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17歳
騎士団の日常3(sideニック)
「明日はちょっと忙しいんですよね」
「……え?」
夕刻。
何事もなく平和な一日だったのだが、急に現れたグリシャがそんなことを言い出した。
え、忙しいからなに?
なんで俺にそんなこと伝えてくるんだよ。
困惑していると、グリシャが頬にかかった髪を耳にかけた。グリシャはよくそんな仕草をしている。髪が邪魔なら切ればいいのに。それかもう少し伸ばして結ぶとか。髪を結んだら、絶対にルイス様が食いついてくると思う。ルイス様の好みはわかりやすいのだ。
十歳の頃から変わらないのだから、相当長髪を気に入っているらしい。一体なにがいいんだか。しかし髪を伸ばせばほとんど無条件にルイス様に好かれるのである。アロンも伸ばせばいいのに、あいつは「俺は俺のままで勝負する」と意味のわからない見栄を張っていた。
素のままで勝負した結果、ティアンに負けてんじゃねぇか。
しかし恋愛事に関しては負けなしだったアロンを簡単に振るとは。やっぱりルイス様は面白い。おまけにアロンも諦めが悪い。振られた事実をなかったことにして、平気な顔でルイス様にちょっかいを出している。
そこまで考えて、そんなことはどうでもいいとグリシャに視線を戻した。
「んで、忙しいから何?」
「仕事、手伝ってください」
「え? 俺が? 俺も仕事あるんだけど」
「あなた暇でしょ」
「暇じゃねぇよ!」
毎日仕事に追われている。他人の仕事を手伝っている暇はない。
「悪いけど他をあたってくれ」
「忙しいって。あなた一日の半分は団長を追いかけているだけじゃないですか」
「うるせぇよ」
団長の確認だって大事な仕事だろうが。
「そんなに手が足りないなら明日休みの奴に声かければいいだろ」
俺の提案に、グリシャが「……そうですね」と眉を寄せる。たしか明日休みなのは。
「ロニーだな」
途端にグリシャが舌打ちした。おい、こら。やめろ。
わかりやすく落胆するグリシャは「レナルドさんは休みじゃないんですか?」と悪あがきする。
「あの人、酒さえ奢ればなんでも引き受けてくれるので」
「そうかぁ?」
レナルドにそんな単純なイメージはないけどな。グリシャが相手だと違うのか? いつも腰が痛いと言うばかりで役に立たないだろ。
しばらく考えたグリシャは、やがて諦めたように肩をすくめた。どうやらロニーに仕事を手伝ってくれと頼む決心をしたらしい。ロニーは仕事には真面目である。間に合わないから手伝ってほしいと言えば、普通に引き受けてくれそうだ。
「ほら、行きますよ」
頑張れよとグリシャに手を振ろうとしていた俺は、当然のような顔で手招きしてくるグリシャに面食らった。
「え、なんで俺まで」
「あなた暇でしょ」
「暇じゃないから!」
けれどもグリシャはついてこいと顎で指示してさっさと行ってしまう。つられて追いかけた俺は、なんとなく流れでロニーのいるであろう執務室まで同行する羽目になった。
「え? 明日ですか?」
グリシャの頼みを受けて、ロニーは意外にも困った顔をした。ロニーは、割とグリシャのことを気に入っている。てっきり二つ返事で引き受けるとばかり思っていた俺は戸惑った。
困ったように眉尻を下げるロニーは「すみません」と申し訳なさそうに言った。
「明日はちょっと予定がありまして」
「彼女ですか?」
「違います」
グリシャの野暮な問いかけをあっさり否定したロニーは「兄に会う約束をしているんです」と白状した。
「あー、お兄さんいるんだっけ?」
「はい。久しぶりに会う約束をしていまして」
なんでも兄の方はわざわざ田舎から出てきたらしい。そりゃ無下にはできないな。
諦めろとの意味を込めて、グリシャの肩を叩く。
けれどもグリシャは、真顔で「代わりましょうか?」と妙なことを口走った。
「はい?」
「ですから。私があなたのお兄さんにお会いするので、あなたは私の仕事を片付けてくれませんか?」
「すみません。ちょっと何を言っているのかわかりませんね」
眉を寄せるロニーは、グリシャのことを変な目で眺めている。俺も驚いて、グリシャを見た。平然としているグリシャは「大丈夫です。私、誰とでも仲良くできる性格なので」と重ねた。そういう問題ではないだろう。
しかしグリシャのことを真面目だとまだ信じているロニーである。立ち上がって、心配そうにグリシャを見た。
「え? そんなに切羽詰まっているんですか?」
「はい。急に仕事が増えてしまって」
「急にって。私は新しい仕事を振ったりしてませんけど」
困惑したように言うロニー。たしかに、うちの団長は無気力なので、仕事のほとんどは副団長であるロニーが管理している。ロニーはそんなに変な仕事の振り方はしない。
なにかミスがあったのかと尋ねるロニーに、グリシャは「ミスとかではなく」と、なぜか俺に視線を向けた。
「アロンさんに仕事を押し付けられまして」
「ちょっとアロンさんと話してきますね」
にこりと笑ったロニーであるが、その目は笑っていなかった。というかアロン。おまえって奴は。
「いいですよ、グリシャさん。そんな人の分の仕事まで請け負わなくて」
「そうですか? ではあとは副団長にお任せします」
あっさり解決した問題であるが、ロニーの方は余計な面倒事を背負ってしまった。
「なんか、アロンがすまん」
代わりに謝っておくと、ロニーが苦笑した。
別に俺に責任はないのだが、なんかロニーが苦労しているので思わず口から出たのだ。
「……え?」
夕刻。
何事もなく平和な一日だったのだが、急に現れたグリシャがそんなことを言い出した。
え、忙しいからなに?
なんで俺にそんなこと伝えてくるんだよ。
困惑していると、グリシャが頬にかかった髪を耳にかけた。グリシャはよくそんな仕草をしている。髪が邪魔なら切ればいいのに。それかもう少し伸ばして結ぶとか。髪を結んだら、絶対にルイス様が食いついてくると思う。ルイス様の好みはわかりやすいのだ。
十歳の頃から変わらないのだから、相当長髪を気に入っているらしい。一体なにがいいんだか。しかし髪を伸ばせばほとんど無条件にルイス様に好かれるのである。アロンも伸ばせばいいのに、あいつは「俺は俺のままで勝負する」と意味のわからない見栄を張っていた。
素のままで勝負した結果、ティアンに負けてんじゃねぇか。
しかし恋愛事に関しては負けなしだったアロンを簡単に振るとは。やっぱりルイス様は面白い。おまけにアロンも諦めが悪い。振られた事実をなかったことにして、平気な顔でルイス様にちょっかいを出している。
そこまで考えて、そんなことはどうでもいいとグリシャに視線を戻した。
「んで、忙しいから何?」
「仕事、手伝ってください」
「え? 俺が? 俺も仕事あるんだけど」
「あなた暇でしょ」
「暇じゃねぇよ!」
毎日仕事に追われている。他人の仕事を手伝っている暇はない。
「悪いけど他をあたってくれ」
「忙しいって。あなた一日の半分は団長を追いかけているだけじゃないですか」
「うるせぇよ」
団長の確認だって大事な仕事だろうが。
「そんなに手が足りないなら明日休みの奴に声かければいいだろ」
俺の提案に、グリシャが「……そうですね」と眉を寄せる。たしか明日休みなのは。
「ロニーだな」
途端にグリシャが舌打ちした。おい、こら。やめろ。
わかりやすく落胆するグリシャは「レナルドさんは休みじゃないんですか?」と悪あがきする。
「あの人、酒さえ奢ればなんでも引き受けてくれるので」
「そうかぁ?」
レナルドにそんな単純なイメージはないけどな。グリシャが相手だと違うのか? いつも腰が痛いと言うばかりで役に立たないだろ。
しばらく考えたグリシャは、やがて諦めたように肩をすくめた。どうやらロニーに仕事を手伝ってくれと頼む決心をしたらしい。ロニーは仕事には真面目である。間に合わないから手伝ってほしいと言えば、普通に引き受けてくれそうだ。
「ほら、行きますよ」
頑張れよとグリシャに手を振ろうとしていた俺は、当然のような顔で手招きしてくるグリシャに面食らった。
「え、なんで俺まで」
「あなた暇でしょ」
「暇じゃないから!」
けれどもグリシャはついてこいと顎で指示してさっさと行ってしまう。つられて追いかけた俺は、なんとなく流れでロニーのいるであろう執務室まで同行する羽目になった。
「え? 明日ですか?」
グリシャの頼みを受けて、ロニーは意外にも困った顔をした。ロニーは、割とグリシャのことを気に入っている。てっきり二つ返事で引き受けるとばかり思っていた俺は戸惑った。
困ったように眉尻を下げるロニーは「すみません」と申し訳なさそうに言った。
「明日はちょっと予定がありまして」
「彼女ですか?」
「違います」
グリシャの野暮な問いかけをあっさり否定したロニーは「兄に会う約束をしているんです」と白状した。
「あー、お兄さんいるんだっけ?」
「はい。久しぶりに会う約束をしていまして」
なんでも兄の方はわざわざ田舎から出てきたらしい。そりゃ無下にはできないな。
諦めろとの意味を込めて、グリシャの肩を叩く。
けれどもグリシャは、真顔で「代わりましょうか?」と妙なことを口走った。
「はい?」
「ですから。私があなたのお兄さんにお会いするので、あなたは私の仕事を片付けてくれませんか?」
「すみません。ちょっと何を言っているのかわかりませんね」
眉を寄せるロニーは、グリシャのことを変な目で眺めている。俺も驚いて、グリシャを見た。平然としているグリシャは「大丈夫です。私、誰とでも仲良くできる性格なので」と重ねた。そういう問題ではないだろう。
しかしグリシャのことを真面目だとまだ信じているロニーである。立ち上がって、心配そうにグリシャを見た。
「え? そんなに切羽詰まっているんですか?」
「はい。急に仕事が増えてしまって」
「急にって。私は新しい仕事を振ったりしてませんけど」
困惑したように言うロニー。たしかに、うちの団長は無気力なので、仕事のほとんどは副団長であるロニーが管理している。ロニーはそんなに変な仕事の振り方はしない。
なにかミスがあったのかと尋ねるロニーに、グリシャは「ミスとかではなく」と、なぜか俺に視線を向けた。
「アロンさんに仕事を押し付けられまして」
「ちょっとアロンさんと話してきますね」
にこりと笑ったロニーであるが、その目は笑っていなかった。というかアロン。おまえって奴は。
「いいですよ、グリシャさん。そんな人の分の仕事まで請け負わなくて」
「そうですか? ではあとは副団長にお任せします」
あっさり解決した問題であるが、ロニーの方は余計な面倒事を背負ってしまった。
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