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戸惑い
02
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「気がついた?」
保健室の先生が声をかけてきた。
そう、俺は【この女性】が、保健室の先生だと理解できている。
「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」
そう笑った俺をみて、先生もほっとした様子だ。
「貧血だと思うけど、もし、また体調が悪いようなら病院に行ってね」
「はい」
そう言えば、授業が終わって立ち上がった瞬間、クラっとした記憶がある。
「もう授業終わってるから、帰っていいわよ」
「ありがとうございました。失礼します」
ベッドから出て、頭を下げて部屋をでる。
人気がまばらな廊下を歩きながら、教室に向かう中、頭の中を整理し始めた。
名前は…佐々木マユキ。
17歳、高校二年生。
父、母、小学生の妹と、ごくごく普通の家庭に産まれた。
そして、平凡で幸せなまま育てられた…記憶がちゃんとある。
なのにだ。
俺は、勇者クラウドとしての意識があるのだ。
さっきまで、刺されて感じていた痛みが、リアルに思い出せる。
「どういう事だ?」
俺、クラウドの人格、マユキとしての人格…二つが一つとして人間を作り出していた。
「マユキちゃん!」
ぐるぐると色んな考えが頭を駆け巡るなか、向かい側から声がした。
「あっ、ひめ…じゃない、ユメ…ちゃん?」
「ちゃん…?」
「あ、ううん。来てくれたんだね、ユメ」
一瞬、不思議そうな表情をしたが、言い直した俺にホッとしたように微笑んだ。
彼女は、ユメ。
高校に入ってから知り合った、【マユキの】親友だ。
「似てるなぁ…」
本当にそっくりだ。
俺の愛した姫に。別人だと思えないほど、愛らしい見た目も、優しい声も…姫と同じだ。
「ん?」
「いえ、何でもないです。じゃない、何でもないよ」
この場合、俺はマユキとして振る舞うべきなのだろう。
この世界で、【俺】を知るものはいない。【私】の育った世界。
ふと、廊下の窓に映った自分と目があった。
長い黒髪を一つに結び、少し気の強そうな目元をした女性。自分ではないのに、でも自分であると、なんとも言えない感覚が襲う。
「大丈夫?まだ体しんどい?」
心配そうに顔を覗きこんで来るユメに、少し泣きそうな気分になる。
「大丈夫だよ」
姫じゃないんだ。姫は居ないんだ。
「二人とも、そんな所でなにをしてるんだ?」
悲しくなって、流れそうな涙を飲み込んだ所で、後ろから声がした。
「ああ、タツヤ。さっきはありがとう」
そこに立っていたのは、先ほど俺を保健室に連れていってくれた男、タツヤが立っていた。
マユキとしては、中学からの友達だ。
「いいよ。それより、頭打って混乱してたみたいだったけど、大丈夫なんか?」
ポンポン。と、俺の頭を撫でながら、頭一つ高いところから心配そうに見てくる。
今の、男の意識が強い俺にとっては、この身長差は少しムカつくところである。
「大丈夫!寝ぼけてたのかも」
ははっと笑いながら、頭に置かれた手を、軽く払った。
「そうか…」
少しタツヤが悲しそうだったのは、気のせいだろうか?
「あ、そうそう。鞄持ってきたんだ。もう帰れるだろ?送っていこうか?」
「じゃあ、私も!!」
「ううん、大丈夫大丈夫。一人で帰れる」
「でも…」
「ありがとう!また明日!」
鞄を素早く奪い、無理にでも送って行きたそうな二人をおいて、さっと急いで帰る。
後ろでまだ何か言っているのを感じながら、俺は走って家に向かうのだった。
保健室の先生が声をかけてきた。
そう、俺は【この女性】が、保健室の先生だと理解できている。
「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」
そう笑った俺をみて、先生もほっとした様子だ。
「貧血だと思うけど、もし、また体調が悪いようなら病院に行ってね」
「はい」
そう言えば、授業が終わって立ち上がった瞬間、クラっとした記憶がある。
「もう授業終わってるから、帰っていいわよ」
「ありがとうございました。失礼します」
ベッドから出て、頭を下げて部屋をでる。
人気がまばらな廊下を歩きながら、教室に向かう中、頭の中を整理し始めた。
名前は…佐々木マユキ。
17歳、高校二年生。
父、母、小学生の妹と、ごくごく普通の家庭に産まれた。
そして、平凡で幸せなまま育てられた…記憶がちゃんとある。
なのにだ。
俺は、勇者クラウドとしての意識があるのだ。
さっきまで、刺されて感じていた痛みが、リアルに思い出せる。
「どういう事だ?」
俺、クラウドの人格、マユキとしての人格…二つが一つとして人間を作り出していた。
「マユキちゃん!」
ぐるぐると色んな考えが頭を駆け巡るなか、向かい側から声がした。
「あっ、ひめ…じゃない、ユメ…ちゃん?」
「ちゃん…?」
「あ、ううん。来てくれたんだね、ユメ」
一瞬、不思議そうな表情をしたが、言い直した俺にホッとしたように微笑んだ。
彼女は、ユメ。
高校に入ってから知り合った、【マユキの】親友だ。
「似てるなぁ…」
本当にそっくりだ。
俺の愛した姫に。別人だと思えないほど、愛らしい見た目も、優しい声も…姫と同じだ。
「ん?」
「いえ、何でもないです。じゃない、何でもないよ」
この場合、俺はマユキとして振る舞うべきなのだろう。
この世界で、【俺】を知るものはいない。【私】の育った世界。
ふと、廊下の窓に映った自分と目があった。
長い黒髪を一つに結び、少し気の強そうな目元をした女性。自分ではないのに、でも自分であると、なんとも言えない感覚が襲う。
「大丈夫?まだ体しんどい?」
心配そうに顔を覗きこんで来るユメに、少し泣きそうな気分になる。
「大丈夫だよ」
姫じゃないんだ。姫は居ないんだ。
「二人とも、そんな所でなにをしてるんだ?」
悲しくなって、流れそうな涙を飲み込んだ所で、後ろから声がした。
「ああ、タツヤ。さっきはありがとう」
そこに立っていたのは、先ほど俺を保健室に連れていってくれた男、タツヤが立っていた。
マユキとしては、中学からの友達だ。
「いいよ。それより、頭打って混乱してたみたいだったけど、大丈夫なんか?」
ポンポン。と、俺の頭を撫でながら、頭一つ高いところから心配そうに見てくる。
今の、男の意識が強い俺にとっては、この身長差は少しムカつくところである。
「大丈夫!寝ぼけてたのかも」
ははっと笑いながら、頭に置かれた手を、軽く払った。
「そうか…」
少しタツヤが悲しそうだったのは、気のせいだろうか?
「あ、そうそう。鞄持ってきたんだ。もう帰れるだろ?送っていこうか?」
「じゃあ、私も!!」
「ううん、大丈夫大丈夫。一人で帰れる」
「でも…」
「ありがとう!また明日!」
鞄を素早く奪い、無理にでも送って行きたそうな二人をおいて、さっと急いで帰る。
後ろでまだ何か言っているのを感じながら、俺は走って家に向かうのだった。
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