嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

812 遊びにきた

 頭が痛いとうるさいハドリーを横目に、綿毛ちゃんとクッキーを物色していたところ、アロンが戻ってきた。ちなみにティアンは、はやく帰りたいと言わんばかりの態度で入口近くを陣取っていた。

「あれ? なにしてるんですか、ルイス様」
「クッキー食べてる」
「ふーん」

 興味なさそうにクッキーを一瞥したアロンは、ソファで額を押さえていたハドリーの頭を容赦なく叩いた。ハドリーが短く悲鳴をあげた。

「いつまでいるんだ。さっさと帰れ」
「ひでぇ」

 涙目でアロンに抗議したハドリーは、やがて面倒くさそうに立ち上がる。

「アロンがうるさいから帰ろうかな」
「クッキーいる?」

 伸びをするハドリーにクッキーの箱を差し出せば、「いるって言うか。それは俺が買ってきたやつだからね」と文句を言われてしまった。そうだね。これはハドリーの物だね。

 帰るというハドリーを送っていくことにする。
 そそくさ立ち上がる俺に、アロンが「ルイス様はいいですよ。ここにいても」と微笑む。それにティアンが「嫌ですよ」と食い気味に返していた。

「君には言ってない」
「なんでルイス様をこんな汚いところに」

 さらっとアロンの部屋を貶したティアンであるが、気持ちはわかる。アロンの部屋は、ちょっと散らかっている。

「片付けないの? 手伝ってあげようか?」

 俺も片付けはあんまり得意じゃないけど、このまま放置するよりはマシだろう。しかし俺の提案にアロンは「いえ」と肩をすくめた。

「そのうちアリアが片付けるので、放っておいて大丈夫ですよ」
「自分で片付けなよ」

 なんで当然のようにアリアをあてにしているのだ。
 しかし俺が文句を言うようなことでもない。クッキーの箱を抱えて、アロンに見せた。

「これもらっていい? ユリスにもあげる」
「どうぞ」

 にこやかに譲ってくれるアロンの背後で、ハドリーが「いや、だからそれ俺が持ってきたやつ」と頬をかいていた。そうだった。一応ハドリーにも「ユリスにあげていい?」と訊けば「どうぞどうぞ」と言ってもらえた。

 クッキーの箱をティアンに預けて、俺はハドリーと共にアロンの部屋を出た。「ルイス様。そんな奴は放っておいていいですよ」と、苦い顔のアロンも追いかけてくる。

「ねー、まだやってるの? 情報屋」
「え、やってるけど。逆になんでやってないと思うの?」

 歩きながら、ハドリーが苦笑する。
 情報屋って、改めて考えると謎である。どうしてそれで生活が成り立つのだろうか。お客さん、そんなにたくさんいるのだろうか。

「なんか調べてほしいことでもあるの? 金払ってくれるなら調べてあげるけど」

 ハドリーの言葉に、俺は「うーん」と考える。
 特に今は調べてほしい事はないかもしれない。「また今度ね」と、やんわりお断りしておく。

 どうやらハドリーは、アロンと遊びに来ただけのようだ。なんか重要な情報でも持ってきたのかと思ったけど、アロンとハドリーの態度を見るとそんな感じはしない。ふたりは友達らしいから、もしかしたら俺が知らないだけでよく会っているのかもしれない。

 ハドリーがいるからだろう。珍しく気配を消している綿毛ちゃんは、無言で俺のあとを追いかけてくる。

「犬、触る?」
「いや、いいや」

 遠慮するハドリーは、たしか前に猫を持っていたはずだと唐突に思い出した。あの猫は、どうしたのだろうか。

「ねー、ハドリーって猫飼ってるの?」
「あー、はいはい。猫ね。飼ってるよ」

 本当だろうか。疑いの目を向けていれば、アロンが横から「本当に飼ってますよ」と言い添えてきた。そうなんだ。なんか意外。

「ちゃんとお世話してる?」
「してるよ。俺に懐いてるよ」

 自信満々に言いきったハドリーであるが、なんだか怪しい。

「……嘘だ」
「今のどこに嘘と疑う余地があったよ」

 だってハドリーである。自分の生活もまともに成り立っているのか怪しいハドリーである。猫のお世話までやる余裕があるのだろうか。

「ルイス様は、俺のことなんだと思ってんの?」

 己の顔を指さして苦笑するハドリー。「俺はこう見えても真面目に働いてんだよ」と、本気か冗談かわからないことを言う。玄関が見えたあたりで、ティアンがハドリーを睨んだ。

「もういいから。はやく帰ってくださいよ」

 冷たいティアンの視線を受けて、ハドリーが「はいはい」と投げやりに返事をした。ティアンは、ハドリーのことがあんまり好きじゃない。

「あなたも、仕事に戻ったらどうですか」

 続けてアロンも睨みつけるティアンは、ちょっぴり不機嫌だった。「俺も真面目に働いてるけど?」と、アロンは堂々たる態度で嘘を吐いた。

「ルイス様。また今度、どんぐり拾ってきてあげようか?」

 帰り際、ハドリーがニヤニヤしながらそう言ったので、俺は「うん。お願いね」とお言葉に甘えることにした。

 ハドリーが「え!? 本当にいるの?」となぜかびっくりしている。自分で言い出したくせに、なんだその驚き方は。だってどんぐりは綿毛ちゃんの好物だからね。ちらりと綿毛ちゃんを見下ろせば、毛玉はなんだか不満そうな顔をしていた。
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