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第3章 エルフとの会談
ハイエルフの軍勢
しおりを挟む「ここまで来れば……」
周囲への警戒を怠ることなく、コータは呟いた。その隣にはネーロスタが恐怖に満ちた表情で立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ。でも、まさか……」
ハイエルフが強硬手段に出るとは思っていなかった。そう言いたそうな表情を浮かべるネーロスタ。
同族での殺し合い。否定したいのは分かる。だが、現実を見なければ殺られるだけだ。
「そう思いたいのは分かります。でも、現実は――」
「分かってます。だから、私はハイエルフの族長であるエルガルドに会いに行きます」
震えは収まっている。こんな短い間に彼女の中でどのような変化があったのかは分からない。
それに、ネーロスタがやろうとしていることは、族長として重要なことだと思う。
和平交渉をするにしても、族長同士での会話が重要になる。
「分かりました」
「うん。さっきは守ってくれてありがとう。でも、ここから先は私たち、エルフ種の話だから」
ネーロスタの目には強い意志が見て取れた。
これ以上は関わるな。そう言われたみたいに感じたコータは、少し寂しいような気もした。だが、自分から危険に突っ込むのも違う。
苦い笑みを浮かべたコータは言う。
「では、俺はサーニャ様の護衛に戻ります」
ネーロスタは小さく手を上げ、背に生える羽を展開させる。
そしてその羽から小さな魔法陣が展開され、ゆっくりと動き出す。同時に、ネーロスタの体が宙に浮いていく。鱗粉が舞きながら宙に浮いていく姿に、コータは思わず見とれてしまう。
非現実に、慣れていたつもりではあった。だが、眼前で人が宙を浮く姿を見ると、改めて非現実を叩きつけられたような気になった。
「な、何かしら?」
コータの熱視線に気恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめたネーロスタが早口でそう言う。
「あ、いえ。何もないですけど」
「そ、そう」
早口でそう言い切ると、ネーロスタはその場を後にした。
ネーロスタの姿が見えなくなるまで、その背を見ていたコータ。
彼女の姿が見えなくなると同時に動き出す。エルフ族の高等住民区の奥、ネーロスタの父とサーニャが会談を行った場所にいるはずのサーニャの元に戻るために。
いつ上から攻められるか分からない。
最大の注意を払いながら、コータは足早に会談の地を目指すのだった。
* * * *
――エルフ族高等住民区のさらに奥。会談の地
「サーニャ様ッ!!」
ルーストの張り詰めた声が、高等住民区にまでも達する。
そしてその上空には、ハイエルフの軍勢が立ち並んでいた。
手の先に魔法陣を展開し、防御魔法を出すルースト。視線の先にネーロスタを捉えながら、声を荒らげる。
「サーニャ様だけでもお逃げください!」
しかし、サーニャはそれに首を横に振った。
「私だけ逃げるのは間違っている」
「間違ってなどいません」
張り裂けそうな思いを込めた一声と同時に、上空から色鮮やかな光が放たれた。
ルーストはそれが魔法陣の展開により、伴ったことだと言うことに気づくのに遅れる。
しかし、その遅れは致命的だった。
魔法陣から自然現象で起こりうるはずのものが次々と出現していく。
炎に、風に、水。それから氷に雷に土。
ありとあらゆるものが今この瞬間にも降り注ぎそうだ。
「サーニャ様だけでもッ!!」
ルーストは強く歯を食いしばり祈った。
どうか、サーニャだけでも救われるように。
「させるかァァァ!!」
そう叫びながら、コータは右手を前に突き出す。
そして体内に流れる魔法を強くイメージする。
巡回する魔力を制御し、竜巻となり打ち出され、ハイエルフたちを巻き込む様を――
「竜巻」
薄緑色に染められた魔法陣が展開され、そこから激しい風が吹き荒れる。
そしてそれらは、刹那の間に渦を巻き、迷うことなく上空へと立ち上っていく。
渦巻く風がハイエルフの魔法陣を大きく乱す。乱された魔法陣には亀裂が入り、消滅する。
「大丈夫ですか!?」
肩で息をしながら、サーニャとルーストの元に駆け寄る。その時だ。
久しく聞いていなかった、レベルアップを知らせるファンファーレが鳴り響く。それと同時に視界には次々と文字が現れる。
【レベルアップ11→12
HP3250→3500 筋力300→320 MP750t→780
耐久2450→2500 俊敏400→600 器用11→12
知力100→120 運0→0
鑑定【生物】Lv4→Lv5、
剣術Lv4→Lv5、
水魔法Lv4→Lv5
複合魔法《暴風雨"ザ・テンペスト"》を取得】
ステータスの上がり横目で確認しながら、コータは思いのほかにレベルが上がっていることに驚く。
――いつの間に、こんなにレベル上がったんだ?
オーガと戦った際、コータの意識はなかった。その際にレベルが上がっていたのだが、それを知らないコータは驚く以外に感情を表現出来ない。
だが、いつまでも驚いてはいられない。
かぶりを振り、サーニャとルーストを交互に見て、傷がないことを確認する。
「良かった」
「助かりました」
ルーストは疲れきった表情で言葉を漏らす。
しかし、安心できるのも一瞬。
直ぐにハイエルフたちは魔法陣を組みなおす。さすがは魔法に長けている、と言われているだけはある。
魔法陣を組み上げる速度は、人間のそれとは比較にはならない。
「間に合わない」
両手を上げ魔法を展開しようとしながら、奥歯を強く噛み締めた。
「私たちにお任せ下さい」
その時だ。
サーニャたちと同様に、高等住民区から逃げてきていたエルフの1人がそう言った。そして、ハイエルフに遜色ない速度で魔法陣を展開して、防御魔法を繰り出す。
「ありがとうございます」
コータは短く礼を告げてから、脚に強く力を込める。
そして、先程視界に捉えたそれを口にする。
「複合魔法 暴風雨」
展開される魔法陣は緑色を帯びたものと青色を帯びたもの。
台風とよく似ている。だが、大きく異なる所がある。それは、魔法陣が4つ展開されているところだ。
緑、青、緑、青と交互に展開された魔法陣からは暴風と暴雨が生み出される。
そしてそれらが噛み合い、中には雷のようなものまで出現している。
「なんつー魔法なんだよ」
コータの想像を遥かに超えた魔法に、思わずそんな声が漏れた。そして、次の瞬間――
魔法はハイエルフたちを襲った。ハイエルフたちが放っていた魔法は掻き消され、さらに宙に浮くハイエルフたちが風に流され、入り乱れていく。
「うわぁぁぁ」
空中にいることが制御出来なくなったのか、ハイエルフたちからはそんな声が響いてくる。
その中に向かい、コータは月の宝刀を構える。そして、ゆっくりと瞳を伏せた。
「イメージは出来ている。殺しはしない。でも、これ以上サーニャ様に危害を加えられないように……」
小さく呟き、勢いよく目を開く。
そしてそのまま、剣を突き出すようにして叫んだ。
「剣術 斬鉄剣」
瞬間、暴風雨の中に斬撃が飛んでいった。暴風雨に揉まれ、予測不能の動きをする斬撃がハイエルフ(襲う。
次々に、あちらこちらから悲鳴があがる。少し、胸が痛くなる。
だが、やめる訳にはいかない。
力いっぱい、何度も、何度もコータは剣を振るう。
次第に、暴風雨の中に赤色が滲むようになる。
「も、もういいのでは」
そんな様子を見兼ねたのか、ルーストが恐る恐るといった雰囲気で声をかけてくる。
「はぁ……はぁ……。そ、そうですね」
整わない呼吸のまま、コータはぽつりと答えた。同時に、暴風雨は止み、その中にいたハイエルフたちがバタバタと地に堕ちる。
その体には、あちこちに切り傷がついている。倒れたまま動けない深手を負っている者もいれば、直ぐに立ち上がることができるほどの傷の者もいる。
「貴様ッ、絶対に許さぬ」
その視線だけで、人でも殺めてしまいそうなほど強く鋭い目。
そんな危ないものを浮かべた、1人のハイエルフが中性的な声音でそう言い放った。
「お前はッ――」
その姿を見たコータは、驚きからそのような声を漏らす。
エルフ種はどの者も綺麗な顔立ちで美しい。だが、その中でもずば抜けて端麗で、一見しただけでは男性か女性か見分けのつかない程に美しい顔立ち。
そしてその声音も中性的で、全裸にでもなってもらわない限り性別は見分けられないだろう。
そんなハイエルフを前にして、コータはゆっくり、怯えるように言う。
「ロイか……?」
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