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番外編
悩み事2(sideスヴェン)
「……イツキくんに嫌われたかもしれない」
「おまえもか」
思わず突っ込めば、執務机で仕事していたラーシュが「も?」と顔をあげた。
「スヴェンもイツキくんに嫌われたのか?」
「違う、そうじゃない」
とぼけたことを言うラーシュは、先程からずっと上の空だった。一応仕事はしているみたいだが、心ここにあらず状態。
俺はつい先程、そのイツキくんから同じような愚痴を聞かされたばかりであった。
「イツキくんがさっき言ってたぞ。ラーシュに嫌われたかもしれないって」
「は? なぜ僕がイツキくんを嫌いになるんだ」
「文句は俺じゃなくてイツキくんに言えよ」
なぜか俺を睨みつけてくるラーシュは、とことんイツキくんに甘い。
ラーシュに促されて、俺は先程のイツキくんとのやり取りを教えてやった。すべてを聞き終えたラーシュは、案の定頭を抱える。
「……イツキくん、スヴェンにそんなことまで報告しているのか」
「おうよ。イツキくんさ、こっちが訊けば全部隠すことなく教えてくれるぞ。大丈夫かよ、あの子。あんまりプライベートなことは馬鹿正直に答えるなって教えてやれよ。保護者だろ」
イツキくんは、尋ねたら貯金の額やそのありかまで素直に答えてくれそうな勢いである。少しは人を疑うことを覚えるべきだ。
「それで? イツキくんに手を出したこと後悔してんのか。後悔するくらいなら初めから出さなきゃいいだろ」
「それはそうなんだけど」
歯切れの悪いラーシュは、ため息を吐いてしまう。
「だってイツキくんが触ってほしいって言うから」
……俺はなんで上司のプライベートな話を聞かされているのだろうか。
ちょっと虚しくなるが、落ち込むラーシュは面白いのでもう少しだけ付き合ってやろう。
「おまえな。あんなガキの言葉を真に受けてどうするんだよ。イツキくんの言う触ってほしいは、そのままの意味だろ。深い意味なんてあるわけないだろ」
「やっぱりそうだったのかな」
真剣な面持ちで考え込むラーシュだが、悲しいことに考えているのは夜の営みについてである。仕事中にする考え事じゃないだろ。
そもそもイツキくんは、子供の作り方とか知っているのだろうか。先程の話を聞いた限りだと、精通はしているらしい。おそらくラーシュと抜き合いするつもりだったのに、突然ラーシュが尻の穴に触れてきたので驚いたといった感じのことを主張していたはず。
あいつはラーシュが後ろに触れた意味を理解していないのでは? イツキくんの中でラーシュがとんだ変態になっていないか心配ではある。
まぁ、それはそれで面白いけど。
薄く笑っていれば、ラーシュに睨まれてしまった。
「でもイツキくんは大人だし」
未練たらしく言葉を重ねるラーシュは、己の行為を俺に正当化してほしいのだろう。ラーシュも男だからな。恋人に触ってほしいなんて言われたら普通に興奮するだろうし、お望み通り触ってやりたくもなるのだろう。
だが相手はあのイツキくんである。
自分のことを大人だと主張しているイツキくんだが、いまだに大人だとは思えない。
事あるごとに「子供じゃない」と口にしているのだが、イツキくんが「子供じゃない」と言えば言うほど子供っぽく見えているという残酷な事実をいつイツキくんに突きつけるべきか。
イツキくん。大人はな、自分が大人だといちいち主張しないんだぞ。
ラーシュもよく「イツキくんは子供じゃない」と口にするが、それはラーシュがイツキくんを心のどこかで子供だと思っている証拠だろう。
「説明してやったらどうだ」
「なにを」
眉をひそめるラーシュに、俺は軽く肩をすくめてみせた。
「セックスのやり方。男同士のやり方を説明してやれよ」
「僕が?」
「他に誰がいるんだよ」
まぁ説明したらしたで、今度はイツキくんが「そんな怖いことできない!」と言い出す可能性はある。というかその可能性が高い。イツキくんは子供なだけあって、基本的には自分基準で動いている。ラーシュのことは二の次だ。
イツキくんは、おそらくラーシュにも性欲があるという事実を忘れている。だから無邪気にラーシュを誘うのだ。自分がラーシュの性欲を全部受け止める羽目になるとは考えてもいないのだろう。
イツキくんにとってのラーシュは、やはり恋人というより保護者なのだ。だからラーシュが無条件で優しくしてくれる、守ってくれると思っている。
「自分は保護者じゃなくて恋人なんだってイツキくんに教えてやれよ。おまえ、このままだと本当にイツキくんの父親ポジションで終わるぞ」
イツキくんがラーシュに求めているのは、親としての役割だ。イツキくんにその自覚はないみたいだが。
親と恋人はまったくの別物なんだと早いうちに教え込まないと手遅れになるだろう。
最初にラーシュがイツキくんに保護者として紹介された影響もあるのだろう。保護者から恋人に変わったのだということをイツキくんはあまり理解していないのではないか。
「多少強引にでも恋人だって教え込めよ。ほんと手がかかるな」
「……強引にって。イツキくんが可哀想だろ」
「可哀想だと思うなら手を出すな」
猫可愛がりしてぬくぬく育てたいだけなら今の親ポジションで十分だろう。それが嫌だから悩んでいるんじゃないのか。
ちょっと強めに言えば、ラーシュが「そうだね」と考え込んでしまう。
イツキくんの話を聞いた限り、イツキくん側には一応ラーシュと恋人になる気はあるらしい。あとはラーシュがあれこれ教え込めば済む話だ。
イツキくんを子供扱いするのか、大人扱いするのか。ラーシュはいい加減はっきりさせるべきだ。中途半端に大人扱いするからこんなことになるんだろうが。
「……ほんと、イツキくんはラーシュを振り回す天才だな」
仕事一筋だった男がここまで変わるか。
これまでにもラーシュの恋人は見てきたが、ラーシュもお相手も結構あっさりしていた。互いに大人だったからな。付き合えば当然のように身体の関係もとなったのだろう。
こんなに頭を抱えて悩むラーシュは初めて見たぞ。
「おまえもか」
思わず突っ込めば、執務机で仕事していたラーシュが「も?」と顔をあげた。
「スヴェンもイツキくんに嫌われたのか?」
「違う、そうじゃない」
とぼけたことを言うラーシュは、先程からずっと上の空だった。一応仕事はしているみたいだが、心ここにあらず状態。
俺はつい先程、そのイツキくんから同じような愚痴を聞かされたばかりであった。
「イツキくんがさっき言ってたぞ。ラーシュに嫌われたかもしれないって」
「は? なぜ僕がイツキくんを嫌いになるんだ」
「文句は俺じゃなくてイツキくんに言えよ」
なぜか俺を睨みつけてくるラーシュは、とことんイツキくんに甘い。
ラーシュに促されて、俺は先程のイツキくんとのやり取りを教えてやった。すべてを聞き終えたラーシュは、案の定頭を抱える。
「……イツキくん、スヴェンにそんなことまで報告しているのか」
「おうよ。イツキくんさ、こっちが訊けば全部隠すことなく教えてくれるぞ。大丈夫かよ、あの子。あんまりプライベートなことは馬鹿正直に答えるなって教えてやれよ。保護者だろ」
イツキくんは、尋ねたら貯金の額やそのありかまで素直に答えてくれそうな勢いである。少しは人を疑うことを覚えるべきだ。
「それで? イツキくんに手を出したこと後悔してんのか。後悔するくらいなら初めから出さなきゃいいだろ」
「それはそうなんだけど」
歯切れの悪いラーシュは、ため息を吐いてしまう。
「だってイツキくんが触ってほしいって言うから」
……俺はなんで上司のプライベートな話を聞かされているのだろうか。
ちょっと虚しくなるが、落ち込むラーシュは面白いのでもう少しだけ付き合ってやろう。
「おまえな。あんなガキの言葉を真に受けてどうするんだよ。イツキくんの言う触ってほしいは、そのままの意味だろ。深い意味なんてあるわけないだろ」
「やっぱりそうだったのかな」
真剣な面持ちで考え込むラーシュだが、悲しいことに考えているのは夜の営みについてである。仕事中にする考え事じゃないだろ。
そもそもイツキくんは、子供の作り方とか知っているのだろうか。先程の話を聞いた限りだと、精通はしているらしい。おそらくラーシュと抜き合いするつもりだったのに、突然ラーシュが尻の穴に触れてきたので驚いたといった感じのことを主張していたはず。
あいつはラーシュが後ろに触れた意味を理解していないのでは? イツキくんの中でラーシュがとんだ変態になっていないか心配ではある。
まぁ、それはそれで面白いけど。
薄く笑っていれば、ラーシュに睨まれてしまった。
「でもイツキくんは大人だし」
未練たらしく言葉を重ねるラーシュは、己の行為を俺に正当化してほしいのだろう。ラーシュも男だからな。恋人に触ってほしいなんて言われたら普通に興奮するだろうし、お望み通り触ってやりたくもなるのだろう。
だが相手はあのイツキくんである。
自分のことを大人だと主張しているイツキくんだが、いまだに大人だとは思えない。
事あるごとに「子供じゃない」と口にしているのだが、イツキくんが「子供じゃない」と言えば言うほど子供っぽく見えているという残酷な事実をいつイツキくんに突きつけるべきか。
イツキくん。大人はな、自分が大人だといちいち主張しないんだぞ。
ラーシュもよく「イツキくんは子供じゃない」と口にするが、それはラーシュがイツキくんを心のどこかで子供だと思っている証拠だろう。
「説明してやったらどうだ」
「なにを」
眉をひそめるラーシュに、俺は軽く肩をすくめてみせた。
「セックスのやり方。男同士のやり方を説明してやれよ」
「僕が?」
「他に誰がいるんだよ」
まぁ説明したらしたで、今度はイツキくんが「そんな怖いことできない!」と言い出す可能性はある。というかその可能性が高い。イツキくんは子供なだけあって、基本的には自分基準で動いている。ラーシュのことは二の次だ。
イツキくんは、おそらくラーシュにも性欲があるという事実を忘れている。だから無邪気にラーシュを誘うのだ。自分がラーシュの性欲を全部受け止める羽目になるとは考えてもいないのだろう。
イツキくんにとってのラーシュは、やはり恋人というより保護者なのだ。だからラーシュが無条件で優しくしてくれる、守ってくれると思っている。
「自分は保護者じゃなくて恋人なんだってイツキくんに教えてやれよ。おまえ、このままだと本当にイツキくんの父親ポジションで終わるぞ」
イツキくんがラーシュに求めているのは、親としての役割だ。イツキくんにその自覚はないみたいだが。
親と恋人はまったくの別物なんだと早いうちに教え込まないと手遅れになるだろう。
最初にラーシュがイツキくんに保護者として紹介された影響もあるのだろう。保護者から恋人に変わったのだということをイツキくんはあまり理解していないのではないか。
「多少強引にでも恋人だって教え込めよ。ほんと手がかかるな」
「……強引にって。イツキくんが可哀想だろ」
「可哀想だと思うなら手を出すな」
猫可愛がりしてぬくぬく育てたいだけなら今の親ポジションで十分だろう。それが嫌だから悩んでいるんじゃないのか。
ちょっと強めに言えば、ラーシュが「そうだね」と考え込んでしまう。
イツキくんの話を聞いた限り、イツキくん側には一応ラーシュと恋人になる気はあるらしい。あとはラーシュがあれこれ教え込めば済む話だ。
イツキくんを子供扱いするのか、大人扱いするのか。ラーシュはいい加減はっきりさせるべきだ。中途半端に大人扱いするからこんなことになるんだろうが。
「……ほんと、イツキくんはラーシュを振り回す天才だな」
仕事一筋だった男がここまで変わるか。
これまでにもラーシュの恋人は見てきたが、ラーシュもお相手も結構あっさりしていた。互いに大人だったからな。付き合えば当然のように身体の関係もとなったのだろう。
こんなに頭を抱えて悩むラーシュは初めて見たぞ。
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