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17歳
騎士団の日常1(sideニック)
最近、グリシャに変な絡み方をされる。
「ちょっと、財布貸してください」
「財布って貸し借りするもんじゃねぇだろ」
廊下ですれ違った時、涼しい顔でなんかとんでもない要求をしてきたグリシャに、思わず眉を寄せた俺は悪くないはずだ。
頬にかかった横髪を耳にかけたグリシャは、ふうと小さくため息を吐いた。おい、なんだよ。その態度は。
「少しの間でいいんですけど」
「いや時間とか関係なくない? そもそも財布借りてどうすんの? 中身使うのか?」
「それはまぁ。それなりに」
それなりってなんだよ。
貸すわけないだろ。
忙しいからとグリシャを追い払おうとするが、グリシャは涼しい顔でついてくる。
「団長なんて追いかけて楽しいですか?」
「楽しいとか楽しくないとか。これはそういう問題じゃないから」
「団長も大変ですね。変な人につきまとわれて」
やれやれと肩をすくめるグリシャに、少々苛立ってしまう。俺のどこが変だと言うのか。懲りもせずに賭場に通っているグリシャのほうがよほど変人だと思う。
「ところで、アロンさんは賭け事やらないんですか? すごくやっていそうな顔してるのに」
「どんな顔だよ」
いやでも、ちょっとわかる。
あのクソな男が賭け事をやっている姿は簡単に想像できてしまう。しかし実際のアロンは、あまりそういうことに興味がないらしい。
「アロンは賭け事よりも、酒だろう」
「へぇ」
どうでもよさそうに流したグリシャは、再び右手を差し出してきた。
「ちょっと財布貸してくれませんか?」
「いや、だから。なんで俺なんだよ。他の奴に頼めばいいだろ」
「副団長に頼んだら断られました」
「だろうな」
というかロニーに頼んだのか? なんでそんな無謀なことするんだよ。
ロニーは優しげな風貌をしているが、意外と頑固なところがある。ダメなことはダメと言える人間である。そんなロニーが簡単に金を貸してくれるとは思えない。
「副団長、ルイス様の前だと特に優しいですよね」
グリシャの指摘に、俺は「あぁ」と頷いた。
「それ昔からだよ。ルイス様の前でだけすごく優しいの」
「普段はもうちょっと愛想がないですよね」
たしかに。
ロニーは俺たちに対してやや冷たい。それがルイス様の前に出ると、途端に笑顔になる。ルイス様は、ロニーの外面に騙されていると思う。
「ルイス様の前で、副団長に頼んでみたらいけますかね?」
「無理だろ」
もうロニーに借りるのは諦めろ。というか、なんで金が必要なのか。俺の当然の疑問に、グリシャは小さく首を左右に振った。
「ちょっと色々間違えてしまって。ほとんど全部持っていかれました。あそこでやめておくべきでした」
「つまり負けたのか?」
「大負けですよ。どうしてこうなったんだか」
不思議と言わんばかりの表情をするグリシャ。いや、どうしてもなにも。おまえが賭けなんてするからだろうが。
「次の給料まで、私を養ってくれませんか?」
「普通に嫌」
なんで俺が。
半眼になる俺に、グリシャが「あれも嫌、これも嫌」とぼんやり呟く。その俺が悪いみたいな言い方はやめろ。
「じゃあ私はどうすればいいんですか?」
「なんでキレてんだよ」
このままでは、よくわからないうちに財布を持っていかれそうな気がする。危機を察知した俺であるが、逃げる前に背後から足音が響いてきた。
「なにしてんの? ふたりで」
「おー、アロンじゃん」
振り返ると、怪訝な顔のアロンがいた。
事情を説明すれば、アロンがニヤリと笑った。すごく悪い笑みである。
「なるほど。金が必要なのか。俺が工面してあげよう」
「ありがとうございます」
ここでさらっと礼を言えるグリシャはすごいと思う。相手はアロンだぞ。絶対にろくなことにならない。もうちょい躊躇したらどうなんだ。それに工面するという言い方も非常に気になる。一体どこから調達してくるつもりなのか。絶対にまっとうな手段じゃないだろう。
嫌な予感がするので、俺はこれ以上首を突っ込まないことに決めた。あとでいらんトラブルに巻き込まれるのが目に見えている。
「俺、忙しいから」
「どうせ団長のこと追いかけるだけでしょう?」
「うるせぇよ」
グリシャのことを軽く睨んでから、俺はふたりから離れた。
その後、ティアンが「僕の財布の中身がなくなっているんですが」とアロンに詰め寄っている場面を目撃してしまった。アロン、おまえ。ティアンの財布から抜いたんか。静かに怒るティアンであるが、アロンは「俺がやった証拠でもあるの?」とへらへらしている。あいつ、本当にクソだな。
そのまた後日。事の顛末が気になってグリシャに訊いてみれば、「倍にして返しました」との返答があった。どうやらグリシャは、アロンに金を借りたらしい。それ、アロンの金じゃなくてティアンの金だと思うけど。それでいいのか? てか倍になったんか。勝てたのか。
どうやらアロンは、倍になった金を律儀にすべてティアンの財布に戻したらしい。ティアンが「なんか増えてる……」と心底不思議そうにしていた。
「ちょっと、財布貸してください」
「財布って貸し借りするもんじゃねぇだろ」
廊下ですれ違った時、涼しい顔でなんかとんでもない要求をしてきたグリシャに、思わず眉を寄せた俺は悪くないはずだ。
頬にかかった横髪を耳にかけたグリシャは、ふうと小さくため息を吐いた。おい、なんだよ。その態度は。
「少しの間でいいんですけど」
「いや時間とか関係なくない? そもそも財布借りてどうすんの? 中身使うのか?」
「それはまぁ。それなりに」
それなりってなんだよ。
貸すわけないだろ。
忙しいからとグリシャを追い払おうとするが、グリシャは涼しい顔でついてくる。
「団長なんて追いかけて楽しいですか?」
「楽しいとか楽しくないとか。これはそういう問題じゃないから」
「団長も大変ですね。変な人につきまとわれて」
やれやれと肩をすくめるグリシャに、少々苛立ってしまう。俺のどこが変だと言うのか。懲りもせずに賭場に通っているグリシャのほうがよほど変人だと思う。
「ところで、アロンさんは賭け事やらないんですか? すごくやっていそうな顔してるのに」
「どんな顔だよ」
いやでも、ちょっとわかる。
あのクソな男が賭け事をやっている姿は簡単に想像できてしまう。しかし実際のアロンは、あまりそういうことに興味がないらしい。
「アロンは賭け事よりも、酒だろう」
「へぇ」
どうでもよさそうに流したグリシャは、再び右手を差し出してきた。
「ちょっと財布貸してくれませんか?」
「いや、だから。なんで俺なんだよ。他の奴に頼めばいいだろ」
「副団長に頼んだら断られました」
「だろうな」
というかロニーに頼んだのか? なんでそんな無謀なことするんだよ。
ロニーは優しげな風貌をしているが、意外と頑固なところがある。ダメなことはダメと言える人間である。そんなロニーが簡単に金を貸してくれるとは思えない。
「副団長、ルイス様の前だと特に優しいですよね」
グリシャの指摘に、俺は「あぁ」と頷いた。
「それ昔からだよ。ルイス様の前でだけすごく優しいの」
「普段はもうちょっと愛想がないですよね」
たしかに。
ロニーは俺たちに対してやや冷たい。それがルイス様の前に出ると、途端に笑顔になる。ルイス様は、ロニーの外面に騙されていると思う。
「ルイス様の前で、副団長に頼んでみたらいけますかね?」
「無理だろ」
もうロニーに借りるのは諦めろ。というか、なんで金が必要なのか。俺の当然の疑問に、グリシャは小さく首を左右に振った。
「ちょっと色々間違えてしまって。ほとんど全部持っていかれました。あそこでやめておくべきでした」
「つまり負けたのか?」
「大負けですよ。どうしてこうなったんだか」
不思議と言わんばかりの表情をするグリシャ。いや、どうしてもなにも。おまえが賭けなんてするからだろうが。
「次の給料まで、私を養ってくれませんか?」
「普通に嫌」
なんで俺が。
半眼になる俺に、グリシャが「あれも嫌、これも嫌」とぼんやり呟く。その俺が悪いみたいな言い方はやめろ。
「じゃあ私はどうすればいいんですか?」
「なんでキレてんだよ」
このままでは、よくわからないうちに財布を持っていかれそうな気がする。危機を察知した俺であるが、逃げる前に背後から足音が響いてきた。
「なにしてんの? ふたりで」
「おー、アロンじゃん」
振り返ると、怪訝な顔のアロンがいた。
事情を説明すれば、アロンがニヤリと笑った。すごく悪い笑みである。
「なるほど。金が必要なのか。俺が工面してあげよう」
「ありがとうございます」
ここでさらっと礼を言えるグリシャはすごいと思う。相手はアロンだぞ。絶対にろくなことにならない。もうちょい躊躇したらどうなんだ。それに工面するという言い方も非常に気になる。一体どこから調達してくるつもりなのか。絶対にまっとうな手段じゃないだろう。
嫌な予感がするので、俺はこれ以上首を突っ込まないことに決めた。あとでいらんトラブルに巻き込まれるのが目に見えている。
「俺、忙しいから」
「どうせ団長のこと追いかけるだけでしょう?」
「うるせぇよ」
グリシャのことを軽く睨んでから、俺はふたりから離れた。
その後、ティアンが「僕の財布の中身がなくなっているんですが」とアロンに詰め寄っている場面を目撃してしまった。アロン、おまえ。ティアンの財布から抜いたんか。静かに怒るティアンであるが、アロンは「俺がやった証拠でもあるの?」とへらへらしている。あいつ、本当にクソだな。
そのまた後日。事の顛末が気になってグリシャに訊いてみれば、「倍にして返しました」との返答があった。どうやらグリシャは、アロンに金を借りたらしい。それ、アロンの金じゃなくてティアンの金だと思うけど。それでいいのか? てか倍になったんか。勝てたのか。
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