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17歳
810 逃げますか
ひとしきり笑ったティアンは、咳払いで色々なことを誤魔化そうとしていた。無理だから。今更、何事もなかったことにはできないから。
「そんなに笑わなくていいじゃん」
俺としては、結構真面目に悩んでいたのだ。それなのに、ティアンは笑ってくる。普通に失礼だと思う。唇を尖らせる俺に、綿毛ちゃんが『元気出して』と尻尾を当ててきた。どういうつもりだ。
綿毛ちゃんを抱っこしてから、ティアンを睨む。
すみませんと何度も繰り返すティアンは、「そうですね、ルイス様とのお付き合いにも真面目に取り組まないといけないですよね」と言った。そうだな。そうするべきだ。
「屋敷に戻ろう」
こんな寂しい場所にいる必要はない。ティアンを伴って、庭を歩いた。途中でこそこそ行動しているニックを見かけた。どうせセドリックのことを追っているのだろう。無視しておこう。ティアンが呆れたような視線を送っていた。
それがいけなかったのか。
突然こちらに顔を向けたニックが「あ!」と声を上げた。そして、なぜかこちらに走ってくる。
「なんか来た」
思わずそう言った俺に、ティアンが「逃げますか?」と真顔で尋ねてきた。別に逃げる必要はないのだが、そのティアンの生真面目な様子が面白くて、俺は「うん」と頷いた。
綿毛ちゃんを抱っこしたまま、なんとなく走った。ティアンも一緒に走ってくれる。
背後からニックの「なんで逃げるんですか! ちょっと!」という大声が追いかけてくる。
「ルイス様!」
大人げないニックは、簡単に俺へと追いついた。こっちは綿毛ちゃんを抱えていて走りにくいというのに。少しは手加減するべきだろう。
俺の前に回り込んできたニックは「ちょっと、聞いてくださいよ!」と勝手に話を始めてしまう。疲れた俺は、足を止めた。ティアンもそれに倣う。
「何の用? セドリックなら騎士棟にいたよ」
「知ってます」
さすがセドリックの追っかけに真剣に取り組んでいるだけのことはある。セドリックの行動は逐一把握しているらしい。ちょっと怖い。
「あ、そういえば。セドリックがね、ニックのせいで恋人できないって言ってたよ」
セドリックとの立ち話を思い出して教えてあげれば、ニックが「なんで俺のせいなんですか」と心底不思議そうな表情になった。マジか。なんでそこまで心当たりないみたいな顔ができるのだろうか。ここまでくると、すごいな。
『あー、言ってたねぇ。ニックさんがずっと近くにいるから、恋人できないって言ってたよぉ。セドリックさんに謝りなよ』
「謝りなよ」
綿毛ちゃんと一緒に詰め寄れば、ニックが眉間に皺を作った。ティアンも呆れた目でニックを見ている。
三人に責められてもなお、ニックは平然としている。
「団長に恋人ができないのは、本人のやる気がないからですよ! 俺は関係ありません」
断言するニックは、自分が悪いかもなんて一切考えていなかった。セドリックが可哀想。
しかしニックの言い分も一理あるかもしれない。セドリックは、とことんやる気がない。基本的に無気力なのだ。自分から積極的に動くことは稀である。
たしかに、ニックがいてもいなくても、セドリックは恋人作らないだろう。セドリックが他人のためにあれこれ動く姿は想像できない。もちろん仕事であれば動くだろうけど。
「ニックは、セドリックのことが好きなの?」
ポロっと口から出たのは、ずっと気になってはいたけど、なんとなく尋ねるタイミングを逃していた質問である。いや、一度聞いたことあったっけ? よく覚えてないや。
けれども、ニックは表情ひとつ変えることなく「いいえ」と言った。あ、違うの?
「団長のことは尊敬しています。それだけです」
「へー」
尊敬だけで、そこまで執着できるのだろうか。
どうやら本気で、ニックはセドリックと付き合いたいとは考えていないらしい。今の関係性がちょうどいいのだとか。セドリックからすれば、全然ちょうどよくないと思うけど。
「で? 何の用?」
セドリックの話を続けられても面倒なので、話を戻す。わざわざ追いかけてきたのだ。きっと大事な用事でもあるのだろう。
神妙な顔になったニックは、俺をティアンを見比べてから、なぜか俺の方に寄ってきた。
「なに」
「ルイス様。アロンのこと見てませんか」
「アロン? 見てないね」
『見てないねー』
先程ブルース兄様の部屋に行ったけど、アロンはいなかった。また屋敷のどこかでサボっているに違いない。そう伝えると、ニックが「ふーん」と雑な相槌を打った。
「なんか朝から見ないので。酔い潰れてるんですかね?」
「アロンって酔ったりするの?」
「たまに二日酔いで部屋から出てこないでしょ」
「そうなの?」
アロンが酒に酔っている姿は、あまり見ない。ブルース兄様が酔い潰れている姿はよく見るけど。なんだか興味が湧いてきた俺は「見てくる!」と宣言した。
「アロンのこと、見てくるね」
「あ、はい。ご自由にどうぞ」
自分から話を振ってきたくせに反応の薄いニックは、「じゃあ俺は忙しいので!」と慌てて去って行った。どうせセドリックを見に行くだけでしょうが。
「そんなに笑わなくていいじゃん」
俺としては、結構真面目に悩んでいたのだ。それなのに、ティアンは笑ってくる。普通に失礼だと思う。唇を尖らせる俺に、綿毛ちゃんが『元気出して』と尻尾を当ててきた。どういうつもりだ。
綿毛ちゃんを抱っこしてから、ティアンを睨む。
すみませんと何度も繰り返すティアンは、「そうですね、ルイス様とのお付き合いにも真面目に取り組まないといけないですよね」と言った。そうだな。そうするべきだ。
「屋敷に戻ろう」
こんな寂しい場所にいる必要はない。ティアンを伴って、庭を歩いた。途中でこそこそ行動しているニックを見かけた。どうせセドリックのことを追っているのだろう。無視しておこう。ティアンが呆れたような視線を送っていた。
それがいけなかったのか。
突然こちらに顔を向けたニックが「あ!」と声を上げた。そして、なぜかこちらに走ってくる。
「なんか来た」
思わずそう言った俺に、ティアンが「逃げますか?」と真顔で尋ねてきた。別に逃げる必要はないのだが、そのティアンの生真面目な様子が面白くて、俺は「うん」と頷いた。
綿毛ちゃんを抱っこしたまま、なんとなく走った。ティアンも一緒に走ってくれる。
背後からニックの「なんで逃げるんですか! ちょっと!」という大声が追いかけてくる。
「ルイス様!」
大人げないニックは、簡単に俺へと追いついた。こっちは綿毛ちゃんを抱えていて走りにくいというのに。少しは手加減するべきだろう。
俺の前に回り込んできたニックは「ちょっと、聞いてくださいよ!」と勝手に話を始めてしまう。疲れた俺は、足を止めた。ティアンもそれに倣う。
「何の用? セドリックなら騎士棟にいたよ」
「知ってます」
さすがセドリックの追っかけに真剣に取り組んでいるだけのことはある。セドリックの行動は逐一把握しているらしい。ちょっと怖い。
「あ、そういえば。セドリックがね、ニックのせいで恋人できないって言ってたよ」
セドリックとの立ち話を思い出して教えてあげれば、ニックが「なんで俺のせいなんですか」と心底不思議そうな表情になった。マジか。なんでそこまで心当たりないみたいな顔ができるのだろうか。ここまでくると、すごいな。
『あー、言ってたねぇ。ニックさんがずっと近くにいるから、恋人できないって言ってたよぉ。セドリックさんに謝りなよ』
「謝りなよ」
綿毛ちゃんと一緒に詰め寄れば、ニックが眉間に皺を作った。ティアンも呆れた目でニックを見ている。
三人に責められてもなお、ニックは平然としている。
「団長に恋人ができないのは、本人のやる気がないからですよ! 俺は関係ありません」
断言するニックは、自分が悪いかもなんて一切考えていなかった。セドリックが可哀想。
しかしニックの言い分も一理あるかもしれない。セドリックは、とことんやる気がない。基本的に無気力なのだ。自分から積極的に動くことは稀である。
たしかに、ニックがいてもいなくても、セドリックは恋人作らないだろう。セドリックが他人のためにあれこれ動く姿は想像できない。もちろん仕事であれば動くだろうけど。
「ニックは、セドリックのことが好きなの?」
ポロっと口から出たのは、ずっと気になってはいたけど、なんとなく尋ねるタイミングを逃していた質問である。いや、一度聞いたことあったっけ? よく覚えてないや。
けれども、ニックは表情ひとつ変えることなく「いいえ」と言った。あ、違うの?
「団長のことは尊敬しています。それだけです」
「へー」
尊敬だけで、そこまで執着できるのだろうか。
どうやら本気で、ニックはセドリックと付き合いたいとは考えていないらしい。今の関係性がちょうどいいのだとか。セドリックからすれば、全然ちょうどよくないと思うけど。
「で? 何の用?」
セドリックの話を続けられても面倒なので、話を戻す。わざわざ追いかけてきたのだ。きっと大事な用事でもあるのだろう。
神妙な顔になったニックは、俺をティアンを見比べてから、なぜか俺の方に寄ってきた。
「なに」
「ルイス様。アロンのこと見てませんか」
「アロン? 見てないね」
『見てないねー』
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「なんか朝から見ないので。酔い潰れてるんですかね?」
「アロンって酔ったりするの?」
「たまに二日酔いで部屋から出てこないでしょ」
「そうなの?」
アロンが酒に酔っている姿は、あまり見ない。ブルース兄様が酔い潰れている姿はよく見るけど。なんだか興味が湧いてきた俺は「見てくる!」と宣言した。
「アロンのこと、見てくるね」
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