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アクティブプールに遊ばれるぼく。
しおりを挟む「どこ行くー?」
わくわくを隠しきれていない海春は、プール全体を見渡しながら田原に訊く。どこを見ても人のいるこの状況にうんざりしている、などと微塵も思っていないであろう海春に、田原は「どこでも」と答える。
「どこでもはダメだよー! せっかく来たんだから、2人で楽しまないと意味ないよ!」
意気揚々に言いきる海春に、明らかにテンションの差が見られる田原は静かに答える。
「2人で来たけど、実質連れてこられたんだけどね」
「そんなこと言わないの! で、どこいく?」
どこかのプールには行くことになるのだ。それなりに探してみようか、と再度プール全体を見渡した。
「マジで人多いんだけど」
来た時にも感じたことが、再度口をつく。夏休み真っ最中、ということもあり、空いているプールなどどこにもない。
家族連れや、友だち同士、カップル。色んな組み合わせの人たちが、楽しそうに笑顔を浮かべている。
「そうだねー」
「ちなみに、山下さんはどこに行きたいの?」
最初は面倒臭いな、そう感じていた田原だった。しかし、水着に着替え、海春の、周囲の楽しそうな雰囲気にあてられ、徐々にテンションが上がりつつある。
「そうだねー。私はアクティブプールがいいかなー」
「アクティブプール?」
「そうそう!」
聞き馴染みのないプールに、疑問符を浮かべる田原に、海春は水上に小さな浮き島が幾つも並べられているプールを指す。
「アスレチック的なあれがプール……」
泳ぐとかそういった概念を完全に無視したプールに、プールの意味を思い起こす田原。口元に手をやった海春は、それを楽しそうに見る。
「完全に遊ぶようだからね。それに、危険だから小さい子は入れないようになってるの」
「なぜそんなもの作る」
「そりゃあ、楽しいから?」
答えになっていないような答えを口にする海春。だが、海春の言った通り、あのプールにだけは小さな子はおらず、いるのは少し活発的な雰囲気の男子グループと、イチャつくカップルくらい。
「まぁ、じゃあ行ってみるか」
入口付近で突っ立つためにここまで来たわけではない。田原は頭を掻きながら、ぽつりと零す。海春は口角を釣り上げ、わかりやすい笑顔を見せた。
「な、なんだこれ」
アクティブプールにやってきた2人。田原はそこでそんな言葉を洩らした。それは、アクティブプールが遠くから見るよりも、本格的にアスレチック要素の強いものだったからだ。
まずプールには、入る順番などない。プールサイドから、自分の入りやすいところで入るというのが普通だ。だが、アクティブプールに限ってはそうではないらしい。
順序、というのがあるらしい。そして一番となっている場所には、少しだが列まで出来ている。
「プールって並んで入るものじゃないよな?」
「そうだねー」
「これ、どう見ても並んでるよな?」
「並んでるねー」
田原の驚きとはよそに、海春は知っていたかのような顔をしている。
「知ってたな……」
「あはは、まぁねー」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべるも、先に見えている浮き島に興味がいっているのは言わずともわかる。
「僕と来る必要あった?」
「周り見て察してよねー」
口先を尖らせ、ムッとする海春に、田原は眉をひそめる。なぜ自分なのか、本当に分かっていないのだ。それを見た海春は、ため息をつき口を開く。
「女子のグループっている?」
そう言われ、再度周りを見渡す田原。
「あ、言われてみれば女子だけのグループいないな」
きゃっはうふふするのを目的として来ている女子だけのグループは、わざわざアスレチック風味をしなくても良い。こういうのは、どちらかと言えば、子ども心の残る男子や、イチャイチャしたいカップルがするもの、というのがプール全体の認識らしい。
「私、やってみたくって」
「プールに来た理由と、男子が必要な理由はわかったけど、なぜ僕なのかは分からない」
「細かいことはいーの!」
確実に触れられたくないのだろう。海春はあからさまに話を終わらせた。そうしているうちに、浮き島を渡る順番がやってくる。
「さぁ、行った行った!」
海春は楽しそうに田原の背中を押す。だが、そう簡単に行けるものではない。前に並んでいた人たちは、誰を見ても運動神経の良さそうな雰囲気の人たちだった。しかし、誰一人として八つほど並ぶ浮き島を渡りきれていないのだ。
「きついだろ」
怖いわけではない。ただ、なぜか海春にカッコ悪い姿を見せたくない、と思ってしまうのだ。
「大丈夫だってー!」
海春はそう言うが、そんなわけが無い。落ちた人たちによって巻き上げられた水滴が、浮き島に付着しており、ただでさえ不安定な足場に、滑りやすいという条件が加えられているのだ。
「そ、そう言うが……」
浮き島一つ一つの距離は約1.5メートル。大股ではいけない、かといって全力で飛べば越してしまう。絶妙な距離感。
「後ろつかえてるよ!」
そんな田原の葛藤など露知らず、海春は後ろでけたけた笑っている。
田原は意を決し、一つ目の浮き島に足をかける。
──な、なんだ!?
とてつもなく滑りやすい足場に、田原は目を見開く。浮き輪などよりも滑りやすい素材である上に濡れていることも加え、踏ん張りなど効くわけがない。だが、既に足を掛けてしまっているため後戻りすることもできない。
「くっ」
険しい表情を浮かべ、へっぴり腰で次の浮き島を視界に収める。
「あはは、ちょー面白いんだけど。ちょっと、その腰は反則だよ」
そんな田原の後ろで、周りの目もあると言うのに、気にした様子もなく大声で笑う海春。
だが、振り返りツッコミを入れる余裕もない田原は、顔を赤らめなるだけで何も言わない。
そして、次の浮き島目掛けて軽く飛ぶ。
肌に触れる水分をたくさん含んだ空気。それを感じながら、2番目の浮き島に着地する。着地と同時に、踏ん張れない足場に滑り、足の自由を奪われる。
「うわぁぁぁ」
情けない声が出る。それを聞いた海春は、後ろで大爆笑をしている。覚えてろよ、そんなことを思いながらも、バランスをとるため、必死に体を前後左右に動かす。
しかし、その努力は実ることはなかった。ツルツルと滑りやすい足場に足を取られ、田原は右足は右方向へ、左足は左方向へ、開脚をするように足が流れる。
「いたいたいたいたいたいッ」
元々体の柔らかくない田原は死にも近い思いの丈を悲鳴に乗せる。だが、それも虚しく笑い声だけが耳朶を打ち、田原はそのままプールに落ちるのだった。
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