嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

騎士団の日常2(sideブルース)

「明日、ちょっと仕事抜けますね」
「あ? なんでだ」

 部屋で書類を整理していたところ、なんの前触れもなくアロンが言い放った言葉に思わず間の抜けた声が出た。

 俺が仕事をしているというのに、ソファでだらしなく寝そべっているアロンは、横目でこちらを確認している。いつも思うが、その態度はなんなのだ。せめて普通に座れよ。なにを寝ているんだ。

 そもそもアロンが仕事を放り出してふらふらしているのは、いつものことである。これまで特に仕事をサボるにあたって許可を取ったことなどない。それが急にどうして事前に報告しようと思ったのか。もしや長期でヴィアン家を離れるつもりなのだろうか。

 アロンはどうしようもないクズだが、危機管理においては優秀である。毎回大事になる前に、裏で色々手を回してくれていることを知っている身としては、頭ごなしにダメとも言えない。

「なにかあるのか?」

 だからとりあえず理由を尋ねてみると、アロンが上半身を起こした。今度は背もたれに腕をかけて精一杯くつろぐアロンは、「ちょっと面倒なことになったので」と意味深に目を伏せた。

「なんだそれ。大丈夫なのか」

 もしや裏から手を回すのに失敗して、なんか危機的状況が迫っているとかじゃないだろうな。途端に表情を引き締める俺に、アロンは「大丈夫じゃないかもしれません」と悲痛な面持ちで言った。

「おい、なにがあった」

 思わず声を潜めて問いかけるが、アロンは険しい表情のまま無言で首を左右に振る。場合によっては、以前のように事前にどこかへ避難することも考えなければならない。まぁ、アロンに任せておけばそう危うい事態には陥らないだろうが、念のため。

 書類整理どころではなくなった。立ち上がってアロンの側に行けば、こちらを見上げたアロンが「なんですか。急に近寄らないでもらえます?」と訝しんだ。

「なにがあったんだ。緊急事態か?」
「まぁ、それなりに緊急事態かもしれません」
「具体的に」

 え? と目を丸くしたアロンは「もしやブルース様も興味がおありで?」と変な言い回しをした。

 それで悟った。
 あ、これ別に緊急事態でもなんでもねぇな。

 半眼になる俺に、アロンが「それならそうと最初に言ってくださいよ」と上機嫌に笑う。話の見えない俺は、腕を組んだ。

「なんの話だ」
「実は昨日ニックが酒場でぼったくられたらしくて。いやこれだけでも面白いんですけど、なんか明日グリシャがその酒場に乗り込むと言っていて。面白そうなんで俺もついて行こうかと」
「なにやってんだ!」

 意味がわからない。
 あと全然ヴィアン家は関係ないじゃないか。

 どうやらグリシャが、ニックがぼったくられた分を取り返してやると安請け合いしたらしい。なんでだよ。なにがグリシャをそこまで突き動かしたんだ。あいつら、そんなに仲良かったか?

「おまけに団長も同行することになって」
「なんでだよ」

 あの面倒事を嫌うセドリックが積極的に動くとは思えない。どうせニックが無理矢理に同行を決めたのだろう。ニックはセドリックのことを慕っている割には、時折セドリックの嫌がるようなことを平気でやってしまう。いまいちかみ合っていないのだ。

「ブルース様も行きます? 夜だと他の客がいてアレなので、昼間のうちに乗り込むつもりなんですけど」
「行かない」

 それこそ俺が首を突っ込んだらおかしな事態に発展する。勝手にやってくれと息を吐けば、アロンが「えー、行かないんですか?」と大きな声を出す。

「なぜ俺が行く必要が? なにか問題のある店なら適当に対処してこい」

 まぁ、ぼったくるような時点でまともな店ではないだろうが。というか、なんでニックは素直に支払ったんだ。その場でもうちょい上手い対応できただろうが。おまえは何年騎士をやっているんだ。

 苛立ち紛れに舌打ちすれば、アロンが「なにキレてんですか」とへらへら笑っているのが見えた。

「それロニーには報告したのか?」

 唯一まともな対応をしてくれそうなロニーは、今回の件を知っているのだろうか。疑問に思って訊いてみるが、アロンは平気な顔で「しないですよ」と肩をすくめた。

「ロニーに言ってもどうにもなりませんよ」
「そんなことはないだろ」

 むしろアロンやニックに一任するより平和的におさめてくれそうなのだが。

 しかし以前からロニーのことを嫌っているアロンである。役に立たないの一点張りで話が進まない。たしかに、わざわざロニーに報告するようなことでもないが。

「うちを空けるならロニーに伝えておけよ」

 セドリックを含めて日中に屋敷を空けるというのであれば、さすがにロニーに報告はしておかないとまずいだろう。「はいはい」とおざなりな返事をするアロンは、どうにも頼りにならない。

「ブルース様も夜遊びはほどほどにしないと。ニックの二の舞になりますよ」
「俺がいつ夜遊びなんてした。適当なことを言うんじゃない」

 ここ最近、夜に出歩くなどほとんどしていない。それなのに、母上はなぜか俺が夜遊びしていると信じて疑っていない。もしやアロンが出鱈目を吹き込んでいるんじゃないだろうな。

 疑いの目を向けてみるが、アロンはへらへらするばかりで答えなかった。
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