異世界転移した俺は今日も保護者の騎士様に甘やかされています

岩永みやび

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番外編

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「イツキくん、楽しかった?」
「うん。ご飯美味しかった」
「それはよかった。兄さんの作るご飯美味しいよね」

 微笑むラーシュは、お兄さんと仲がいいのだろう。

 エミルのお店からのんびり帰る最中、ラーシュはずっと上機嫌だった。仕事終わりに急いで迎えに来てくれたらしい。行きと同じく乗り合い馬車を利用した。

 ガタガタと揺れる馬車が楽しくて視線を動かしていると、あっという間に到着した。

 夜の街は、昼とはまた違った雰囲気だった。
 暗くなってから出かけることはないので、ちょっと楽しい。しきりに顔を動かしていると、苦笑したラーシュが手を繋いできた。

「……イツキくん」
「うん?」

 ゆったり歩きながら、ラーシュがちょっと迷うみたいに言葉を切った。ラーシュを見上げて続きを待っていると、彼が気まずそうに頬をかいた。

「ひとりで留守番するのが嫌なら、兄さんのところに行ってもいいよ。兄さんの言う通り、僕は日中家にいないから」

 そう言うラーシュは、ちょっと苦しそうな表情をしていた。その顔から、今の言葉がラーシュの本心ではないと理解できた。仕事終わりで疲れているのに、わざわざ隣町まで迎えに来てくれたのだ。ラーシュも俺と一緒にいたいと思ってくれていると考えてもいいよね?

「大丈夫。俺、留守番できるから。それにギルドにも行くし、たまにモーリスさんとも会うから」

 完全にひとりで留守番というわけでもない。それなりに知り合いも増えてきたので毎日楽しい。

 そう言って笑うと、ラーシュが安心したように微笑んでくれた。

 帰宅してから、俺はソファに倒れ込んだ。もう眠い。

「イツキくん。寝るなら自分の部屋に行きなよ」
「うーん」

 目元を擦って、身体を起こした。ラーシュはお風呂場へと引っ込んでいったので、リビングには俺ひとり。

 エミルは俺を泊める気満々だったらしく、俺はエミルの家で風呂に入れられていた。というか既に布団に入っていた。エミルはラーシュに似てやや強引なところがあった。布団の中で眠れずに起きていると、一階からエミルの大声が聞こえてきた。降りてみるとラーシュがいたのだ。

 ソファから立ち上がって、キッチンに向かう。

 喉が渇いたので水を飲んでいると、ラーシュがやって来た。

「イツキくん。もう寝なよ」
「うん、寝る」

 僕、明日も仕事だからと苦笑するラーシュは、俺の隣にやって来てグラスを手にした。今日も一杯やるのだろうかと眺めていると、目が合ったラーシュが手を伸ばしてくる。

「うわ、ちょっと」

 なんだかちょっぴり雑に頭を撫でられて、逃げるようにリビングへ駆けていく。ソファを陣取れば、ラーシュが「ごめんごめん」と軽く笑いながらグラス片手にキッチンから出てくる。

「ほら、もう寝なさい」

 追い払うように言われて、むすっと頬を膨らませた。

「ラーシュさん、俺は子供じゃないの」
「わかってるよ」

 散々エミルに子供扱いされた俺である。ラーシュは「イツキくんは子供じゃない」とエミルに説明してくれていたが、自分だって俺を子供扱いしてるじゃないか。

 ソファではなくダイニングテーブルに腰掛けたラーシュは、酒をのんびり飲みながらパラパラと本を捲っている。

 立ち上がった俺に、ラーシュが「おやすみ」と告げてくる。それに応えず、俺はラーシュの隣に立った。

「ラーシュさん」
「ん?」

 どうしたの? と優しく訊いてくれるラーシュの腕をそっと掴んだ。

「どうしたの? 眠れないの?」
「そうじゃなくて……」

 もじもじしていても仕方がない。
 意を決して、俺はラーシュの袖を引っ張った。

 椅子に座ったままこちらを見上げるラーシュの唇に、自分の唇をおそるおそる合わせた。

 目を見開いたラーシュが、じっと俺を見つめている。

 その視線に照れくさくなって、逃げたくなって。
 俺はラーシュに勢いよく抱きついた。「おっと」と受け止めてくれたラーシュが、俺の耳元で小さく笑った。

「今日は甘えん坊だね。寂しくなったの?」
「……うん」
「そうか。ごめんね。兄さん、ちょっと強引なところがあるから」

 びっくりしたね? と優しく背中を撫でられて、うんと頷いておく。ラーシュが俺を手放すとは思えないけど、突然のあの展開には普通にびっくりした。

「イツキくん、顔見せて」
「ん」

 ぎゅっと抱きつくのをやめて体を離せば、ラーシュが頭を撫でてくれる。

「イツキくん、可愛い」

 ラーシュに可愛いと言われるのは好き。照れて視線を外すと、ラーシュがおもむろに俺を抱き上げた。

「うわっ」
「もう寝ようね。明日も仕事だから」

 そのまま二階へと運ばれて、当然のようにベッドにおろされた。

「おやすみ」

 額に触れるだけのキスをされて、ラーシュが離れていく。焦った俺は、咄嗟にラーシュの腕を掴んだ。

「ラーシュさん」

 子供扱いはやめてって言ってるのに。

「キスして」

 言いながら、抱きつく勢いでラーシュの唇を奪った。ぽかんとしているラーシュの腕を引っ張って、ベッドに誘導する。けれども直前で我に返ったラーシュは「寝なさい」と顔をしかめた。

「やだ」
「イツキくん……」

 我儘言わないとか、明日も早いんだよとか。
 その後に続くラーシュの言葉を予想してみるが、どれも外れた。

 グッと眉間に皺を寄せたラーシュが、ベッドに乗り上げてきた。

 ラーシュは俺が恋人らしい触れ合いを要求すると、よくこの顔をする。困っています、ちょっと怒っていますと言わんばかりの表情だ。

 ラーシュが一体なにを葛藤しているのか。なんとなくわかる気がする。
 
 ラーシュは口では俺を子供じゃないと言ってくれるけど、やはり本心ではどこか子供扱いをしているらしい。俺に触ることに、少しだけ罪悪感を抱いているらしい。

 そんなものは必要ないのに。

 背中からベッドに倒れ込むと、ラーシュが覆い被さるようにして手をついた。

 どうやらラーシュは、俺に触れる際には何か理由が必要だと思っているらしい。前はたいして酔っていないくせに「酔ってるから」と変な言い訳を口にしながら俺に触れた。

 俺たちは恋人同士なのだから、言い訳なんて必要ないのに。

 案の定、険しい表情のラーシュが「ちょっと酔ったみたいだ」と口にしたので、思わず笑ってしまう。

 あの程度の酒でラーシュが酔うわけないということは、とっくの前に知っている。

 ラーシュの指が、俺の唇に触れた。顎に、首に、肩にと、段々と下におりていった。
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