嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
812 / 964
17歳

819 わかっていない

「ちょっと来い」

 突然マーティーに腕を引かれた俺は、咄嗟に「嫌だ!」と振り払う。これにマーティーだけではなく、居合わせた全員がびっくりした。俺もちょっとびっくりした。

 俺に手を振り払われた姿勢のまま固まってしまったマーティーは、これでもかと言わんばかりに目を見開いている。別にマーティーを拒絶する理由はない。

 なんか自分でもよくわからないけど、反射的に振り払ってしまった。変な空気をどうにかしようと、今度は俺からマーティーの手を握ってみる。

「どうした。マーティー」
「は、いや」

 それはこちらのセリフだと苦々しく吐き出したマーティーは、気を取り直して俺の手を引いた。

 どうやら内緒話がしたいらしいので、ティアンに「ちょっと俺の部屋で待っててね」と言い置いてからユリスの部屋を出る。ガブリエルも空気を読んだのか、追いかけてこない。唯一空気の読めない毛玉が追いかけてくるが、まぁ毛玉だからいいだろう。

 内緒話なら、人のいないところである。

 周りを見回しながら、俺はとりあえず物置きスペースまでやってきた。使用人さんが近くにいないことを確認してから、ドアを開け放つ。

「なんだここは」
「物置き」
「なぜ物置きに」
「人が来ないから」
「は?」

 目を瞬くマーティーの背中を押して、物置きに押し込もうと奮闘する。しかし無駄に足を踏ん張るマーティーは「やめろ!」と抵抗してくる。

「こんな狭いところに入れるわけがないだろう!」
「たしかに」

 物置きは、普段は使わないものが押し込まれている。正直にいえば、人が入れるスペースはないと俺も思っていた。

「でも綿毛ちゃんは入れるよ」
『え?』

 間抜けな顔になる綿毛ちゃんを持ち上げて、物置きの隙間に押し込んでおく。『え?』とぼんやり繰り返す毛玉を残して、俺は素早くドアを閉めた。

「ほら。綿毛ちゃんは入るよ」
「なんでそんな可哀想なことをするんだ」

 退けと俺を押しのけたマーティーは、せっかく閉めた物置きのドアを開けてしまう。途端に毛玉が飛び出してきた。

『ありがとうね。マーティーくん。君はオレの命の恩人だよ』
「そんな大袈裟な」

 謙遜するマーティーは、すり寄ってくる毛玉からさりげなく距離をとる。服が毛だらけになるのが嫌なのだろう。

「じゃあ温室だ! 温室に行こう!」
「今度こそ大丈夫なんだろうな」

 不安そうな顔になってしまうマーティーを引き連れて、温室に向かう。綿毛ちゃんも短い足で追いかけてくる。

「温室はあんまり人いないからね。たまにオーガス兄様がいるけど。オーガス兄様は簡単に追い払えるから大丈夫だよ!」
「それは本当に大丈夫なのか?」

 兄を追い払うなんて言い方するなと、変な小言をもらすマーティー。でもオーガス兄様が、お願いすれば簡単に譲ってくれるのは事実である。それに今はエリックが来ているから。オーガス兄様もエリックと一緒にいるはず。なので温室は無人だと思う。

 思った通り、温室には誰もいなかった。

 花が咲きほこる空間にて、綿毛ちゃんが楽しそうに跳ねている。綿毛ちゃんは犬だよね。たまにウサギなんじゃないかと心配になる。もし綿毛ちゃんがウサギだったらどうすればいいのだろうか。ニンジンを食べさせるべき?

「綿毛ちゃん、ニンジン好き?」
『急にどうしたの? あんまり好きじゃないかも』
「じゃあ綿毛ちゃんはウサギじゃないね」
『なんの話ぃ?』

 わかんなぁいと首を傾げる綿毛ちゃん。
 温室内を見回したマーティーは、「なんでティアンと付き合うなんてことになるんだ」と突然言った。

「ダメなの? だってティアンが俺のこと好きって言うから」
「好きと言われたら誰とでも付き合うのか? おまえは昔から自分の立場がよくわかってないよな。もう少し真剣に考えたらどうなんだ」
「考えてるけど?」

 なんでマーティーにそんなこと言われなければならないのか。半眼になる俺に、マーティーが腕を組んだ。どこか偉そうな態度である。

「なにか下心があるに決まっている」
「下心……」

 そうなの?
 目を瞬く俺に、マーティーは「間違いない。ティアンはそういう奴だ」とわかったような口をきく。

 ティアンは、昔からなんだか偉そうなお子様だった。おまけに団長になりたいとか言っていた。しかしティアンが出世したいという下心だけで俺と付き合うとは思えない。

「心配してくれるの? でもティアンはちゃんと俺のこと好きだから大丈夫だよ」
「ルイスはなにもわかっていない」
「はぁ?」

 わかっていないのはマーティーである。
 俺はずっとティアンと一緒にいるので、ティアンのことはわかっているつもりである。少なくともマーティーよりはティアンのことを知っている。

 そう説明するけど、マーティーはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

「そりゃ下心があるなんて普通はバレないように気をつける」
「ティアンのことなんだと思ってるの?」

 マーティーはティアンを嫌っているのだろうか。でもその理由がわからない。それとも本当に俺を心配してくれているだけなのだろうか。
感想 731

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。