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「隣の席から見る稜くんは、こんな感じなんだね」
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「うぅー、終わったー!」
席に座ったまま、大きく背伸びをする。ようやく、3教科の補習が終わったのだ。まだ1日目だが、もう十分だ。そう思えるくらい、疲れた。
これが5日間――
月から金まで毎日あるのだ。遅刻をすれば、更にそこから追加されていく。
だから絶対に遅刻するわけにいかないんだ。
「朝起きれるかな」
3教科目英語の補習を受けた教室で、俺は独りで呟く。数人一緒に補習を受けていた生徒たちは、終わると同時に教室を出て行った。今日の補習が終わりの者もいれば、次の補習の教室へと向かった者もいる。
朝起きれなかったら、夏休み終わりまで補習ってことになる。それだけは避けたいけども。
気分はすっかり夏休み。朝早く起きる、という気分にはなれない。
嫌だけど、亜沙子に頼むかな。
そんなことを考えながら、俺はカバンを肩に掛けて立ち上がる。その時だ。
「私が起こしてあげよっか?」
そんな言葉が教室の入口から飛んできた。
「ゆ、夢叶先生!?」
「こら、2人の時はそうじゃないでしょ?」
あまりに突然の登場に驚き。扉の方を見ながら、俺は思わず慣れ親しんだ呼び名が口をついた。
すると、夢叶は口先を尖らせて。拗ねたような口調で告げる。
今までにあまり見た事のない姿が見られた。それだけでも嬉しくて、胸が弾む。
「ご、ごめん。夢叶」
謝罪し、彼女を呼び捨てで呼ぶと、夢叶は満足気な表情を浮かべて俺に歩み寄ってくる。
「でも、どうしてここに? 歴史の補習は?」
「この時間は受ける生徒がいなかったから」
俺らの学校の補習は、毎時間。自分が好きな教科を担当の教室へ受けに行くことができるのだ。
それゆえ、受講生徒がゼロで担当先生が暇になるという事象が起こったりするのだ。
「それで、私が毎朝起こしてあげよっか?」
試すように。グイッと顔を近づけてくる夢叶。今まで、ずっと抑えていたのだろうか。それくらいに、夢叶の行動は大胆で、俺の心をドキドキさせてくれる。
俺もそんな行動が出来るようになりたい。だけど、それは難しい。思春期特有の恥ずかしさが、行動に制限を設けてくるのだ。
「そんなこと出来たら最高だけど。物理的に難しいでしょ?」
「文明に感謝よ。ほらっ、これがあるでしょ」
言葉を紡ぎながら、夢叶はスカートのポケットからスマホを取り出した。
「あ。俺ら付き合ってるのに、お互いの連絡先も知らないんだ」
「そうだよー!」
「夢叶、連絡先教えてよ」
「最初からそのつもりだった」
精一杯の誘い言葉を吐いて。俺は自分のスマホを取り出した。これでいつでも夢叶と連絡を取れる。そう考えるだけで、喜びが心を打つ。
全身が歓喜に包まれた俺は、今から何をすればいいのか考える。だが、あまりの嬉しさに頭が真っ白になり、何をすればいいのか分からなくなる。
「稜くん、絶対テンパってるでしょ?」
「そ、そんな事ないよ」
いや、テンパってるけど。好きな人の前でかっこ悪い所を見せたくない。これまでに見せて来たかもしれないけど、これ以上は見せたくなかった。
彼氏になった今。彼女である夢叶にはかっこいい姿だけを見せたいんだ。
「じゃあさ、とりあえず座ってよ」
夢叶の登場に、どんな振る舞いをすればいいのか分からなくて、立ち尽くしたままになっていた俺。そんな俺に夢叶は、先程まで座っていた椅子に座るように促した。
連絡先を交換するために、どうして座るのか。立ったままでもできるのではないのか。
そんなことを思ったが、楽しげな表情で、俺が座るのをワクワクしながら待っている夢叶に。
そんなことを言えるわけもなく。俺は椅子に腰を下ろす。
「そのままでちょっと待ってね」
一体全体何を始めるのか。
夢叶の思考を読もうにも、全く分からない。
いつかは夢叶の行動の意味が分かる。そんな男になりたいな。
そんな決意を心に抱く間に、夢叶は俺の隣の机を持ち上げた。そして、そのまま俺の前にある机に引っ付けて、並べた。
「えへへ」
恥ずかしそうな。それでいて楽しそうな。そんな笑顔を浮かべて、夢叶は椅子を引っ張り、俺の隣に並んで座った。
「これで隣の席だね」
「もし、夢叶が同級生だったらこんな感じだったのかな」
不意に口をついた。隣に座る彼女が可愛くて、胸がドキドキして。何かを話した訳でもないのに、自然と笑みがこぼれる。
「そうだねー」
そう言いながら、夢叶は机上に手を伸ばし、体を伸ばした。
その状態のまま、俺の方を見て静かに言う。
「隣の席から見る稜くんは、こんな感じなんだね」
「いつもは前からしか見ないもんなぁ」
「うん。新鮮だよ」
新たな一面を見ることの出来た嬉しさと、この姿は今しか見れない。それが分かっているのだろう。夢叶の言葉には喜びと悲しみが混在しているように感じられた。
「俺も新鮮だよ」
髪で隠れる頬。その隙から僅かに覗く雪のように白い肌。
瞳は前方を朧気に捉えている。
いつもはハッキリと顔が見え、しっかりと開いた瞳で俺ら生徒を見ている。
だから。そのギャップに心打たれて、魅入られてしまう。
「稜くんはさ、将来なりたいものとかある?」
「それは先生として話してる?」
俺がそう訊くと、夢叶は何度か瞬きをしてから、慌てたように言った。
「ち、違うよ?」
「違うのか」
「うん。みんながどんな会話してるかわかんなくて。こういうのジェネレーションギャップとかって言うのかな」
不安の滲む声で。夢叶は机に顔を埋めるようにして呟いた。
「そんなことないよ」
「でも。若い子の会話って言えば誰が好きでかの話以外分かんないから.......」
「それはただ単に、夢叶の会話の引き出しが少ないだけじゃ.......」
「そんなこと言わないでよ!」
俺の言葉に、恥ずかしそうに返事をした夢叶の腕が、こちらに伸びてくる。
白く、細い腕。その先に小さな拳をつくり、俺の腕にコツン、と当てた。
遠慮や照れといった感情が混ざっているような。戸惑いの接触だった。
それだけの行動で。机に顔を埋めたまま、耳まで赤くした夢叶。何だか小動物のようでとても可愛らしくて、愛らしくて。俺もそっと手を伸ばした。
伸ばした手を夢叶の頭の上に乗せて、ゆっくりと頭を撫でた。はじめて触れた夢叶の髪は、想像以上に柔らかくてサラサラだった。
「もぅ。恥ずかしいよ」
「ごめん。やめた方がいい?」
「うんん。もうちょっとしてて」
甘えるような声でねだられた。先生の姿とは違う。余りに可愛らしい姿に、キュンとする。
きっとこれは俺しか知らない姿なんだ。こんなの姿見せられると、もっともっと好きになっちゃう.......。
それからしばらく頭を撫でていると。
「気持ちよくて、名残惜しいけど。いつまでも撫でてて貰うわけにもいかないし、もう大丈夫だよ」
本当に名残惜しそうな声色だったから。いつまでも撫でるよ、と言いたいけど。夢叶があのように言ったんだ、これ以上は夢叶に迷惑がかかるかもしれない。そう思い、言葉を飲み込むと。
「それじゃあ、連絡先交換しよっか」
夢叶はがばっ、と体を起こし、スマホの液晶画面を見せながら告げた。
「あ、そうだった」
夢叶の隣座り、話して、頭を撫でて。それだけで嬉々としていて、本来の目的を忘れていた。
「もぅ。1番大事なことだよ?」
「ごめん」
スマホのロックを解除しながら、夢叶は頬を膨らませた。
でも、本来の目的を忘れるくらいに。夢叶の隣の席は夢みたいだったんだよ.......。
「はい。これ読み取って」
差し出されたのはLINEのQRコードだ。俺はそれを読み取った。瞬間、スマホが震えて、【夢叶】という名のアカウントが表示される。
「登録したよ」
「ありがと。これで、毎朝モーニングコールできるね」
スタバのコーヒーを撮ったものがプロフィール画像となっている、夢叶のアカウント。
先生と直接LINEが出来る。それを想像するだけで、楽しみで楽しみで仕方がない。
「俺からも電話できるし」
「それはすごく楽しみだなぁ。待ってるよ?」
「待っててよ」
その瞬間、不意に教室の入口から声が飛んできた。
「南先生。何をしておられるのですか?」
「あ、えっと.......。私が担任をしている生徒を見つけたから少し話していました」
「そうですか」
低く渋い声。どこかで聞いたことがあるような、嫌気がするような男性の声。
俺のよく知らない先生だから、多分俺たちの2年生を担当している先生では無いのだろう。男性教師は夢叶の言い訳に納得した様子は見せなかったが、それでもそれ以上何かを言うことは無く、俺たちに背を向けた。
「あ、そうだ」
その時だ。そう言葉をこぼしてから、男性教師は再度、俺たちを見た。いや、違う。鋭い視線を俺にぶつけている。
一体何の用だ?
俺はこんな先生知らないぞ。
「補習の終わった生徒は速やかに帰るように」
「す、すいません」
教師とは思えない凄みだった。その勢いに呑まれるように、謝罪を口にすると。男性教師は鼻を鳴らして、今度こそ教室から立ち去って行った。
「私のせいでごめんね」
「夢叶のせいじゃないよ。残ってた俺も悪いし」
最後の最後に。あの訳の分からん教師のせいで、いい気分だったのが台無しだ。
「もう何か言われるのも面倒だし、俺はそろそろ帰るよ」
「私もその方がいいと思う」
少し入口付近を気にした様子を見せてから、夢叶もそう言った。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
再開の約束を取り付けて。俺たちは互いに柔和な笑顔を浮かべて。
ふわふわした気分で別れたのだった。
席に座ったまま、大きく背伸びをする。ようやく、3教科の補習が終わったのだ。まだ1日目だが、もう十分だ。そう思えるくらい、疲れた。
これが5日間――
月から金まで毎日あるのだ。遅刻をすれば、更にそこから追加されていく。
だから絶対に遅刻するわけにいかないんだ。
「朝起きれるかな」
3教科目英語の補習を受けた教室で、俺は独りで呟く。数人一緒に補習を受けていた生徒たちは、終わると同時に教室を出て行った。今日の補習が終わりの者もいれば、次の補習の教室へと向かった者もいる。
朝起きれなかったら、夏休み終わりまで補習ってことになる。それだけは避けたいけども。
気分はすっかり夏休み。朝早く起きる、という気分にはなれない。
嫌だけど、亜沙子に頼むかな。
そんなことを考えながら、俺はカバンを肩に掛けて立ち上がる。その時だ。
「私が起こしてあげよっか?」
そんな言葉が教室の入口から飛んできた。
「ゆ、夢叶先生!?」
「こら、2人の時はそうじゃないでしょ?」
あまりに突然の登場に驚き。扉の方を見ながら、俺は思わず慣れ親しんだ呼び名が口をついた。
すると、夢叶は口先を尖らせて。拗ねたような口調で告げる。
今までにあまり見た事のない姿が見られた。それだけでも嬉しくて、胸が弾む。
「ご、ごめん。夢叶」
謝罪し、彼女を呼び捨てで呼ぶと、夢叶は満足気な表情を浮かべて俺に歩み寄ってくる。
「でも、どうしてここに? 歴史の補習は?」
「この時間は受ける生徒がいなかったから」
俺らの学校の補習は、毎時間。自分が好きな教科を担当の教室へ受けに行くことができるのだ。
それゆえ、受講生徒がゼロで担当先生が暇になるという事象が起こったりするのだ。
「それで、私が毎朝起こしてあげよっか?」
試すように。グイッと顔を近づけてくる夢叶。今まで、ずっと抑えていたのだろうか。それくらいに、夢叶の行動は大胆で、俺の心をドキドキさせてくれる。
俺もそんな行動が出来るようになりたい。だけど、それは難しい。思春期特有の恥ずかしさが、行動に制限を設けてくるのだ。
「そんなこと出来たら最高だけど。物理的に難しいでしょ?」
「文明に感謝よ。ほらっ、これがあるでしょ」
言葉を紡ぎながら、夢叶はスカートのポケットからスマホを取り出した。
「あ。俺ら付き合ってるのに、お互いの連絡先も知らないんだ」
「そうだよー!」
「夢叶、連絡先教えてよ」
「最初からそのつもりだった」
精一杯の誘い言葉を吐いて。俺は自分のスマホを取り出した。これでいつでも夢叶と連絡を取れる。そう考えるだけで、喜びが心を打つ。
全身が歓喜に包まれた俺は、今から何をすればいいのか考える。だが、あまりの嬉しさに頭が真っ白になり、何をすればいいのか分からなくなる。
「稜くん、絶対テンパってるでしょ?」
「そ、そんな事ないよ」
いや、テンパってるけど。好きな人の前でかっこ悪い所を見せたくない。これまでに見せて来たかもしれないけど、これ以上は見せたくなかった。
彼氏になった今。彼女である夢叶にはかっこいい姿だけを見せたいんだ。
「じゃあさ、とりあえず座ってよ」
夢叶の登場に、どんな振る舞いをすればいいのか分からなくて、立ち尽くしたままになっていた俺。そんな俺に夢叶は、先程まで座っていた椅子に座るように促した。
連絡先を交換するために、どうして座るのか。立ったままでもできるのではないのか。
そんなことを思ったが、楽しげな表情で、俺が座るのをワクワクしながら待っている夢叶に。
そんなことを言えるわけもなく。俺は椅子に腰を下ろす。
「そのままでちょっと待ってね」
一体全体何を始めるのか。
夢叶の思考を読もうにも、全く分からない。
いつかは夢叶の行動の意味が分かる。そんな男になりたいな。
そんな決意を心に抱く間に、夢叶は俺の隣の机を持ち上げた。そして、そのまま俺の前にある机に引っ付けて、並べた。
「えへへ」
恥ずかしそうな。それでいて楽しそうな。そんな笑顔を浮かべて、夢叶は椅子を引っ張り、俺の隣に並んで座った。
「これで隣の席だね」
「もし、夢叶が同級生だったらこんな感じだったのかな」
不意に口をついた。隣に座る彼女が可愛くて、胸がドキドキして。何かを話した訳でもないのに、自然と笑みがこぼれる。
「そうだねー」
そう言いながら、夢叶は机上に手を伸ばし、体を伸ばした。
その状態のまま、俺の方を見て静かに言う。
「隣の席から見る稜くんは、こんな感じなんだね」
「いつもは前からしか見ないもんなぁ」
「うん。新鮮だよ」
新たな一面を見ることの出来た嬉しさと、この姿は今しか見れない。それが分かっているのだろう。夢叶の言葉には喜びと悲しみが混在しているように感じられた。
「俺も新鮮だよ」
髪で隠れる頬。その隙から僅かに覗く雪のように白い肌。
瞳は前方を朧気に捉えている。
いつもはハッキリと顔が見え、しっかりと開いた瞳で俺ら生徒を見ている。
だから。そのギャップに心打たれて、魅入られてしまう。
「稜くんはさ、将来なりたいものとかある?」
「それは先生として話してる?」
俺がそう訊くと、夢叶は何度か瞬きをしてから、慌てたように言った。
「ち、違うよ?」
「違うのか」
「うん。みんながどんな会話してるかわかんなくて。こういうのジェネレーションギャップとかって言うのかな」
不安の滲む声で。夢叶は机に顔を埋めるようにして呟いた。
「そんなことないよ」
「でも。若い子の会話って言えば誰が好きでかの話以外分かんないから.......」
「それはただ単に、夢叶の会話の引き出しが少ないだけじゃ.......」
「そんなこと言わないでよ!」
俺の言葉に、恥ずかしそうに返事をした夢叶の腕が、こちらに伸びてくる。
白く、細い腕。その先に小さな拳をつくり、俺の腕にコツン、と当てた。
遠慮や照れといった感情が混ざっているような。戸惑いの接触だった。
それだけの行動で。机に顔を埋めたまま、耳まで赤くした夢叶。何だか小動物のようでとても可愛らしくて、愛らしくて。俺もそっと手を伸ばした。
伸ばした手を夢叶の頭の上に乗せて、ゆっくりと頭を撫でた。はじめて触れた夢叶の髪は、想像以上に柔らかくてサラサラだった。
「もぅ。恥ずかしいよ」
「ごめん。やめた方がいい?」
「うんん。もうちょっとしてて」
甘えるような声でねだられた。先生の姿とは違う。余りに可愛らしい姿に、キュンとする。
きっとこれは俺しか知らない姿なんだ。こんなの姿見せられると、もっともっと好きになっちゃう.......。
それからしばらく頭を撫でていると。
「気持ちよくて、名残惜しいけど。いつまでも撫でてて貰うわけにもいかないし、もう大丈夫だよ」
本当に名残惜しそうな声色だったから。いつまでも撫でるよ、と言いたいけど。夢叶があのように言ったんだ、これ以上は夢叶に迷惑がかかるかもしれない。そう思い、言葉を飲み込むと。
「それじゃあ、連絡先交換しよっか」
夢叶はがばっ、と体を起こし、スマホの液晶画面を見せながら告げた。
「あ、そうだった」
夢叶の隣座り、話して、頭を撫でて。それだけで嬉々としていて、本来の目的を忘れていた。
「もぅ。1番大事なことだよ?」
「ごめん」
スマホのロックを解除しながら、夢叶は頬を膨らませた。
でも、本来の目的を忘れるくらいに。夢叶の隣の席は夢みたいだったんだよ.......。
「はい。これ読み取って」
差し出されたのはLINEのQRコードだ。俺はそれを読み取った。瞬間、スマホが震えて、【夢叶】という名のアカウントが表示される。
「登録したよ」
「ありがと。これで、毎朝モーニングコールできるね」
スタバのコーヒーを撮ったものがプロフィール画像となっている、夢叶のアカウント。
先生と直接LINEが出来る。それを想像するだけで、楽しみで楽しみで仕方がない。
「俺からも電話できるし」
「それはすごく楽しみだなぁ。待ってるよ?」
「待っててよ」
その瞬間、不意に教室の入口から声が飛んできた。
「南先生。何をしておられるのですか?」
「あ、えっと.......。私が担任をしている生徒を見つけたから少し話していました」
「そうですか」
低く渋い声。どこかで聞いたことがあるような、嫌気がするような男性の声。
俺のよく知らない先生だから、多分俺たちの2年生を担当している先生では無いのだろう。男性教師は夢叶の言い訳に納得した様子は見せなかったが、それでもそれ以上何かを言うことは無く、俺たちに背を向けた。
「あ、そうだ」
その時だ。そう言葉をこぼしてから、男性教師は再度、俺たちを見た。いや、違う。鋭い視線を俺にぶつけている。
一体何の用だ?
俺はこんな先生知らないぞ。
「補習の終わった生徒は速やかに帰るように」
「す、すいません」
教師とは思えない凄みだった。その勢いに呑まれるように、謝罪を口にすると。男性教師は鼻を鳴らして、今度こそ教室から立ち去って行った。
「私のせいでごめんね」
「夢叶のせいじゃないよ。残ってた俺も悪いし」
最後の最後に。あの訳の分からん教師のせいで、いい気分だったのが台無しだ。
「もう何か言われるのも面倒だし、俺はそろそろ帰るよ」
「私もその方がいいと思う」
少し入口付近を気にした様子を見せてから、夢叶もそう言った。
「じゃあ、また明日ね」
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