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番外編
甘やかしたい
ラーシュは、俺を相変わらず子供扱いしている。
「イツキくん。明日のお昼は僕が作っていくから」
「自分で作れるから大丈夫」
「うーん、困ったな」
苦笑するラーシュは、俺の頭を撫でてから話を終わらせてしまう。どうやらここで俺と言い争いをしなくても、明日の朝、俺の分の昼食を作っておけばいいと考えているらしい。
自分のお昼くらい自分で作れるのに。
そう主張するけど、最近では聞き入れてもらえない。前は俺のやりたいことはなんでもやらせてくれる感じだったのに。どうして最近はダメと言うことが増えたのだろうか。もしや子供扱いが悪化しているのではと疑っている。
寝る前の時間。
なんとなくリビングで寛ぐことが多いけど、最近ではラーシュとの口喧嘩に発展することも増えた。まぁ、口喧嘩といっても、俺が一方的に突っかかってるだけかもしれないけど。
ラーシュはたいてい困ったような表情で俺を見つめている。
「ほら、もう寝なさい」
「ラーシュさん! 俺は子供じゃないの!」
「わかってるよ。わかってるからもう寝ようね」
絶対にわかってないだろ。
とにかく俺を宥めて話を終わらせようという空気だ。
「……」
不満でいっぱいの俺は、「おやすみ!」と叫ぶように言って二階へと駆け上がった。口ではラーシュに勝てない。そもそもラーシュは、俺と言い争う気がないのだ。ひたすら俺が折れるのを待っている感じである。
ベッドに潜り込んで、ちょっぴり悔しい気分になる。
なんで俺の好きにさせてくれないのかと思う一方で、後悔も湧き上がってくる。ラーシュは俺のために昼食を作っていくと言っているのだ。どうして俺は素直にありがとうと言えないのだろうか。
別に反抗する必要はなかったかもしれない。そうなんだ、ありがとうで終わらせられた話だ。
でもラーシュの負担にはなりたくない。俺はラーシュと恋人のつもりなんだ。スヴェンが最近、ラーシュのことを父親と言って揶揄っていることを知ってしまった。エミルも似たようなことを言っていた。ラーシュは俺の父親じゃない。恋人なのだ。
だからラーシュが俺を子供扱いするたびに、ムキになって抵抗してしまう。
ぎゅっと目を閉じて、どうしようもない感情を持て余していると廊下から「イツキくん」とラーシュの声が聞こえてきた。
俺が不機嫌だったから様子を見にきてくれたのだろう。これは子供扱いなのか、恋人扱いなのか。どっちだろうと無意識に考えて、そんなことを考える自分に嫌気がさす。
別にどっちでもいいだろ。ラーシュが俺のことを気にかけてくれている。それでいいじゃないか。
ここ最近、ラーシュの言動の意味をずっと考えてしまう。
子供扱いなのか、恋人扱いなのか。
でもそんなこと考えて何になるっていうんだ。
「イツキくん? 開けるよ」
俺の返事がないことを訝しんで、ラーシュがドアを開けた。咄嗟に寝たふりを決め込んだ俺は本当に情けない。
「……イツキくん?」
ベッドの傍らにラーシュがいるのがわかる。
「そんな頭まで埋まって」
小さな笑い声が聞こえてきて、耐えきれなくなった俺は勢いよく上半身を起こした。
「あ、やっぱり起きてた」
「ラーシュさん!」
「うん。どうしたの」
優しいラーシュは、「ごめんね」と言った。
俺が先に謝ろうと思っていたのに。
出端を挫かれた俺は、唇を引き結んだ。
「イツキくんの気持ちもわかるよ。自分のことは自分でやりたいよね。でも僕、イツキくんを甘やかしたくて」
「あ……!?」
甘やかすってなんだ。いや、俺はラーシュに相当甘やかされているという自覚はあるけど。
「あのね、イツキくん。僕はイツキくんのことを子供扱いしているわけじゃないんだよ」
言うなり、ラーシュがベッドに腰掛けた。
そのままちょっと上半身を捻って俺を視界に入れたラーシュは、俺の頬を優しく触る。
「僕はね、イツキくんを甘やかすのが好きなだけ」
ね? と悪戯っぽい笑みを見せたラーシュは、ぽかんと口を開ける俺の額に唇を落とした。
「……ラーシュさんは」
「うん?」
「俺のこと恋人だと思ってる?」
目を見張ったラーシュは、すぐに苦笑した。
「あれ? 僕は恋人だと思ってたんだけどな。違うの?」
逆に問われて、慌てて「違わない」と答えておく。ラーシュに怒っているような雰囲気はなく、むしろ楽しそうな面持ちであった。
よかったと微笑むラーシュは、俺の髪を梳くように撫でていく。
「スヴェンに言われたんだ。僕はイツキくんの父親であって恋人にはなれていないんじゃないかって」
父親。その単語に息を呑む。
俺はラーシュを父親だなんて思っていない。でも周りから見たら親子に見えるのだろうか。
「余計なお世話だよね」
「え」
てっきりラーシュも悩んでいるのかと思いきや、そんなことを言う。
もしかしてラーシュは、周りから親子だと思われても気にしない感じなのだろうか。困惑していると、ラーシュが立ち上がった。
「周りがどう思っても、イツキくんは僕の恋人だからね。僕はイツキくんのこと可愛いと思ってるし、キスしたいと思ってるよ」
言い終わるなり、ラーシュが腰を屈めて俺にキスしてきた。今度は額じゃなくて唇に。
「……俺も、ラーシュさんとキスしたい」
真っ赤になってラーシュの袖を引けば、ラーシュがベッドに乗り上げてきた。
「イツキくん。明日のお昼は僕が作っていくから」
「自分で作れるから大丈夫」
「うーん、困ったな」
苦笑するラーシュは、俺の頭を撫でてから話を終わらせてしまう。どうやらここで俺と言い争いをしなくても、明日の朝、俺の分の昼食を作っておけばいいと考えているらしい。
自分のお昼くらい自分で作れるのに。
そう主張するけど、最近では聞き入れてもらえない。前は俺のやりたいことはなんでもやらせてくれる感じだったのに。どうして最近はダメと言うことが増えたのだろうか。もしや子供扱いが悪化しているのではと疑っている。
寝る前の時間。
なんとなくリビングで寛ぐことが多いけど、最近ではラーシュとの口喧嘩に発展することも増えた。まぁ、口喧嘩といっても、俺が一方的に突っかかってるだけかもしれないけど。
ラーシュはたいてい困ったような表情で俺を見つめている。
「ほら、もう寝なさい」
「ラーシュさん! 俺は子供じゃないの!」
「わかってるよ。わかってるからもう寝ようね」
絶対にわかってないだろ。
とにかく俺を宥めて話を終わらせようという空気だ。
「……」
不満でいっぱいの俺は、「おやすみ!」と叫ぶように言って二階へと駆け上がった。口ではラーシュに勝てない。そもそもラーシュは、俺と言い争う気がないのだ。ひたすら俺が折れるのを待っている感じである。
ベッドに潜り込んで、ちょっぴり悔しい気分になる。
なんで俺の好きにさせてくれないのかと思う一方で、後悔も湧き上がってくる。ラーシュは俺のために昼食を作っていくと言っているのだ。どうして俺は素直にありがとうと言えないのだろうか。
別に反抗する必要はなかったかもしれない。そうなんだ、ありがとうで終わらせられた話だ。
でもラーシュの負担にはなりたくない。俺はラーシュと恋人のつもりなんだ。スヴェンが最近、ラーシュのことを父親と言って揶揄っていることを知ってしまった。エミルも似たようなことを言っていた。ラーシュは俺の父親じゃない。恋人なのだ。
だからラーシュが俺を子供扱いするたびに、ムキになって抵抗してしまう。
ぎゅっと目を閉じて、どうしようもない感情を持て余していると廊下から「イツキくん」とラーシュの声が聞こえてきた。
俺が不機嫌だったから様子を見にきてくれたのだろう。これは子供扱いなのか、恋人扱いなのか。どっちだろうと無意識に考えて、そんなことを考える自分に嫌気がさす。
別にどっちでもいいだろ。ラーシュが俺のことを気にかけてくれている。それでいいじゃないか。
ここ最近、ラーシュの言動の意味をずっと考えてしまう。
子供扱いなのか、恋人扱いなのか。
でもそんなこと考えて何になるっていうんだ。
「イツキくん? 開けるよ」
俺の返事がないことを訝しんで、ラーシュがドアを開けた。咄嗟に寝たふりを決め込んだ俺は本当に情けない。
「……イツキくん?」
ベッドの傍らにラーシュがいるのがわかる。
「そんな頭まで埋まって」
小さな笑い声が聞こえてきて、耐えきれなくなった俺は勢いよく上半身を起こした。
「あ、やっぱり起きてた」
「ラーシュさん!」
「うん。どうしたの」
優しいラーシュは、「ごめんね」と言った。
俺が先に謝ろうと思っていたのに。
出端を挫かれた俺は、唇を引き結んだ。
「イツキくんの気持ちもわかるよ。自分のことは自分でやりたいよね。でも僕、イツキくんを甘やかしたくて」
「あ……!?」
甘やかすってなんだ。いや、俺はラーシュに相当甘やかされているという自覚はあるけど。
「あのね、イツキくん。僕はイツキくんのことを子供扱いしているわけじゃないんだよ」
言うなり、ラーシュがベッドに腰掛けた。
そのままちょっと上半身を捻って俺を視界に入れたラーシュは、俺の頬を優しく触る。
「僕はね、イツキくんを甘やかすのが好きなだけ」
ね? と悪戯っぽい笑みを見せたラーシュは、ぽかんと口を開ける俺の額に唇を落とした。
「……ラーシュさんは」
「うん?」
「俺のこと恋人だと思ってる?」
目を見張ったラーシュは、すぐに苦笑した。
「あれ? 僕は恋人だと思ってたんだけどな。違うの?」
逆に問われて、慌てて「違わない」と答えておく。ラーシュに怒っているような雰囲気はなく、むしろ楽しそうな面持ちであった。
よかったと微笑むラーシュは、俺の髪を梳くように撫でていく。
「スヴェンに言われたんだ。僕はイツキくんの父親であって恋人にはなれていないんじゃないかって」
父親。その単語に息を呑む。
俺はラーシュを父親だなんて思っていない。でも周りから見たら親子に見えるのだろうか。
「余計なお世話だよね」
「え」
てっきりラーシュも悩んでいるのかと思いきや、そんなことを言う。
もしかしてラーシュは、周りから親子だと思われても気にしない感じなのだろうか。困惑していると、ラーシュが立ち上がった。
「周りがどう思っても、イツキくんは僕の恋人だからね。僕はイツキくんのこと可愛いと思ってるし、キスしたいと思ってるよ」
言い終わるなり、ラーシュが腰を屈めて俺にキスしてきた。今度は額じゃなくて唇に。
「……俺も、ラーシュさんとキスしたい」
真っ赤になってラーシュの袖を引けば、ラーシュがベッドに乗り上げてきた。
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