嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

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「中、勝手に見ちゃった。ごめんね。でも最初に見たのはアロンだよ」
「はい。それは別にいいんですけど」

 戻ってきたティアンにジェフリーからの手紙を謝罪と共に渡しておく。特に怒らないティアンは、しかし中を読んで微妙な顔になった。だよね。一回決闘の件はお断りしたもんね。再び同様の手紙が届いて困惑するのは無理もない。

「ジェフリーはまだ小さいから。許してあげてね」
「いや、もうそこまで小さくはないですよね」

 困惑気味に手紙を眺めるティアンは、どうしたものかと考えている。ちなみにアロンは、ティアンが戻ってくる前に退散してしまった。勝手に手紙を開けたので、ティアンに怒られると思ったのだろうか。

『ジェフリーくん、坊ちゃんのこと好きだもんねぇ』

 ニマニマ笑う綿毛ちゃんは、他人事だと思って楽しんでいる。ジェフリーには何度も告白されたので、彼の気持ちはわかっているつもりだ。しかし何度お断りしても、しばらく経ったら何事もなかったかのように再挑戦してくる姿勢はアロンに似ている。だからだろうか。アロンはジェフリーのことを嫌っている。

「明日、アロンも一緒に行きたいってさ」
「嫌ですよ」

 眉を寄せるティアンは、露骨に嫌な顔。そんなにきっぱり言わなくても。

「アロンも大人だから。ちゃんとおとなしくできるって」
「あの人がおとなしい時なんてありましたっけ?」

 さらっと酷い物言いをするティアンは、手紙を懐に押し込んだ。明日ジェフリーには会えるから、返事はその時でもいいだろう。

「綿毛ちゃんも行く?」

 目に入った毛玉に問いかけると『行く!』という元気のいい返事。

「よし! じゃあ明日は早起きだからね」
『わかったぁ』
「いやダメですよ! 綿毛ちゃんは留守番です」

 せっかく話がまとまったのに、ティアンが割り込んでくる。綿毛ちゃんはうっかりお喋りしちゃうし、頭に角もあるからジェフリーには見せられないという。

「じゃあ綿毛ちゃん。人間になれば?」
『わかったぁ』
「ダメですよ! なんで突然無関係の人間を連れて行く必要があるんですか」
『えー、オレはおとなしいけどぉ? アロンさんよりもおとなしくできるけどぉ』

 たしかに。綿毛ちゃんは犬だけど、アロンよりも常識があるかもしれない。ふむふむ納得する俺だが、やはりティアンは譲らない。大人数で押しかけるのは失礼だと言う。まぁ、そうだな。遊びに行くわけじゃないからな。

「じゃあ綿毛ちゃんはお留守番ね」
『またぁ? ひどいよぉ、オレだけ仲間はずれだよ』
「うるさいぞ」
『え、普通にひどい』

 シクシク泣き真似をする綿毛ちゃんは、ひとりで忙しそうだ。犬なのに、感情豊かである。


※※※


 夜になり、寝る準備をバッチリ終えた俺は綿毛ちゃんを仁王立ちで見下ろしていた。ティアンとジャンは自分の部屋に戻ってしまったので、寝室には俺と犬猫のみ。

「俺とティアンは、恋人同士」
『うん。知ってるけど?』

 寝ないの? と首を傾げる毛玉に、俺はここ最近考えていたことを打ち明けることにした。

「恋人同士なのに、あんまり恋人っぽいことしてない気がする」
『なるほど、たしかにねぇ』

 大袈裟に頷く綿毛ちゃんは、本当に話を理解しているのか謎である。犬なのに、綿毛ちゃんは恋愛得意とか大嘘を吐く。一体どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか。

 しかし俺が困っているのは事実である。

 以前より気軽に手は繋いでくれるけど、言ってしまえばそれだけである。そもそも恋人ってなにするんだ。ティアンはいつもと変わらず俺の隣に立っているだけ。え、本当に付き合っているんだよね? と心配になってしまうのだ。

 なんか、なにもなさすぎて退屈だ。
 そう思っているのは俺だけなのだろうか。

 迷った俺は、行動を起こすことにした。

「ティアンの部屋に乗り込むぞ!」
『えぇ!? じゃあオレも! オレもティアンさんの部屋に乗り込む』
「いいよ。じゃあ一緒に行こうね」
『うん!』

 尻尾をぶんぶん振る綿毛ちゃんは、乗り気である。そうと決まれば、行動あるのみ。

 とりあえずオーガス兄様に以前もらった可愛くない羊のぬいぐるみをベッドの下から引っ張り出す。前はベッドに置いていたんだけど、毎回エリスちゃんがベッドから蹴落とすので、こうなった。ベッドの下に押し込んだのもエリスちゃんだと思う。ジャンが発見するたびに戸棚の上に飾っているのだが、気がついたらまたベッドの下に移動している。エリスちゃんは、羊のぬいぐるみに恨みでもあるのだろうか。

『それなにするの?』
「手土産」
『ほほう。気が利くねぇ』

 ぴょんぴょん跳ねる綿毛ちゃんをお供に、廊下に出た。ティアンの部屋をノックすると、少し間を置いてからティアンが出てきた。

「なんですか、こんな時間に」
「これ貸してあげる」
「はい?」

 困惑するティアンに羊のぬいぐるみを押し付けて、「お邪魔します!」と宣言した。しかし俺が一歩踏み出す前に、ティアンが俺の進路を邪魔した。

「え、なんの用ですか」
「一緒に寝よ」
「は?」

 目を見開くティアンは、少し間を置いてから再び「は?」と言った。俺、そんなに変なこと言った?

「付き合ってるんだから、別にいいでしょ?」
「……」

 無言で固まるティアンに、俺は足元を示した。

「綿毛ちゃんも一緒だよ」
『どうもどうも』

 呑気な毛玉の声に、ティアンが我に返った。羊のぬいぐるみを俺に返すと、「ダメですよ」と苦い顔になる。

「なんで?」
「いや、なんでと言われても。普通にダメですよ」
「付き合ってるのに?」

 しゅんと肩を落とす俺に、ティアンが困ったような顔になる。ティアンにそんな顔をさせたかったわけではない。なんだか妙な空気になってしまった。今日のところは、諦めて部屋に戻ろうかな。
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