38 / 78
第2章 国立キャルメット学院の悲劇
強大な威力を誇る古代魔法
光こそ放ってはいるが、据わっていない印象を受けるコータの瞳。
その先にいるのはイグニティだ。青ざめた肌、白目部分が赤に染まりつつある釣りあがった目、膨れ上がった筋肉、それから額からは黒曜石のような角が生えている。
「これは見事にやってくれたな」
飛び散った血、砕けた角の破片。周囲に散らばるそれらを視界に収めながら、イグニティは低く唸るような声で言う。
「……」
対してコータは何も言葉を発さず、ただ虚ろにイグニティを眺める。
その様子にイグニティが何かを言おうとした、その瞬間――
コータは放たれた矢の如く、イグニティに向かう。
そのあまりの速さに、イグニティは思わず後方へと飛ぶ。コータはそれすらも読んでいたかのような動きで、イグニティに詰め寄る。そして、手のひらを向ける。
「万物、これを以て移動を開始せよ
疾風到来」
短い言葉の後、コータの手のひらからは膨大な風が吹き荒れる。台風や、竜巻なんてものとは桁が違う。
世界にある物という物を吹き飛ばさんとする量と力。
それらが容赦なくイグニティに向かう。
「何だよ、これは!」
あまりの威力に驚きを隠せないイグニティは、後方へと退避をしながら魔法を発動させる。
「展開せし陣は5つ。対応する魔法は反。反魔法、五角障壁」
イグニティの腕から、5つの魔法陣が飛び出す。大きさの異なる魔法陣が展開され、コータの魔法がイグニティに届く寸前でそれらは、五角形の障壁を形成する。
五角形に見える障壁。それらは魔法陣より呼び起こされた障壁が重なり合った姿。幾重に重ねられた障壁は、そう簡単に破られるものでは無い。だがしかし、それは普通の魔法に対してだ。
コータの発動している魔法は、発動した称号に基づき、古代魔法。あまりに強力、または文献が残っていないために現在は使用不可能とされているものだ。
それが現代の魔法で止められるわけがない。
「やべぇッ」
それを肌で感じたイグニティは障壁を展開したまま、大きく右側へと体を逸らした。瞬間、障壁には亀裂が走り、形を保てなくなる。
多少威力が落ちたコータの魔法は、障壁を突き破り、イグニティの左腕を喰いちぎった。
左腕を喰いちぎったにも関わらず、魔法の威力は衰えない。その圧倒的な威力を保ったまま、イグニティの奥に立つモモリッタとククッスへと襲いかかろうとする。
だが、魔法は2人に触れる直前で消滅する。
「小癪な」
肩口から綺麗に吹き飛んだ左腕。滴る血を横目で見たイグニティは、洩れる空気と共に零す。
苦悶の表情を浮かべ、本当に痛いのが見ているだけでも伝わる。しかし、それで手をゆるめるコータではない。
そんなイグニティに詰め寄り、回し蹴りを入れる。クリーンヒットしたイグニティは、後方へと大きく吹き飛ぶ。
片腕が無くなり、体のバランスを上手く取れないのか。イグニティは立ち上がることにすら苦労しているように思える。
「万物、これを以て移動を開始せよ
疾風到来」
先程イグニティの左腕を引きちぎったばかりの魔法を、コータは無表情で発動させた。
全てを蹂躙する豪風がイグニティに向かう。目に見える凶器が、自身に近づいてくることに怯えたのか。イグニティはその場から動くことすら出来ていない。
だが、次の瞬間。魔法の詠唱だけが耳に届いた。
「正当なる魔力の使い手 闇に選ばれし聖者の一振
この身に宿る真の力を解放せし給え 絶対暗黒」
同時に、その豪風を飲み込むかのように大地に暗黒が広がる。広がった暗黒は範囲をさらに広げ、豪風の道を全てカバーする。
だが、そうしている間にも風は進む。イグニティの顔まであと一歩。その所で、暗黒が大地から飛び出し、風を飲み込む。
「い、インタル先生ッ!?」
古代魔法を完全に封印し、止めきった魔法が飛んできた方を見るククッスは、驚きの声を上げた。
インタル先生の姿をした魔物がそこにいたからだ。
肌色、目の雰囲気は、コータが戦っているイグニティと相違ない。角もしっかり生えており、インタル先生と判断できるのは、トレードマークとも言っていいカイゼルひげがあるからだろう。
「クルス先生ですか? それともククッス先生とお呼びした方がいいですか?」
声色、それは間違いなくインタルのそれだ。
「クソっ! 死に損ないが」
「ど、どういう……」
事態が飲み込めていないのか、ククッスは戸惑いを隠せていない。
「分からないなら教えてあげますよ」
そう言うや、インタルは近くに転がっていた生徒の死体に向かってかかと落としを決めた。
普通の人間の一撃ではなく、魔族オーガとしての一撃を放つ。
瞬間、その生徒の頭はぐちゃっと潰れ、潰れた頭からは脳らしいものが飛び出す。
「生徒ですよッ!?」
「見れば分かる。だが、私には関係ないのだよ!」
白目部分を赤く染めた目を強く見開き、インタルは吠える。それに圧倒されたのか、ククッスは無意識的に1歩後退りをしている。
「万物、これを以て移動を開始せよ
疾風到来」
ククッスへと歩み寄ろうとするインタルに、コータは魔法を発動させる。それに対し、インタルは先程と同じ"絶対暗黒"を発動させて完全に防ぎきる。
その隙を狙い、片腕のイグニティがコータに飛びかかった。
全体重をかけた右拳。
まるで後ろに目があるかのように、コータは自然な動きでそれを避けるや、腰に差してある月の宝刀を抜く。
手早くそれを構え、イグニティの首目掛けて振り下ろす。
「やめろ」
それを間一髪でインタルが防いだ。
咄嗟に飛び出し、刃を掴んでいる。手のひらからは血がこぼれ出している。
「ッ!」
コータはそのまま、脚を振り上げて蹴りを入れる。インタルはそれをもう片方の腕で受け止める。
「体術 掌打」
脚を下ろした瞬間、今度はインタルの腹部目掛けて掌打を放った。さすがに対応しきれなかったインタルは、血反吐を吐きながら後方へと飛ばされる。
イグニティはその間に間合いを取り、首を取られる範囲からは逃れる。
「ありえない……。ありえるわけが無い」
そんなコータの戦いっぷりを見たククッスがそんな言葉を洩らす。
見たことの無い魔法を使いこなし、魔族二体を圧倒するその姿に恐怖さえ覚えていた。
「神聖なる息吹 母なる大地に芽吹くもの 混沌の世に終わりを告げる 荒れ狂う風となれ 蒼凛の鎌鼬"シナツヒコ"」
そんなククッスを横に、コータは森でオーガ二体を蹂躙した魔法を発動させる。
蒼色を纏う暴風が吹き荒れ、大地を抉っていく。
暴風の中は一切の光りを通すことすら許されない。
暴風だけが吹き荒れる暗黒の中、インタルはその暴風を防ごうと、絶対暗黒を展開しようと試みる。だが、魔法が発動しない。
いや、違う。インタルが制御できていないのだ。
暗闇で絶対暗黒を発動するのは、黒に黒を重ねるのと同意。それを上手く制御するためには黒と黒を見分けなければならないのだ。インタルはそれが上手くできていない。
その間に蒼凛の鎌鼬は、圧倒的な威力を誇りインタルに襲いかかろうとする。
「させるかッ!」
咆哮と共に蒼凛の鎌鼬の前に立ちはだかったのは、イグニティだ。
「展開せし陣は10。対応する魔力は護
防御魔法、十重防御」
瞬間、目にも止まらぬ速度で10の魔法陣が出現し、分厚い防御膜を完成させる。だが、コータの蒼凛の鎌鼬の前では紙くず同然。
刹那の足止めは出来たが、直ぐに亀裂が走り崩壊が始まる。
「展開せし陣は6つ。対応する魔力は反
反魔法、六角障壁」
崩壊が始まると同時に、イグニティは新たに反魔法を発動させる。先程発動した反魔法よりも、一回り大きな魔法で迎えうつ。だが、それでも威力が落ちることは無い。
すぐさま崩壊は始まり、イグニティは新たな魔法を組み立てる。
十重防御だ。
連続した魔法行使により、イグニティの体内の魔力バランスが崩壊したのだろう。イグニティの体は、あちらこちらから血が吹き出しており、目からも血の涙がこぼれ落ちている。
「イグニティ、もうやめろ!」
イグニティに護られている状態にあるインタルは、そう叫ぶ。
「やめるわけないよ。オレサマは、アンタがいなきゃ、あの日で終わってた」
「イグニティ……、まさか」
「覚えてるよ。オレサマが人間だったことも、アンタがそれを助けてくれたのも」
話している間にも、イグニティは反魔法と防御魔法を交互に繰り出している。
「ならなんで、私についてきた」
「アンタがオレ サマの目標だからだ。憎しみだけに囚われず、人助けもできるアンタに、オレサマは憧れてた」
魔法の連続行使は続く。その度に、イグニティの全身からは血が吹き出す。見ていて無惨に思えるほどの血が溢れ、足元には血溜まりが出来ている。
「最初は絶望したさ。魔物に堕ちたのだからな。でも、アンタがいた。アンタがオレサマを導いてくれた。だからこそ、オレサマはアンタが願いを叶えることを祈ってる。オレサマの復讐までもを自分の復讐に入れ込むアンタを護って死ぬなら本望だ」
言い切った瞬間、反魔法が崩れた。続けて防御魔法を発動しようとする。だが、それは血反吐によって拒まれる。
かなり威力を落とした蒼凛の鎌鼬が、イグニティの体を襲った。
威力は落としてあった。だが、イグニティの体は皮膚片すら残らない程に木っ端微塵となる。
「イグニティ……」
イグニティの魔法のおかげか、蒼凛の鎌鼬はイグニティの姿と共に消える。
コータとインタルの間には、抉れた大地と飛び散ったイグニティの血だけが残っていた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
インタルの頬には涙が落ちた。
魔物化してはじめて泣いた。最愛の妻子の死体を見せられても、泣くことが無かったインタルが、この時初めて涙をこぼした。
「イグニティを返せッ!」
そう叫んだインタルは、自分の前に神々しいほどの光りを放つ魔法陣が展開されたのに気がついた。
――大事には思っていた
だが、ここまでムキになるとは思っていなかった。
――自分の右腕として忠実に働いてくれるイグニティに、愛着というものを感じていたのかな。
瞬間、仄かな温かさを感じる黄色の光りを纏う閃光が魔法陣から飛び出し、コータに向かった。
――聖魔法 聖光一閃
魔族には決して使えないと言われている聖魔法だ。
「これは、ますます捨てられない駒だね」
遥か上空。そこから戦況を見ていた少女が妖艶な口調でそう呟くのだった。
その先にいるのはイグニティだ。青ざめた肌、白目部分が赤に染まりつつある釣りあがった目、膨れ上がった筋肉、それから額からは黒曜石のような角が生えている。
「これは見事にやってくれたな」
飛び散った血、砕けた角の破片。周囲に散らばるそれらを視界に収めながら、イグニティは低く唸るような声で言う。
「……」
対してコータは何も言葉を発さず、ただ虚ろにイグニティを眺める。
その様子にイグニティが何かを言おうとした、その瞬間――
コータは放たれた矢の如く、イグニティに向かう。
そのあまりの速さに、イグニティは思わず後方へと飛ぶ。コータはそれすらも読んでいたかのような動きで、イグニティに詰め寄る。そして、手のひらを向ける。
「万物、これを以て移動を開始せよ
疾風到来」
短い言葉の後、コータの手のひらからは膨大な風が吹き荒れる。台風や、竜巻なんてものとは桁が違う。
世界にある物という物を吹き飛ばさんとする量と力。
それらが容赦なくイグニティに向かう。
「何だよ、これは!」
あまりの威力に驚きを隠せないイグニティは、後方へと退避をしながら魔法を発動させる。
「展開せし陣は5つ。対応する魔法は反。反魔法、五角障壁」
イグニティの腕から、5つの魔法陣が飛び出す。大きさの異なる魔法陣が展開され、コータの魔法がイグニティに届く寸前でそれらは、五角形の障壁を形成する。
五角形に見える障壁。それらは魔法陣より呼び起こされた障壁が重なり合った姿。幾重に重ねられた障壁は、そう簡単に破られるものでは無い。だがしかし、それは普通の魔法に対してだ。
コータの発動している魔法は、発動した称号に基づき、古代魔法。あまりに強力、または文献が残っていないために現在は使用不可能とされているものだ。
それが現代の魔法で止められるわけがない。
「やべぇッ」
それを肌で感じたイグニティは障壁を展開したまま、大きく右側へと体を逸らした。瞬間、障壁には亀裂が走り、形を保てなくなる。
多少威力が落ちたコータの魔法は、障壁を突き破り、イグニティの左腕を喰いちぎった。
左腕を喰いちぎったにも関わらず、魔法の威力は衰えない。その圧倒的な威力を保ったまま、イグニティの奥に立つモモリッタとククッスへと襲いかかろうとする。
だが、魔法は2人に触れる直前で消滅する。
「小癪な」
肩口から綺麗に吹き飛んだ左腕。滴る血を横目で見たイグニティは、洩れる空気と共に零す。
苦悶の表情を浮かべ、本当に痛いのが見ているだけでも伝わる。しかし、それで手をゆるめるコータではない。
そんなイグニティに詰め寄り、回し蹴りを入れる。クリーンヒットしたイグニティは、後方へと大きく吹き飛ぶ。
片腕が無くなり、体のバランスを上手く取れないのか。イグニティは立ち上がることにすら苦労しているように思える。
「万物、これを以て移動を開始せよ
疾風到来」
先程イグニティの左腕を引きちぎったばかりの魔法を、コータは無表情で発動させた。
全てを蹂躙する豪風がイグニティに向かう。目に見える凶器が、自身に近づいてくることに怯えたのか。イグニティはその場から動くことすら出来ていない。
だが、次の瞬間。魔法の詠唱だけが耳に届いた。
「正当なる魔力の使い手 闇に選ばれし聖者の一振
この身に宿る真の力を解放せし給え 絶対暗黒」
同時に、その豪風を飲み込むかのように大地に暗黒が広がる。広がった暗黒は範囲をさらに広げ、豪風の道を全てカバーする。
だが、そうしている間にも風は進む。イグニティの顔まであと一歩。その所で、暗黒が大地から飛び出し、風を飲み込む。
「い、インタル先生ッ!?」
古代魔法を完全に封印し、止めきった魔法が飛んできた方を見るククッスは、驚きの声を上げた。
インタル先生の姿をした魔物がそこにいたからだ。
肌色、目の雰囲気は、コータが戦っているイグニティと相違ない。角もしっかり生えており、インタル先生と判断できるのは、トレードマークとも言っていいカイゼルひげがあるからだろう。
「クルス先生ですか? それともククッス先生とお呼びした方がいいですか?」
声色、それは間違いなくインタルのそれだ。
「クソっ! 死に損ないが」
「ど、どういう……」
事態が飲み込めていないのか、ククッスは戸惑いを隠せていない。
「分からないなら教えてあげますよ」
そう言うや、インタルは近くに転がっていた生徒の死体に向かってかかと落としを決めた。
普通の人間の一撃ではなく、魔族オーガとしての一撃を放つ。
瞬間、その生徒の頭はぐちゃっと潰れ、潰れた頭からは脳らしいものが飛び出す。
「生徒ですよッ!?」
「見れば分かる。だが、私には関係ないのだよ!」
白目部分を赤く染めた目を強く見開き、インタルは吠える。それに圧倒されたのか、ククッスは無意識的に1歩後退りをしている。
「万物、これを以て移動を開始せよ
疾風到来」
ククッスへと歩み寄ろうとするインタルに、コータは魔法を発動させる。それに対し、インタルは先程と同じ"絶対暗黒"を発動させて完全に防ぎきる。
その隙を狙い、片腕のイグニティがコータに飛びかかった。
全体重をかけた右拳。
まるで後ろに目があるかのように、コータは自然な動きでそれを避けるや、腰に差してある月の宝刀を抜く。
手早くそれを構え、イグニティの首目掛けて振り下ろす。
「やめろ」
それを間一髪でインタルが防いだ。
咄嗟に飛び出し、刃を掴んでいる。手のひらからは血がこぼれ出している。
「ッ!」
コータはそのまま、脚を振り上げて蹴りを入れる。インタルはそれをもう片方の腕で受け止める。
「体術 掌打」
脚を下ろした瞬間、今度はインタルの腹部目掛けて掌打を放った。さすがに対応しきれなかったインタルは、血反吐を吐きながら後方へと飛ばされる。
イグニティはその間に間合いを取り、首を取られる範囲からは逃れる。
「ありえない……。ありえるわけが無い」
そんなコータの戦いっぷりを見たククッスがそんな言葉を洩らす。
見たことの無い魔法を使いこなし、魔族二体を圧倒するその姿に恐怖さえ覚えていた。
「神聖なる息吹 母なる大地に芽吹くもの 混沌の世に終わりを告げる 荒れ狂う風となれ 蒼凛の鎌鼬"シナツヒコ"」
そんなククッスを横に、コータは森でオーガ二体を蹂躙した魔法を発動させる。
蒼色を纏う暴風が吹き荒れ、大地を抉っていく。
暴風の中は一切の光りを通すことすら許されない。
暴風だけが吹き荒れる暗黒の中、インタルはその暴風を防ごうと、絶対暗黒を展開しようと試みる。だが、魔法が発動しない。
いや、違う。インタルが制御できていないのだ。
暗闇で絶対暗黒を発動するのは、黒に黒を重ねるのと同意。それを上手く制御するためには黒と黒を見分けなければならないのだ。インタルはそれが上手くできていない。
その間に蒼凛の鎌鼬は、圧倒的な威力を誇りインタルに襲いかかろうとする。
「させるかッ!」
咆哮と共に蒼凛の鎌鼬の前に立ちはだかったのは、イグニティだ。
「展開せし陣は10。対応する魔力は護
防御魔法、十重防御」
瞬間、目にも止まらぬ速度で10の魔法陣が出現し、分厚い防御膜を完成させる。だが、コータの蒼凛の鎌鼬の前では紙くず同然。
刹那の足止めは出来たが、直ぐに亀裂が走り崩壊が始まる。
「展開せし陣は6つ。対応する魔力は反
反魔法、六角障壁」
崩壊が始まると同時に、イグニティは新たに反魔法を発動させる。先程発動した反魔法よりも、一回り大きな魔法で迎えうつ。だが、それでも威力が落ちることは無い。
すぐさま崩壊は始まり、イグニティは新たな魔法を組み立てる。
十重防御だ。
連続した魔法行使により、イグニティの体内の魔力バランスが崩壊したのだろう。イグニティの体は、あちらこちらから血が吹き出しており、目からも血の涙がこぼれ落ちている。
「イグニティ、もうやめろ!」
イグニティに護られている状態にあるインタルは、そう叫ぶ。
「やめるわけないよ。オレサマは、アンタがいなきゃ、あの日で終わってた」
「イグニティ……、まさか」
「覚えてるよ。オレサマが人間だったことも、アンタがそれを助けてくれたのも」
話している間にも、イグニティは反魔法と防御魔法を交互に繰り出している。
「ならなんで、私についてきた」
「アンタがオレ サマの目標だからだ。憎しみだけに囚われず、人助けもできるアンタに、オレサマは憧れてた」
魔法の連続行使は続く。その度に、イグニティの全身からは血が吹き出す。見ていて無惨に思えるほどの血が溢れ、足元には血溜まりが出来ている。
「最初は絶望したさ。魔物に堕ちたのだからな。でも、アンタがいた。アンタがオレサマを導いてくれた。だからこそ、オレサマはアンタが願いを叶えることを祈ってる。オレサマの復讐までもを自分の復讐に入れ込むアンタを護って死ぬなら本望だ」
言い切った瞬間、反魔法が崩れた。続けて防御魔法を発動しようとする。だが、それは血反吐によって拒まれる。
かなり威力を落とした蒼凛の鎌鼬が、イグニティの体を襲った。
威力は落としてあった。だが、イグニティの体は皮膚片すら残らない程に木っ端微塵となる。
「イグニティ……」
イグニティの魔法のおかげか、蒼凛の鎌鼬はイグニティの姿と共に消える。
コータとインタルの間には、抉れた大地と飛び散ったイグニティの血だけが残っていた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
インタルの頬には涙が落ちた。
魔物化してはじめて泣いた。最愛の妻子の死体を見せられても、泣くことが無かったインタルが、この時初めて涙をこぼした。
「イグニティを返せッ!」
そう叫んだインタルは、自分の前に神々しいほどの光りを放つ魔法陣が展開されたのに気がついた。
――大事には思っていた
だが、ここまでムキになるとは思っていなかった。
――自分の右腕として忠実に働いてくれるイグニティに、愛着というものを感じていたのかな。
瞬間、仄かな温かさを感じる黄色の光りを纏う閃光が魔法陣から飛び出し、コータに向かった。
――聖魔法 聖光一閃
魔族には決して使えないと言われている聖魔法だ。
「これは、ますます捨てられない駒だね」
遥か上空。そこから戦況を見ていた少女が妖艶な口調でそう呟くのだった。
あなたにおすすめの小説
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
勇者の付属品(おまけ)〜Hero's accessories〜爆速成長で神々の領域へ 〜創造神の孫は破壊神と三日三晩戦って親友になった〜
優陽 yûhi
ファンタジー
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗(りくと)は、
3年生の生徒会長,副会長の佐伯と近藤の勇者召喚に巻き込まれて、
異世界に転移する。
何故か2人とは少しずれた場所と時間に転移した颯斗は、
魔物や魔族との戦いの中で、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
何故これ程までの能力を持っているのか?
勇者のもとに向かう冒険の中で謎が解けていく。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?