嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

綿毛ちゃんの日常27

『ねー、ちょっと。誰かオレのクッキー知らなぁい?』
「え、知らないけど」

 これはおかしいぞ。むむっと眉間に皺を寄せて考える。

 おやつの時間。坊ちゃんと一緒にクッキーを食べていたオレだけど、途中で猫のエリスちゃんに追いかけられた。びっくりして逃げまわったのだが、そのうちエリスちゃんが飽きたらしい。日当たりのいい場所で丸まってしまった。オレ、なんで追いかけられたんだろう。エリスちゃんは気まぐれである。

 そうしてようやく平和な時間を手に入れたオレは、食べかけのクッキーを食べようといそいそ坊ちゃんの足元に戻った。でも、クッキーがなくなっている。なんでぇ?

『坊ちゃん、食べた?』
「食べないよ。綿毛ちゃんの食べかけなんて」
『え、すごく怪しい。怒らないから正直に言って』
「怪しくない。綿毛ちゃんが自分で全部食べたんでしょ。俺見てたけど。人のせいにしないで」

 オレ、全部食べたっけ? 記憶にないなぁ。
 うんうん考えていると、坊ちゃんが「仕方ないな」と意味深に呟きながら立ち上がる。そのまま戸棚に駆け寄った坊ちゃんは、ちらちら横目でティアンさんを確認しながら扉を開けた。うん。すごく動きが怪しい。

 思った通り、ティアンさんが「何するんですか?」と坊ちゃんに寄っていく。

「綿毛ちゃんにおやつあげようと思って」
『えー? いいんですかぁ。ありがとうございまーす』

 さすが坊ちゃんだ。思わぬ嬉しい言葉に、オレはにこにこしちゃう。ティアンさんは「今食べたじゃないですか」と眉を寄せけど。

 たしかにクッキー食べたけど。あれだけじゃ足りなかったもんねぇ。オレ、もうちょい食べられるよ。
 
 尻尾を振りながら坊ちゃんの足元で待機していれば、坊ちゃんが戸棚の奥から小袋を引っ張り出してきた。中身はなんだろうとワクワクするオレの前に、坊ちゃんが袋の中身をバラバラと撒いた。

『……なにこれ』
「どんぐり。綿毛ちゃん好きでしょ?」
『好きじゃないよ? どんぐりは食べません。てかそれいつの?』
「クソピアスに貰ったやつ」

 クソピアスというのは、アロンさんのお友達。お名前はハドリーさん。派手なピアスをしている情報屋さんだ。

 一気にテンションの下がったオレ。ティアンさんが坊ちゃんの手から小袋を取り上げている。

「そんなもの戸棚に入れない! 虫が出てきますよ」
「大丈夫!」

 自信満々な坊ちゃんは、戸棚に押し込む前にどんぐりを煮沸したとドヤ顔で報告している。え、そこまでしてどんぐり保管しておきたかったの? どんぐり大好きなの?

 床に散らばったどんぐりを一個手にした坊ちゃんは、割って中身を取り出そうと奮闘し始める。いや、オレは食べないけどね?

 そろそろと坊ちゃんから距離を取る。どんぐりをテーブルの角にぶつける坊ちゃんを、ティアンさんが慌てて止めている。

 坊ちゃんは、自由である。

「これ割って」

 ついにはティアンさんにお願いした。ティアンさんが困惑している。でも基本的に坊ちゃんには甘いティアンさんである。おまけに最近お付き合いを始めてから、ますます坊ちゃんの言いなりになっている。ティアンさん本人にその自覚がなさそうなのが面白い。

 押し付けられたどんぐりを律儀に割って中身を取り出してあげたティアンさん。受け取った坊ちゃんが、オレの口元に押し付けてきた。これいじめでは?

『食べません! どんぐりは食べません』
「我儘言うな!」

 なんでこれがオレの我儘にカウントされるのだろうか。すごく理不尽だ。

 坊ちゃんを振り切って、先程から無言で見守っていたジャンさんの背後に逃げ込む。

『助けてぇ。ジャンさん、助けてぇ』

 困ったように視線を彷徨わせるジャンさんは、迷いながらもオレを抱っこしてくれた。これで安全である。

『オレをいじめないでくださーい。か弱い毛玉なんですけど』
「か弱くない!」
『か弱いもん。こんなに小さくて可愛いもん』

 ふるふる震えるオレのことを、坊ちゃんが睨みつけてくる。

 床に散らばったどんぐりは、ティアンさんがひとつ残らず回収している。坊ちゃんに内緒で捨てるのだろうか。けれどもすぐに坊ちゃんが気づいた。

「ティアン! それ返して」
「なにに使うんですか」
「綿毛ちゃんのおやつ」
『食べません!』

 どうしてそこまでしてオレにどんぐりを食べさせたいのだろうか。坊ちゃんの行動は、よくわからないねぇ。
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