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17歳
768 手紙
ユリスの横顔をぼんやり眺めていると、ドアの低い位置をドンドン叩く音が聞こえてきた。おそらく綿毛ちゃんの仕業だろう。案の定、『オレだけ仲間外れはひどいよぉ』という情けない声が聞こえてきた。締め出されたことに抗議しているらしい。
ユリスは、俺が元の世界に帰りたいと言ったら綿毛ちゃんを捕獲して角を引っこ抜くつもりだったのだろうか。あまりの乱暴さに笑いが込み上げてくる。いや、綿毛ちゃんにとっては笑い事じゃないんだけどさ。
今のところ、俺は日本に戻るつもりはない。
戻れても無事に生きていられる保証はない。そんな危ない賭けはやらない。それに俺はここが家だと思っている。ちょっと図々しいかな? でも本当にヴィアン家のみんなのことは家族だと思っている。この心地のよい居場所を手放したくはない。
ユリスだって、なんだかんだ言いつつもいつも俺の味方をしてくれる。その理由は家族への愛情なのか、はたまた俺への罪悪感なのか。正直よくわからないけど、前者だったらいいなとは思っている。だがユリスの思い詰めたような苦い顔を見るたびに、おそらく後者なのだろうなと心のどこかで思ってしまう。ユリスが罪悪感を抱いてしまう必要はないけど、彼にそう言ったところで納得はしないだろう。
何事もなかったかのような様子で読書に没頭するユリスを眺めながら、ぼんやりとそんなことを考える。
相変わらずドアの向こうが騒がしいけど、なんとなくユリスとの時間を邪魔されたくなくて、無視してしまう。
「ねー、ユリス」
「なんだ」
「俺が乗馬教えてあげようか?」
「余計なお世話だ。なんだ急に」
いまだに乗馬の練習をしないユリスは、騎士棟に近づくことさえ嫌がってしまう。現状、馬に乗れなくて困ったことはないらしいけど、一緒に乗馬できたら楽しいと思う。
にこにこしながらユリスと会話をしていたのだが、そこへ割り込むようにノックの音が響いた。位置的に綿毛ちゃんではない。タイラーが帰ってきたのだろうかと顔を上げた俺であったが、返事も待たずに開け放たれたドアの先にはアロンがいた。
「アロン? どうしたの」
びっくりして立ち上がる俺に、アロンが「ルイス様。なんで部屋にいないんですか」と文句を言う。「勝手に入るな」とユリスが本に視線を落としたまま告げるけど、アロンは肩をすくめるだけで謝りもしない。
「手紙がきてましたよ」
ユリスの文句をきれいに聞き流すアロンは、手にしていた封筒をひらひらと振ってみせた。せかせかした足取りで部屋に侵入してきた綿毛ちゃんが『ひどいよ。オレだけ仲間外れにするなんて!』と一生懸命ユリスに抗議している。
『ユリス坊ちゃん。オレはこんなに可愛い毛玉なんだよ? いじめないでくださーい』
「……この犬、ルイスに似てきたな」
聞き捨てならないセリフを吐いたユリス。俺と綿毛ちゃんのなにが似ているって言うんだ。こんなお気楽毛玉に俺が似てるわけないだろ。
しかし今は毛玉の相手をしている暇はない。
アロンから手紙を受け取ろうと手を伸ばすけど、「おっと」というふざけた反応をするアロンは、さっと手紙を背中に隠してしまう。
は? 俺に届いた手紙を持ってきてくれたんじゃないの?
首を捻る俺に、アロンは「ルイス様宛じゃないです」と告げてきた。
「ティアンにです」
「ティアン?」
一体誰からだろうか。そんな疑問が顔に出ていたのだろう。ニヤッと悪い笑みを浮かべたアロンは「ジェフリーからです」と予想外の名前を出した。
「ジェフリー? ジェフリーがティアンに手紙?」
意味がわからない。
そりゃジェフリーはティアンと顔を合わせることも多いけど。でも本当にそれだけだ。ジェフリーとティアンが会話することなんて、ほとんどない。もちろん文通するような仲でもない。
「見てみます?」
悪い顔で提案するアロンは、俺の前でひらひらと手紙を振ってみせる。ちょっと中身は気になるけど、勝手に手紙を見るのはさすがにない。
「いや、いいよ。ティアンに渡しておく」
「え? いいんですか? 中身気にならないんですか?」
「そりゃあ、気になるけど」
口ごもっていると、椅子に座ったままのユリスが「貸せ」と言った。
「僕が開ける」
「開けちゃダメだよ」
人の手紙を勝手にみたらダメだよと注意するが、ユリスは「ティアンだろ」と意味不明な言い訳をする。相手がティアンでもダメだよ。
「浮気だったらどうする」
「ティアンとジェフリーが? ないない」
ユリスも本気でそう思っているわけではないのだろう。不満そうに唇を引き結ぶ。渋々引き下がったユリスであるが、まだアロンが残っている。じっと封筒を眺める彼は、今にも封を開けてしまいそうだ。ついには俺を見据えて「じゃあ俺が開けますよ」と言い出す始末である。
「だからダメだって! そういうことするからティアンに嫌われるんだよ」
「俺ってティアンに嫌われてるんですか?」
真面目に訊かれたので、「多分ね」と返しておく。少なくとも好かれてはいないだろう。
「俺って割といい先輩ですよね? ティアンに嫌われる心当たりがないんですけど」
「それ本気で言ってんの?」
ふっと口元を緩めたアロンは、無言で俺に手紙を差し出してきた。
ユリスは、俺が元の世界に帰りたいと言ったら綿毛ちゃんを捕獲して角を引っこ抜くつもりだったのだろうか。あまりの乱暴さに笑いが込み上げてくる。いや、綿毛ちゃんにとっては笑い事じゃないんだけどさ。
今のところ、俺は日本に戻るつもりはない。
戻れても無事に生きていられる保証はない。そんな危ない賭けはやらない。それに俺はここが家だと思っている。ちょっと図々しいかな? でも本当にヴィアン家のみんなのことは家族だと思っている。この心地のよい居場所を手放したくはない。
ユリスだって、なんだかんだ言いつつもいつも俺の味方をしてくれる。その理由は家族への愛情なのか、はたまた俺への罪悪感なのか。正直よくわからないけど、前者だったらいいなとは思っている。だがユリスの思い詰めたような苦い顔を見るたびに、おそらく後者なのだろうなと心のどこかで思ってしまう。ユリスが罪悪感を抱いてしまう必要はないけど、彼にそう言ったところで納得はしないだろう。
何事もなかったかのような様子で読書に没頭するユリスを眺めながら、ぼんやりとそんなことを考える。
相変わらずドアの向こうが騒がしいけど、なんとなくユリスとの時間を邪魔されたくなくて、無視してしまう。
「ねー、ユリス」
「なんだ」
「俺が乗馬教えてあげようか?」
「余計なお世話だ。なんだ急に」
いまだに乗馬の練習をしないユリスは、騎士棟に近づくことさえ嫌がってしまう。現状、馬に乗れなくて困ったことはないらしいけど、一緒に乗馬できたら楽しいと思う。
にこにこしながらユリスと会話をしていたのだが、そこへ割り込むようにノックの音が響いた。位置的に綿毛ちゃんではない。タイラーが帰ってきたのだろうかと顔を上げた俺であったが、返事も待たずに開け放たれたドアの先にはアロンがいた。
「アロン? どうしたの」
びっくりして立ち上がる俺に、アロンが「ルイス様。なんで部屋にいないんですか」と文句を言う。「勝手に入るな」とユリスが本に視線を落としたまま告げるけど、アロンは肩をすくめるだけで謝りもしない。
「手紙がきてましたよ」
ユリスの文句をきれいに聞き流すアロンは、手にしていた封筒をひらひらと振ってみせた。せかせかした足取りで部屋に侵入してきた綿毛ちゃんが『ひどいよ。オレだけ仲間外れにするなんて!』と一生懸命ユリスに抗議している。
『ユリス坊ちゃん。オレはこんなに可愛い毛玉なんだよ? いじめないでくださーい』
「……この犬、ルイスに似てきたな」
聞き捨てならないセリフを吐いたユリス。俺と綿毛ちゃんのなにが似ているって言うんだ。こんなお気楽毛玉に俺が似てるわけないだろ。
しかし今は毛玉の相手をしている暇はない。
アロンから手紙を受け取ろうと手を伸ばすけど、「おっと」というふざけた反応をするアロンは、さっと手紙を背中に隠してしまう。
は? 俺に届いた手紙を持ってきてくれたんじゃないの?
首を捻る俺に、アロンは「ルイス様宛じゃないです」と告げてきた。
「ティアンにです」
「ティアン?」
一体誰からだろうか。そんな疑問が顔に出ていたのだろう。ニヤッと悪い笑みを浮かべたアロンは「ジェフリーからです」と予想外の名前を出した。
「ジェフリー? ジェフリーがティアンに手紙?」
意味がわからない。
そりゃジェフリーはティアンと顔を合わせることも多いけど。でも本当にそれだけだ。ジェフリーとティアンが会話することなんて、ほとんどない。もちろん文通するような仲でもない。
「見てみます?」
悪い顔で提案するアロンは、俺の前でひらひらと手紙を振ってみせる。ちょっと中身は気になるけど、勝手に手紙を見るのはさすがにない。
「いや、いいよ。ティアンに渡しておく」
「え? いいんですか? 中身気にならないんですか?」
「そりゃあ、気になるけど」
口ごもっていると、椅子に座ったままのユリスが「貸せ」と言った。
「僕が開ける」
「開けちゃダメだよ」
人の手紙を勝手にみたらダメだよと注意するが、ユリスは「ティアンだろ」と意味不明な言い訳をする。相手がティアンでもダメだよ。
「浮気だったらどうする」
「ティアンとジェフリーが? ないない」
ユリスも本気でそう思っているわけではないのだろう。不満そうに唇を引き結ぶ。渋々引き下がったユリスであるが、まだアロンが残っている。じっと封筒を眺める彼は、今にも封を開けてしまいそうだ。ついには俺を見据えて「じゃあ俺が開けますよ」と言い出す始末である。
「だからダメだって! そういうことするからティアンに嫌われるんだよ」
「俺ってティアンに嫌われてるんですか?」
真面目に訊かれたので、「多分ね」と返しておく。少なくとも好かれてはいないだろう。
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ふっと口元を緩めたアロンは、無言で俺に手紙を差し出してきた。
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