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17歳
820 代わりに
なんとなく温室の花を眺めて、目についたピンクの花をひとつ摘んでみた。悩んだ末に、綿毛ちゃんの頭にさしてみる。
綿毛ちゃんは毛がもふもふなので、上手い具合にささった。
「綿毛ちゃん、可愛くていいと思うよ」
『えー? どうしよう。これ以上可愛くなったら困っちゃうねぇ』
へらへら笑う綿毛ちゃんは、オシャレになって喜んでいる。
「ルイスは」
「うん?」
俺の背後に立っていたマーティーが、少し考えるような間を置いてから眉間に皺を寄せた。思い悩むような表情である。
「どうしたの?」
こちらから優しく声をかけると、マーティーは俯いてしまった。本当にどうしたのだろうか。
「……俺がティアンと付き合うのが嫌なの?」
そんなわけないと思うけど、話の流れからして可能性はある。なぜかマーティーは、ティアンのことを疑っているらしいから。
控えめに頷いたマーティーは、視線をあらぬ方向へやった。
「嫌というのは正確ではないが。いいのか、付き合って」
「なんかダメなの?」
変な質問だなと思いながら、俺はいまだに喜んでいる綿毛ちゃんを見た。綿毛ちゃんは意外とオシャレが好きなのだろう。
「ルイスは、元の世界に戻るんじゃないのか。こっちで恋人なんて作って、戻るときに困らないのか?」
「……え?」
予想もしていなかった発言に、思わずマーティーの顔を見つめた。いつの間にか大人っぽく成長している彼は、黙っていると雰囲気がエリックにそっくりかもしれない。口を開くとあんまり似てないけど。
なんで突然、元の世界に戻るなんて話が出てきたのだろうか。一体どこから?
困惑する俺に、マーティーが「ユリスが」と言った。
「戻る方法を探しているんじゃないのか」
「そうなの?」
マーティーによれば、ユリスが魔法研究所を作ってほしいと言ったのは俺が元の世界に帰る方法を見つけたかったから。単に魔法に対する興味からだと思っていた俺は、ちょっと驚く。
「ユリスはユリスで、おまえを巻き込んだことに責任を感じているんじゃないのか?」
「なんで」
いや、俺をこっちの世界に呼んだのはユリスなんだけど。でもあれも事故みたいなもので。俺はまったく気にしていない。少し前に、ユリスにもそう伝えた。だからこれはもう解決した話ではあるんだけど。
『戻りたいの? というか元の世界ってどんな感じなの?』
綿毛ちゃんののんびりした問いかけに、俺は「えっと」と考える。
「うーん。もうあんまり覚えてないや。でも綿毛ちゃんみたいにしゃべる変な犬はいなかったよ」
「それはこっちでも珍しいだろ」
マーティーのツッコミに、たしかにと頷く。
「でも魔法はなかったね」
『えー!? なにその不便な世界』
綿毛ちゃんが大袈裟に驚いているけど、こっちの世界でも魔法なんてほとんど使わないだろ。綿毛ちゃんだって、魔法使わないし。
思い出した記憶をつらつら並べていくうちに、どうやらマーティーはティアンのことが嫌いなわけではないと気がついた。
俺が元の世界に戻ることを念頭に、その時に俺が悩んでしまうのではと心配してくれたらしい。そのことは単純に嬉しい。
「でも戻るのは無理そうだよ。ユリスが言ってた」
「そうなのか」
仮に戻れるとしても、俺がどこにどのような状態で戻るのか不明。正直危ない賭けになると思う。
だから仮にユリスが方法を見つけても、申し訳ないけど俺はここに残ると思う。犬と猫をちゃんと育てないといけないしね。そこまで考えて、以前のユリスの言葉を思い出す。
「綿毛ちゃんを犠牲にすれば帰れるかもしれないって言ってたよ」
『えー!? そんなぁ。オレを犠牲にしちゃうのぉ?』
「しないけど」
すぐに否定するけど、綿毛ちゃんはぐるぐるその場で回ってみせる。自分の尻尾を追いかけるような格好だ。
しばらく回っていた綿毛ちゃんは『えー? どうしてもって言うなら、オレの代わりに大きい魔石あげてもいいけどぉ』と言い始めた。
え、大きい魔石ってなに。
「綿毛ちゃん、そんなもの隠し持ってるの!?」
『別に隠してないけど。訊かれてないもーん』
もんもん! とふざけた口調で尻尾を振る綿毛ちゃん。そんな「大きい魔石持ってる?」なんて普通は訊かないだろ。
「それがあれば戻れるのか!?」
なぜか俺より食いつくマーティーの迫力に、綿毛ちゃんがちょっと引いている。
『戻れるかもだけどぉ。戻れないかも?』
「どっちなんだ!」
『マーティーくん、落ち着こう?』
綿毛ちゃんに指摘されるほど落ち着きのないマーティーは、俺を振り返る。
「どうするんだ」
「どうって言われても」
たとえ戻れるとしても危険なことに変わりはないのだ。俺は戻るつもりはない。
しかしそれはそれとして魔石は欲しい。
「その魔石ちょうだい」
『戻りたいの? オレのこと捨てちゃうの?』
「戻らないってば。でも魔石は普通にほしい」
『ふーん?』
そわそわする綿毛ちゃんは『本当にオレのこと捨てない?』と疑うような視線を向けてくる。なんで俺が綿毛ちゃんを捨てないといけないのだ。せっかく拾った珍しい犬である。手放す予定はない。
『魔石じゃなくてきらきらの宝石あげるね』
「え!? いいの!?」
『いいよぉ。今度持ってくるねぇ』
気前のいい綿毛ちゃんは、なんだかご機嫌だった。俺が魔石を諦めたからだろう。俺に魔石を渡すと、俺が元の世界に戻ると心配しているらしかった。
綿毛ちゃんは毛がもふもふなので、上手い具合にささった。
「綿毛ちゃん、可愛くていいと思うよ」
『えー? どうしよう。これ以上可愛くなったら困っちゃうねぇ』
へらへら笑う綿毛ちゃんは、オシャレになって喜んでいる。
「ルイスは」
「うん?」
俺の背後に立っていたマーティーが、少し考えるような間を置いてから眉間に皺を寄せた。思い悩むような表情である。
「どうしたの?」
こちらから優しく声をかけると、マーティーは俯いてしまった。本当にどうしたのだろうか。
「……俺がティアンと付き合うのが嫌なの?」
そんなわけないと思うけど、話の流れからして可能性はある。なぜかマーティーは、ティアンのことを疑っているらしいから。
控えめに頷いたマーティーは、視線をあらぬ方向へやった。
「嫌というのは正確ではないが。いいのか、付き合って」
「なんかダメなの?」
変な質問だなと思いながら、俺はいまだに喜んでいる綿毛ちゃんを見た。綿毛ちゃんは意外とオシャレが好きなのだろう。
「ルイスは、元の世界に戻るんじゃないのか。こっちで恋人なんて作って、戻るときに困らないのか?」
「……え?」
予想もしていなかった発言に、思わずマーティーの顔を見つめた。いつの間にか大人っぽく成長している彼は、黙っていると雰囲気がエリックにそっくりかもしれない。口を開くとあんまり似てないけど。
なんで突然、元の世界に戻るなんて話が出てきたのだろうか。一体どこから?
困惑する俺に、マーティーが「ユリスが」と言った。
「戻る方法を探しているんじゃないのか」
「そうなの?」
マーティーによれば、ユリスが魔法研究所を作ってほしいと言ったのは俺が元の世界に帰る方法を見つけたかったから。単に魔法に対する興味からだと思っていた俺は、ちょっと驚く。
「ユリスはユリスで、おまえを巻き込んだことに責任を感じているんじゃないのか?」
「なんで」
いや、俺をこっちの世界に呼んだのはユリスなんだけど。でもあれも事故みたいなもので。俺はまったく気にしていない。少し前に、ユリスにもそう伝えた。だからこれはもう解決した話ではあるんだけど。
『戻りたいの? というか元の世界ってどんな感じなの?』
綿毛ちゃんののんびりした問いかけに、俺は「えっと」と考える。
「うーん。もうあんまり覚えてないや。でも綿毛ちゃんみたいにしゃべる変な犬はいなかったよ」
「それはこっちでも珍しいだろ」
マーティーのツッコミに、たしかにと頷く。
「でも魔法はなかったね」
『えー!? なにその不便な世界』
綿毛ちゃんが大袈裟に驚いているけど、こっちの世界でも魔法なんてほとんど使わないだろ。綿毛ちゃんだって、魔法使わないし。
思い出した記憶をつらつら並べていくうちに、どうやらマーティーはティアンのことが嫌いなわけではないと気がついた。
俺が元の世界に戻ることを念頭に、その時に俺が悩んでしまうのではと心配してくれたらしい。そのことは単純に嬉しい。
「でも戻るのは無理そうだよ。ユリスが言ってた」
「そうなのか」
仮に戻れるとしても、俺がどこにどのような状態で戻るのか不明。正直危ない賭けになると思う。
だから仮にユリスが方法を見つけても、申し訳ないけど俺はここに残ると思う。犬と猫をちゃんと育てないといけないしね。そこまで考えて、以前のユリスの言葉を思い出す。
「綿毛ちゃんを犠牲にすれば帰れるかもしれないって言ってたよ」
『えー!? そんなぁ。オレを犠牲にしちゃうのぉ?』
「しないけど」
すぐに否定するけど、綿毛ちゃんはぐるぐるその場で回ってみせる。自分の尻尾を追いかけるような格好だ。
しばらく回っていた綿毛ちゃんは『えー? どうしてもって言うなら、オレの代わりに大きい魔石あげてもいいけどぉ』と言い始めた。
え、大きい魔石ってなに。
「綿毛ちゃん、そんなもの隠し持ってるの!?」
『別に隠してないけど。訊かれてないもーん』
もんもん! とふざけた口調で尻尾を振る綿毛ちゃん。そんな「大きい魔石持ってる?」なんて普通は訊かないだろ。
「それがあれば戻れるのか!?」
なぜか俺より食いつくマーティーの迫力に、綿毛ちゃんがちょっと引いている。
『戻れるかもだけどぉ。戻れないかも?』
「どっちなんだ!」
『マーティーくん、落ち着こう?』
綿毛ちゃんに指摘されるほど落ち着きのないマーティーは、俺を振り返る。
「どうするんだ」
「どうって言われても」
たとえ戻れるとしても危険なことに変わりはないのだ。俺は戻るつもりはない。
しかしそれはそれとして魔石は欲しい。
「その魔石ちょうだい」
『戻りたいの? オレのこと捨てちゃうの?』
「戻らないってば。でも魔石は普通にほしい」
『ふーん?』
そわそわする綿毛ちゃんは『本当にオレのこと捨てない?』と疑うような視線を向けてくる。なんで俺が綿毛ちゃんを捨てないといけないのだ。せっかく拾った珍しい犬である。手放す予定はない。
『魔石じゃなくてきらきらの宝石あげるね』
「え!? いいの!?」
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