1 / 7
いつもと違う彼女
しおりを挟む「いらっしゃいませ」
自動ドアが開き、コンビニの中にお馴染みのお客さんが入ってくる。
深夜という時間帯に合う、テンションの抑えられた抑揚のない挨拶。いや、ただ店員が眠たいだけかもしれない。
「こんばんは、いつもおつかれさまです」
深夜帯とは思えないほどの明るいテンションで、レジに立つ男性に声をかける女性。
少し大きめの、ダボッとした白色の服。白い生脚が覗く短パン。
「あはは、ありがとうございます」
これで4日連続。もう顔馴染みになってしまっている名前も知らない女性に、乾いた笑みを浮かべる。
「田原さんっていつもいますね」
「お客さんこそ、毎日来ますね」
名札を一瞥して男性の名前を呼ぶ女性に、男性-田原さんは口角を釣り上げる。
「まぁね」
整った顔に笑顔を浮かべ、女性は頬をかく。そして、いつもと同じように菓子類が並べてある棚の前に立つ。
ミルクチョコレート、たけやりの里、ポテチを手に取る。いつも通りの3点だ。
もう来るぞ。
田原は佇まいを正し、女性が来るのを待つ。だが、女性はレジに向かうのではなくその奥、店の最奥に並ぶ冷蔵庫の前に立った。そこには大量の飲料水がある。女性はその中で1番左端にあるアルコール飲料の冷蔵庫の扉を開けた。
あれ? あの人、二十歳超えてるのかな。
そんな疑問を抱きながら、田原は女性がレジに来るのを待つ。
「はーい、これでお願いします」
いつもの3点プラス、缶にふるよいと品名が書かれたチューハイをレジの上に置く。
「お酒とか飲むんですか?」
「ぐいぐいいっちゃうよー」
ぐいぐいって。ふるよいって、アルコール度数3パーセントの極弱チューハイなんだけどな。
そんなことを考えながらふるよいを打つと、機械的な声で、年齢確認をするようにと言われる。
「いちおう年齢確認が出来るものの提示をお願いできますか?」
外見的には18歳と言われても違和感がない。
「えぇー、必要?」
「ルールですから」
大きな漆黒の瞳が田原を覗き込む。田原にとっては女子とは陰口が半端なくて、怖い人間という認識なので、そのような行為を行われ思わずたじろいでしまうが、規則、という大きな盾のおかげで平静を装うことが出来た。
「ルール、ルールって、ほんとにいちいちめんどくさいわねー」
眉間に皺を寄せ、短くため息をつく女性に田原は囁くような声で「すいません」と呟く。
「別にいいわよ」
そう言いながら、女性は財布の中から学生証を取り出した。そこにはどこかのモデルだと言われても信じることができるほど美しい女性の証明写真と共に山下海春という名前が飛び込んでくる。
「えっと、はい。大丈夫ですね」
生年月日の欄に1998年6月23日の表示がある。今は2018年の8月10日なので、もう20歳は超えている計算になる。
「あぁ、これで歳も名前もバレちゃったよ」
口調とは裏腹に、照れが見えない海春はいたずらっぽく舌先を覗かせる。その姿に少し見蕩れてしまった田原は顔が赤らんだのを自覚する。それを隠すように、田原は海春から目を逸らし商品の袋詰めを始める。
「あれあれ? もしかして、照れちゃってる?」
そのことに気づいた海春は楽しそうに、そんな声をかける。
「ち、違いますよ。いまは仕事をしてるんです」
「ちぇ、つまんないの」
「仕事って、そんなものですよ」
レジ袋に商品を詰め終わった田原は、顔の火照りが冷めたのを確認してから顔を上げ、
「489円となります」
と告げる。
「んー、細かいのあるかなー」
店内には予め収録してある、全店舗で実施中のコラボ商品を宣伝する台詞が永遠と流れている。同じ台詞しか流れないので、眠たくなる。それを回避させるように、海春は田原に話しかけ、時折先程のような独り言を呟く。
「ないや」
そう呟き、海春は財布の中から500円玉を取り出す。
「11円のお釣りとレシートです」
500円を受け取り、レジに入れると自動的に11円が内部から排出される。昔は計算まではしてくれていたが、お釣りまで出てくることは無かった。しかし、今ではそれが当たり前のようになっており、お釣りの渡し間違えなどはほとんどないに等しいと言えるだろう。
「はいはい、ありがとね」
お釣りを受け取った海春はそう言い、レジ袋を片手に提げてレジに背を向ける。
──あぁ、これから退屈になるな。
海春の背を見てそんなことを思った田原。その瞬間だった。
「田原くんって今、学生?」
「へっ?」
あまりに唐突に訊かれたためか、田原は声を裏返し、情けない声で情けない音をはじき出す。
「だーかーらー! 田原くんは学生なのって」
くるりと回転し、少し顔を突き出す。頬をほんの少し膨らませた海春の顔は、美しいなんて言葉では言い尽くせない美しさがあった。
「そ、そうだけど」
どうにか絞り出した言の葉で田原は紡ぐ。それを聞いた海春はどこか嬉しげに、小さく微笑み、「一緒だね」とだけ告げてから、コンビニから去った。
「一緒、か……。大学名まで見ておくんだったな」
誰もいなくなった店内で、田原は小さく落胆の声を零すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました
田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。
しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。
だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。
それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。
そんなある日、とある噂を聞いた。
どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。
気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。
そうして、デート当日。
待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。
「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。
「…待ってないよ。マイハニー」
「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」
「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」
「頭おかしいんじゃないの…」
そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる