嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

817 結婚するの?

 どうしたらいい? とうるさいマーティーは、どうやら本気で悩んでいるらしい。本人が真剣なので、俺も真剣に考えてみる。

 とはいえ相手は生まれたばかりの赤ちゃんである。そんなに変なことをしなければ大丈夫だと思うけど。

「とりあえず叩いたらダメだと思う」
『オレもそう思う』
「そんなことは言われなくてもわかっている!」

 大声を出すマーティーは、「ふざけていないで、真面目に考えろ」と険しい表情になった。真面目に考えてますけど?

 どうやらマーティー、小さい子と接した経験があまりないらしい。それで赤ちゃんという未知の存在を前にして、どうすればいいのか悩んでいるらしかった。

 そんなことで悩むなんて、マーティーは真面目である。フローラといい関係を築きたいと思っているからこそ出てくる悩みなのだろう。もうそれでいいと思う。こんな風にいちいち悩んでいるマーティーが、フローラを相手に変なことをするとは思えない。思うがままに行動しても大丈夫だと思うけど。

「勝手にフローラに触らなければ大丈夫だよ」

 ね? とユリスに話を向ける。オーガス兄様は、俺がケイシーと遊ぶときには必ずといっていいほど側にいる。

 興味なさそうにクッキーを食べているユリスは、勝手に読書を再開してしまう。マーティーの扱いがあまりにも雑。タイラーが「ちょっとユリス様!」と咎めるような声を発するけど、当のユリスはガン無視している。

 そんなユリスの姿勢を不満に思いつつも、マーティーは文句を口に出さない。ユリスに睨まれるのが怖いのだろう。ユリスの一体なにが怖いのだろうか。たしかに目つきは悪いけど、それだけである。

「僕は、フローラとうまくやっていけるのだろうか」
「いけるんじゃない?」

 正直、そんなこと今から気にしていても仕方がないだろう。なんだかネガティブな思考をするマーティーは、何度もため息を吐いている。

 俺が適当な励ましを口にするけど、あまり真剣に受け入れてくれない。マーティーのほうも本気でアドバイスが欲しいとは思っていないような様子だ。まぁ、本気で解決策を探しているのであれば他に適任がいるだろうからね。もしや話を聞いてほしいだけなのか?

「兄上は最近忙しそうで」
「へー。ブルース兄様もいつも忙しそうだよ。オーガス兄様はちょっとサボっているけど」

 忙しい忙しいと言いながら、オーガス兄様はよく庭を散歩している。時折そのまま温室に居座ってダラダラしている。対するブルース兄様は、いつ休んでいるのかわからないほど仕事に熱中している。ブルース兄様は、仕事をしていないと落ち着かない質なのだろう。

「僕も最近では兄上の仕事を手伝うのだが、まだまだ未熟で」
「へー。オーガス兄様もだよ。いつもオーガス兄様がやった後、ブルース兄様がぶつぶつ文句言いながら手直ししてるよ」

 オーガス兄様は、たぶん普通に仕事しているのだ。けれどもブルース兄様は完璧主義っぽいところがあるので、長男のやった仕事に対してやや不満そうな顔をすることが多い。しかしブルース兄様は兄を敬うのが好きなので、オーガス兄様に直接文句は言わない。いつもひとりで文句言いながら手直ししているのだ。そしてそれを見ていたユリスが、オーガス兄様に「ブルースが文句を言っていたぞ」と告げ口するのが毎度の流れである。

「マーティーも悩みとかあるんだね」
「それはまぁ、それなりに。ルイスにはないだろう。悩みなんて」
「あるけど?」

 なんで俺に悩みがないと決めつけるのだ。失礼だぞ。

 疑いの目を向けてくるマーティーは「どんな?」と具体的に訊いてくる。

「え、普通に将来のこととか」
「将来……。ルイスは将来なにをするつもりなんだ?」

 マーティーの問いかけに、俺はクッキーへと伸ばしていた手を止める。そういえば、俺が先生になりたい云々の話は、あまりマーティーに教えた記憶がない。

「俺は、えっと」
「ティアンと結婚するんだろう?」

 唐突なユリスの言葉に、部屋が静まり返った。
 ティアンが、驚きに目を見開いている。それよりも、マーティーはもっと驚いたらしい。中途半端に腰を浮かせて「は?」と言った。

 余計なことを言うんじゃないと、俺はユリスのことを睨む。涼しい顔のユリスは、「そうだろう?」とティアンを振り返った。その顔が、すごくニヤニヤしていた。こいつ、俺とティアンを揶揄って遊ぶつもりか。

 みんなの足元をうろうろしていた綿毛ちゃんが『え! 結婚? 結婚するの?』とティアンに寄っていくのを、俺はぼんやり眺めていた。
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