嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

794 勝負

「ルイス様。本当にあの人も連れて行くんですか?」
「え、ダメ?」
「ダメというわけではないんですけど」

 言葉ではそう言いつつも、ティアンは明らかに嫌そうな顔をしている。ティアンを困らせている原因は、堂々とした佇まいで馬を連れてきたアロンである。

 今日はカル先生と一緒にジェフリーの家に行く日である。昨日、アロンも一緒に行きたいと騒いでいたが、どうやら本当に同行するつもりらしい。ちゃんとブルース兄様の許可は取ったのだろうか。

『でもさぁ、大人数の方が楽しいよ、きっと』

 ね? と笑いながら場の空気を和ませようとした綿毛ちゃんは、足早に馬車へと乗り込んでしまった。綿毛ちゃんは留守番だけど?

 しれっと同乗した毛玉を、ティアンが素早く馬車から追い出している。

『あー、オレだけ仲間外れは酷いよぉ』
「綿毛ちゃんはユリスと一緒に留守番してて!」
『えー、そんなぁ。オレ、今日も子守しないといけないのぉ?』

 ユリスが聞いたら間違いなく不機嫌になるであろう言葉を吐いた綿毛ちゃんは、しょんぼりしている。

 そうしていつものメンバーに加えて、アロンも同行することとなった。しばらく馬車を走らせて、アーキア公爵家に到着する。

 毎度のように玄関先で待ち構えていたデニスは、ユリスがいないと知るなり露骨に興味を失った。相変わらずの失礼さである。無言で屋敷に引っ込んでいくその後ろ姿を見送って、俺はため息を吐いた。

 一方のジェフリーは、ティアンの姿を見るなり拳を握った。ぎゅっと目を閉じて、すごく何かを言いたそうな様子である。ティアンの表情が引きつってしまう。

「あ、あの! ティアンさん!」

 控えめに、けれどもはっきりとした口調でジェフリーがティアンを呼んだ。

「僕と勝負してください!」
「……」

 遠い目をしたティアンが、困ったように動きを止めてしまった。後ろからひょっこり顔を出したアロンが「え、決闘? いいね!」と無責任な発言をしている。

 この状況、なにもよくないだろう。

 しかしティアンは大人である。突っ走るジェフリーにも、優しく対応してあげるくらいには大人である。アロンとは大違いである。

「いえ、そのような勝負を受け入れるわけには」
「俺も参加しようかな」

 真面目に返答するティアンを遮って、アロンが手をあげた。ややこしい事態になるから、アロンはちょっと黙っていてほしい。

 案の定、ジェフリーが目を見開いた。ティアンと勝負するつもりだったのに、無関係なアロンが首を突っ込んできてビビったのだろう。先程までの勢いはどこへやら。

 静かに拳をおろしたジェフリーは、カル先生に向き合うと「今日もよろしくお願いします」と言った。

 あ、決闘の件はなかったことにする感じかな?

 ひとりにこにこしているアロンは、確実にこの状況を楽しんでいた。ジェフリーが乗り気でないとわかるなり、ティアンの肩を掴んでいる。

「仕方がない。俺と君とで勝負する? 君が勝ったら飯でも奢ってあげるよ。俺が勝ったら、君は騎士を辞めて実家に戻りな」
「なんで僕だけそんな重いもの背負わなきゃいけないんですか?」

 ふざけたアロンの提案に、ティアンが真顔で問いかけている。たしかに、賭けているものが著しくつり合っていない。誰がそんな勝負受けるんだよ。

「喧嘩しないでね」

 授業の間、アロンとティアンは別室で待機となる。あんまり騒いじゃダメだよと言い置けば、ティアンが微妙な顔になった。

「なんですか、先程のは」

 ジェフリーの部屋に入るなり、カル先生が不思議そうに訊いてきた。アロンの嫌がらせだよと教えると、先生は眼鏡のズレを整えながら「はぁ」と気の抜けた返事をする。

「あ、そうだ。ティアンへの手紙、俺も読んじゃった。ごめんね」

 思い出してジェフリーに謝ると、彼は小さく首を左右に振った。

「いえ、大丈夫です。それより」
「うん?」

 消え入るような声で話すジェフリーは、明らかに元気がない。もしやアロンのせいで落ち込んでいるのだろうか。なんかごめんねと再度謝罪するが、ジェフリーの顔色は晴れない。

「ジェフリー?」
「あの、僕。最初はルイス様にお会いできるだけで嬉しかったはずなんですけど。でも最近それだけじゃ嫌で、ルイス様がティアンさんと一緒にいるともやもやするって言いますか。なんか、我儘ですみません」

 すっかり俯いてしまったジェフリーには、泣いてしまいそうな雰囲気があった。

「あの手紙も。変なこと言ってごめんなさい」

 決闘の件だろうか。どうして突然ジェフリーが謝ることにしたのか、よくわからない。俺にはティアンがいるから、ジェフリーとは付き合えないけど。それでもジェフリーに、俺への気持ちは全部忘れろというのは無理な話だろう。定期的に顔を合わせる今の状況ではなおさらそうだ。

 自分の気持ちを自分で完全にコントロールするのは難しい。わかっているからこそ、俺は別にジェフリーの気持ちを否定するつもりはない。ジェフリーだって、俺の知らないところで色々考えているのだろう。

 立ち尽くすジェフリーの手をとった。

「いいよ、謝らなくて。俺はジェフリーと会うの楽しいよ」
「本当ですか?」
「うん!」

 迷惑だなんて思わない。ジェフリーの手を引いて、俺は微笑んだ。
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