悪役令息(仮)の弟、破滅回避のためどうにか頑張っています

岩永みやび

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6歳

156 準備

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「すんごく大きいケーキを作ってくださぁい! ぼくより大きいケーキ! 天井に届くくらいの感じでお願いしまぁす」
「そういうのはちょっと」
「ダメ! 作ってください」

 今日もぼくは大忙しである。

 間近に迫ったぼく六歳のお誕生日パーティーの準備にわたわたしていた。ロルフが全部準備すると言ってくれたけど、いまいち信用できないのでぼく自ら準備に奔走することとなった。

 ロルフはぼくのはちみつこっそり食べちゃうくらいの甘いもの好きである。ぼくの目の届かないところで、ぼくに内緒でつまみ食いとかしちゃうかもしれない。油断ならない相手なのだ。

 今日は朝から料理長相手に戦っている。

 パーティーのメインでもある大きいケーキを作ってくださいとお願いしているのだが、料理長は「そんなに食べられないでしょ」と渋ってしまう。なにを言うのか。ぼく、ケーキならいくらでも食べられます。

「お客さんたくさん招待しました。小さいケーキだと、ケーキをめぐって争いが生じます。ライアンとリオラお兄様がケーキを取りあって喧嘩しちゃうかもしれません。そしたらどうしてくれるんですか!」
「リオラ様と副団長殿はそんな醜い争いはしません」
「するもん! ケーキをめぐってバチバチバトルするもん!」
「しません」

 手強い料理長は、こんな感じでぼくの提案をことごとく却下してくる。

 地団駄を踏んでやるけど、料理長は動じない。仕方なくロルフの袖を引いて「大きいケーキがいいよね?」と確認しておく。ロルフは甘いもの好きらしいので、ぼくの提案に賛成してくれるはずである。思った通り「ケーキは大きければ大きいほどいいですね」とふむふむ頷くロルフは実にわかっている。

 にこっと笑って「だよね」と同調しておく。そうしてロルフと一緒にのんびり笑っていたのだが、料理長がロルフを見てわざとらしい咳払いをした。そのままロルフのことを半眼で見つめる料理長。ロルフがビクッと肩を揺らした。

「あー、いやでも。あんまり大きくても残っちゃいますからね。常識の範囲内で」
「なんと!」

 突然の裏切りに、びっくりして大きな声を出しちゃう。口元を覆ってロルフを見上げるが、彼はぼくから微妙に視線をずらしている。どうやら料理長にビビって弱気になってしまったらしい。料理長は、たくましい体躯だ。大きな鍋だってひとりで運んじゃうくらい屈強だ。だから見た目はちょっと怖い。騎士団に混じっていても違和感はない。ロルフはそれにビビっているらしい。

「料理長は、もうちょっと筋肉ないほうがいいと思います。ロルフが怖がっています」

 よかれと思って指摘するが、逆にロルフが慌ててしまう。すんと真顔になる料理長は「意外と力仕事ですからね」と肩をすくめた。

 たしかに。料理長は毎日たくさんの料理を作っている。ぼくやお兄様の分はもちろん。オルコット公爵家が所有する私営騎士団の騎士たちの食事も作っている。もちろん料理人もたくさんいるけど、みんなをまとめる料理長は責任重大だ。

「料理長。毎日たいへんですね」
「私の苦労を理解していただけますか」
「うむ。たいへんな料理長に、ご苦労させるわけにはいきません。ぼくは気遣いのできる六歳なので。そう、ぼくはこの間から六歳をやっています。五歳は卒業しました」
「おめでとうございます」

 雑にお祝いしてくれる料理長。
 腰に手を当てて、ぼくは仕方がないと頷く。

「なので、ぼくはお野菜遠慮します。料理長のために」
「なにが私のためになっているんですか?」
「お料理作るの大変。ぼく、お野菜遠慮したら、料理長らくになる」
「なりません」

 腕を組んでぼくを見下ろしてくる料理長は「むしろアル様の分を別で用意するという手間が生じます」と言い返してくる。

「そんなぁ。六歳児ががんばって気を遣っているのです。少しはぼくに気を遣ってください」
「無理ですね」

 ひどい。
 悲しくなってロルフを見上げれば「アル様! お気を確かに!」と励まされてしまう。大丈夫。ちょっとショックだけど、ぼくは元気。

 どうしてもぼくにお野菜食べさせたい料理長はひどい人である。でも美味しいおやつも作ってくれるので、そこは感謝している。

「じゃあ料理長もパーティーにご招待します。ケーキを作ってくれるお礼に、特別にプレゼントは免除します」
「はぁ、どうも」

 ぼんやり頷く料理長は、「もういいですか? 忙しいので」と言いながら厨房の奥へと引っ込んでしまう。結局大きいケーキは作ってくれないの? 悲しい。

 でも美味しいお菓子をたくさん作ってくれると言っていた。すごく楽しみである。

 あとは会場の飾り付けもしないといけない。
 ぼくを祝うためのパーティーだけど、主催者はぼくだから。ロルフが全部手配してくれると言ってくれたけど、お客さんのおもてなしのために、やっぱりぼくが自分で用意するべきだと思う。

「ここら辺に、きらきらの石を並べます。こっちには、ぼくが描いた絵を飾ります」
「さすがアル様! いいと思います!」

 ぱちぱち拍手してくれるロルフに、得意になって胸を張っておいた。
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