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17歳
786 捏造
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軽い態度でロレッタによるブルース兄様への告白を許可したアリアは、けれども何も考えていないわけではなかったらしい。
静かに目を見開いて驚くロレッタに、アリアがにやりと口角を持ち上げて挑むような姿勢を見せた。
「まぁでも相手はブルース様だからね。そう簡単にはいかないと思うけど」
「……随分と自信がおありなのですね」
淡々と、けれども静かな闘志を宿したロレッタの声音に、人間姿の綿毛ちゃんが俺にこそこそと「本物の修羅場だね」と耳打ちしてきた。
実際、これは修羅場だ。
現在ブルース兄様の正室という立場にいるアリアは、余裕の態度でロレッタを見据えている。まぁ、ロレッタはまだ若いから。ブルース兄様には相手にされないと考えているのだろうか。いや、そもそもアリアとブルース兄様は利害が一致したゆえの形だけの結婚である。普通に考えて、今更ブルース兄様がアリア以外の人と結婚なんてするわけがない。
だからこそ、アリアは余裕の態度なのだろう。そう思っていたのだが、話は予想外の方向に転がって行く。
「私はブルース様のこと全部知っているからね。今更、君みたいな若い子が私たちの間に入り込む余地はないよ」
え、なにその愛し合ってますよアピール。同じ屋敷で生活しているくせに、ふたりはほとんど顔を合わせない。アリアはそんなドヤ顔で言うほど、ブルース兄様のこと知らないだろ。
目を瞬く俺の横で、ユリスがニヤニヤしている。こいつは話が面白くなれば、なんでもいいのだろう。ティアンだけが、どうやってふたりの間に割り込んで止めようかと思案していた。しかしアリアは一応ブルース兄様の妻である。ティアンもあまり強くは出られないらしい。結果、ティアンも部屋の隅でおとなしくしているしかない。場の空気が、完全にアリアの手に渡ってしまった。
悔しそうに膝の上で拳を握ったロレッタに、アリアが勝ち誇った笑みを返す。
「そもそも君、ブルース様の好みからは大きく外れているから」
「え、そうなのですか?」
ブルース兄様の好みってなんだ。俺も知らないぞ。
兄様はとにかく真面目で、浮いた話ひとつない。なぜかお母様だけはブルース兄様が夜な夜な女遊びしていると思い込んでいるけど。これは主にアロンのせいである。
ぱっと見は清楚なお嬢様に見えるロレッタである。普通にモテそうだが、口を開くと割と残念だ。ちょっと思ったのだが、ロレッタはなにも喋らずにただにこにこしていれば普通にモテるのでは? 恋人も普通にできちゃいそうだけど?
焦るあまり、ロレッタは完全に空回りしている気がする。
「私もね、結婚した当初は苦労したよ。ブルース様、全然私に興味ないから」
「おふたりは恋愛結婚では?」
「表向きそういうことになっているけどね。実は違うんだな、これが。ブルース様、恋愛するのが面倒だからって身近にいた私と結婚しちゃった感じの人だから。愛がなくても結婚できちゃう人だから」
全部言うじゃん。
え、表向きは夫婦として振る舞うって約束してなかった? そんな契約結婚ですと胸を張って言っちゃっていいのか?
動揺する俺と同じく、ティアンも「ちょっと! そんなになんでも話さないでください」と慌てている。だが、アリアはきょとんとしている。
軽く肩をすくめたアリアは、ソファに背中を預けて息を吐いた。
「私がどんなに着飾っても、ブルース様は無反応。綺麗なドレスを着ても、本当に無反応。もうね、普通だったら嫌になると思うよ」
めっちゃブルース兄様の悪口言うじゃん。
やれやれと首を左右に振ったアリアに、ロレッタがちょっぴり同情したような目を向けている。
どうしよう。ロレッタの中で、ブルース兄様がとんでもない男になっていそうである。というかアリア、別にそんな努力してないだろう。すごく頑張ってブルース兄様にアピールしてました的な語り口であるが、アリアだってブルース兄様に興味なかっただろ。なんでそんな被害者面ができるのだ。
「そんなある日だよ。もう着飾ることに飽きてしまった私は、ふと思いついて男装をしてみたわけ」
「男装を?」
いちいち相槌を打っているロレッタは偉い。
ユリスはもう笑いを堪えているぞ。
アリアの男装は結婚前からやっていたでしょうが。男装姿でヴィアン家に侵入して騒ぎを起こした件、俺は忘れていないぞ。俺が十歳のときの話である。
「そうしたらさ。今まで私に無反応だったはずのブルース様がこう言ったわけ。今までで一番似合うぞってね。ようするに、ブルース様はそういう男なの。実は男に興味があるんだよ」
ハッと口元に手をやったロレッタが、俺とティアンを盗み見た。そうして小声で「なるほど。ご兄弟でそういう」と納得したように頷いてしまった。
なんとなく俺はティアンと顔を見合わせた。
「だからね。ブルース様にアタックするだけ無駄だよ。あの人、男にしか興味ないから」
ブルース兄様の性癖が捏造されている。
アリアはブルース兄様を揶揄いたいだけだろ。
これでロレッタが諦めると思ったのか。立ち上がったアリアが「じゃあ私、もう一度寝るから」と手を振った。やっぱりそれ寝巻きだよね!? 今何時だと思っているんだよ。昼夜逆転してない?
「……私、それでも構いません」
「え? なにが?」
首を傾げるアリアに、ロレッタが拳を握った。
「私はお立場のよろしい殿方であれば誰でも構いませんので。たとえブルース様に本命の殿方がいようが、私は諦めません」
……とりあえず、ブルース兄様に本命の男はいないと教えてあげたほうがいいのだろうか。
静かに目を見開いて驚くロレッタに、アリアがにやりと口角を持ち上げて挑むような姿勢を見せた。
「まぁでも相手はブルース様だからね。そう簡単にはいかないと思うけど」
「……随分と自信がおありなのですね」
淡々と、けれども静かな闘志を宿したロレッタの声音に、人間姿の綿毛ちゃんが俺にこそこそと「本物の修羅場だね」と耳打ちしてきた。
実際、これは修羅場だ。
現在ブルース兄様の正室という立場にいるアリアは、余裕の態度でロレッタを見据えている。まぁ、ロレッタはまだ若いから。ブルース兄様には相手にされないと考えているのだろうか。いや、そもそもアリアとブルース兄様は利害が一致したゆえの形だけの結婚である。普通に考えて、今更ブルース兄様がアリア以外の人と結婚なんてするわけがない。
だからこそ、アリアは余裕の態度なのだろう。そう思っていたのだが、話は予想外の方向に転がって行く。
「私はブルース様のこと全部知っているからね。今更、君みたいな若い子が私たちの間に入り込む余地はないよ」
え、なにその愛し合ってますよアピール。同じ屋敷で生活しているくせに、ふたりはほとんど顔を合わせない。アリアはそんなドヤ顔で言うほど、ブルース兄様のこと知らないだろ。
目を瞬く俺の横で、ユリスがニヤニヤしている。こいつは話が面白くなれば、なんでもいいのだろう。ティアンだけが、どうやってふたりの間に割り込んで止めようかと思案していた。しかしアリアは一応ブルース兄様の妻である。ティアンもあまり強くは出られないらしい。結果、ティアンも部屋の隅でおとなしくしているしかない。場の空気が、完全にアリアの手に渡ってしまった。
悔しそうに膝の上で拳を握ったロレッタに、アリアが勝ち誇った笑みを返す。
「そもそも君、ブルース様の好みからは大きく外れているから」
「え、そうなのですか?」
ブルース兄様の好みってなんだ。俺も知らないぞ。
兄様はとにかく真面目で、浮いた話ひとつない。なぜかお母様だけはブルース兄様が夜な夜な女遊びしていると思い込んでいるけど。これは主にアロンのせいである。
ぱっと見は清楚なお嬢様に見えるロレッタである。普通にモテそうだが、口を開くと割と残念だ。ちょっと思ったのだが、ロレッタはなにも喋らずにただにこにこしていれば普通にモテるのでは? 恋人も普通にできちゃいそうだけど?
焦るあまり、ロレッタは完全に空回りしている気がする。
「私もね、結婚した当初は苦労したよ。ブルース様、全然私に興味ないから」
「おふたりは恋愛結婚では?」
「表向きそういうことになっているけどね。実は違うんだな、これが。ブルース様、恋愛するのが面倒だからって身近にいた私と結婚しちゃった感じの人だから。愛がなくても結婚できちゃう人だから」
全部言うじゃん。
え、表向きは夫婦として振る舞うって約束してなかった? そんな契約結婚ですと胸を張って言っちゃっていいのか?
動揺する俺と同じく、ティアンも「ちょっと! そんなになんでも話さないでください」と慌てている。だが、アリアはきょとんとしている。
軽く肩をすくめたアリアは、ソファに背中を預けて息を吐いた。
「私がどんなに着飾っても、ブルース様は無反応。綺麗なドレスを着ても、本当に無反応。もうね、普通だったら嫌になると思うよ」
めっちゃブルース兄様の悪口言うじゃん。
やれやれと首を左右に振ったアリアに、ロレッタがちょっぴり同情したような目を向けている。
どうしよう。ロレッタの中で、ブルース兄様がとんでもない男になっていそうである。というかアリア、別にそんな努力してないだろう。すごく頑張ってブルース兄様にアピールしてました的な語り口であるが、アリアだってブルース兄様に興味なかっただろ。なんでそんな被害者面ができるのだ。
「そんなある日だよ。もう着飾ることに飽きてしまった私は、ふと思いついて男装をしてみたわけ」
「男装を?」
いちいち相槌を打っているロレッタは偉い。
ユリスはもう笑いを堪えているぞ。
アリアの男装は結婚前からやっていたでしょうが。男装姿でヴィアン家に侵入して騒ぎを起こした件、俺は忘れていないぞ。俺が十歳のときの話である。
「そうしたらさ。今まで私に無反応だったはずのブルース様がこう言ったわけ。今までで一番似合うぞってね。ようするに、ブルース様はそういう男なの。実は男に興味があるんだよ」
ハッと口元に手をやったロレッタが、俺とティアンを盗み見た。そうして小声で「なるほど。ご兄弟でそういう」と納得したように頷いてしまった。
なんとなく俺はティアンと顔を見合わせた。
「だからね。ブルース様にアタックするだけ無駄だよ。あの人、男にしか興味ないから」
ブルース兄様の性癖が捏造されている。
アリアはブルース兄様を揶揄いたいだけだろ。
これでロレッタが諦めると思ったのか。立ち上がったアリアが「じゃあ私、もう一度寝るから」と手を振った。やっぱりそれ寝巻きだよね!? 今何時だと思っているんだよ。昼夜逆転してない?
「……私、それでも構いません」
「え? なにが?」
首を傾げるアリアに、ロレッタが拳を握った。
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