嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

793 いつも考えてる

 ティアンに行手を阻まれた俺は、廊下にポツンと立ち尽くす。綿毛ちゃんもしゅんと落ち込んでいる。

 なんとなく、そういう空気かなと思ってシクシク泣き真似をしてみた。綿毛ちゃんも真似して、すごくわざとらしい泣き真似をした。俯いて小さく震えている。綿毛ちゃんは泣き真似が下手くそだ。

 これにティアンが困惑した。
 廊下に出てきたティアンは、きっちりドアを閉めてしまう。意地でも俺を中に入れたくないという気持ちが伝わってきて少し寂しい気分になる。ティアンって潔癖なのだろうか? いつ訪れても部屋には絶対に入れてくれない。どうしてそんなに頑ななのか。一時期は俺に隠したい物でもあるのかと疑っていたのだが、どうもそういうわけではないらしい。単に俺を部屋に入れたくないだけのような気がする。

「いや、ルイス様。えっと、これは嫌とかそういう意味ではなくて」

 言葉を探すように視線をうろうろさせるティアンは、本気で俺のことを心配しているように見えた。このわかりやすい嘘泣きを信じたのだろうか。

 いや、ティアンは俺の嘘泣きを当然見抜いている。けれどもそれを指摘しないティアンの優しさに、俺はますます悲しくなった。優しいのに、拒絶されている。その矛盾した態度に、もやもやしてしまう。

「ティアンは、俺のこと嫌い?」
「いいえ、好きですよ。好きだからこそ、簡単に部屋に招いたりしたくはないんですよ」

 どういう意味だろうか。
 ちょっと考える俺に、ティアンが優しく微笑んだ。

「僕、ルイス様のことだけは本当に大事にしたいので」

 付け足された言葉に、今度は心がぽかぽかしてくる。泣き真似していたことも忘れて、ティアンの瞳を見つめた。穏やかな薄青の瞳は、すごく優しい色をしていた。

「うん。わかった」

 本当はよくわからないけど、もっと恋人らしいことがしたいけど。ティアンが意地悪で俺を遠ざけているわけではないと理解できる。だったらそれでいいや。納得する俺に、ティアンが「ありがとうございます」と小声で言った。

『……』

 足元から視線を感じた。
 綿毛ちゃんが、じっと俺を見上げている。視線が合うと、毛玉がへにゃっと笑った。

『ティアンさん、坊ちゃんのこと大好きだねぇ』
「そうなの?」

 ティアンに問えば、少しだけ気まずそうな空気を纏ったティアンが「そうですね」と控えめに応じた。

 嬉しい言葉に笑えば、ティアンが俺を部屋まで送ってくれる。互いに無言だが、別に嫌な感じはしない。

「おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
『おやすみー』

 ティアンがいなくなった寝室で、俺は綿毛ちゃんを見下ろした。

「ティアンは、俺のこと好きなんだよね?」
『うんうん。そう言ってたよ』
「でもさ、あんまり一緒に居てくれないよね。別にいいけどさ」

 いや、正確には日中ほとんど一緒にいるのだが。そうじゃなくて、なんだろう。あれは仕事として俺の隣にいるのだ。仕事抜きに、普通に俺と接してほしいと思うのは、俺の我儘だろうか。まぁ、普段からあれだけ一緒にいれば、夜くらいひとりになりたいと思うのかもしれない。

 無理矢理納得しようとする俺に、綿毛ちゃんが『わかんないけど』と言いながらベッドへ上がった。枕元を確保して、寝る体勢に入ってしまう。

『ティアンさん。坊ちゃんのこと大事にしてるよ。あれだよ。無責任なことしたくないって感じだよ、たぶん』
「無責任?」
『うん。すごいねぇ。普通は恋人できたら浮かれちゃいそうなのにねぇ。いつでも坊ちゃんのことを一番に考えてるんだよ、ティアンさんは』

 ティアンの優しい微笑みを思い出した。ティアンはあまり自分の主張をしない。いつもあれこれ口うるさいけど、あれは俺のためだと思う。ティアンがティアンのために、俺に何かを言うことはほとんどない。

「ティアンって、いつもなに考えてるんだろうね」
『うーん。坊ちゃんのことじゃない?』
「えー? そうかなぁ」

 だったら嬉しいけど。
 へらへら笑う綿毛ちゃんにつられて、俺もベッドに転がった。抱えていた羊のぬいぐるみを綿毛ちゃんの隣に並べてあげる。先に寝ていたエリスちゃんが、ちらりと羊を見た。

「俺もティアンのこと考えてるよ」
『へー。じゃあオレもティアンさんのこと考えよう』
「なんで? 綿毛ちゃんは考えなくていいの!」
『いいじゃん。オレもティアンさんのこと好きだよ。優しいから』
「俺の真似しないで」
『真似じゃないもーん』

 ケラケラ笑う綿毛ちゃんは、確実に俺を揶揄って遊んでいる。うるさい毛玉のせいで目が覚めたらしいエリスちゃんが、羊のぬいぐるみに猫パンチをした。怯える綿毛ちゃんは、エリスちゃんから距離を取る。

 どうやらエリスちゃん、本当に羊のぬいぐるみが気に食わないらしい。なんでだろう。
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