嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

806 相談相手

 ユリスの腕をひたすら無言で掴む。「鬱陶しい」と吐き捨てるユリスは、先程から俺の手を振り解こうと奮闘している。

 そうはさせるかと、俺はユリスの腕を掴む手に力を込める。

「なんだ。おい、ルイス。どういうつもりだ」
「だってティアンが」

 ティアンの名前を出した途端に、ユリスが不機嫌顔になってしまった。ティアンにキスして逃げてきた俺である。そのティアンは、まだユリスの部屋にはやって来ていない。一体なにをモタモタしているのだろうか。もしかして俺と顔を合わせるのが気まずいのだろうか。まぁ、俺だって気まずいからここに逃げてきたんだけどさ。

「ユリス!」
「だからなんだ。さっきから」

 意味もなくユリスの名前を呼んでみる。その度にユリスがちょっと迷惑そうに眉間に皺を寄せるのだ。

 タイラーのことを横目で確認してから、ユリスの耳元に口を寄せる。

「ティアンとキスしちゃった」
「はぁ?」

 小声で報告したのだが、ユリスは遠慮なく大声を出した。タイラーに聞かれたらどうする。慌ててユリスの肩を叩いておく。

「どうしてそうなる」
「綿毛ちゃんがやれって言った」

 最初にキスするべきだと言い出したのは、あの毛玉である。そういえば綿毛ちゃんを部屋に置いてきてしまった。まぁいいや。あの毛玉は自分でどうにかするだろう。

 俺の簡単な説明に、ユリスが小さく舌打ちした。なんでだよ。

「なんであんな犬の言うことに従うんだ。やめろ」
「だって綿毛ちゃんは恋愛得意って言ってたよ」
「そんなわけないだろう」

 間髪入れずに否定したユリスに、俺は「やっぱりそう思う?」と首を傾げた。俺も、綿毛ちゃんが恋愛に詳しいと言うのは単なるでまかせだと思う。だって綿毛ちゃんは犬だもん。人間の恋愛とかわからないと思う。

「それで? おまえとキスするだけして、ティアンは逃げたのか」
「別に逃げてはいないよ」

 むしろ俺が逃げてきた。
 しかしティアンも追いかけてこない。突き放すように俺が駆け出したからだろうか。追っていいのか迷っているのかもしれない。

「どうすればいいと思う?」
「どうって」

 少し面食らったように言葉を切ったユリスは、腕を組んで難しい表情になってしまう。タイラーは、おそらく俺たちの会話が聞こえているのに、聞こえないふりをしてくれている。窓際に立って、意味もなく外を眺めている。

「……なんで僕に訊くんだ」

 困惑気味のユリスに、俺も困惑してしまう。

「え? ユリスだとなんかダメなの?」
「ダメというか」

 視線を彷徨わせたユリスは、やがて小さな声で「僕もそういうのはよくわからない」と言った。

 そうだな。ユリスも別に恋愛が得意ってわけじゃないからな。しかし気軽に相談できる相手といえばユリスなのだ。普段はティアンにも相談できるのだが、今回はティアンとの仲をめぐる相談である。当事者であるティアンには絶対に相談できない。

「じゃあ誰に相談すればいいと思う? ブルース兄様?」
「ブルースも恋愛に関しては役に立たないだろ」
「たしかに」

 ブルース兄様は仕事一筋なところがある。アリアと結婚してはいるけど、あまり恋愛って感じではない。

「じゃあオーガス兄様?」
「絶対にダメだ」
「そう?」

 オーガス兄様は恋愛結婚だけど、あれはキャンベルが色々と兄様に気を遣った結果だと思う。たしかに、そう考えるとオーガス兄様のアドバイスもあてにならない気がする。

「じゃあお父様か」
「やめろ、馬鹿」
「馬鹿って言うな!」

 反射的に言い返す俺に、ユリスが呆れたような目を向けてくる。

「父上を巻き込むな。面倒なことになる」

 そうかな?
 お父様が相手だと途端におとなしくなるユリスである。

「じゃあ誰がいいの!?」
「……」

 俺の問いかけに、ユリスが顎に手を持っていく。「まともな人間がいないな」と、なにやら失礼なことを呟いたユリスは、やれやれと肩をすくめた。

「それこそロニーに訊いたらどうだ。少なくとも、この屋敷の中ではまともな人間だろう」
「ロニーは屋敷の外でもまともだから」

 しかしユリスの提案は一理ある気がした。普通に普通のアドバイスをしてくれる人間といえば、ロニーしかいないような気がする。

 アロンのアドバイスは絶対に参考にはならないし、ニックはセドリック以外に興味ないし、レナルドもふざけた男だし、グリシャも恋愛には興味なさそう。

 そうと決まれば、行動あるのみ。

「じゃあ俺はロニーに相談しに行くから。ユリスはティアンのこと引き止めておいてね」
「は?」

 なんで僕が、と険しい表情になるユリス。だってティアンが一緒だと相談できないでしょうが。

 任せたぞ! とユリスの肩を叩くと、すごく嫌そうな顔をされてしまった。
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