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17歳
766 それでも?
ユリスとの間に沈黙がおりる。
そわそわした様子のユリスは、先程から読書に没頭しようとしては失敗したみたいに深い息を吐く。
そして時折、思い出したみたいに「ティアンのどこがいいんだ」とか、「ティアンと付き合ってなにか面白いのか」とか。ちょっと変な質問を重ねてくる。
ユリスは、俺とティアンの関係に興味津々らしい。だが、そこに楽しそうな様子はない。ユリスの性格を思えば、嬉々として俺たちのことを揶揄ってきそうなのに。なぜか苦い顔で俺の気持ちを確認するような言葉を次から次へと並べてくる。
「アロンはいいのか?」
「いいのかって。どういう意味?」
ついには話題がアロンにまで飛んだ。
「アロンとは付き合わないのか?」
「付き合わないでしょ、この流れで」
俺はティアンと付き合うことになったんだぞ。なぜアロンとも付き合うという話になるんだ。滅茶苦茶だぞ。半眼になる俺に、けれどもユリスは真顔で「別に何人と付き合ってもいいだろ」と本気か冗談か判別つかないことを言い出してしまう。
「俺、二股はちょっと」
「三股ならいいのか?」
「いいわけないだろ。さっきからなに言ってんの?」
もはや理解不能なことを口走るユリスに、綿毛ちゃんが『ふむふむ。なるほどね』としたり顔で何度も頷いている。もうお昼寝は終わったのか?
『ユリス坊ちゃんは、あれだね。ルイス坊ちゃんをティアンさんにとられて寂しいんでしょ?』
「違うが?」
自信満々に指摘してみせた綿毛ちゃんであるが、ユリスにあっさり否定されてしまった。途端に綿毛ちゃんの尻尾がへにゃっと下がる。
『あ、違うのぉ? えへへ、じゃあなんだろうね。わかんないね』
へらへら笑って誤魔化す綿毛ちゃんは、なんだか憐れだ。わからないのに首を突っ込んでくるから、そんなことになるんだぞ。いそいそと壁際に戻る毛玉は、再びお昼寝体勢をとる。しかし喋り足りないらしく、首を傾げながら『なんだろねぇ。坊ちゃん、がんばれぇ』とふにゃふにゃ言っている。
「今日のユリス、なんか変だよ」
「……まぁ、僕は変わり者だという自覚はあるが」
「いや、そういう話をしているんじゃなくて、え? 変わり者だっていう自覚あったの?」
ユリスは小さい頃から引きこもり気質である。おまけにこの世界では役に立たないとされている魔法に興味を持って、自分でも積極的に研究している。客観的に見ると、風変わりなのは事実だろう。まさか自覚があったとは。驚きの事実に関心していると、ユリスがそっぽを向いてしまう。
「どうせ僕は魔法なんて役立たずのものに惹かれた変人だ。なんの役にも立たない無価値な人間だ」
「誰もそこまでは言ってないよ」
急にどうした。
常に上から目線のユリスにあるまじき発言だ。ネガティブユリスだ。これはレアだぞ。
「どうしたの? 俺が先に恋人作ったから拗ねてるのか? ユリスにはデニスがいるだろ。付き合っちゃえよ」
「嫌だ。なぜ僕があんなうるさい奴と」
ユリス。デニスのことうるさいと思っていたのか。その割には一緒にいるとき無駄にベタベタしているけどな。
結局、ユリスがデニスのことをどう思っているのかは謎である。それなりに仲良しだけど、そこに恋愛感情はなさそうだ。
「それに僕は拗ねてなんていない。オーガスじゃあるまいに」
「オーガス兄様はもう結婚してるから。今更俺に嫉妬しないでしょ」
気が弱いくせにプライドの高いオーガス兄様は、ブルース兄様が先に結婚するのは許せないと言っていた。結婚した今はさすがにそんなこと言わないだろうけど。
「じゃあ、なに? なんで不機嫌なの?」
「……」
ぎゅっと眉間に皺を寄せて険しい顔になるユリス。しばらく待ってみると、やがて諦めたように天を仰いだ。仕方がないと言わんばかりに立ち上がったユリスは、床で寝ている綿毛ちゃんをおもむろに抱っこする。驚いた綿毛ちゃんが『わぁー!』とわざとらしい悲鳴をあげた。
そのまま無言でドアを開けたユリスは、綿毛ちゃんを廊下に放り出した。ガチャッと無機質な音が響いて、ドアが閉じた。『あー』という綿毛ちゃんのか細い声が遠くなっていく。
……綿毛ちゃんが締め出されてしまった。
満足そうに手を払ったユリスは、椅子に戻る。
「綿毛ちゃんが可哀想」
「あの犬は邪魔なんだ」
どうやら綿毛ちゃんの前ではできない話があるらしい。あのお気楽毛玉のことは気にしなくても大丈夫なのに。
じっと俺を見据えるユリスは「ルイス」とやや硬い声を出した。
「僕は、おまえは誰とも付き合わないのだと思っていた。どうせティアンのことも振るんだと」
ユリスは俺のことを優柔不断で変化を好まない奴だと評した。ちょっと心当たりはあるので、ユリスがそう考えるのも無理はないと思う。
「ルイスはいつか元の世界に戻るつもりで。それで初めから恋人は作らないのかと」
「元の世界?」
ぱちぱち目を瞬く俺に、ユリスは「そうだ」と険しい表情のまま腕を組んだ。
「いやいや。戻れないから」
そんな健気な考えは持ち合わせていない。笑いながらひらひら手を振るが、ユリスは笑わない。ゆっくり口を開いた彼は、思いもよらぬ言葉を発した。
「戻れるかもしれないと言ったらどうする」
「え」
「それでもおまえは、ここに残ってティアンと付き合うつもりか?」
淡々と告げてくるユリスは、まっすぐ俺を見つめていた。
そわそわした様子のユリスは、先程から読書に没頭しようとしては失敗したみたいに深い息を吐く。
そして時折、思い出したみたいに「ティアンのどこがいいんだ」とか、「ティアンと付き合ってなにか面白いのか」とか。ちょっと変な質問を重ねてくる。
ユリスは、俺とティアンの関係に興味津々らしい。だが、そこに楽しそうな様子はない。ユリスの性格を思えば、嬉々として俺たちのことを揶揄ってきそうなのに。なぜか苦い顔で俺の気持ちを確認するような言葉を次から次へと並べてくる。
「アロンはいいのか?」
「いいのかって。どういう意味?」
ついには話題がアロンにまで飛んだ。
「アロンとは付き合わないのか?」
「付き合わないでしょ、この流れで」
俺はティアンと付き合うことになったんだぞ。なぜアロンとも付き合うという話になるんだ。滅茶苦茶だぞ。半眼になる俺に、けれどもユリスは真顔で「別に何人と付き合ってもいいだろ」と本気か冗談か判別つかないことを言い出してしまう。
「俺、二股はちょっと」
「三股ならいいのか?」
「いいわけないだろ。さっきからなに言ってんの?」
もはや理解不能なことを口走るユリスに、綿毛ちゃんが『ふむふむ。なるほどね』としたり顔で何度も頷いている。もうお昼寝は終わったのか?
『ユリス坊ちゃんは、あれだね。ルイス坊ちゃんをティアンさんにとられて寂しいんでしょ?』
「違うが?」
自信満々に指摘してみせた綿毛ちゃんであるが、ユリスにあっさり否定されてしまった。途端に綿毛ちゃんの尻尾がへにゃっと下がる。
『あ、違うのぉ? えへへ、じゃあなんだろうね。わかんないね』
へらへら笑って誤魔化す綿毛ちゃんは、なんだか憐れだ。わからないのに首を突っ込んでくるから、そんなことになるんだぞ。いそいそと壁際に戻る毛玉は、再びお昼寝体勢をとる。しかし喋り足りないらしく、首を傾げながら『なんだろねぇ。坊ちゃん、がんばれぇ』とふにゃふにゃ言っている。
「今日のユリス、なんか変だよ」
「……まぁ、僕は変わり者だという自覚はあるが」
「いや、そういう話をしているんじゃなくて、え? 変わり者だっていう自覚あったの?」
ユリスは小さい頃から引きこもり気質である。おまけにこの世界では役に立たないとされている魔法に興味を持って、自分でも積極的に研究している。客観的に見ると、風変わりなのは事実だろう。まさか自覚があったとは。驚きの事実に関心していると、ユリスがそっぽを向いてしまう。
「どうせ僕は魔法なんて役立たずのものに惹かれた変人だ。なんの役にも立たない無価値な人間だ」
「誰もそこまでは言ってないよ」
急にどうした。
常に上から目線のユリスにあるまじき発言だ。ネガティブユリスだ。これはレアだぞ。
「どうしたの? 俺が先に恋人作ったから拗ねてるのか? ユリスにはデニスがいるだろ。付き合っちゃえよ」
「嫌だ。なぜ僕があんなうるさい奴と」
ユリス。デニスのことうるさいと思っていたのか。その割には一緒にいるとき無駄にベタベタしているけどな。
結局、ユリスがデニスのことをどう思っているのかは謎である。それなりに仲良しだけど、そこに恋愛感情はなさそうだ。
「それに僕は拗ねてなんていない。オーガスじゃあるまいに」
「オーガス兄様はもう結婚してるから。今更俺に嫉妬しないでしょ」
気が弱いくせにプライドの高いオーガス兄様は、ブルース兄様が先に結婚するのは許せないと言っていた。結婚した今はさすがにそんなこと言わないだろうけど。
「じゃあ、なに? なんで不機嫌なの?」
「……」
ぎゅっと眉間に皺を寄せて険しい顔になるユリス。しばらく待ってみると、やがて諦めたように天を仰いだ。仕方がないと言わんばかりに立ち上がったユリスは、床で寝ている綿毛ちゃんをおもむろに抱っこする。驚いた綿毛ちゃんが『わぁー!』とわざとらしい悲鳴をあげた。
そのまま無言でドアを開けたユリスは、綿毛ちゃんを廊下に放り出した。ガチャッと無機質な音が響いて、ドアが閉じた。『あー』という綿毛ちゃんのか細い声が遠くなっていく。
……綿毛ちゃんが締め出されてしまった。
満足そうに手を払ったユリスは、椅子に戻る。
「綿毛ちゃんが可哀想」
「あの犬は邪魔なんだ」
どうやら綿毛ちゃんの前ではできない話があるらしい。あのお気楽毛玉のことは気にしなくても大丈夫なのに。
じっと俺を見据えるユリスは「ルイス」とやや硬い声を出した。
「僕は、おまえは誰とも付き合わないのだと思っていた。どうせティアンのことも振るんだと」
ユリスは俺のことを優柔不断で変化を好まない奴だと評した。ちょっと心当たりはあるので、ユリスがそう考えるのも無理はないと思う。
「ルイスはいつか元の世界に戻るつもりで。それで初めから恋人は作らないのかと」
「元の世界?」
ぱちぱち目を瞬く俺に、ユリスは「そうだ」と険しい表情のまま腕を組んだ。
「いやいや。戻れないから」
そんな健気な考えは持ち合わせていない。笑いながらひらひら手を振るが、ユリスは笑わない。ゆっくり口を開いた彼は、思いもよらぬ言葉を発した。
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「え」
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淡々と告げてくるユリスは、まっすぐ俺を見つめていた。
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