嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
806 / 964
17歳

814 成長したからね

 午後になって、ブルース兄様が言った通りエリックがやって来た。最小限のお供を連れたエリックは、やはりお忍びで来たらしい。特になにか用があるといった感じではなく、本当にただ遊びに来たっぽい。

「たまには息抜きも必要だろう」

 笑いながらブルース兄様にそう告げたエリックは、前髪をかき上げて「元気だったか?」と俺に問いかけてきた。

「うん。元気」
「そうか。それはよかった」

 豪快に笑うエリックは、我が物顔で屋敷に入ってくる。「オーガスはどうした」と視線を走らせる彼に、ブルース兄様が「部屋に」と短く応じている。

 オーガス兄様は、いまだにエリックのことが苦手である。気の弱い兄様と、豪快なエリックとでは馬が合わないのだろう。タチの悪いことに、エリックはそうは思っていないらしいけど。

 ティアンと共にエリックを庭先で出迎えた俺は、しかしエリックの後を追うことはしなかった。エリックに続いて馬車からおりてきた人物を目にしたからである。

「マーティーだ。何しに来た!」

 マーティーが来るなんて聞いていない。強気に問い掛ければ、「なんでそんな喧嘩腰なんだ」と、やや呆れたようにマーティーが応じた。

 すっかり成長したマーティーは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめてみせた。

「たまには顔を見てやろうと思って」

 なぜか上から目線でそう告げるマーティーに、俺は「ふーん」と返しておく。おまえ、ユリスにもその偉そうな態度でいけるのか?

 マーティーは小さい頃は泣き虫だった。さすがに十七歳になった今では、泣くことはない。しかし根は弱虫である。いまだにユリスのことをどこか恐れているのだ。

『マーティーくんだぁ。久しぶり』

 へらへら笑いながらマーティーに駆け寄る綿毛ちゃん。それにマーティーがギョッとする。素早く後ろに下がったマーティーであるが、相手は空気の読めない毛玉である。気にせずマーティーに突進していく。

『元気ぃ? オレは元気だよ。触る? もふもふだよ』

 やたらと毛を触らせたがる綿毛ちゃんに、マーティーが小さく悲鳴をあげた。なんでだよ。

 どうやらしゃべる犬の存在を受け入れられないようだ。エリックは綿毛ちゃんを面白がっているのに、弟のマーティーは怖がっている。その対照的な態度に、なんだか笑えてきた。

 さりげなくティアンの背中に隠れるマーティーは「わかったから。それ以上は近寄るな」と毛玉を相手に酷いことを言い始める。

「綿毛ちゃんは別に噛んだりしないよ?」
『そうだよ。そんなことしないよ。仲良くしよう?』

 オレ、子守りは得意なんだと妙なことを口走る綿毛ちゃんは、マーティーのことを小さなお子様扱いしているらしい。マーティーはもう十七歳だってば。そんなに小さい子じゃない。

 背中に隠れたマーティーに少々困った顔を向けて、ティアンが咳払いをする。ハッとしたマーティーが、ティアンの背中から離れた。咳払いで誤魔化そうとしているが、無理だと思う。

 今日はガブリエルも一緒である。ガブリエルはマーティーの従者。優しそうなお兄さんである。

 マーティーは、なぜかいつもガブリエルの前では格好つけたがる。従者に情けない姿を見せたくないというのが理由らしい。よくわからない。俺はジャンの前で格好つけようと思ったことはないから。

「ユリスに会う? 部屋にいると思うけど」

 せっかく来たのだから、少しくらい会っていくといい。そう提案してみるが、マーティーは苦い顔で「いや」と言いかける。どうやら本音では、ユリスには会いたくないのだろう。情けないぞ。

 しかしガブリエルの存在を意識しているのか。やがて「ま、まぁ。たまには会ってやらないとな」と謎の言い訳めいた発言をする。

「ユリスはなにをするかわからないから。僕がきちんと見張っておかねばならないだろう」
「なに言ってんの?」

 今日一日だけユリスを見張ったところで、どうにもならないだろう。意味不明な発言をするマーティーに首を傾げて、俺はユリスの部屋を目指す。

 一応ユリスにもエリックが来ると伝えていたのだが、すごく興味なさそうだった。だよね。

「マーティー。身長間違ってない?」

 廊下を歩きながら、俺は隣にいたマーティーを見上げた。

「間違うってなんだ。どういう意味だ」

 困惑するマーティーは、なんだか俺よりも背が高いように見えた。これはなにかの間違いだ。

「俺より大きくならないで」
「そんな無茶な」

 困ったように眉を寄せるマーティーは、「僕にはどうにもできない問題だ」と真面目に答えてくれた。
感想 731

あなたにおすすめの小説

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。