嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

815 弱気

「ユリスはどうだ。おとなしくなったか?」

 ユリスの部屋に向かう途中で、マーティーがそんな質問をしてきた。

「ユリスはいつもおとなしいけど」
「嘘を吐くな! あいつがおとなしいわけないだろう」
「なんでそんなこと言うの?」

 なぜかユリスは暴れていると決めつけるマーティー。ユリスをなんだと思っているのだろうか。普通のお子様だけどね。あとユリスは動くのが好きではない。積極的に暴れたりしないと思うよ。

 ユリスの部屋に到着して、いつものようにドアノブに手をかける。しかし直前で「待て」とマーティーが鋭く言った。険しい顔のマーティーは、少し離れた位置を陣取っていたガブリエルを振り返る。どうやらガブリエルのことが気になって仕方がないらしい。なんでなの?

「……ユリスは、なにをしている」

 マーティーから小声で問いかけられて、俺は目をぱちぱちさせる。なにって言われても。俺だってユリスの行動を逐一把握しているわけではない。

 けれども相手はユリスである。ユリスが部屋でやることと言えば、読書くらいだろうか。それか昼寝。よくテーブルに突っ伏して寝ている。

「本でも読んでるよ。たぶんね」
「……なるほど」

 まだ険しい顔のマーティーは、腕を組んだ。なんだか不安そうな面持ちをしているので、俺がフォローしてやろうと思う。ようするに、ユリスの行動がわかればいいんだろう。

 そっとドアノブを回して、少しだけドアを開けてみた。目を細めて室内を覗くと、椅子に腰掛けるユリスの背中が見えた。寝ているわけではなさそうだ。

「うん。なんか座ってるよ」

 振り返ってマーティーに報告すれば「よし」という上司みたいな反応。これ以上マーティーに付き合うのは面倒なので、さっさとドアを開け放っておく。

「ユリス! マーティーが来たよ!」
「追い返せ」

 きっぱり言ったユリスに、マーティーがぎゅっと眉間に力を入れた。なんだか泣きそうな雰囲気である。泣くのか?

 本を閉じるような音がして、ユリスがこちらに顔を向けた。そこでようやくマーティーの存在に気がついたらしい。「なんで連れてきた」と刺々しい声で俺を責めてくる。

「なんかユリスに会いたいんだって」
「僕はそんなこと言っていない」

 真顔で否定するマーティーに、俺は目を丸くした。いや、言っただろ。なんで嘘つくんだ。

 抗議のために、マーティーの足を蹴ってやった。「なにをする」と一歩後ろに下がったマーティーは、こほこほ咳払いをしている。

「久しぶりだな、ユリス」

 乱れてもいない襟元を整えたマーティーは、ユリスにぎこちない笑みを向けた。それを鼻で笑うユリスは性格が悪い。そんなんだからマーティーに怖がられるんだぞ。

『マーティーくん。お菓子食べる?』

 そそくさと部屋に入った綿毛ちゃんが、タイラーに『おやつをください』と図々しいお願いをしている。いつもなら断られるはずだが、今日はマーティーがいる。苦笑しながら「はい」と応じたタイラーが、部屋を出て行った。

 その後ろ姿を満足そうに見送って、綿毛ちゃんが尻尾を振った。おやつをゲットできそうで、喜んでいる。

『マーティーくん。羊のぬいぐるみ貸してあげようか?』
「勝手に貸すな! 俺のぬいぐるみだから」

 綿毛ちゃんの言う羊のぬいぐるみとは、俺がオーガス兄様にもらった物である。なぜか自分の物であるかのように言う綿毛ちゃんは、へらへらしながら『持ってくるね』と言う。

「いや、必要ない」

 それを制止したのは、マーティーであった。どうやら綿毛ちゃんは、マーティーのことを相当なお子様だと思っているらしい。毛玉にお子様扱いされるマーティー。ちょっと笑える。ユリスと一緒にくすくす笑っていると、マーティーがうんざりした表情になる。

『遠慮しなくていいよ。あ、オレと遊ぶ? ボールでも持ってこようか?』
「いや、結構だ」

 きっぱり断るマーティーは、俺に「どうにかしろ」と無茶な要求をしてくる。綿毛ちゃんがマイペースなのは、いつものことである。ボール遊びくらいやってあげればいいのに。

 無言で肩をすくめる俺に、マーティーは半眼になる。なんだよ。文句でもあるのか。

 諦めたように俺から顔を背けたマーティーは、ユリスの前にまわった。

「元気だったか?」
「元気じゃないように見えるのか?」
「いや、元気そうに見えるが」
「見てわかることをいちいち訊くな」

 冷たいユリスは、マーティーを小馬鹿にしている。マーティーの瞳が不安そうに揺れた。今度こそ泣くのか?

 息を呑んで見守っていると、綿毛ちゃんもドキドキしたように視線をキョロキョロさせていた。
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