嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

807 恋人のいない理由

 朝食後。
 一旦自室に駆け込んだ俺は、床に落ちていた綿毛ちゃんを素早く拾った。綿毛ちゃんのご飯は、ティアンが用意してくれたらしい。そのティアンは、俺を見るなり苦笑した。

「じゃあね!」
「え? ルイス様?」

 何事かを言いかけたティアンを制して、俺は再び部屋を飛び出した。追いかけてこようとしたティアンであるが、廊下にはユリスが待機している。どうにかティアンを引き止めてくれとお願いしたら、すごく渋々引き受けてくれたのだ。

 ユリスがティアンに声をかけているのを肩越しに確認して、俺は屋敷を出た。今の時間、ロニーは騎士棟にいるはずであった。

『どうしたの? ティアンさん置いてきていいの?』
「ティアンは忙しいから」
『そう? 暇そうだけどねぇ』

 どこかティアンを小馬鹿にしたような態度の綿毛ちゃんは、行き先を察したらしい。『騎士棟?』と腕の中から声をあげた。

『じゃあオレはロニーさんに会いに行こう。坊ちゃんはその間に用事を済ませるといいよ』
「毛玉のくせに!」
『なにがぁ?』

 首を捻る綿毛ちゃんは、図々しい。俺が用があるのはまさにロニーである。なにをさりげなくロニーと遊ぼうとしているのだ。毛玉のくせに生意気である。

『えー? ロニーさんに用事なの? えー』

 うるさい綿毛ちゃんは、『オレもロニーさんに用がある』と大嘘を吐いた。

『オレ、今度ロニーさんと街に行くの。ロニーさんのことお誘いしないと』
「勝手にロニーと遊ばないで!」

 生意気毛玉を上下に振ってやる。『やめてぇ』とのんびり悲鳴を上げる綿毛ちゃんは、ニヤニヤしていた。

 綿毛ちゃんは時折ロニーと共に出かけている。あれは絶対に綿毛ちゃんが強引にロニーについて行っているのだ。ロニーは優しいから、綿毛ちゃんにお願いされると断れないのだろう。

 綿毛ちゃんは、なんでも俺の真似をしてくる。

「ロニーいる?」

 騎士棟に到着して、目についた騎士に声をかける。「団長と一緒にいましたよ」と教えてもらえたので、セドリックの執務室に向かうことにした。

「セドリック。ロニーいる?」

 団長室をノックすれば、セドリックが出てきた。
 相変わらず無表情でやる気にかけるセドリックは、俺を視界に入れるなり眉を寄せた。けれども廊下に出てくると、「ロニーでしたら、ブルース様のところに」と答えてくれた。

 どうやら入れ違いになってしまったらしい。

 ブルース兄様、今日は朝から騎士棟で仕事をしているらしい。ブルース兄様は屋敷と騎士棟にそれぞれ部屋を持っているのだ。

 兄様の部屋に行けばロニーに会えるが、兄様の相手をするのは面倒だ。どうせ「仕事の邪魔をするんじゃない!」と叱られるのが目に見えている。

 なので俺は、とりあえずセドリックにも相談してみることにした。別に本気でセドリックのアドバイスを期待しているわけではない。ロニーが戻ってくるまでの暇つぶしである。

「あのさ。ティアンが俺にキスしてきたんだけど。あ、でもほっぺたにだよ。なんで口にしないんだろう」
「……」
「ねぇ、聞いてる?」

 ペシペシとセドリックの腕を叩くと、無表情だったセドリックの顔に困惑の色が浮かんだ。

「……私には、わかりかねます」
「そんなこと言わずに!」

 セドリックだって大人である。やる気はないけど、それなりに恋愛経験あるはずだ。

「セドリックって彼女とかいるの?」
「おりません」
「なんで?」

 純粋な疑問に、セドリックが遠い目をした。
 やがて振り絞るように「ニックが」と言う。

「あいつが付きまとうので、そんな暇はありません」
「可哀想」

 そういえば、セドリックは常にニックに付きまとわれていた。そんな状況では、気になって恋愛どころではない。仮にセドリックに恋人ができたとしても、常にそれをニックが見ているのだ。恋人の方も嫌がるに違いない。なんかセドリックが可哀想だ。

「元気出して。ニックに文句言ってやりなよ」
「はぁ」

 やる気のない頷きを返してくるセドリックは、「もうよろしいですか?」と話を切り上げようとしてくる。冷たい。

 綿毛ちゃんが『セドリックさん、元気出してぇ』と俺の真似してセドリックを励ましている。

 ロニーが帰ってくる気配がないので、ブルース兄様の執務室に足を向けることにする。

 騎士棟内にあるブルース兄様の部屋を訪れるのは久しぶりだ。

「兄様ぁ!」

 ノックと同時にドアを開けると、ロニーと会話する兄様がいた。

「おい。勝手に入ってくるな」

 眉間に皺を寄せる兄様を「まあまあ」と宥めて、ロニーに笑顔を向けた。綿毛ちゃんも『ロニーさん!』と尻尾をぶんぶん振っている。

『ロニーさん。今度一緒に遊びに行こうね』
「うるさいぞ」

 抜け駆けする毛玉を床に捨てる。
 着地するなりロニーに駆け寄る綿毛ちゃんは、もふもふの体でロニーの足にすり寄っている。ロニーの服が毛だらけになってしまう。慌てて毛玉を回収しておく。

「なにしに来たんだ」

 呆れたように問うてくる兄様に「ロニーに会いに来たの」と告げておく。これにロニーが「私ですか?」と不思議そうに首を傾げた。

「うん。兄様との話が終わってからでいいよ。外で待ってるから」

 さすがに仕事の邪魔はできない。ブルース兄様にも怒られる。

 綿毛ちゃんと共に、廊下に出た。しばらくのんびりロニーが出てくるのを待っておこう。
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