞭をとっている人に見えないロリ巨乳。コータたちのクラスを担当しているアストラスだ。
昨日着ていた服の色違いを纏い、教壇に立っている。
「今日は一時間目、私だからちゃんと聞いてねー」
授業というほど固くない、仲の良い家庭教師から教えてもらうといったほうが近い印象を持つ。
「なぁ、マレア」
「なぁに?」
マレアはコータの呼びかけに気の抜けたような声を洩らす。
「アストラス先生はどんな授業をするんだ?」
「魔法基礎だよ」
「魔法基礎?」
――聞いた感じでは魔法の基礎的な部分を習うような感じだな。
「魔法の基礎部分を学ぶ感じかな」
「やっぱりか」
コータの言葉に、マレアは分かってたなら聞かないで、と言わんばかりの表情を浮かべている。
「それじゃあ、はじめるよー」
アストラスの言葉と同時にチャイムは鳴り、授業がはじめられた。
「まず、魔法について復習するよー」
和やかな声音で、ふんわりと始まる。アストラスは空中に文字を走らせ、魔法文字を書いていく。
「魔法は現象を具現化すること。それを実行するために、生き物には必ず存在している魔力を触媒にするの」
代価などと言った言葉が用いられ空中には書き出されている。
「要するにこういうことだよ」
アストラスは文字を書くのをやめ、全体を見渡す。それからゆっくりと瞳を伏せる。
「我の名はアストラス。汝、我が魔力を食し力を与え給え。出でよ、静かなる炎」
言い終わるや否や、アストラスは手をあげ、掌を上へと向けた。瞬間、掌の上にゆらゆらと揺れる炎が出現する。
「これが魔法だよ。って、みんな知ってるよね」
少し照れた様子を見せたアストラス。それからすぐに、ゆっくりと手を握る。すると炎は消え、まるでそこに炎など存在しなかったようになる。
「本題はここから。今日はどうすれば魔法の幅を増やせるか、ということをお話ししていきたいと思いまーす」
アストラスは話題を切り替えるための合図として、パンっ、と音をたてて手を合わした。
「他の授業で聞いてるかもしれないけど、魔法を使うとき、大事になるのは想像です」
「イメージ?」
「そう! 食い付いてくれてありがとねー」
アストラスはコータの呟きに反応し、嬉しそうな笑顔でおっぱいを揺らす。
「例えば、さっき私がやったように炎を出したいと思うだけでは、しっかりと形にはならないの」
「さっき見たからイメージはできるぞ?」
アストラスはコータの言葉に、小さくかぶりを振る。
「じゃあここで、リゼッタさん」
「はい」
突然振られたリゼッタは、少し戸惑った様子を見せる。しかし、アストラスは気にした様子もなく問う。
「炎を出す際に気を付けなければならないのは何ですか?」
「熱量、規模、存在意義です」
「はい、そのとーりです!」
アストラスは大きく頷き、全体を見渡す。そして再度、口を開く。
「その中でも特に大事なのが存在意義。どうしてここに炎が存在できるのか、それを知らなければ、発動はできないのです」
「イメージと、知識が必要ってわけか」
「そのとーりです。コータさん!」
自分の授業に興味をもってもらえてるのが相当嬉しいのだろう。アストラスの顔からは、嬉しさがにじみ出ている。
「えっと……」
コータは、アストラスの詠唱を思い出そうと逡巡する。だが、最後のフレーズ以外は曖昧で、うまく思い出せない。
――しっかり聞いてればよかった。
そう思っても後の祭り。コータは掌を上に向けて、覚えているフレーズだけを口にした。
「出でよ、静かなる炎」
イメージはろうそくに灯る火。可燃物はろう。支燃物は酸素だ。
瞬間、コータの掌を上に揺れる縦に長細い炎が出現した。
「す、すごい……」
アストラスは感嘆の声を洩らした。そして同時に、コータの視界に文字が現れた。
【スキル、炎魔法Lv.1を獲得しました】
「まじか」
「どうかした?」
「い、いや。なんでもない」
マレアはコータの呟きを聞き逃すことなく突っ込んでくる。コータはそれを流し、掌を上で揺れている炎を眺める。
――適正は風、なんだけどな。
「コータさんの適正は炎なんですか?」
コータの思考をよそに、アストラスは目をキラキラと輝かせながら訊く。
「い、いや。え、えっと……」
言葉を濁すコータに、クラス全体の視線が集まる。
「どうなのですか?」
アストラスはぼいーん、と大きな胸を揺らしながら目を見開き声を大にする。
「その……、風が適正です」
コータは声を小さくして、申し訳なさそうに告げる。すると、アストラスは少し残念そうな表情を浮かべるものの、「そうですか!」と返事をした。
「そ、それでです。皆さんは魔力、ステータス上のMPの上げ方をしっていますか?」
「レベルを上げるのではないですか?」
言ったのは一人の女子生徒。腰のあたりまで伸びた青い髪に、サファイアのように透き通った瞳が特徴的だ。
落ち着きのある彼女の声に対し、アストラスが甲高い声で返事をする。
「モモリッタさん。それで丸は上げられません。三角です」
アストラスはどこか勝ち誇った顔で、意志の強そうなモモリッタの目を見る。
モモリッタは口先をとがらせ、むっとした顔を浮かべる。
「じゃあ正解は何ですか?」
そしてその表情のまま、モモリッタは訊いた。
ふっ、ふっ、ふっ。
アストラスはわざとらしい笑い声をあげてから、教壇の周りを一周する。
謎の行動に首を傾げているうちに、アストラスは元の場所に戻り口を開いた。
「正解は魔力を行使すること」
「行使する?」
「そう。まぁ、簡単に言うと魔法を使うってことだね」
アストラスは人差し指を立ててきっぱりと言い切る。それに対して、コータは訝しげな表情で訊く。
「魔法を使えばどうして魔力が増える?」
レベルが上がる際、MPの値が増えているのは知っている。だが、コータは体力や耐久に比べてMPの値の増え幅が小さいことにも気づいていた。
「それは……なぜでしょう? しかし、人族の全学問を治めてる学術協会では底まで魔力を使うことで、許容範囲が増える。という研究結果が出ているそうです」
コータはアストラスの説明を受け、自身のステータスの上がり具合について思い返す。上昇値が大きいのは体力と耐久。
先ほどのアストラスの話に当てはめると、コータは戦いにおいて攻撃を受け、体力を多く消費してきた。それに伴い、かなり耐久してきた。
――納得はいくか。
「そうなのか」
コータは自身の体験に照らし合わせてそう答えた。
魔法について、魔力についての話でアストラスの授業は終わった。そして、コータはこれから元いた世界での知識とイメージを行使して、魔法を、魔力を使い魔力の底上げをしよう、と心に決めるのだった。
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