聖女召喚に巻き込まれた単なるアイドルですが異世界で神と崇められています。誰か聖女を止めてくれ

岩永みやび

文字の大きさ
41 / 51

41 人の話はよく聞け

「ん? ということは」

 雪音ちゃんの部屋にて、先程ぶん投げたイヤーカフを見つめる。あれのせいで俺の居場所がマルセルに筒抜けということはだ。

 さっと顔を青くする俺に代わって、雪音ちゃんが「もうここに居るってバレてますよね?」と嫌な事実を突きつけてくる。

 そして、タイミングを見計らったかのように響いたノックの音。

「俺はいないって言って!」
「え……! わ、わかりました」

 すかさず、雪音ちゃんの護衛である茶髪青年にお願いすれば、彼は冷や汗たらたらで大きく頷いてくれた。大丈夫か? いかにも隠し事してます的な顔してるけど。

 内心でハラハラしつつ、扉から見えない位置へと避難する。なぜか駆け寄ってくる雪音ちゃんと一緒になって、ソファーの後ろへと屈み込んだ。雪音ちゃんは隠れる必要ないでしょうが。

「で、殿下!」
「ミナト様は?」

 緊張しきった青年が、マルセルの対応をしてくれる。こちらは必死に身を隠しているため、マルセルの様子を窺うことは叶わない。けれども、彼が不機嫌であることはわかった。声が低い。

「ミナト様は、えっと、ここには居ないとのことです!」

 居ないとのことですってなに? 大丈夫かよ、あいつ。受け答えが非常に怪しい。なんだか不安になっていると、雪音ちゃんに袖を引っ張られた。

「あの人、騎士としては優秀らしいんですけど。なんかちょっと抜けてて。顔はイケメンなんだけどなぁ」

 こそっと耳打ちしてくる雪音ちゃんは、彼をめぐって苦労したことがあるのだろう。そしてその言葉には、ものすごく説得力があった。

「居ないとのことです? 誰がそう言った」
「ミナト様です!」

 なんの躊躇いもなく馬鹿正直に答えた青年は、やりきったという雰囲気であった。もうダメだ。

 顔を覆う俺を励ますように、雪音ちゃんが肩を叩いてくれる。なにやら扉付近で揉める声がして、こちらへと足音が近付いてくる。絶対にマルセルじゃん。

「ミナト様」

 頭上から降ってくる声は、どう考えてもマルセルのものである。てかおまえ、勝手に聖女の部屋にずかずか入ってくんな。

 せめてもの抵抗で、両手で顔を覆ったまましっかり俯いておく。どうかこのまま、マルセルが諦めて引き返してくれますように。

 そんな願いは、当然叶うはずもなく。

「ミナト様。たまには私の話も、最後まで聞いてください」

 まるで俺が、毎度話を最後まで聞かねぇみたいな言い方しやがる。

 マルセルの顔を見ないように、俯きポーズを保ったまま耳だけ傾けてやる。どうせ別れ話だろ。いや俺ら別に付き合ってはいないけどさ。

「私は、ミナト様のことが好きですよ」
「やめて!」

 なにを言い出すんや、こいつ。
 恥ずかしげもなく言ってのけるマルセルに、思わず顔を上げてしまった。その隙を見逃さないマルセルは、俺の両手を握ると、じっと顔を覗き込んでくる。

「離せよ!」
「ですから。話を聞いてくださいと」
「聞いてるよ! 俺ら別れようって話だろ? 付き合ってはないけどさ」
「違います」

 でもなんかそういう雰囲気の話だろ。なにが好きです、だ。

「お、俺は。その。マルセルのこと結構好きだけど!」
「ありがとうございます」
「話を遮るな!」

 勝手に口を挟んでくるマルセルを精一杯睨みつけてやるが、腹黒王子は涼しい顔である。なんその余裕の笑み。腹立つわ。

「でもマルセルは俺のこと嫌いだろ!」
「好きですって、今言いましたよね? 人の話はきちんと聞いてくださいと、何度言わせるんですか」
「なにキレてんだよ」

 お怒りモードらしいマルセルは、眉間に皺を刻んでいた。だが俺としては怒られる覚えなんてない。むしろ俺に勝手にGPSつけてたことや、俺が人間だと知って顔を覆うというクソ失礼な行動をしたマルセルに対して、俺がキレるべき場面である。

「とにかく俺に謝れよ」

 とりあえず謝罪を要求すれば、マルセルがすんっと真顔になる。なんやその顔。文句でもあんのか。

「何に対する謝罪ですか」
「随分と上から目線の質問だな」

 偉そうなマルセルを睨みつけてやるが、あんまり効果はなさそうだ。仕方がないので、マルセルのやらかした諸々を説明してやれば、彼は黙って聞いてくれる。表情はすごく不機嫌だが。

 そうして、再度謝れと要求すると、マルセルは「そうですか」となんとも微妙な反応を返してくる。

「わかりました。イヤーカフの件については謝罪します。不快な思いをさせてしまい申し訳ない」
「その他の件はどうなった」

 俺の問いかけをまるっと無視して、マルセルは俺のことを引き寄せる。ハグするように背中に手をまわされて、一瞬だけドキッとしたものの、すぐに我に返る。

「なんか、いい感じの雰囲気に無理矢理持っていって、全部曖昧に誤魔化そうとしてないか?」
「……いえ、そんなことは」

 そんなことは? あるんだろ?

 力任せにマルセルの腕から脱出して、距離を取る。そんな俺に、マルセルがムスッとした顔で近寄ってくる。

「カミ様がんばれ」

 反射的に逃げようとしたその瞬間。ものすごく小さな声で、ぼそっと呟かれた応援の言葉に、勢いよく振り返る。

「……雪音ちゃん。いたの?」
「ずっと一緒にいたじゃないですか! え、存在忘れてたんですか!」

 やべぇ、そういやここ、雪音ちゃんの部屋だったわ。
感想 12

あなたにおすすめの小説

また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件

月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。 翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。 「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」 逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士 貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)